がん免疫療法ガイドライン 第3版

4年ぶりの改訂! がん免疫療法の最新エビデンスを網羅的に解説!

編 集 日本臨床腫瘍学会
定 価 3,300円
(3,000円+税)
発行日 2023/03/20
ISBN 978-4-307-10212-4

B5判・264頁・図数:29枚・カラー図数:5枚

在庫状況 あり

適応拡大が急速に進むがん免疫療法の臓器横断的ガイドラインとして4年ぶりの大改訂となる第3版では、新たに登場した免疫チェックポイント阻害薬に加え、BiTE抗体やCAR-T細胞療法に関するエビデンスを収載した。また、近年急速に蓄積している臨床研究成果のシステマティックレビューに基づいた記載が大幅に追加された。免疫関連有害事象についても最新かつ適切な情報を提供している。さらに、5つの臓器横断的Background Questionを新設し、より充実した内容となった。治療医のみならず、がん免疫療法に携わるすべての医療者に役立てていただきたい。


【関連書籍】よくわかるがん免疫療法ガイドブック 第2版
がん免疫療法ガイドライン第3版作成にあたって
略語一覧

I がん免疫療法の分類と作用機序
 1 免疫チェックポイント阻害薬
 2 共刺激分子に対するアゴニスト抗体薬
 3 がんワクチン療法
 4 エフェクターT細胞療法
 5 サイトカイン療法
 6 免疫チェックポイント阻害薬以外の免疫抑制阻害薬
 7 その他の免疫療法
 8 複合免疫療法

II 免疫チェックポイント阻害薬の副作用管理
 1 総論
 2 皮膚障害
 3 肺障害
 4 肝・胆・膵障害
 5 胃腸障害(下痢、大腸炎)
 6 腎障害
 7 神経・筋・関節障害
 8 1型糖尿病
 9 下垂体機能低下症
 10 副腎皮質機能低下症
 11 甲状腺機能異常症
 12 眼障害
 13 サイトカイン放出症候群
 14 インフュージョンリアクション
 15 心筋炎を含む心血管障害

III がん免疫療法のがん種別エビデンス
 1 造血器腫瘍
 2 食道癌
 3 胃癌
 4 大腸癌
 5 肝癌
 6 胆道癌
 7 膵癌
 8 胸部悪性腫瘍
  (1)肺癌
  (2)悪性胸膜中皮腫
  (3)胸腺腫瘍
 9 頭頸部癌
 10 婦人科癌
  (1)卵巣癌
  (2)子宮頸癌
  (3)子宮体癌
 11 腎細胞癌
 12 尿路上皮癌
 13 前立腺癌
 14 脳腫瘍
 15 皮膚悪性腫瘍
  (1)悪性黒色腫
  (2)メルケル細胞癌
 16 骨軟部腫瘍
 17 原発不明癌
 18 乳癌
 19 小児腫瘍
 20 ミスマッチ修復機構の欠損(dMMR)/高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)を有する切除不能・転移性の固形がん
 21 高腫瘍遺伝子変異量(TMB-H)を有する切除不能・転移性の固形がん

IV がん免疫療法における背景疑問(Background Question)
 BQ1:進行期悪性腫瘍に対して、免疫チェックポイント阻害薬単剤療法は有効か?
 BQ2:進行期悪性腫瘍に対して、免疫チェックポイント阻害薬併用療法は有効か?
 BQ3:進行期悪性腫瘍に対して、免疫チェックポイント阻害薬と他剤を併用した複合免疫療法は有効か?
 BQ4:悪性腫瘍の根治術後の治療において、免疫チェックポイント阻害薬は有効か?
 BQ5:免疫チェックポイント阻害薬の効果予測バイオマーカーとして、PD-L1検査は有用か?

索引
<第3版 序文>

 かつて免疫機構は、感染症、アレルギー性疾患、自己免疫疾患などの一部の疾患の発症にだけ関わるものと理解されていた。その後の医学の発展により、生活習慣病を含めほぼすべての疾患に免疫機構が何らかの関与があると考えられるに至った。がんもその例外ではない。がん免疫療法の歴史は比較的古く、1891年、米国の外科医William B. Coley博士による細菌を用いたがん治療の試みに遡る。その後、宿主免疫は種々の分子機構により発がん機構に関わることが明らかにされ、がん治療の標的機構として長年にわたり地道な研究が続けられた。がん免疫研究の免疫学への貢献ははかり知れないが、がん治療への実用化にはなかなか至らなかった。
 がん免疫療法に大きな転機が訪れたのは、2011年3月、抗CTLA-4抗体薬が進行悪性黒色腫に対する治療薬としてFDA(米国食品医薬品局)で承認されたことである。以降、複数の免疫チェックポイント阻害薬が内外で承認され、現在までわが国ではCTLA-4、PD-1およびPD-L1の3標的分子に対する抗体薬計7薬剤が承認され、2023年1月現在、延べ48の効能・効果が薬価収載されている。さらに最近ではエフェクターT細胞療法(CAR-T療法)も一部のがんに承認されている。がん免疫療法は、他治療法との併用も含め、今後、飛躍的な進歩が期待できる治療法である。
 本ガイドラインは、2016年の初版以降、適応拡大が急速に進むがん免疫療法の臓器横断的ガイドラインとして臨床の場で多くの医師に活用されてきた。そして今回、2019年の第2版から4年を経て第3版として大幅な改訂に至った。第1章の分類と作用機序では、現在、日常診療で使用されている薬剤に加えて、今後、開発が進む有望な治療について解説、第2章の副作用管理では、最も注意を要する免疫関連有害事象について最近の情報を提供するとともに、第3章の癌種別エビデンスでは、急速に進む適応拡大の根拠となるエビデンスレベルをGRADE手法により評価している。一方、このガイドラインはがん免疫療法の臓器横断的ガイドラインで幅広い内容を取り扱うことから、多くの臓器別診療ガイドラインに採用されているClinical Question形式を採用しなかった。しかし、各項目は引用文献を明示してコンパクトにまとめられており、日常診療上の参考資料として多くの治療医に有用な一冊となるであろう。治療医のみならずがん免疫療法に携わるすべての医療関係者の診療、看護や調剤に役立てていただきたい。最後に、本ガイドラインの改訂版作成ワーキンググループの堀田勝幸ワーキンググループ長、二宮貴一朗副ワーキンググループ長をはじめとする多くの委員の皆様に深謝します。

2023年2月
公益社団法人 日本臨床腫瘍学会
理事長 石岡 千加史


<第3版発刊によせて>

 2014年に悪性黒色腫に対する抗PD-1抗体薬ニボルマブが本邦初の免疫チェックポイント阻害薬として保険承認されました。これを皮切りに数多くのがん種に対して有効な様々な種類の免疫チェックポイント阻害薬が登場し、日常臨床に利用されるようになりました。今ではがん種ごとの薬物療法アルゴリズムには、初回治療からの免疫チェックポイント阻害薬の投与を推奨するものも多く、その有効性をがん薬物療法に携わる多くの医療者が実感しています。さらに2018年には腫瘍細胞とT細胞に対する二重特異性を有する抗体(BiTE)が、2019年には遺伝子改変細胞療法としてのキメラ抗原受容体導入T細胞(CAR-T)療法が保険承認されており、造血器腫瘍に対する高い有効性が示されてきました。これらはいずれも、担癌宿主の免疫細胞が持つ抗腫瘍活性の回復、増強を導いて腫瘍制御をもたらす画期的な治療法であり、まさに近年の分子免疫学、分子腫瘍学の発展の成果を基盤としています。
 振り返りますと本ガイドライン旧版(2016年、2019年発刊)においては、以下の2点に焦点をあてて作成が進められてきました。1点目は、保険診療として実施できる具体的な免疫療法と、その限られた有効性を明確にすることです。がん免疫療法は古くからその効果が期待されていましたが、免疫チェックポイント阻害薬の保険承認という転機を迎えたことで、標準治療と研究的治療との区別が曖昧にならないよう注意を喚起しました。2点目は、殺細胞性抗がん薬や分子標的薬の投与では経験しなかった多彩な免疫関連有害事象についての適切な情報を提供することです。特に免疫関連有害事象への対応には、これまで以上に広い範囲の診療科、専門家の連携が必須であることが強調されました。これらは、本ガイドライン改訂第3版においても、継続して注意が払われており、近年急速に蓄積している臨床研究成果のシステマティックレビューに基づいた記載が大幅に追加されています。さらに、適応疾患の拡大、新たな免疫チェックポイント分子を標的にした薬剤など選択肢となる薬の増加、さらに他の治療モダリティとの併用による複合免疫療法の進歩など、がん免疫療法は著しく変貌していますが、これらの全体像についてもバランス良く明解に描き出しており、実臨床の指針として極めて有用と考えられます。
 このたびの改訂第3版は、作成ワーキンググループ長の堀田勝幸先生の下、日本がん免疫学会、日本臨床免疫学会からの推薦委員も含む計34名の作成委員、協力委員、評価委員の方々の素晴らしい努力により完成いたしました。また、システマティックレビューについては若尾文彦先生、中山健夫先生の研究班の協力も頂きました。すべての関係の皆様に感謝を申し上げます。本ガイドラインが、日々の進歩の著しいがん免疫療法を適切に実施するために役立つことを祈念いたします。

2023年2月
公益社団法人 日本臨床腫瘍学会
ガイドライン委員会 委員長
馬場 英司