整形外科 用語のいざない

整形外科用語の学術的解説から語源や由来など、蘊蓄満載の解説集

著 者 国分 正一
定 価 4,180円
(3,800円+税)
発行日 2018/05/20
ISBN 978-4-307-25163-1

B6変型判・366頁

在庫状況 あり

雑誌『整形・災害外科』での連載を中心に、数ある整形外科用語の中から700語をピックアップ。学術的な解説はもちろん、その語源や由来、命名者などなど、時には脱線しながらも、著者の長年の経験で培われた豊富な知識に基づき懇切丁寧に解説する。ただの用語解説集と侮るなかれ。論文執筆の際に「なぜ、この語なのか」が解り、知識が活きてくる。整形外科学に対する教養が深まること間違いなし。
 医学用語は医学の進歩、医療の発展に伴って、その数が加速度的に増している。広く使われるようになって有用と判断されれば辞典や用語集に収載されることになる。他方、あるものは死語化ないし常識化したとして除外の対象となる。
 一人の医師の医学知識は、卒前の解剖学に始まって臨床における専門領域まで、各用語の正しい理解に負う。医師が用語の意味を取り違えていたら、病歴記載が不正確となり、他の医師あるいはコメディカルとの相互理解に齟齬が生じ、時に患者に致命的な結果をもたらしかねない。研究の場合には、その成就および論文執筆は覚束ない。
 著者が整形外科の道に踏み入った昭和44年(1969)の頃は、ドイツ語が依然幅を利かせていた。例えば、大学病院外来の教授診では、教授がドイツ語用語で診察所見を述べ、それをBeschreiber 筆記係が聞き取ってKarte診療録に記載したものである。教科書で邦語用語に添えられていたのは独語用語であった。しかし、権威ある知識、最新の情報を求めるには、英語のmonographや手術書、そして雑誌でなければならなくなり始めていた。
 どの用語も語源、造語者、誕生の際の歴史的背景、意味する範囲と強さ、その後の推移がある。用語は使って慣れるが得策であるが、耳学問に留まってはならない。振り返ると、著者の整形外科医としての49年間は、新しい英語用語を先ず覚え、成書や原典で起源を探り、正しく使う、そしてその数を増やすことに努める日々であった。
 著者は、平成14年(2002)4月からこの3月まで16年間に亘って、雑誌『整形・災害外科』に連載コラム「整形外科用語の散歩道」の執筆を続けてきた。日本整形外科学会の用語集から選んだ、あるいは学会で耳にし、論文を読んだ際に興味が湧いた用語をアルファベット順に並べては順繰りに月に3, 4語を取り上げ、折々に頭に浮かんだ想いなどを交えて随筆風に解説を加えた。その数が600を優に越えるに到った。加えて、平成10年(1998)から18年(2006)までの8年間に「骨の逸話」24語と「痛みの逸話」36語を三共(株)(当時)の、平成16年(2004)、17年(2005)に「腰の診どころ聴きどころ」2語を小野薬品工業(株)の好意によって全国の整形外科医に配布して頂いたリーフレットで取り上げた。
 当初、『解体新書』などは東北大学附属図書館医学分館の許可を得て、所蔵の原本に当たる必要があった。Internetの発展のお蔭で、次第に原典の検索が容易になった。勢い数多く当たることになり、それらの読み解きが時に苦労であったが、知識が広がり、確かとなる歓びに歩みを促された。
 教授を定年退職後に、非特異的疼痛の臨床研究を開始した。痛みは筋硬症で生じ、後頭下の圧痛点への局麻剤注射で同側約40 の筋肉が同期的に柔らかくなると分かった。そこで、研究の将来をスキージャンプのK点越えの大飛躍に準えて、後頭下圧痛点をK点、同期筋をK点筋群と名付けた。次第に個別独立筋も捉えられた。連載コラムでは、痛みと筋肉の用語において新知見を書き添えさせて頂いた。
 このようにして20年間に書き貯めた整形外科用語の700語を以て、この度、本書を出版するに到った。英語用語をアルファベット順に配置し、対応の邦語が『整形外科学用語集・第8版』(日本整形外科学会編・南江堂発行、2016)にあれば、それらを優先的に併記した。
 執筆の際に、自分なりに22字×18行の原稿枠で、3, 4段落の制約を設けた。それ故の舌足らず、時に間延び、また解説・随想に独り善がりが無きにしも非ず。臨床、研究の合間、コーヒーブレイクなどに読まれて、些かなりと面白く有用と感じて頂けたら、書き続けた甲斐があって幸せである。

平成30年(2018)4月
国分 正一(東北大学名誉教授)