頭頸部癌診療ガイドライン 2025年版

治療の解説がさらに充実! 最新治療を含む3年ぶりの改訂版出来!

編 集 日本頭頸部癌学会
定 価 4,620円
(4,200円+税)
発行日 2025/05/30
ISBN 978-4-307-37143-8

B5判・320頁

在庫状況 あり

頭頸部癌に関するエビデンスを最新の研究を含めて検討し、現時点の標準的な検査・治療の考え方を示す診療ガイドラインの最新版。治療の解説が充実しており、聴器癌・悪性黒色腫・横紋筋肉腫の標準治療の解説が追加された。CQでは「外科治療」が新設され、放射線治療や薬物療法の更新も反映されている。光免疫療法やホウ素中性子捕捉療法(BNCT)もコラムとして掲載され、保険適用のある新規治療のフォローアップも充実している。
I ガイドラインについて
 1 作成の目的
 2 利用の対象者
 3 取り扱う疾患
 4 本ガイドラインの使用法
 5 学会の責任
 6 委員会の構成
 7 参考文献
 8 エビデンスレベルと推奨の強さの決定
 9 ガイドライン作成
 10 活用促進のための工夫と情報公開
 11 出版後のモニタリングと改訂のステップ
 12 作成費用
 13 利益相反(COI)

II 診断
 1 進行度・病期の診断
 2 重複癌の検索

III 治療
A.治療概論
 III-A-1.外科療法
 III-A-2.がん薬物療法
  コラム1 シスプラチン不適応症例に対する化学放射線療法の併用薬剤をどのように考えるか?
  コラム2 手術までに時間がかかる場合の術前治療について
  コラム3 頭頸部癌におけるオリゴ進行(Oligoprogression)
 III-A-3.放射線治療
  コラム4 頭頸部癌の骨転移に対する放射線治療 (および骨修飾薬について)
 III-A-4.支持療法
 III-A-5.頭頸部癌患者に対するがんリハビリテーション
 III-A-6.緩和ケア
  コラム5 AYA(Adolescent and Young Adult)世代のがん患者
B.治療各論
 III-B-1.口腔癌(舌癌)
 III-B-2.上顎洞癌
 III-B-3.上咽頭癌
 III-B-4.中咽頭癌
 III-B-5.下咽頭癌
 III-B-6.喉頭癌
 III-B-7.甲状腺癌
 III-B-8.唾液腺癌(耳下腺癌)
  コラム6 腺様?胞癌
 III-B-9.原発不明癌-頸部リンパ節
 III-B-10.嗅神経芽細胞腫
 III-B-11.聴器癌
 III-B-12.悪性黒色腫
 III-B-13.横紋筋肉腫

IV クリニカルクエスチョン(CQ)
 IV-1.診断
  CQ 1-1 頭頸部癌のT因子診断においてMRIは有用か?
  CQ 1-2 頭頸部腫瘍の良悪の鑑別に穿刺吸引細胞診は推奨されるか?
  CQ 1-3 頭頸部癌の病期診断においてFDG-PETは有用か?
  CQ 1-4 頭頸部癌治療後の経過観察に画像検査は有用か?
  CQ 1-5 頭頸部癌治療後の経過観察で再発・転移の検索に血液検査は有用か?
 IV-2.口腔癌
  CQ 2-1 舌癌の深達度をどのようにして測定するべきか?
  CQ 2-2 舌癌に対する密封小線源治療の適応は?
  CQ 2-3 早期舌癌においてセンチネルリンパ節生検は有用か?
  CQ 2-4 舌扁平上皮癌I・II期症例に対して予防的頸部郭清術を行うことは、生存率の向上に寄与するか?
  CQ 2-5 舌・口腔癌のN1(レベルI)症例に対する肩甲舌骨筋上頸部郭清術(supraomohyoid neck dissection:SOHND)は許容されるか?
  CQ 2-6 局所進行舌癌に対して術前化学療法は有用か?
  CQ 2-7 舌半側切除に対する再建は有用か?
  CQ 2-8 舌亜全摘出以上の症例において、隆起型の舌再建は術後機能の保持に有用か?
 IV-3.上顎洞癌
  CQ 3-1 上顎洞扁平上皮癌眼窩壁浸潤症例において、眼球温存は可能か?
  CQ 3-2 粒子線治療、強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy:IMRT)は、視力温存に寄与するか?
 IV-4.上咽頭癌
  CQ 4-1 上咽頭癌の放射線治療において、強度変調放射線治療は推奨されるか?
  CQ 4-2 IIIおよびIVA期の上咽頭癌に対して、放射線治療に化学療法を同時に併用することは推奨されるか?
  CQ 4-3 IIIおよびIVA期の上咽頭癌に対して、同時併用化学放射線療法に導入化学療法ないしは補助化学療法を追加することは推奨されるか?
  CQ 4-4 II期の上咽頭癌に対して、放射線治療に化学療法を併用することは推奨されるか?
 IV-5.中咽頭癌
  CQ 5-1 HPV関連中咽頭癌の初回治療として放射線治療あるいは化学放射線療法を行う場合、線量を低減することは推奨されるか?
  CQ 5-2 HPV関連中咽頭癌の初回治療として化学放射線療法を行う場合、薬物療法の薬剤を変更することは推奨されるか?
  CQ 5-3 中咽頭癌に対して経口的切除術は有用か?
 IV-6.下咽頭癌
  CQ 6-1 早期下咽頭癌において喉頭を温存する治療方針は推奨されるか?
  CQ 6-2 下咽頭癌に対して経口的切除は有用か?
  CQ 6-3 下咽頭・喉頭全摘術を行う下咽頭梨状陥凹癌に対して、健側気管傍郭清は省略可能か?
  CQ 6-4 下咽頭全周欠損において、遊離空腸移植による再建は推奨されるか?
 IV-7.喉頭癌
  CQ 7-1 T2喉頭癌に対して化学放射線療法は適応となるか?
  CQ 7-2 早期喉頭癌の放射線治療後再発に対して喉頭温存手術は適応となるか?
  CQ 7-3 早期喉頭癌(声門癌)に対して加速分割照射法は有用か?
  CQ 7-4 喉頭全摘を要する喉頭癌N0症例において、側頸部郭清を行うべきか?
 IV-8.甲状腺癌
  CQ 8-1 甲状腺微小乳頭癌(1cm以下)に対して経過観察は推奨されるか?
  CQ 8-2 甲状腺癌の手術例において、予防的中央区域郭清は推奨されるか?
  CQ 8-3 片葉の甲状腺乳頭癌に対して甲状腺全摘術は甲状腺葉切除術に比較して推奨されるか?
  CQ 8-4 甲状腺全摘術を施行後の甲状腺分化癌に術後補助療法として放射性ヨウ素内用療法を行うことは推奨されるか?
  CQ 8-5 切除不能・再発甲状腺癌に対して分子標的薬は推奨されるか?
  CQ 8-6 甲状腺分化癌の術後に補助療法としてTSH抑制療法は推奨されるか?
  CQ 8-7 標準的薬物療法に不応となった甲状腺癌に対してがん遺伝子パネル検査は有用か?
 IV-9.唾液腺癌(耳下腺癌)
  CQ 9-1 唾液腺癌に対して術前の細胞診、組織診、術中迅速病理診断は有用か?
  CQ 9-2 耳下腺癌で顔面神経麻痺がない場合、顔面神経の温存は推奨されるか?
  CQ 9-3 耳下腺癌手術症例において顔面神経再建は有用か?
  CQ 9-4 唾液腺癌に対して予防的頸部郭清術は有効か?
  CQ 9-5 唾液腺癌に対する放射線治療は有効か?
  CQ 9-6 唾液腺癌の診断に分子病理診断は有用か?
  CQ 9-7 再発・転移唾液腺癌に対して薬物療法は有効か?
 IV-10.原発不明癌-頸部リンパ節
  CQ 10-1 原発不明癌-頸部リンパ節の原発巣検索にFDG-PETを追加することで正診率は向上するか?
  CQ 10-2 原発不明癌-頸部リンパ節に対して口蓋扁桃摘出術は原発巣検索に有用か?
  CQ 10-3 原発不明癌-頸部リンパ節に対して頸部郭清術を行うことは推奨されるか?
  CQ 10-4 原発不明癌-頸部リンパ節に対して頸部郭清術後に術後補助療法を行うことは、生存率の向上に寄与するか?
 IV11. 外科治療
  CQ 11-1 エネルギーデバイスは頭頸部癌手術において有用か?
  CQ 11-2 放射線治療または化学放射線療法前の先行頸部郭清術(Upfront neckdissection)は推奨できるか?
 IV-12.がん薬物療法
  CQ 12-1 喉頭全摘が適応となる切除可能喉頭癌・下咽頭癌に対する喉頭温存療法として、導入化学療法は推奨されるか?
  CQ 12-2 切除不能局所進行頭頸部扁平上皮癌に対してTPF療法(ドセタキセル+シスプラチン+5-FU)による導入化学療法は推奨されるか?
  CQ 12-3 プラチナ製剤感受性再発・転移頭頸部扁平上皮癌の治療選択において免疫組織化学染色でPD-L1発現(combined positive score:CPS)を確認することは有用か?
  CQ 12-4 プラチナ製剤感受性の再発・転移頭頸部扁平上皮癌に対する初回治療として、免疫チェックポイント阻害薬による治療は推奨されるか?
  CQ 12-5 プラチナ製剤抵抗性の再発・転移頭頸部扁平上皮癌に対して免疫チェックポイント阻害薬は有用か?
  CQ 12-6  頭頸部癌に対する超選択的動注化学放射線療法は臓器機能温存に寄与するか?
  コラム7  頭頸部アルミノックス治療
 IV-13.放射線治療
  CQ 13-1 頭頸部扁平上皮癌術後において術後化学放射線療法は推奨されるか?
  CQ 13-2 化学放射線療法後の救済手術は推奨されるか?
  CQ 13-3 頭頸部扁平上皮癌放射線治療あるいは化学放射線療法後の局所再発に対し根治を目的とした再照射は推奨されるか?
  CQ 13-4 小児の頭頸部悪性腫瘍に対し、陽子線治療は推奨されるか?
  CQ 13-5 口腔・咽喉頭扁平上皮癌に対し、陽子線治療は推奨されるか?
  CQ 13-6 膠原病患者における頭頸部悪性腫瘍に対し、放射線治療は推奨されるか?
  コラム8 ホウ素中性子捕捉療法(boron neutron capture therapy:BNCT)
 IV-14. 緩和ケア
  CQ 14-1 頭頸部癌終末期では致命的出血に関する事前説明は必要か?

V 資料
 1 会話機能評価基準
 2 嚥下機能評価基準
 3 頸部郭清術後機能質問表
 4 下咽頭癌・声門上癌に対する頸部郭清指針
 5 参考URL
<2025年版 改訂にあたって(第5版)>
 頭頸部領域には、口腔・鼻副鼻腔・咽頭(上咽頭・中咽頭・下咽頭)・喉頭・甲状腺・唾液腺など多様な原発巣が存在し、それぞれの疾患特性は大きく異なります。また、呼吸・咀嚼・嚥下・発声といった日常生活に不可欠な重要な機能が集中しているため、根治性を妥協しない範囲で、治療後のQOL を最大限に考慮した治療戦略を選択することが求められます。しかしながら、その絶妙なバランスを取ることが難しい場面も多く、そうした場合には、根治性を優先せざるを得ないこともあります。こうした困難な局面において、医療者ならびに患者さんやご家族の拠り所となるのが、まさに本ガイドラインであると言えます。
 近年、NCCN ガイドラインをはじめ、各国のガイドラインに容易にアクセスできるようになりました。しかし、各国の疾患特性や医療制度は異なるため、本邦に適したガイドラインの整備が必要です。また、医療機器や薬剤開発の目まぐるしい進展により、新たなエビデンスが次々と発信され、治療方法もますます複雑化しています。その中で、患者さんに最適な診療方針を提供するためには、ガイドラインを適宜アップデートしていくことが不可欠です。本ガイドラインは2009 年の初版発刊以来、今回で第5 版となりますが、これまでの改訂に献身的に尽力されたすべての先生方に、心より敬意を表します。
 頭頸部癌学会においても、ガイドライン委員会は極めて重要な役割を担っています。最新のガイドラインは多くの出版物やウェブサイトで引用されるだけでなく、医療者にとっても、ガイドラインで参照されるような研究成果を生み出すことは、目の前の患者さんへの貢献に劣らない大きな達成感をもたらします。また、ガイドラインの準拠率は、診療の質を評価する指標(Quality Indicator)の一つとして活用できます。一方で、頭頸部悪性腫瘍全国登録などの調査において準拠率が極端に低い項目があれば、そもそも現実の臨床現場には実装が困難であることを示唆するものかもしれません。いずれにしても、本ガイドラインの持つ意義は計り知れないと言えます。
 今回は2022 年版から3 年ぶりの改訂となり、甲状腺癌や唾液腺癌における遺伝子変異と薬物療法など最新の情報が加わりました。また、対象疾患として聴器癌、悪性黒色腫、横紋筋肉腫が追加され、CQ には下咽頭喉頭全摘における健側気管傍郭清や遊離空腸移植、喉頭全摘における側頸部郭清、エネルギーデバイス、先行頸部郭清、超選択的動注療法が新たに記載されています。さらに、コラムではシスプラチン不適応、待機期間の術前治療、オリゴ進行、骨転移、AYA世代、腺様嚢胞癌、アルミノックス治療、BNCTが取り上げられました。これらの新たな知見が頭頸部癌の患者さんに更なる恩恵をもたらすことでしょう。
 言うまでもなく、ガイドライン委員会は頭頸部癌学会の中でも最も負担の大きい委員会の一つです。これまで委員長として献身的に尽力されてきた本間明宏先生が担当理事に就任され、委員長の役割は花井信広先生に引き継がれました。花井先生のリーダーシップのもと、委員会の先生方の迅速かつ的確な対応により、本ガイドライン第5版が無事に発刊されましたことに、学会員を代表して深く感謝申し上げます。

2025年5月
日本頭頸部癌学会 理事長 吉本 世一


<2025年版 序(第5版)>
 頭頸部がんの診療は、時代とともに変化し続けている。分子標的治療や免疫療法の発展により、従来の治療選択肢では対応が困難であった症例にも新たな可能性が開かれつつある。こうした進展を踏まえ、診療ガイドラインもまた、最新のエビデンスを反映し、日々の診療における指針として機能し続けることが求められる。
 今回の改訂(第5 版)は、小改訂の位置づけであり、これまで学会ホームページ上で更新されてきた内容を本文に統合する形で実施された。具体的には、2022 年版の出版以降、再発・転移唾液腺癌に対する薬物療法の有効性(CQ9-7)や、切除不能・再発甲状腺癌に対する分子標的薬の推奨(CQ8-5)、標準的薬物療法に不応となった甲状腺癌に対するがん遺伝子パネル検査の有用性(CQ8-7)などが更新されている。また、LIBRETTO-531 臨床試験の結果(IV-8)や、上顎洞癌に対する超選択的動注化学放射線療法(JCOG1212)(IV-11)など、新たなエビデンスに基づく治療情報も追加された。
 さらに、本改訂では、がん薬物療法や放射線治療、緩和ケアなどの各領域において新たな視点を取り入れ、治療各論の拡充やクリニカルクエスチョンの追加を行うことで、より実践的な指針となることを目指した。また、治療選択が難しい症例や、臨床医の判断が分かれる事例に対応するため、新たにコラムを設け、診療現場で頻繁に議論となる課題を整理し、考慮すべき視点を示すことを目的とした。特に、第48 回日本頭頸部癌学会の特別企画4「ガイドラインに物申す」での議論も踏まえ、臨床の現場で直面する問題を掘り下げる内容となっている。
 診療ガイドラインは、固定的な指針ではなく、臨床の進展に応じて柔軟に更新されるべき「生きた」指針である。本改訂もまた、最新の知見を踏まえ、進化を遂げるとともに、診療現場での実用性向上にも配慮した。今後も、科学的根拠に基づいた診療の標準化を推進し、適切な治療選択を支援できるよう、さらなる改訂が続けられることが期待される。
最後に、本改訂にご尽力いただいた委員会の先生方をはじめ、多くの関係者の皆様に深く感謝申し上げる。

2025年5月
日本頭頸部癌学会診療ガイドライン委員会 委員長 花井 信広