整形・災害外科

項頚部痛の病態と治療

2010年01月号(53巻 01号)

企 画 山下 敏彦
定 価 2,592円
(本体2,400円+税)
在庫状況 なし
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特集 項頚部痛の病態と治療−最近の知見−
頚部脊髄症に伴う項頚部痛
和田 英路
変性頚椎由来の頚部痛−神経根性頚部痛と既成概念への疑問
田中 靖久
椎間関節に由来する項頚部痛
金岡 恒冶
環軸関節に由来する項頚部痛
小林 孝
頚椎手術後の頚部軸性疼痛−軸性疼痛のメカニズムと対処法
神谷 光広
頚部痛に対するK点ブロック
國分 正一
■Personal View
教育と医療の転換点−成果と評価のゆくえ
佛淵 孝夫
■分子レベルからみた整形外科疾患
カテプシンK阻害剤による骨吸収抑制
山根 宏敏
■新しい医療技術
Patient-specific templating法を用いた人工膝関節置換術
丸毛 啓史
■論究
最近10年間の大腿骨近位部骨折例の検討
萩野 哲男
■手術
大腿骨骨幹部骨折に対するtrochanteric insertion nailの選択
川上 幸雄
仰臥位前外側アプローチ小侵襲人工股関節全置換術のポイント
北原 洋
■研究
ピアノ演奏時の手関節肢位と手関節伸筋および屈筋の筋活動
及川 直樹
■症例
変形性肘関節症を合併したpatella cubitiの1例
金澤 憲治
母指IP関節尺側側副靱帯断裂の1例
善財 慶治
後足部に生じた骨性隆起を伴う滑液包炎の1例
井上 三四郎
■医療史回り舞台
(211)胃がんに苦しんだ三菱の総帥 岩崎弥太郎
篠田 達明
■整形外科用語の散歩道
Paraplegia/Penumbra sign/Plantigrade
國分 正一
■整形外科手術・私のポイント
モデュラーステムを用いた初回人工股関節置換術−その長所を活かす手術のコツ
大谷 卓也
◇5カ月前に担当した「編集後記」で、竹節骨折(bamboo fracture)という用語は、標準整形外科学第10版(2008年発行)には記載されているが、『整形外科学用語集』(日本整形外科学会編。以下、日整会用語集)には初版から最新版に至るまで、どこにも記載がなかったことを述べた。今回は、bamboo fractureの
ルーツを調べたその後の報告である。

◇欧米の整形外科学、放射線医学の教科書を調べてみたが、bamboo fractureという用語はなかった。ところが、欧米人に多く発生する強直性脊椎炎に関する記述の中で、bamboo spineという用語は古くから使われていた。日整会用語集にも竹様脊柱、古くは竹節様脊柱として記載されている。本疾患に特徴的な単純X線像を思い浮かべるのに、まさに言い得て妙の表現である。しかし、竹は欧州、北米の大部分には分布していない。誰がbamboo spineと命名し、どのようにして欧米人に認知されるに至ったのであろうか。一方、わが国には、世界中の竹の種類の約半数が生息するとも言われる。古来より、松、梅とともに縁起の良いものとされ、日本人には馴染みが深い。竹林、竹簾、竹馬、竹筒、竹とんぼ、竹籠、竹笊そして竹製の団扇、物干竿など、竹は常にわれわれの身近に存在してきた。日本の整形外科の先達が強直性脊椎炎や膨隆した長管骨の不全骨折の単純X 線像を見て、それぞれ竹(節)様脊柱、竹節骨折と名づけ、その英訳が欧米に広まったとすれば、大いに頷けるところである。そこで、父から譲り受けた古い蔵書を調べてみた。その結果、昭和22年発刊の『神中整形外科學』(第3版)には、bamboo spine、bamboo fractureのいずれの記載もみあたらなかった。すでにこれ以前の欧米の教科書にbamboo spineの記述があることから、この時点でbamboo spineの日本人命名説は脆くも崩れ去ってしまった。ところが、昭和35年5月発刊の『片山整形外科學』(改訂第4版)を見るとbamboo spineはなかったが、「竹節状骨折:Banbusfraktur、bamboo fracture」の記載を見つけることができた。誠に不十分な調査と文献的考察ではあるが、日本では、bamboo spineが認知される以前に、竹節(状)骨折の名称が使われるようになり、それぞれBanbusfraktur、bamboo fractureと独訳、英訳されたのではないかと推測した。しかし、どのような経緯で日整会用語集に収載されず、標準整形外科には記載されるようになったのかは依然、不明のままである。日整会用語委員会では、欧米の教科書を、『標準整形外科』の編集者は日本の教科書を、それぞれ主に参照した結果なのであろうか。

◇竹には東洋的、日本的な文化の香りがする。あれこれ思いを巡らせると竹節骨折(bamboo fracture)との用語に愛おしさを覚える。ところで、竹・笹の葉はジャイアントパンダの主食だが、中国の整形外科の教科書ではどのように扱われているのか気になり、中国人の整形外科医に調べてもらった。竹節骨折(bamboo fracture)という用語はないとの回答であった。

◇今回の特集「項頚部痛の病態と治療最近の知見」では、急性、慢性項頚部痛について、多くの新しい知見が述べられています。項頚部痛、腰痛に限らず痛みは、単なる体性感覚だけでなく、個体に不安や不快感といった情動的側面を誘発して警告信号としての機能を果たしています。しかし、侵害刺激が持続することによって生じる慢性痛は急性痛と異なり、負の情動成分が病態の本質を占める割合が大きくなり、その性質から治療に難渋します。痛みに苦しむ人は多く、適切な治療戦略を確立するためには、とくに慢性痛の病態生理の解明は急務であります。本特集を是非、日々の臨床のみならず、今後の研究活動の参考にしていただきたいと思います。

(丸毛啓史)