乳癌テーラーメード治療の理論と実践

乳癌治療の個別化がさらに飛躍するために!

編 集 稲治 英生
定 価 6,270円
(5,700円+税)
発行日 2009/07/10
ISBN 978-4-307-20266-4

B5判・196頁

在庫状況 なし

最近、テーラーメード治療、個別化治療といった言葉をよく耳にする。また癌に関係した国際学会でもindividualization, personalizationといった用語がしばしばそのテーマのキーワードとして登場する。
1990年代後半以降のevidence-based medicine(EBM)の潮流の中で癌医療は大きく変容を遂げ、各種癌領域で標準的治療が提唱され、ガイドラインづくりが盛んとなった。さらに2007年施行の「がん対策基本法」は「がん医療の均てん化の促進」を基本的施策の一つに掲げ、癌治療標準化の追い風となった。乳癌領域ではその基本理念を先取りするような形で医療従事者向けの「乳癌診療ガイドライン(全5編)」や患者および家族向けの「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」が日本乳癌学会の公的刊行物として刊行され、定期的に改訂がなされてきた。こうした努力の結果、乳癌領域では早い時点から標準治療が広く浸透し、誠に喜ばしいことである。
ただ、広い対象に平均して効果をもたらす治療は、結果論とはいえ多くの患者層に過剰治療を強いてきたことも事実である。やはりこれからは、適切な対象に真に効果ある薬剤を投与する方向に向かわねばならず、より洗練された手法でのきめ細かいリスク評価、あるいは治療応答性や薬物動態をも視野に入れた「テーラーメード治療」にベクトルを定めるべきものと思われる。また、臨床試験の統計解析にあたっても、より最適化された対象群を抽出するためには交互作用を正確に把握する必要があるが、そのプロセスにおいて生物統計家と臨床医の緊密な共同作業が要求される。乳癌は100年以上にわたる内分泌療法の歴史があり、またHER2陽性乳癌でのトラスツズマブ治療も導入されてすでに久しい。乳癌領域はまさにテーラーメード治療のフロントランナーといっても過言ではない。
そのような意図および背景に基づき、今回「乳癌テーラーメード治療の理論と実践」と題した出版物を上梓した。本書はあくまで「標準治療」を熟知し咀嚼したうえでの「個別化治療」を目指したものであり、標準治療の基盤の上に立って個々の癌、あるいは癌患者に最適化された「テーラーメード治療」の実践を目的としたものである。なお、本書の性格上、現在わが国で承認適応外の分子標的治療薬などでも近い将来導入が予想されるものなどは対象に含めた。本書を通じて乳癌治療の個別化がさらに飛躍することを願ってやまない。
(「序」より)


Chapter 1 テーラーメード治療に向けての予後予測システムと治療効果予測
 1. コンセンサス・ベーストのリスク分類St.Gallenコンセンサスを中心に
  はじめに
  1. ガイドラインとコンセンサス
  おわりに
 2. Adjuvant!Online1
  はじめに1
  1. Adjuvant!Online開発の背景
  3. Adjuvant!Onlineと遺伝子発現解析に基づく治療効果予測の比較検討
  おわりに
 3. OncotypeDX
  はじめに
  1. Oncotype DX
  2. 予後予測(再発リスク予測)
  3. 日本人におけるデータ
  4. ホルモン療法のベネフィット
  5. 化学療法のベネフィット
  6. OncotypeDXの開発
  7. 従来のリスク分類との対比(表2)
  おわりに
 4. MammaPrint
  はじめに
  1. 遺伝子発現パターンを用いた予後予測ツール:マンマプリントの開発
  2. マンマプリントの検証試験
  3. MINDACT試験
  4. 他の多遺伝子アッセイとの比較
  5. 現在の日本および他国での使用状況
  おわりに
 5. アンスラサイクリン系化学療法剤の効果予測
  はじめに
  1. トポイソメラーゼII(TopoisomeraseIIα、TOPOIIα)について
  2. TOPOIIα蛋白の免疫組織学的な解析
  3. TOPOIIαのFISH法による遺伝子解析
  4. HER2とTOPOIIαの遺伝子解析による乳癌サブクラス化
  おわりに
 6. タキサン系化学療法の効果予測
  はじめに
  1. ?術前・術後療法におけるER、HER2別のタキサンの有効性
  2. パクリタキセル、ドセタキセルの感受性予測因子
  おわりに
 7. 抗HER療法の効果予測
  はじめに
  1. HER2測定
  2. 抗HER療法の臨床的効果予測因子
  3. 生物学的因子を用いた治療効果予測のためのシステム
  おわりに
 8. 内分泌療法の効果予測
  はじめに
  1. 乳癌内分泌療法の効果予測の試み
  2. 術前内分泌療法における効果予測因子
  3. 増殖因子Ki-67測定の意義
  4. 今後の展開
  おわりに

Chapter 2 臨床薬理学からみたテーラーメード治療
 1. ?乳癌に対するゲノム医療の進展 CYP2D6遺伝子多型解析を用いた?乳癌タモキシフェン療法のオーダーメイド医療
  はじめに
  1. CYP2D6上の遺伝子多型
  2. CYP2D6遺伝子多型と薬剤代謝
  3. CYP2D6遺伝子多型に基づいたオーダーメード医療
  4. Pharmacogenomics(薬理遺伝学)とオーダーメード医療
  おわりに
 2. 化学療法剤のファーマコゲノミクス
  1. 化学療法におけるファーマコゲノミクスの意義
  2. 主要な化学療法剤のファーマコゲノミクス
  3. 網羅的アプローチ
  4. ファーマコゲノミクス研究の課題と今後の展望
 3. ナノDDSと乳癌標的治療
  はじめに
  1. 1分子イメージングによるDDS評価法の開発
  2. シリカコーティングナノ粒子の開発
  まとめ

Chapter 3 テーラーメード治療の実践
 1. サブタイプ別にみた治療体系
  はじめに
  1. 乳癌のサブタイプ分類
  2. IHC-intrinsic subtype別の治療方針
  3. 今後期待されるサブタイプ分類とテーラーメード治療
  おわりに
 2. ホルモン感受性乳癌に対する治療
  はじめに
  1. 最適な内分泌療法の選択
  2. ホルモン感受性乳癌に対する化学療法の適応
  3. 化学療法後の卵巣機能抑制療法の適応
  4. EBMの実践
  まとめ
 3. 抗HER療法
  1. ヒト上皮増殖因子受容体
  2. 抗HER1/EGFR抗体薬
  3. 抗HER2抗体
  4. 低分子化合物
 4. 血管新生阻害薬
  はじめに
  1. 腫瘍血管新生に関わる因子(図1)
  2. 血管新生阻害薬を用いた治療の実際
  3. 血管新生阻害薬の注意すべき副作用
  4. 血管新生阻害薬の今後の展望
  おわりに
 5. 経口化学療法剤
  1. 経口抗癌剤の変遷
  2. 5-FU系経口抗癌剤の作用機序(図2)
  3. Modulation
  4. その他の内服抗癌剤と経口剤の需要
  5. Tailored Medicine
  6. 内服抗癌剤術後補助療法のエビデンス(表1)
  7. 進行・再発乳癌におけるエビデンス
  まとめ
 6. トリプルネガティブ乳癌に対する治療の展望
  はじめに
  1. TN乳癌における化学療法
  2. TN乳癌に対する新治療戦略
  おわりに
 7. ?転移部位別のテーラーメード治療 −骨転移
  はじめに
  1. 当院における乳癌骨転移症例の検討
  2. ゾレドロン酸(ゾメタ)の抗腫瘍効果への展望
  3. 有痛性骨転移に対する内照射89Sr(メタストロン)の臨床適応
  おわりに
 8. 転移部位別のテーラーメード治療 −脳転移
  はじめに
  1. 脳転移の頻度
  2. 脳転移の危険因子
  3. 乳癌脳転移の予後
  4. 乳癌脳転移の治療
  5. 脳転移に対するテーラーメード医療の実践
  おわりに

Chapter 4 テーラーメード治療の医療経済 −トラスツズマブを中心に
 1. 医療経済評価の意義
 2. 医療経済評価の方法
 3. 術後乳癌患者に対するトラスツズマブ療法の経済性
 4. まとめ