乳癌患者の妊娠・出産と生殖医療に関する診療ガイドライン 2026年版 【第4版】

「最善の未来」を目指すSDM支援のための一冊

編 集 日本がん・生殖医療学会
定 価 3,850円
(3,500円+税)
発行日 2026/06/25
ISBN 978-4-307-20493-4

B5判・260頁・カラー図数:8枚

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乳がん患者さんの「命」と「将来への希望」という2つの価値観を前に,医療者には,がん治療や妊娠・出産にかかる意思決定の瞬間のみならず,その後の長い人生の切れ目のない伴走者としての役割が求められている。乳がん患者さんの多様な価値観を支えるべく,多岐にわたる専門分野の知見を集結し,多くの臨床課題が検証・議論しつくされた。協働意思決定(SDM)の出発点ともいえる唯一無二のガイドラインである。
CQ・推奨一覧
本ガイドラインについて(スコープ)

巻頭
■はじめに
 1.がん・生殖医療の実践と課題、そして日本がん・生殖医療学会(JSFP)の取り組み
 2.JSFPナビゲーター制度とがん・生殖医療認定施設要件、そして実際の意思決定支援
 3.経済的問題と研究推進事業としての公的助成制度
■診療アルゴリズム
 乳癌に対する薬物療法が必要と考えられる、生殖年齢にある患者へのアプローチ
 診療アルゴリズム1.挙児希望のある乳癌患者の妊孕性温存に対するアプローチ
 診療アルゴリズム2.薬物療法が必要な原発乳癌患者のがん治療と妊孕性温存に対するアプローチ
 診療アルゴリズム3.乳癌治療終了後の妊娠・出産に対するアプローチ
 診療アルゴリズム4.妊娠期乳癌に対するアプローチ

1章.挙児希望を有する乳癌患者に対する生殖医療について
 総論 挙児希望を有する乳癌患者に対する生殖医療について
 BQ1 挙児希望の乳癌患者に対し、生殖医療医の介入は必要か?
 BQ2 挙児希望の乳癌患者に対し、胚(受精卵)または未受精卵の凍結保存を提案することは推奨されるか?
  コラム:家族形成の選択肢―がん・生殖医療と里親制度・特別養子縁組制度
 CQ1 挙児希望の乳癌患者に対し、卵巣組織凍結は推奨されるか?
 CQ2 挙児希望の乳癌患者の採卵に際し、調節卵巣刺激(COS)を行うことは推奨されるか?
 CQ3 挙児希望の乳癌患者に対し、ランダムスタート法での排卵誘発は推奨されるか?
 FQ1 挙児希望の乳癌患者に対し、PPOSは推奨されるか?
 FQ2 挙児希望の乳癌患者が胚移植を行う場合に、女性ホルモンの補充は安全か?
 FQ3 BRCA1/BRCA2病的バリアント保持者の乳癌患者が妊孕性温存および妊娠・出産を希望する場合に配慮すべきことは?

2章.挙児希望を有する乳癌患者に対するがん治療について
 総論1 挙児希望を有する乳癌患者に対するがん治療について
 総論2 周術期薬物療法が性腺機能へ与える影響、そして必要な避妊期間について
  コラム:新規抗がん剤の卵巣機能への影響に関する情報不足
 BQ3 術後化学療法を予定している乳癌患者が採卵を行う場合、どれくらい生殖医療に時間をかけられるか?
 BQ4 化学療法開始後の採卵は推奨されるか?
 CQ4 妊娠・出産率を高める目的で、化学療法施行時にGnRHアゴニストを使用することは推奨されるか?
 CQ5 担がん状態の乳癌患者に対し、調節卵巣刺激(COS)を行って採卵することは推奨されるか?
 CQ6 挙児希望のために内分泌療法を中断・再開することは許容されるか?
 FQ4 術前化学療法の適応となる乳癌患者において、妊孕性温存を目的として化学療法の実施時期を術後に変更することは推奨されるか?
 FQ5 術後放射線治療中の採卵は安全か?

3章.乳癌治療後の妊娠・周産期管理について
 総論 乳癌患者の妊娠・出産の管理、そして転移の有無や晩期合併症について
 BQ5 乳癌治療が終了した乳癌患者が妊娠した場合、乳癌フォローアップ検査を行うことは推奨されるか?
 BQ6 乳癌経験者が妊娠した場合の周産期管理に、特別な配慮は必要か?
 BQ7 乳癌治療後の母乳による授乳(母乳育児)は安全か?
 BQ8 妊娠中の画像検査、病理組織検査は推奨されるか?
 CQ7 標準治療が終了した乳癌患者が妊娠することは推奨されるか?
 CQ8 乳癌治療が終了した乳癌患者が新たに生殖補助医療(ART)を受けることは推奨されるか?

4章.妊娠期の乳癌患者に対するがん治療について
 総論 妊娠期乳癌に対するがん治療について
 BQ9 妊娠中の乳癌患者に手術は推奨されるか?
 BQ10 妊娠中の乳癌患者に放射線治療は推奨されるか?
 BQ11 妊娠中の乳癌患者に内分泌療法は推奨されるか?
 CQ9 妊娠中の乳癌患者に乳房温存療法は推奨されるか?
 CQ10 妊娠中の乳癌患者にセンチネルリンパ節生検は推奨されるか?
 CQ11 妊娠中の乳癌患者に抗HER2療法は推奨されるか?
 CQ12 妊娠中の乳癌患者に化学療法は推奨されるか?
 FQ6 妊娠中の乳癌患者に乳房再建手術は推奨されるか?
 FQ7 妊娠中の乳癌患者に化学療法を行う場合、支持療法は推奨されるか?

解説編
■がん・生殖医療の倫理的課題
 1.乳癌治療と生殖に関する倫理的分析方法
 2.国内における生殖医療の倫理規範と現状
 3.がん治療と妊娠・出産に関する説明義務について
■がん・生殖医療における、各々の立場からの関わり
 1.がん治療医の役割
 2.看護師・助産師の役割
 3.薬剤師の役割
 4.生殖医療医の役割
 5.生殖心理カウンセラーの役割
 6.患者会・ピアサポートの役割

用語集(生殖医療用語/乳腺関連用語)
利益相反(COI)開示
2026 年版(第4版)の序

 前版発刊後POSITIVE試験や研究促進事業としての助成金制度により、臨床現場ではパラダイムシフトともいえる大きな変化がありました。本書を手に取られた医療従事者の方々は、日々、患者さんの「命」と「将来への希望」という2つの価値観の狭間で、エビデンスだけでは割り切れない個別性の高い葛藤を抱え、患者さんとともに悩み、最善の道を探っておられることと思います。本書は、決して画一的なルールを課すものではありません。最新の正しい医学的知見に加え、医療の限界や不確実性をも誠実に提示することで、患者さんと「最善の未来をともに悩む」ための、協働意思決定(SDM)の対話の土台、出発点として機能することを目標としています。
 御舩さんからのメッセージにある通り、妊孕性温存や妊娠・出産は人生のゴールではなく、一つの通過点に過ぎません。その先には、お子さんとの日常を大切に育む日々がある一方で、望んでも叶わなかった悲しみや、温存を選択しなかった決断を抱えながら、自分らしい人生を模索し続ける方々もおられます。続いていくそれぞれの人生の営みに対し、私たちには意思決定の瞬間だけでなく、その後の長い人生を見据えた切れ目のない伴走者としての役割が求められています。
 多くの葛藤を抱え、納得のいくまで考え抜き、自らの道を歩み出す患者さんの姿に、私は常に深い尊敬の念を抱いています。ある患者さんは、悩み抜いた末の決断をこのように表現されました。
 「ここからは他の誰とも一緒じゃない、私の選んだ、私だけの人生だと、誇らしく思う」
 患者さんがこのように自らの人生を主体的に、納得して選び取っていくプロセスを支えることこそが、本ガイドラインの存在意義であると考えます。
 本書の改訂作業は、多岐にわたる専門分野の知見を多角的な視点で議論することに本質的な意味があります。数多くのシステマティックレビュー委員、ガイドライン作成委員の皆様の多大なるご尽力と、患者さんへの強い想い、そして責任感なくして、本書を完成させることは不可能でした。作成に携わってくださったすべての委員および協力者の皆様に、心からの敬意と感謝を申し上げます。
 また、短期間の作業であったにもかかわらず、パブリックコメントや、関連学会の諸先生方より外部評価として、専門的見地に基づいた厳正な評価と貴重なご助言を多数お寄せいただきました。皆様の真摯なご指摘が、本ガイドラインをより実効性の高いものに昇華させてくださいました。加えて、至らぬ点も多かった私を支えてくださった統括委員の小泉圭先生、高江正道先生、的確な助言で導いてくださったアドバイザーの清水千佳子先生、北野敦子先生、金原出版の宇野和代様、そして学会事務局の川上雅久様、久保敦様をはじめ、関わってくださったすべての皆様の多大なるお力添えにこの場をお借りして深くお礼申し上げます。
 本書が、全国どこでも、患者さんと医療従事者が等しく対話を重ね、最善の未来をともに描くための力になることを心より願っております。

 2026年6月

「乳癌患者の妊娠・出産と生殖医療に関する診療ガイドライン」改訂委員会 委員長 田村 宜子
一般社団法人 日本がん・生殖医学会 理事長 高井 泰