がん薬物療法における職業性曝露対策ガイドライン 2019年版 第2版

抗がん薬を扱うすべての職種のための曝露対策ガイドライン!

編 集 日本がん看護学会 / 日本臨床腫瘍学会 / 日本臨床腫瘍薬学会
定 価 2,376円
(2,200円+税)
発行日 2019/02/25
ISBN 978-4-307-70236-2

B5判・180頁・図数:9枚

在庫状況 あり

抗がん薬を安全に使用するためには、患者の副作用管理のみならず、医療従事者の曝露対策も重要である。本ガイドラインでは、職業性曝露の基本的知識と、抗がん薬の調製・投与・廃棄などの場面で必要な曝露対策について、解説されている。国内外の状況の変化を踏まえ、新たな臨床疑問に対応するためにCQを8件から20件に増やし、より具体的な曝露対策を示した待望の改訂版である。

【委員会提言:HDを表すシンボルマーク「HDマーク」について】
Hazardous drugs(HD)は放射線やバイオハザードと同様に危険性が目に見えないため、視認性の高いマークによって取扱者に注意を促す必要があります。そこで本ガイドライン委員会ではHDを表すシンボルマークを作成しました。HD を取り扱う際は、このHDマークを使用することを委員会として提案します。
HD マークの作成には、バイオハザードマークが作られた際に検討された項目(注意喚起できる形状、他のマークと混同しにくい特有で明確な形状、容易に認識でき思い出しやすい形状、容易に複写可能、どの角度からも見やすい対称的なデザイン、諸民族に受け入れられるデザイン)を参考に、HとDの文字をモチーフとしました。著作権は委員会に帰属しますが、使用に際しての許可申請は不要です。併記している「抗がん薬・取扱注意」の文字はなくてもよいし、変更可能です。

『がん薬物療法における職業性曝露対策ガイドライン2019 年版』改訂委員会
2019年2月1日

◆下記よりダウンロードしてご使用ください。
HDマーク(HDmark.zip)
第1章 ガイドラインの概要
I ガイドライン作成の背景
 1 2015年版作成の背景
 2 2019年版改訂の背景
II 重要な用語の定義
III 目的
IV 対象集団
V 利用者
VI 使用上の注意事項および特徴
VII 作成の方法、過程
 1 概要
 2 背景知識
 3 クリニカルクエスチョン(CQ)
 4 システマティックレビュー(SR)の手順
 5 系統的文献検索とスクリーニング
 6 エビデンスレベルと推奨の強さ
 7 妥当性の検証
VIII モニタリングや監査のための基準
IX 今後の改訂
X 利益相反

第2章 背景知識と推奨・解説
I がん薬物療法におけるHazardous Drugs(HD)の定義
 1 危険性の高い医薬品に関する用語におけるHDの定義
 2 海外のガイドラインにおけるHDの定義
   CQ1 NIOSH HDリストに掲載がない分子標的薬に対しても曝露対策が推奨されるか
II HDの職業性曝露による健康への影響
 1 HD曝露による有害事象と影響を与える要因
 2 生物学的影響
 3 健康への有害な影響
 4 曝露予防の影響
   CQ2 HDの職業性曝露による生殖への影響に対して、HDの取り扱いを避けることが推奨されるか
III 曝露経路と機会
 1 HDの曝露の経路
 2 曝露の機会
IV 曝露対策
 1 推奨される環境・物品等
  1) 生物学的安全キャビネット(BSC)/アイソレーター
  2) CSTD
  3) 個人防護具(PPE)
 2 各場面における曝露対策
  1) 調製時(注射・内服)の曝露対策
   CQ3 HD注射薬の調製時にBSCまたはアイソレーターを使用することが推奨されるか
   CQ4 静脈内投与以外のHD注射薬は、BSCまたはアイソレーター(CACI)を使用して調製することが推奨されるか
   CQ5 BSCなどの使用状況下において、すべてのHDの調製に対してCSTDの使用が推奨されるか
   CQ6 HDの調製者に対し、PPEの使用が推奨されるか
   CQ7 毎日のBSC内の清掃に分解薬(次亜塩素酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、オゾン水、近紫外線反応型光触媒法)を使用することは推奨されるか
   CQ8 シュリンク包装されたHDバイアルを使用することは曝露対策において推奨されるか
  2) 運搬・保管時の曝露対策
   CQ9 HDの調製者だけでなく、HDの取り揃え者、運搬者、鑑査者およびHD調製室の清掃者に対してもPPEの使用は推奨されるか
   CQ10 HDの外装に触れる際はPPEの使用が推奨されるか
  3) 投与管理時の曝露対策
   CQ11 HD静脈内投与時のルートにCSTDを使用することは推奨されるか
   CQ12 HD静脈内投与管理にCSTDを使用していても、PPEを使用することが推奨されるか
   CQ13 HDの腔内注入において、CSTDやPPEを使用することが推奨されるか
   CQ14 HDの投与管理を行う環境や床清掃の際には、界面活性剤の使用が推奨されるか
  4) 廃棄時の曝露対策
  5) 投与中・投与後の患者の排泄物・体液/リネン類の取り扱い時の曝露対策
   CQ15 HDを投与した患者の皮膚に接触する場合の曝露対策として、PPEの使用は推奨されるか
   CQ16 HDを投与した患者に使用したリネン類で明らかな体液や排泄物などの汚染が見られる場合は、区別した取り扱いをすることが推奨されるか
  6) HDがこぼれた時(スピル時)の曝露対策
   CQ17 HDが飛散、こぼれた時の不活性化に次亜塩素酸ナトリウムの使用は推奨されるか
V 職員がHDに汚染した時
VI メディカルサーベイランス
   CQ18 HD曝露の把握のために定期的な環境モニタリングは推奨されるか
   CQ19 HD曝露の把握のために定期的な生物学的モニタリングは推奨されるか
   CQ20 曝露状況の把握のためにHD取り扱い歴の記録は推奨されるか
VII 職員の管理・教育・研修
 1 職員の管理
 2 HDの安全な取り扱いに関する教育・研修
VII 在宅におけるHD投与患者のケア
 1 家庭におけるHDの環境汚染および曝露の経路
 2 HDの安全な取り扱いについて
 3 HDが排泄されている期間の日常生活について

資料編
資料1 文献検索式
資料2 本邦注射抗がん薬の生殖発生毒性試験と排泄率
資料3 本邦内服抗がん薬の生殖発生毒性試験と排泄率
資料4 IARC発がん性リスク分類
「第2版ガイドライン刊行によせて」

 このたび、日本臨床腫瘍学会(JSMO)、日本臨床腫瘍薬学会(JASPO)、日本がん看護学会(JSCN)の3学会合同による『がん薬物療法における職業性曝露対策ガイドライン2019年版』を発刊できましたことに心より御礼申し上げます。本書は、2015年に初版として発刊された『がん薬物療法における曝露対策合同ガイドライン』の改訂版となります。
 初版の発刊以降、ガイドラインの普及活動が意欲的に行われ、日本がん看護学会においては、学術集会におけるシンポジウムや研修会等を積極的に開催してきました。また、本学会の事業のひとつである<がん看護実践ガイド>シリーズとして『見てわかるがん薬物療法における曝露対策』(医学書院、2016)の発刊、「抗がん薬の曝露対策〜ガイドライン策定1年後の各施設の取り組み」を特集テーマとして、『がん看護』(Vol.21, No.6, 2016)への掲載などにより普及を図ってきました。本学会学術集会でのシンポジウムや研修会場には多くの参加者が集まり、また、職業性曝露に関連した発表演題も急激な増加を示しています。初版が発刊された頃には、特定非営利活動法人抗がん剤曝露対策協議会の発足や厚生労働省からの抗がん薬等の曝露対策に対する通達などもあり、これらと相乗して本書は、職種の枠を超えたガイドラインとして、がん薬物療法に関わるすべての人々の安全で安心した治療環境の改善への取り組み指針として関心を高め、活用されつつあることが推察されます。
 一方、がん薬物療法は著しい進歩を続けており、抗がん薬の種類の増加や治療の長期化、外来化学療法による在宅療養患者の増加などにより治療の現場は様変わりしています。このことから、職業性曝露の可能性のある職種や人々は多様となり、組織的な曝露対策への取り組みと一貫して個々が正しい知識と技術により実践することを推進していくことがいっそう求められています。
 今回の改訂版で特筆すべき点は、初版において8件であったクリニカルクエスチョン(CQ)が、20件に増えた点であり、HD調製時と与薬管理に関する新たなCQが採用されています。また、HD投与後の患者の清潔ケアや体液・排泄物による汚染リネン類に関する曝露対策のCQは改訂版において初めて採用されており、患者の様々な生活過程を支援する役割がある看護師にとって、重要なケア指針になるものと思います。
 多職種が共通言語によるガイドラインをもつことは、チーム医療の充実と成熟に欠かせない要素であり、ますます高度化・複雑化するがん薬物療法を安全で安心した治療環境で患者に提供できるよう本ガイドラインがこれまで以上に活用されることを願っています。また、本書についてのお気づきの点や改善点などありましたら忌憚なくご意見を頂きますようお願いします。
 最後に、本ガイドラインの改訂にあたりまして多大なご尽力を頂きましたJSMO、JASPO、JSCNの委員の皆様、関係各位に心より感謝申しあげます。

2019年1月
一般社団法人 日本がん看護学会
理事長 雄西 智恵美



 思いのこもった“ガイドライン”ができた。抗がん薬に発がん性があることはよく知られている。このようなHazardous drug(HD)は職業上および環境への曝露を最低限にするための対策が必要である。しかし、どのような対策をとるべきかに関し質の高いエビデンスは全くと言ってよいほどない。かと言って、放置しておいてよい問題でもない。エビデンスは限られていても本書ではそれを吟味し海外における提言も参考に、医療現場でどう対処するのが良いかの意見がまとめられている。その意味で思いがこもっている。したがって、本書に記載してある内容は診療ガイドラインを利用している者には、ガイドラインというよりは解説書、手順書と言った方が適切であると感じるであろう。パブリックコメントでその点を指摘されても変わっていないのは、それだけ思いがこもっているということだろうか。しかし、解説書として本書を読んでみると具体的で利用価値は高いかもしれない。
 欧米では1980年代からHD 曝露の問題が認識され、各種提言がなされてきた。我が国でも1990年代より薬剤師、看護師の職能団体がこの問題を扱い、2015年に日本臨床腫瘍会、日本がん看護学会、日本臨床腫瘍薬学会が合同で『がん薬物療法における曝露対策合同ガイドライン2015年版』を発刊し、各種の活動を通じてHD 曝露の問題が広く認識されるようになった。その後、米国ではHD 曝露に関して2016年に米国薬局方USPharmacopeia(USP)General Chapter<800>が公布され、2019年から法的拘束力をもって施行されるため、現在その対応に追われている。このような状況を踏まえ、また職業曝露の危険性を明確にするためにも、2015年に“ガイドライン”を発刊してから特に重要な科学的エビデンスが出たわけではないが、『がん薬物療法における職業性曝露対策ガイドライン2019年版』として改訂することになった。
 HD曝露はないのが望ましい。本書にもあるように、HD曝露を「限りなくゼロに近づける」ことで健康への有害な影響を低減することが対策の目的である。曝露をゼロに近づける努力は必要であるが、どこまでゼロに近づける必要があるかは不明である。一度環境に出たHDの濃度は自然にあるいは処置により低下していくが理論的にゼロにはならない。濃度は指数関数的に低下していくので検出系の感度以下にすることはできてもゼロにはならない。極端に言うと、検出系の感度が高まれば環境汚染が地球の裏側のブラジルで起きたとしても我が国で検出できるようになるだろう。どのレベルまで下げる必要があるのか、データが必要である。
 HDに対する曝露の有無をランダム化する臨床試験は当然ながら実施できない。曝露対策の効果を検証する試験も困難だろう。しかし、長期間を要するだろうが曝露の影響をモニターする観察研究は可能である。本書にもあるが、実地診療におけるHD 曝露把握のための定期的な測定は推奨されないだろうが、研究として曝露の有無・程度を測定し、その影響を追跡・解析することにより少しでも質の高いエビデンスの創出が求められる。
 エビデンスが乏しい中でどう対応するのが望ましいのか、本書が現場の一助となることを期待する。

2019年1月
公益社団法人 日本臨床腫瘍学会
理事長 南 博信



 この度、日本がん看護学会(JSCN)、日本臨床腫瘍学会(JSMO)、日本臨床腫瘍薬学会(JASPO)の3学会による曝露対策ガイドラインが『がん薬物療法における職業性曝露対策ガイドライン2019年版』として改訂し、発刊されることを心より嬉しく思います。本ガイドライン改訂に携わったJSCN、JSMO およびJASPO のワーキンググループ委員、システマティックレビュー(SR)委員、評価委員の方々に厚く御礼申し上げます。
 2015年の初版『がん薬物療法における曝露対策合同ガイドライン』の発刊は、薬剤師の業務だけでなく、医療全体に大きな影響をもたらしました。曝露対策に関する講演会や勉強会などが全国各地で開催され、従前は、曝露対策に関心が少なかった医療職、事務職の方々からも積極的な反応が見られるようになりました。また、ガイドライン発刊直後、2016年度の診療報酬改定で、全ての無菌調製への閉鎖式接続器具の使用に対する180 点の評価が行われたことも、薬剤調製業務での曝露対策の進展に追い風となりました。また、我が国でも、曝露ガイドラインが制定されたことについて、これまで曝露対策を主導してきた International Society of Oncology Pharmacy Practitioners(ISOPP)の学術大会のシンポジウムに取り上げられるなど、国際的にも注目を浴びるようになっています。
 前回に比較すると、今回はクリニカルクエスチョン(CQ)の数が全体で8件から20件に増え、今回からは、CQに対するSRや各論文の評価に、ワーキンググループとは異なるメンバーによるSR委員会があたるなど、より厳密なガイドライン作成手順が踏まれています。また、日進月歩で進む曝露対策に対して、新しい清掃方法、新しい製品パッケージなど、非常に研究論文が少ない分野までもが、今般、ガイドラインに掲載されました。薬剤師業務についていえば、従来の曝露対策は主として静脈内投与の薬剤に限定されていたのに対して、新しいガイドラインでは、薬剤部内の調製業務だけでなく院内全体までに目を向けることが求められているのが、大きな特徴といえます。
 がん薬物療法が行われる限り、曝露対策は切り離すことができない永遠の課題です。本ガイドラインが、医療の最前線で活用され、業務に関わる医師、薬剤師、看護師などが職業上の曝露に対して的確な対応を進め、その結果として、投与される患者および家族に、良質で効果的ながん医療が提供されることを期待します。

2019年1月
一般社団法人 日本臨床腫瘍薬学会
理事長 加藤 裕芳