生殖医療スタッフ必携! がん患者の妊孕性温存のための診療マニュアル

がん患者の妊孕性温存療法を実践するために必読のマニュアル

編 集 AMED大須賀班
定 価 3,300円
(3,000円+税)
発行日 2019/05/30
ISBN 978-4-307-30139-8

B5判・112頁・図数:19枚

在庫状況 あり

がん患者の妊孕性(生殖機能)温存の重要性については、患者の人生を左右する大きな問題として近年広く認識されるようになってきている。本書ではQ&A形式を用いてわかりやすく、実施施設の要件、妊孕性温存療法の実際の方法、原疾患別の注意点、患者・家族への情報提供の方法、がん治療と生殖医療の連携をどのようにうまく取っていくか、地域ネットワークで患者をサポートしていく仕組みや助成制度までを網羅し、解説した。
<総論>

総論1 実施施設に求められることは何か?
Q1-1 医学的適応による妊孕性温存を目的とした生殖補助医療を取り扱う実施施設に求められることは?

総論2 妊孕性温存療法の手法は?
Q2-1 挙児希望を有する女性がん患者に対して、どのような妊孕性温存療法が勧められるか?
Q2-2 疾患別に適した排卵誘発法は?
Q2-3 妊孕性温存療法の前に参考となりうる卵巣予備能の評価方法は? 化学療法あるいは放射線治療による卵巣毒性の程度は?
Q2-4 採卵の方法は?
Q2-5 卵子および胚凍結保存の方法は?
Q2-6 胚移植が可能なタイミングと方法は?
Q2-7 卵巣組織凍結保存について、どのような情報を提供するか?

総論3 妊孕性温存療法の治療成績は?
Q3-1 どれくらいの期間があれば、どの程度の妊孕性を温存できるのか?
Q3-2 凍結保存された生殖組織・生殖細胞を用いて挙児を望んだ場合、どのような生殖医療を受けなければならないのか? その成功率(出生率)は?

総論4 生殖補助医療に関するリスクは?
Q4-1 排卵誘発を行うことで起こりうるリスクは?
Q4-2 体外受精(採卵)および胚移植に伴うリスクについてどのような説明をすべきか?
Q4-3 卵巣組織凍結保存におけるがん細胞混入のリスクは?

総論5 患者への意思確認の際、留意すべきことは何か?
Q5-1 生殖医療担当医は、がん患者の疾患に関して、どのような情報を原疾患担当医から得ることが妥当か?
Q5-2 がん治療による不妊のリスクや治療後の妊孕性温存療法の安全性について、どのように説明すべきか?


<各論>

各論1 疾患別の対応と情報提供の方法は?
Q1-1 挙児希望を有する乳がん患者に勧められる妊孕性温存療法には、どのようなものがあるか?
Q1-2 挙児希望を有する白血病患者に勧められる妊孕性温存療法には、どのようなものがあるか?
Q1-3 挙児希望を有する悪性リンパ腫患者に勧められる妊孕性温存療法には、どのようなものがあるか?
Q1-4 挙児希望を有する婦人科がん患者で妊孕性温存療法を行うべき症例には、どのようなものがあるか?
Q1-5 妊孕性温存療法を施行しないことが考慮(許容)される症例には、どのようなものがあるか?

各論2 小児へのアプローチに際して配慮すべきことは?
Q2-1 化学療法を開始した後でも妊孕性温存療法を受けることは可能か?
Q2-2 小児がん患者自身には、妊孕性温存療法についてどこまでの説明をすべきか?
Q2-3 妊孕性温存療法の説明内容について、年齢による違いはあるのか?
Q2-4 がん患者が妊娠を希望した場合、予後の観点からは、治療終了後いつから妊娠可能となるのか?
Q2-5 がん患者が妊娠を希望した場合、催奇形性など薬物療法や放射線治療による安全性の観点からは、治療終了後いつから妊娠可能となるのか?
Q2-6 寛解後、早発卵巣不全のリスクが極めて高いと考えられる症例において、妊孕性温存療法を含めた対応は?

各論3 ヘルスケアプロバイダーが説明すべき内容は?
Q3-1 短期間に多くの意思決定を迫られる成年の患者への関わりは?
Q3-2 患者が未成年者の場合には、どのような関わりが望ましいか?

各論4 がん・生殖医療の提供体制は?
Q4-1 がんを取り扱う診療施設と同一施設内でがん・生殖医療を行う場合の対応は?
Q4-2 がんを取り扱う診療施設と同一施設内でがん・生殖医療を行っていない場合の対応は?
Q4-3 紹介できる地域ネットワークは?

各論5 その他
Q5-1 妊孕性温存療法を希望するがん患者に経済的援助を行う助成制度は?
Q5-2 がん患者が死亡した場合、生殖補助医療(ART)実施施設ではどのように死亡の事実を確認するのか?
Q5-3 死亡後の凍結した生殖細胞あるいは卵巣組織の取り扱いは?
Q5-4 化学療法後の患者で、凍結卵子・胚を使わずに自然妊娠した場合、凍結した生殖細胞あるいは卵巣組織をどのように扱うか?

Appendix
1.原疾患担当医から生殖医療担当医への診療情報提供シート
2.日本産科婦人科学会会告一覧

略語一覧
索引
 近年、がん治療の進歩によりがん治療後の長期間の生存者が増加している。これらのいわゆるがんサバイバーにおいて生活の質の維持・向上は重要な課題で、なかでもがん治療による妊孕性への影響は人生を左右する大きな問題となっている。平成30年に決定された第3期がん対策推進基本計画では、がん治療に伴う生殖機能等への影響などの問題について、医療従事者が患者に対して治療前に正確な情報提供を行い、必要に応じて適切な生殖医療を専門とする施設に紹介できるための体制を構築することを課題としている。一方、2017年に日本癌治療学会により『小児、思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン』が発刊されたことにより、次第にがん治療医の間で妊孕性温存の重要性が広く認識されるようになってきている。しかしながら、がん患者における妊孕性温存の実際の方法などについては、生殖医療医の間でもまちまちであり、がん治療医との連携もいまだ十分とは言えない状況がある。

 我々は日本医療研究開発機構(AMED)に採択された課題「生殖機能温存がん治療法の革新的発展にむけた総合的プラットフォームの形成」(2016-2018年度)のもと、妊孕性温存療法の適切な提供と運用にむけた医療体制の構築をめざして、我が国の現状の調査を行ってきた。研究の結果、地域ネットワークなどのがん治療医と生殖医療医の連携体制が十分でなく、卵子等の保存について必要な患者に適切に情報や診療が提供されていない現状が明らかとなった。また、実際の方法などに関しては標準化・均てん化の必要性が認められた。

 このような現状を踏まえ、妊孕性温存療法を実際に行うための手引きとなるべく本書は作成された。本書の作成にあたっては、広く妊孕性温存に造詣の深い生殖医療専門医と各種診療科のがん治療医にご協力いただいた。日本癌治療学会のガイドラインはがん治療医に重点をおいたものであり、本書は産婦人科医、ならびに生殖医療医を含む生殖医療関係者に重点をおいたものである。よって本書は、日本癌治療学会のガイドラインとセットとして活用していただくとより効果的である。がん患者の妊孕性温存は多くの関連学会と協調して進めていく必要性があるが、本書は関連学会より後援を得ており、本書に沿った診療は現時点では最も妥当なものと考えられる。本書をご活用いただき、がんと闘う患者に対して妊孕性温存という希望の光を提供する医療を共に普及していただくことを願ってやまない。

2019年4月
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)革新的がん医療実用化研究事業
生殖機能温存がん治療法の革新的発展にむけた総合的プラットフォームの形成 研究班
研究開発代表者 大須賀 穣