産婦人科の実際

図解 分子メカニズムから理解する婦人科がんの薬物療法

2021年11月臨時増刊号(70巻 12号)

企 画 松村 謙臣
定 価 9,350円
(本体8,500円+税)
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図解 分子メカニズムから理解する婦人科がんの薬物療法
<総論>
I 婦人科における抗悪性腫瘍薬の種類と特徴
1 プラチナ製剤:シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン
黒田 高史
2 タキサン製剤:パクリタキセル、ドセタキセル
村上 幸祐
3 アルキル化薬:シクロホスファミド、イホスファミド
濱西 潤三
4 トポイソメラーゼ阻害薬:イリノテカン、トポテカン、エトポシド
三田村 卓
5 ピリミジン代謝拮抗薬:ゲムシタビン、フルオロウラシル
山ノ井 康二
6 葉酸代謝拮抗薬:メソトレキサート
鈴木 史朗
7 抗悪性腫瘍抗生物質
a.アントラサイクリン系抗生物質:ドキソルビシン、リポソーム化ドキソルビシン、アムルビシン
山口 建
b.トラベクテジン
渋谷 祐介
c.ブレオマイシン、アクチノマイシンD、マイトマイシンC
高矢 寿光
8 ホルモン製剤:メドロキシプロゲステロン酢酸エステル
坂井 健良
9 血管新生阻害薬、マルチキナーゼ阻害薬:ベバシズマブ、パゾパニブ、レンバチニブ
馬淵 誠士
10 PARP阻害薬:オラパリブ、ニラパリブ、rucaparib、veliparib
吉原 弘祐
11 免疫チェックポイント阻害薬:ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、ニボルマブ、イピリムバム
中山 健太郎
II 婦人科腫瘍の薬物療法のために知っておくべき遺伝子検査
1 婦人科がん診療における包括的ゲノムプロファイリングの実際
鍔本 浩志
2 相同組換え修復欠損(HRD)のための検査
織田 克利
3 DNAミスマッチ修復機能低下(dMMR)のための検査
佐藤 翔
4 Liquid biopsyの現状と展望
岩橋 尚幸
III 抗悪性腫瘍薬使用時の副作用に対する対策
1 骨髄抑制、発熱性好中球減少症
進 伸幸
2 悪心・嘔吐
安部 正和
3 下痢と便秘
酒井 瞳
4 末梢神経障害
小柳 円花
5 皮膚・粘膜障害(手足症候群、口内炎)
戸澤 晃子
6 過敏性反応
森田 充紀
7 臓器障害:腎機能障害、出血性膀胱炎、肝機能障害、心機能障害、肺障害(間質性肺炎)
武田 真幸
8 VEGF阻害薬による高血圧、血栓塞栓症、蛋白尿、消化管穿孔
小宮山 慎一
9 免疫関連有害事象(irAE)
林 秀敏
10 抗悪性腫瘍薬の卵巣毒性と卵巣機能温存のための方策
木村 文則
IV 臨床試験および薬事承認を理解するために必要な基礎知識
1 抗腫瘍薬が保険承認されるための仕組み
馬場 長
2 婦人科がん薬物療法の臨床試験を理解するために知っておくべき定義
西尾 真
3 臨床試験結果を正しく理解するための統計学の基礎知識
新谷 歩
<各論>
I 卵巣悪性腫瘍
1 上皮性卵巣癌
a.初回薬物療法
中井 英勝
b.術前化学療法
田畑 務
c.IP/HIPEC
津吉 秀昭
d.プラチナ感受性再発
伊藤 公彦
e.プラチナ不応性、プラチナ抵抗性再発、late lineでの化学療法
長尾 昌二
2 胚細胞腫瘍
玉内 学志
3 性索間質性腫瘍
安彦 郁
II 子宮頸部悪性腫瘍
1 補助化学療法(手術・放射線治療)
的田 眞紀
2 転移・再発
武隈 宗孝
III 子宮体部悪性腫瘍
1 子宮体癌
野村 弘行
2 子宮体癌の妊孕性温存療法
竹原 和宏
3 子宮肉腫
高野 忠夫
4 絨毛性疾患
西野 公博
IV 臓器横断的な考え方を要する婦人科悪性腫瘍
1 神経内分泌腫瘍
石川 光也
2 悪性黒色腫
矢野 光剛
企画者のことば

松村 謙臣

 抗悪性腫瘍薬の開発は、戦時中、化学兵器として開発されていたナイトロジェンマスタードに白血球を減少させる作用が見出され、1946年に悪性リンパ腫症例に投与されたことから始まった。その後、多くの抗悪性腫瘍薬が開発され、臨床試験を重ねることで、現在の標準治療が作られてきた。以前の抗がん薬治療は、ひどい嘔吐などの副作用のなかで行うものであったが、支持療法も飛躍的に進歩してきた。一方、がんの分子生物学の進歩とともに、抗悪性腫瘍薬の作用機序や耐性機序の詳細が解明されつつあり、バイオマーカーの探索も進められてきた。さらに最近は、分子標的薬の開発が盛んに行われるようになり、それを後押しする遺伝子パネル検査も用いられるようになってきた。
 現代のがんの薬物療法を理解するためには、まずは個々の薬剤がどのような分子メカニズムにより作用を発揮するかを知ることが必須である。それは、どのような機序でがんが薬物療法に耐性になるのかを理解することにもつながる。例えば、婦人科でよく用いられるプラチナ製剤やタキサン製剤にしても、それらの感受性や抵抗性をもたらす分子メカニズムの研究は日進月歩であり、ごく最近わかってきたことも多い。それらの知見は、感受性や抵抗性を予測するためのバイオマーカー開発にも生かされている。
 また、がんの薬物療法に関しては、分子メカニズムの研究のみならず、臨床試験のあり方も大きく変わってきた。臨床試験における評価方法や統計的手法には一定のルールがあり、最近はQOLによる評価も重要視されている。
 がんの薬物療法は、すでに各種の治療ガイドラインがあり、それらと内容が重複するような書籍は不要であろう。今回は、婦人科がんの薬物療法について、産婦人科臨床医である読者の「なぜ」という疑問に答えて、深く理解していただく本を作ることを目標とした。全体に総論を多くし、特に分子メカニズムは、文字ではなく図で直感的に理解できるようにした。そして各論での各がん種の項目は、レジメンの羅列ではなく、キーとなる臨床試験について深く理解できるものとした。
 各分野のエキスパートの先生がたには、このような編集方針のもとご協力いただき、執筆していただいた。婦人科腫瘍の薬物療法に関して、生物学から統計学まで「考え方」を理解することを目指した本特集が、読者諸氏の婦人科腫瘍の臨床に、深みと応用力をもたらす一助になれば幸甚である。

*Noriomi Matsumura 近畿大学医学部産科婦人科学教室