手術

消化器癌手術に必要な拡大視による局所微細解剖アトラス

2017年03月臨時増刊号(71巻 04号)

企 画
定 価 8,800円
(本体8,000円+税)
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特集 消化器癌手術に必要な拡大視による局所微細解剖アトラス
I. 食道
1. 食道癌根治術における系統的な右反回神経周囲リンパ節郭清−右反回神経のさまざまな走行
大塚 耕司
2. 発生学に基づいた右反回神経周囲リンパ節郭清
大幸 宏幸
3. 気管食道動静脈ネットワークに着目した縦隔局所微細解剖と両側反回神経周囲リンパ節郭清
松田 諭
4. 食道癌根治術における左反回神経周囲リンパ節郭清−交感神経系温存のためのランドマーク
能城 浩和
5. 食道癌根治術(腹臥位アプローチ)における左反回神経周囲リンパ節郭清のための術野展開−ダブルテープ食道牽引法
小澤 壯治
6. 気管気管支リンパ節郭清における左気管支動脈温存のための安全なアプローチ
白川 靖博
7. 胸部大動脈周囲リンパ節郭清における膜構造のポイントと郭清手技
大杉 治司
8. 胸管をめぐるさまざまな解剖亜型に留意した縦隔リンパ節郭清
宇田川 晴司
9. 高度進行食道癌の切除可能性を見極める拡大視による局所微細解剖
白石 治
10. 経裂孔的縦隔郭清手技における中下縦隔・食道胃接合部の解剖
塩崎 敦
II. 胃
1. 網嚢切除に必要な解剖の知識と手技
西脇 紀之
2. 6番領域の亜分類と微細解剖に基づいた合理的幽門下リンパ郭清
篠原 尚
3. 幽門保存胃切除における幽門下動静脈の解剖とアプローチ
熊谷 厚志
4. 腹腔鏡下胃癌手術における肝十二指腸間膜郭清(No.5、12a)の微細解剖と手技のコツ
木下 敬弘
5. 神経前面の層を意識した膵上縁リンパ節郭清
岡田 俊裕
6. 膜解剖に基づく合理的No.11リンパ節郭清
神田 聡
7. 自律神経温存幽門側胃切除術における神経の微細解剖と温存のコツ
五木田 憲太朗
8. 脾門部微細解剖と脾温存脾門部リンパ節郭清のコツ
菊地 健司
9. 傍大動脈リンパ節の解剖とNo.16a2リンパ節郭清手技
瀧口 修司
III. 大腸
1. リンパ流を考慮した右側結腸癌リンパ節郭清範囲
金光 幸秀
2. 横行結腸間膜と後腹膜との境界を見極める−胎生期の消化管形成に基づく微細解剖
永仮 邦彦
3. 拡大視効果を用いた中結腸動静脈周囲リンパ節郭清
大塚 幸喜
4. 微細解剖に準じた左結腸動脈温存No.253リンパ節郭清
山梨 高広
5. 局所解剖の俯瞰の上に拡大視効果を活かした腹腔鏡下大腸吻合のコツ
奥田 準二
6. 経肛門的内視鏡アプローチによるTMEのランドマーク−確実な神経温存のために
愛洲 尚哉
7. 側方郭清におけるランドマークと至適郭清範囲
川合 一茂
8. ISR、肛門管における剥離層の微細解剖
塚田 祐一郎
9. 仙骨合併切除・骨盤内臓全摘術における局所解剖
植村 守
10. 大動脈周囲リンパ節郭清における微細解剖
沖田 憲司
IV. 肝胆膵
1. Laennec被膜を理解する−剥離、肝外Glisson鞘一括確保のコツ
杉岡 篤
2. 肝門板の微細解剖−肝門板、胆嚢板、Arantius板
松山 隆生
3. 肝静脈還流領域を制覇する−肝静脈閉塞領域の機能評価、肝切除・肝移植への応用
河口 義邦
4. ALPPS手術に必要な肝解剖−内側区域の肝梗塞回避のためのA4温存手技
田中 邦哉
5. Caudal viewから得られる肝臓解剖
新田 浩幸
6. 右肝の解剖からみた生体肝移植における肝後区域グラフト
吉住 朋晴
7. 分割肝移植におけるグラフト採取に必要な肝臓解剖
阪本 靖介
8. 肝門部領域胆管癌に対する右3区域切除に必要な肝臓解剖
駒屋 憲一
9. 肝門部領域胆管癌に対する左3区域切除に必要な肝臓解剖
高屋敷 吏
10. 肝門部胆管癌手術における13番リンパ節を含めた膵頭部周囲郭清のポイント
阿部 雄太
11. 安全な胆嚢摘出術を理解するための胆嚢壁構造の局所解剖−SS-Inner layer
本田 五郎
12. Central vascular ligation に基づいたSMA周囲郭清
井上 陽介
13. 腹腔鏡下膵体尾部切除術における膵周囲の膜および間膜の認識とその活用
宮坂 義浩
14. 腹腔鏡手術時代の膵頭部解剖−膵頭神経叢を適切に把握する
松下 晃
次世代消化器外科医に贈る

 1990年代初頭、当時30〜40代の若手外科医たちが内視鏡外科手術の黎明期に胸を躍らせながらしのぎを削っていた頃、内視鏡外科手術に対して「危険な手術」という冷ややかな評価も少なくなかった。限られたデバイスで不自由な操作を強いられ、直接臓器に触れることもできない手術であることは厳然たる「事実」であり、何より「よく見えない」手術であったこともその大きな要因であった。当時、私自身も内視鏡外科手術に挑戦しながら術野を直接「眼で見る」ことの大切さ、立体視の必要性を再認識したのを記憶している。
 あれから30年近い時が過ぎ、状況は一変した。内視鏡画像の解像度は向上の一途を辿り、今や4Kから8K時代を迎えようとしている。直視下手術では認識し得なかった膜構造、層構造などが次々と提唱され、旧来の外科手術書では学べない世界が展開している。光学的画像強調技術は「見たいもの」だけを抽出して提示してくれる。光学的に調整された3D画像は、直視を超えた「立体感」を実現し、安全確実な操作を迅速に行えるようになった。Flexible scopeは、直視下手術では達成し得ない、水平視を可能にしただけでなく臓器の「裏側」に隠された情報を提供してくれる。現在、これに各種の優れたエネルギーデバイスや手術支援ロボットなどの最新機器が加わって、内視鏡外科手術はもはや「危険な手術」ではなくなりつつある。
 私の専門領域である食道外科領域における開胸手術では、切除対象は縦隔という「谷底」に横たわっている。食道癌根治術は気管・気管支や大血管が交錯する中で、傷つけることはもとより触れることすら憚られる反回神経周囲のリンパ節を完全に取り除くことが求められる高難度手術である。この高難度手術において3D高解像度flexible scopeは、開胸手術でルーペを使っても到底達成できない水平視や、反回神経上膜に包まれた微小血管を透見できる拡大視を可能にした。私自身の手術もこうした変化によって解剖の理解、手術の手順、アプローチが大きく変わった。さまざまな技術の開発・進歩により、今や内視鏡外科手術は「直視下と同等の手技ができる」非劣性を問う時代から、「優越性」をも期待される時代に入っている。
 今回の臨時増刊号特集「消化器癌手術に必要な拡大視による局所微細解剖アトラス」は、現在この領域をリードし、日々自らの眼と手で新しい世界を切り開いているトップランナーたちが執筆してくださった。現時点においてわれわれが内視鏡を通した「眼で見る」ことができる最も詳細な消化器癌手術アトラスであるといえる。
 緒言の最後に、このアトラスで消化器癌手術を学ぼうとしている次世代の若手外科医諸君が、ごく近い将来において新しい機器や技術を手にしてこのアトラスを劇的に書き換えてくれることを期待したい。

2017年3月
「手術」編集委員 北川 雄光・川崎 誠治・渡邉 聡明