卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン 2025年版

5年ぶりの改訂、8つのCQと3つのBQを新設!

編 集 日本婦人科腫瘍学会
定 価 4,290円
(3,900円+税)
発行日 2025/07/20
ISBN 978-4-307-30159-6

B5判・280頁・図数:5枚

在庫状況 あり

5年ぶりの改訂となる2025年版では、最新のエビデンスをもとに、薬物療法のCQが大幅にアップデートされた。遺伝学的検査の活用、高齢患者の薬物療法、再発患者の手術、緩和ケアにおける留意点、治療後の生活指導、維持療法中・後の再発などの実践的なCQ・BQを新設し、計52のCQ・BQが収載された。卵巣がん治療の最前線を見逃さないための必携ガイドライン。
Question、推奨一覧

フローチャート1 卵巣癌・卵管癌・腹膜癌の治療
フローチャート2 再発卵巣癌・卵管癌・腹膜癌の治療
フローチャート3 境界悪性卵巣腫瘍の治療
フローチャート4 悪性卵巣胚細胞腫瘍の治療
フローチャート5 性索間質性腫瘍の治療

■本ガイドラインにおける基本事項
I 進行期分類
II リンパ節の部位と名称
III 組織学的分類
IV 治療
V Oncofertility
VI 緩和ケア

■第1章 ガイドライン総説

■第2章 卵巣癌・卵管癌・腹膜癌
総説
CQ01 I期からIIA期と考えられる患者に対して、staging laparotomyは勧められるか?
CQ02 術前にIIB期以上と考えられる患者に対して、primary debulking surgery(PDS)は勧められるか?
CQ03 Primary debulking surgery(PDS)でsuboptimal surgeryとなった進行例に対して、interval debulking surgery(IDS)は勧められるか?
CQ04 進行例に対して、primary debulking surgery(PDS)の代わりに術前化学療法(NAC)+interval debulking surgery(IDS)を行うことは勧められるか?
CQ05 術前に完全切除が困難と考えられる患者に対して、診査腹腔鏡や針生検は勧められるか?
CQ06 IIB期以上と考えられる患者に対する初回手術で、骨盤・傍大動脈リンパ節郭清は勧められるか?
CQ07 Interval debulking surgery(IDS)でリンパ節腫大がない場合に、骨盤・傍大動脈リンパ節郭清の省略は勧められるか?
CQ08 妊孕性温存を希望する患者に対して、妊孕性温存治療は勧められるか?
CQ09 卵巣癌患者に対して、開腹手術の代わりに低侵襲手術は勧められるか?
BQ01 術前評価、術中所見で良性・境界悪性・悪性の推定が困難な患者に対して、術中迅速病理診断を行うことは勧められるか?
CQ10 BRCA1あるいはBRCA2病的バリアント保持者に対して、リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)は勧められるか?
CQ11 患側病変のみ摘出し、卵巣癌または卵管癌と判明した患者に対して、進行期決定手術を省略することは勧められるか?
CQ12 初回薬物療法前の卵巣癌患者に対して、遺伝学的検査を行うことは勧められるか?
CQ13 初回薬物療法を行う場合、どのようなレジメンが勧められるか?
CQ14 初回化学療法としてパクリタキセルとカルボプラチン併用療法(conventional TC療法、dose-dense TC療法)を施行できない場合に、どのようなレジメンが勧められるか?
CQ15 I期患者に対して、術後化学療法の省略は勧められるか?
CQ16 組織型別に化学療法のレジメンを変更することは勧められるか?
CQ17 進行例に対して初回化学療法を行う場合、腹腔内化学療法は勧められるか?
CQ18 初回手術とその後の化学療法により奏効が得られたHRD陽性/またはそれ以外の患者に対して、それぞれどのような維持療法が勧められるか?
CQ19 手術と初回化学療法により奏効が得られず腫瘍が残存した場合、どのような治療が勧められるか?
CQ20 高齢患者に対して, 薬物療法の減量や省略は勧められるか?
BQ02 治療中・治療後の緩和医療において留意すべき点は?
CQ21 治療後の生活指導において留意すべき点は?
CQ22 治療後に再発発見のための定期的な検査は勧められるか?
CQ23 経過観察中に無症状でCA125が上昇した場合、治療は勧められるか?
CQ24 卵巣癌治療中や治療終了後にホルモン補充療法(HRT)は勧められるか?
CQ25 化学療法による過敏性反応(HSR)が生じた場合、同一あるいは同系統の薬剤の投与は可能か?
CQ26 卵巣癌患者に対して、がん遺伝子パネル検査は勧められるか?

■第3章 再発卵巣癌・卵管癌・腹膜癌
総説
CQ27 プラチナ製剤抵抗性再発の薬物療法において、どのようなレジメンが勧められるか?
CQ28 プラチナ製剤感受性再発の薬物療法において、どのようなレジメンが勧められるか?
CQ29 化学療法が無効であったプラチナ製剤抵抗性再発に勧められる治療は?
CQ30 ベバシズマブによる維持療法中・維持療法後の再発に対して、どのようなレジメンが勧められるか?
CQ31 PARP阻害薬を含む維持療法中・維持療法後の再発に対して、どのようなレジメンが勧められるか?
CQ32 再発患者に対して、手術療法は勧められるか?
CQ33 悪性消化管閉塞に対して、手術療法、薬物療法は勧められるか?
CQ34 腹水貯留に対して、薬物療法、腹水ドレナージは勧められるか?
CQ35 手術適応のない再発患者に対して、放射線治療は勧められるか?

■第4章 境界悪性腫瘍
総説
CQ36 患側付属器摘出術後または腫瘍核出術後に境界悪性腫瘍と判明した場合、追加手術は勧められるか?
CQ37 妊孕性温存を希望する境界悪性腫瘍患者に対して、妊孕性温存治療は勧められるか?
CQ38 境界悪性腫瘍患者に対して、術後化学療法は勧められるか?
CQ39 境界悪性腫瘍治療後は、長期間の経過観察が勧められるか?
CQ40 境界悪性腫瘍治療後の再発に対して、手術は勧められるか?

■第5章 胚細胞腫瘍・性索間質性腫瘍
総説
CQ41 妊孕性温存を希望しない悪性卵巣胚細胞腫瘍患者に対して、どのような術式が勧められるか?
CQ42 妊孕性温存を希望する悪性卵巣胚細胞腫瘍患者に対して、妊孕性温存治療は勧められるか?
CQ43 悪性卵巣胚細胞腫瘍患者に対して、術後化学療法は勧められるか?
CQ44 悪性卵巣胚細胞腫瘍の再発患者に対して、薬物療法、手術療法、もしくは放射線治療は勧められるか?
BQ03 悪性卵巣胚細胞腫瘍患者に対するBEP療法で注意すべき有害事象は?
CQ45 悪性卵巣胚細胞腫瘍患者に対するBEP療法終了後に完全寛解が得られない場合、追加の化学療法は勧められるか?
CQ46 妊孕性温存を希望しない性索間質性腫瘍患者に対して、どのような術式が勧められるか?
CQ47 妊孕性温存を希望する性索間質性腫瘍患者に対して、妊孕性温存治療は勧められるか?
CQ48 性索間質性腫瘍患者に対して、術後化学療法もしくは術後放射線治療は勧められるか?
CQ49 性索間質性腫瘍の再発患者に対して、薬物療法、手術療法、もしくは放射線治療は勧められるか?

■第6章 資料集
I 略語一覧
II レジメン一覧
III 日本婦人科腫瘍学会ガイドライン委員会業績
IV 既刊の序文・委員一覧

索引
 日本婦人科腫瘍学会のガイドライン委員会が2002年に設置され、婦人科がんで最初の『卵巣がん治療ガイドライン2004年版』が発刊されてから21年が経ちました。この間、子宮体がん、子宮頸癌、外陰がん・腟がんについてもそれぞれガイドラインの発刊と改訂が重ねられています。取扱い規約の改訂に合わせて本ガイドラインも前版より『卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン』と名称を変え、第6版としてここに『卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2025年版』を発刊するに至りました。CQを整理し直し、ページ数が過剰に増えないよう校正を重ねましたが、前版より若干厚みを増しています。苦渋の選択でしたが物価高騰の折から前版より少し値上げしてお届けすることになりましたこと、まずはご理解いただきますようお願いいたします。

 この四半世紀で「卵巣癌」の基礎・臨床研究が精力的に行われ、発がん過程の探索的研究が進んだことで疾病概念は大きく変容しています。「卵巣癌」は単一ではなく、組織型のみならず多様な遺伝子背景と異なる生物学的特徴を有する疾患の総称であることが明らかとなり、その遺伝子背景や生物学的特徴をコンパニオン診断とした治療選択肢が次々と実装される時代になりました。文献検索サイトPubMedRに掲載された「卵巣癌」に関する年間英文論文数は2,000から今や7,000以上と、新規エビデンスが発出され知見が更新されるスピードが年々、加速しています。論文によるエビデンスを基に標準治療・治療指針の推奨を立てることはガイドライン作成の根幹ですが、エビデンスの蓄積と昇華、その社会的実装に時間的・地政学的な壁もあります。そこで、近年のガイドラインでは本邦でその治療を行うことによる様々な益・不利益を総合的に判断する「エビデンス総体」に基づいた推奨を決定しています。本ガイドラインもこの方針を踏襲し、改訂作業の終わりまで作成委員が論文渉猟を続けて情報を更新しながら、評価委員会やコンセンサスミーティング、コアメンバー会議で議論を尽くして多面的な評価を行い、最終会議で意見の集約を図り推奨を立てました。なお、産婦人科医師以外の作成委員の意見も含めて、どのような議論を経て推奨決定に至ったかを理解していただくために、投票前後の議論を「最終会議の論点」として記載しています。

 ガイドラインは適切な治療指針を提示するだけでなく、将来的に保険適用を目指す新規治療法について、その蓋然性と要件を評価することも求められるようになりました。2025年版の多くのCQは2020年版を踏襲していますが、よりPICO形式で推奨を立てることを意識してガイドラインを作成しています。本ガイドラインでは低侵襲手術、再発腫瘍切除術、胚細胞腫瘍に対するリンパ節郭清を含めた手術治療について3つのsystematic review(SR)を行い、論議を呼んできたこれらの治療法について、要件も含めた推奨文を示しています。また、background question(BQ)を取り入れて、日常診療として既に浸透している事項についてはPICO形式にこだわらずに解説しています。近年、がん診療には全人的な関わりがますます強く求められるようになりました。「本ガイドラインにおける基本事項」では、診断と治癒に関する諸項目の充実を図るだけでなくOncofertilityと緩和医療に関する記載もアップデートしています。ただ、5年ごとの改訂では時機を逃さずに最新の知見を診療ガイドラインに当てはめることが難しい時代になりました。本ガイドライン発刊前にも、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的治療薬、抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate;ADC)の上梓を目指して第III相試験が行われています。2020年版ではPARP阻害薬についてのCQのアップデート版を発出しましたが、2025年版でも時宜を得たアップデート版の発出を行う予定です。

 第6版を発刊するにあたり、膨大な文献を基に推奨文や解説の推敲を重ねてくださった作成委員の先生方、献身的かつ強力に改訂作業を推し進めていただいた安彦 郁、島田宗昭、高野政志、田部 宏、山上 亘、中島彰俊改訂委員会副委員長、そして、作成幹事に厚く御礼申し上げます。CQ作成から発刊に至る一連の困難な作業をまとめあげた庄子忠宏担当幹事、作業を補完し修正してくださった永瀬 智前ガイドライン委員会委員長、徳永英樹ガイドライン委員会副委員長、森定 徹ガイドライン委員会主幹事をはじめとするガイドライン委員会委員、外部作成委員、評価委員会委員の皆様に深甚なる謝意を表します。また、コンセンサスミーティングやパブリックコメントで建設的なご意見をお寄せいただいた会員の皆様の温かいご支援にも心から御礼申し上げます。最後に、長年昼夜を問わず対応していただいた本学会事務局の安田利恵さん、金原出版株式会社編集部の安達友里子さんはじめ、出版にかかるすべての行程にご協力いただいた方々に感謝申し上げます。

2025年6月

日本婦人科腫瘍学会ガイドライン委員会
委員長 小林 陽一
卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン改訂委員会
委員長 馬場 長