JASCCがん支持医療ガイドシリーズ がん治療に伴う粘膜障害マネジメントの手引き 2020年版

実臨床に役立つ! がん治療に伴う粘膜炎の予防と治療Q&A

編 集 日本がんサポーティブケア学会 / 日本がん口腔支持療法学会
定 価 3,080円
(2,800円+税)
発行日 2020/02/25
ISBN 978-4-307-20410-1

B5判・192頁・図数:5枚・カラー図数:76枚

在庫状況 あり

がん治療に伴う粘膜炎については、エビデンスに基づいた予防法や治療法に乏しく、海外のガイドラインも日本国内では応用しづらい面があった。本手引きでは、MASCC/ISOOのガイドラインなどを参考に、日本の実臨床に役立つ、粘膜炎の予防・治療の指針をQ&A形式で解説。発症機序、発症頻度、特徴・症状などについても解説し、口腔粘膜炎の写真も多数掲載した。がん支持医療として粘膜炎に対処する医療職に必携の一冊。


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本手引きについて

I 口腔

総論
Q1 がん治療に伴う口腔粘膜炎は、臨床上どのような悪影響を及ぼすか?
Q2 殺細胞性抗がん薬や頭頸部放射線療法による口腔粘膜炎の発症機序はどのようなものか?
Q3 殺細胞性抗がん薬による口腔粘膜炎が発症しやすい薬剤・レジメンはどのようなものか?また、その具体的な発症頻度はどの程度か?
Q4 殺細胞性抗がん薬による口腔粘膜炎の臨床的特徴はどのようなものか?
Q5 分子標的薬による口腔粘膜炎(口内炎)の発症機序はどのようなものか?
Q6 分子標的薬による口腔粘膜炎(口内炎)が発症しやすい薬剤・レジメンはどのようなものか?また、その具体的な発症頻度はどの程度か?
Q7 分子標的薬による口腔粘膜炎(口内炎)の臨床的特徴はどのようなものか?
Q8 頭頸部放射線療法による口腔粘膜炎の臨床的特徴はどのようなものか?
Q9 頭頸部放射線療法による口腔粘膜炎の増悪因子にはどのようなものがあるか?
Q10 化学放射線療法による口腔粘膜炎が発症しやすい薬剤・レジメンはどのようなものか?また、その具体的な発症頻度はどの程度か?
Q11 造血幹細胞移植後の粘膜障害である慢性移植片対宿主病(GVHD)の口腔症状とはどのようなものか?
Q12 治療毒性として起こる口腔粘膜炎の評価方法にはどのようなものがあるか?
Q13 口腔粘膜炎の診断において、鑑別すべき疾患・病態にはどのようなものがあるか?

各論1 予防的対応
Q1 口腔粘膜炎の予防的な管理に口腔衛生管理(口腔ケア)は推奨されるか?
Q2 予防的な対応として推奨される口腔衛生管理(口腔ケア)の具体的な内容は?
Q3 口腔粘膜炎の予防に、LLLT(低反応レベルレーザー療法または低反応レベル光療法)なども含めたphotobiomodulation(PBM)は推奨されるか?
Q4 口腔粘膜炎の予防に、クライオセラピーは推奨されるか?
Q5 分子標的薬による粘膜障害に対して、推奨される特異的な予防法はあるか?
Q6 口腔粘膜炎の予防に、亜鉛の内服は推奨されるか?
Q7 口腔粘膜炎の予防に、どのような含嗽が推奨されるか?
Q8 口腔粘膜炎の予防に、ピロカルピンの予防投与は推奨されるか?
Q9 頭頸部放射線療法における粘膜障害の予防に、治療開始前の歯科金属冠の除去は推奨されるか?
Q10 頭頸部放射線療法による口腔粘膜炎の予防に、放射線治療補助器具は推奨されるか?

各論2 治療的対応
Q1 口腔粘膜炎の疼痛には、どのような治療、管理が推奨されるか?
Q2 口腔粘膜炎の治療に、漢方薬(半夏瀉心湯)は推奨されるか?
Q3 口腔粘膜炎の治療(疼痛緩和)に、口腔粘膜保護材は推奨されるか?
Q4 口腔粘膜炎の治療に、栄養管理、食事支援は推奨されるか?
Q5 口腔粘膜炎の治療に、アミノ酸などの経口補充投与は有効か?
Q6 頭頸部がん粒子線(陽子線・重粒子線)治療による口腔粘膜炎に対して、特異的に推奨される治療はあるか? 通常の高エネルギーX線での放射線療法と比較して、口腔粘膜炎の病態や対応に違いはあるか?
Q7 移植後の慢性移植片対宿主病(GVHD)の口腔症状の治療として推奨される具体的な対応は?


II 口腔以外

総論
Q1 がん治療に伴う粘膜炎のうち、口腔以外に起こる粘膜炎にはどのようなものがあるか?
Q2 口腔以外に起こる粘膜炎の発生機序はどのようなものか?
Q3 口腔以外の粘膜炎の発現頻度はどの程度か?
Q4 口腔以外の粘膜炎を増悪させる因子はどのようなものか?
Q5 殺細胞性抗がん薬による下痢の発生機序はどのようなものか?
Q6 分子標的薬による下痢の発生機序はどのようなものか?
Q7 免疫チェックポイント阻害薬による下痢・大腸炎の発生機序はどのようなものか?
Q8 出血性膀胱炎の発生機序はどのようなものか?
Q9 消化管急性移植片対宿主病(GVHD)の発生機序はどのようなものか?

各論1 口腔以外の粘膜炎の予防および早期診断
Q1 放射線性粘膜炎を早期発見するには?
Q2 放射線性直腸炎にはどのような予防策が有効か?
Q3 フッ化ピリミジン系薬剤による下痢症を予測する臨床的因子はあるか?
Q4 フッ化ピリミジン系薬剤による消化器毒性を予測するために遺伝子検査は有用か?
Q5 イリノテカンによる下痢症はUGT1A1 遺伝子多型により予測可能か?
Q6 免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象(irAE)の診断に必要な検査はどのようなものか?
Q7 イホスファミドとシクロホスファミドによる血尿に対してどのような予防策が有効か?
Q8 急性移植片対宿主病(GVHD)発症にはどのような予防策が有効か?
Q9 急性GVHD 発症のリスク因子はどのようなものか?
Q10 消化管急性GVHD の診断に必要な検査はどのようなものか?

各論2 口腔以外の粘膜炎の治療
Q1 放射線性消化管粘膜炎の際の食事でどのような点に気をつけるとよいか?
Q2 放射線性食道炎に対するケアとしてどのようなことに気をつけるとよいか?
Q3 放射線療法に伴う下痢症状の苦痛緩和にはどのようなケアが重要か?
Q4 晩期放射線性直腸炎に対して高気圧酸素療法は推奨されるか?
Q5 晩期放射線性直腸炎に対してスクラルファート注腸は推奨されるか?
Q6 晩期放射線性直腸炎に対してステロイド注腸は推奨されるか?
Q7 晩期放射線性直腸出血に対して経内視鏡下でのアルゴンプラズマ凝固は推奨されるか?
Q8 殺細胞性抗がん薬による下痢に対してどのような治療が有用か?
Q9 5-FU とイリノテカンによる下痢症に対して半夏瀉心湯は有用か?
Q10 分子標的薬による下痢に対してどのような治療が有用か?
Q11 免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象(irAE)としての大腸炎にステロイド投与は推奨されるか?
Q12 出血性膀胱炎に対してどのような治療が有用か?
Q13 消化管急性GVHDに対する一次治療として推奨される治療はどのようなものか?
Q14 消化管急性GVHD に対する一次治療としての全身ステロイド治療の効果判定はいつ頃に行うべきか? また、ステロイドの減量はどのように行えばよいか?
Q15 一次治療抵抗性の消化管急性GVHD に対して、二次治療として推奨される治療はどのようなものか?

参考資料
がん治療における口腔支持療法のための口腔粘膜炎評価マニュアル
・口腔粘膜の特徴
・口腔部位による粘膜構造の差
・口腔内観察部位(12部位)
・口唇
・頬粘膜
・舌
・口腔底
・硬口蓋
・軟口蓋
・口腔粘膜炎の好発部位
・CTCAE について
・口腔粘膜炎のグレーディングの考え方
・Grade1
・Grade2
・Grade3
・Grade4
索引
 この度、日本がんサポーティブケア学会(JASCC)と日本がん口腔支持療法学会(JAOSCC)が共同で、「がん治療に伴う粘膜障害マネジメントの手引き2020 年版」を刊行する運びとなりました。当初、口腔の粘膜障害を念頭に両学会が作成することで始まりましたが、粘膜組織は、口腔だけでなく、眼瞼、鼻腔・副鼻腔、消化管、膀胱、腟、尿道といった粘膜で覆われた臓器がすべてその対象となります。口腔領域は両学会共同(編集委員長 近津大地)で、口腔以外の領域(編集委員長 唐澤久美子)はJASCC の粘膜炎部会が中心になって、それぞれの領域の専門医に協力をいただき、手引き作成にあたりました。ただ、口腔以外は、今回は消化管粘膜が主対象となっています。
 実際に執筆が始まりますと的確な情報が少なく、当初予定していたよりも多くの時間を要しました。特に口腔領域担当の上野尚雄、口腔以外領域担当の中村路夫両編集委員には、日常診療に忙しいなか、自らの執筆はもちろん、ほかの執筆者の原稿を含め、各領域の記載内容の統一・調整を行っていただき、大変なご苦労をおかけしました。両編集委員のご尽力に深謝いたします。
 また、JASCC と協力関係にある国際がんサポーティブケア学会(MASCC)が、practice guidelines を公開しています。彼らの同意を得て、それらを参考にしながら執筆し、日本の現状に合ったマネジメントの手引きを発刊することができました。Rajesh Lalla 教授(MASCC理事長)、Sharon Elad 教授(Mucositis Study Group 委員長)のご厚意に感謝いたします。
 執筆されたドラフトは、JASCC 粘膜炎部会での査読、がん関連学会からの意見やパブリックコメントを受けて修正・追記しました。「行ったほうがよいこと、行わないほうがよいこと、どちらともいえないこと」を示唆することで、医療者、患者・家族が陥りやすい独善的な治療・処置を避け、現時点で最も適正な医療の実践が期待されます。上述のように、科学的なプロセスによって得られた情報は限られています。本手引きを医療の現場で利用いただき、JASCC(http://jascc.jp/)にご意見をください。次期改訂や取り組むべき研究課題として役立ててまいります。
 最後になりましたが、本手引きの執筆者、査読者、がん関連学会ならびにパブリックコメントをいただいた方々に感謝を申し上げるとともに、立案の段階から出版に至るまで多くの助言をいただいた金原出版の皆様に深謝し、本手引きの序とさせていただきます。

 2020年1月
日本がんサポーティブケア学会
理事長 田村 和夫



 日々展開されるさまざまな医療において、適切な口腔の管理はその医療の質を大きく向上させ得ます。がん医療はその典型といえます。日本がん口腔支持療法学会(JAOSCC)は、支持療法の国際学会であるMultinational Association of Supportive Care in Cancer/InternationalSociety of Oral Oncology(MASCC/ISOO)の主に ISOO と連携し(ISOO はがん治療に伴う口腔有害事象対策について国際的な議論・発信をしています)、国際的な潮流を汲みながら、わが国のがん医療の質の向上に寄与することを目指しています。
 がん化学療法や、口腔内を照射野に含むがん放射線療法などによる口腔粘膜障害はがん患者のQOL を著しく低下させます。栄養障害や全身状態の悪化をもたらし、抗がん治療の強度の減弱や延期、さらには中止をもたらす場合もあり、本来の目的である抗がん効果を減弱させることも稀ではありません。この背景から、がん治療中の患者の粘膜障害のマネジメントは非常に重要です。
 MASCC/ISOO は「がん治療に伴う粘膜障害に対するエビデンスに基づいた臨床診療ガイドライン」を策定しており、数年に一度、改訂を行っています。一方、ガイドラインに資する高いレベルのエビデンスが乏しい領域であり(これは口腔衛生管理の重要性など、あまりに基本的かつ当たり前である内容について、もはや倫理的にネガティブコントロール・非施行群を設定できないことに由来します)、実際のマネジメントにおいて、ガイドラインに依るのみならず、エビデンスベースに依らない手引きも要するのが実情です。また、この実情に沿った手引きは国際的な潮流を汲みながらも日本で役に立つものでなければなりません。
 この度、MASCC と連携をとられている日本がんサポーティブケア学会(JASCC)がこのような手引き作成を構想され、理事長の田村和夫先生、粘膜炎部会長の近津大地先生、部会の上野尚雄先生から本学会へ協力のご依頼を頂戴し、両学会で本手引きを上梓できたことは喜ばしい限りです。上野尚雄先生は本学会の作業部会長も務めてくださり、両学会のリエゾンとしての役割を担われるとともに、上梓にあたって中心的な役割を果たされ、多大な労力を割いてくださいました。また、執筆に関わってくださいました方々、出版にあたって金原出版の皆様にも大変お世話になりました。心より御礼申し上げます。
 本手引きの内容を参考にされ、わが国のがん患者が、より良いがん治療を受けられることを心より願っております。

 2020年1月
日本がん口腔支持療法学会
理事長 曽我 賢彦