小児輸液のトリセツ

小児トリセツ第3弾。フローチャートで小児輸液が絶対にわかる!

監 修 笠井 正志
著 者 加藤 宏樹
定 価 3,740円
(3,400円+税)
発行日 2022/04/20
ISBN 978-4-307-17076-5

B6変判・200頁

在庫状況 あり

脱水でグッタリしている子どもが救急外来に来たとき、是正輸液療法を行えばたちどころに具合が良くなる..輸液療法は魔法のようなツールである。ところが多くの小児科医療の現場では、誤った輸液療法が漫然と行われている。それは「輸液療法をきちんと勉強していない」ためである。実は小児の輸液療法において求められることは次の4つしかない。「1.脱水の評価 2.輸液製剤の選択 3.輸液の投与量 4.輸液の投与速度」である。この4つのポイントさえ理解すれば、すべて脱水の子どもたちを適切に治療できる。
 本書は小児輸液のエキスパートの考え方をフローチャートに凝縮し、輸液療法を開始してから終了するまで、一連の流れをひとつひとつ解説していく。本書の示すとおりに沿っていけば、誰でも簡単に正しい輸液療法を行うことができるようになる。臨床で知りたいことがすぐわかる! 小児トリセツシリーズ第3弾。「トリセツ」で小児科医療はもっと面白くなる。

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Chapter 0 小児輸液療法をはじめる前に

Chapter 1 小児輸液療法の原則
1.小児輸液療法の流れと考え方
 1 小児輸液療法の全体像
 2 小児輸液療法を行うときに常に思い浮かべてほしいこと
 3 子どもの輸液3原則
2.ナトリウムの考え方
 1 ナトリウムは難しい?
 2 ナトリウムとは何か
 3 ナトリウムの考え方4原則
 4 ナトリウムの考え方2つの例外
 5 ナトリウムの視点から脱水を考える〜脱水は2種類存在する〜
 症例でレビューしよう!

Chapter 2 ナトリウム量の異常に対する輸液療法
1.脱水を探せ!
 1 「子どもをみる」編
 2 「脱水の評価:バイタルサイン」編
 3 「脱水の評価:身体所見」編
 4 「脱水の評価:病歴」編
 5 脱水を迅速に否定したいとき
 症例でレビューしよう!
2.是正輸液療法〜脱水のある子どもに対する輸液〜
 1 輸液製剤〜輸液製剤は等張液を選択〜
 2 輸液投与量〜10 mL/kg が1 単位〜
 3 輸液投与速度〜急速投与をためらわない〜
 4 低血糖に注意する
 症例でレビューしよう!
3.輸液療法開始後の再評価
 1 再評価はなぜ重要か
 2 再評価の手順
 3 再評価すべきポイント
 4 再評価後の判断〜輸液療法は有効? 無効?〜
 症例でレビューしよう!
4.維持輸液療法〜脱水のない子どもに対する輸液〜
 1 維持輸液療法の目的〜維持輸液の水分は「尿量」と「不感蒸泄量」を維持している〜
 2 維持輸液療法の適応〜どんな人に維持輸液を開始するか〜
 3 輸液製剤の選び方と投与量・投与速度の考え方
 4 間違いが多い小児の維持輸液療法〜2つの要因〜
 症例でレビューしよう!

Chapter 3 ナトリウム濃度の異常に対する輸液療法
1.ナトリウム濃度異常の病態
 1 低ナトリウム血症の病態
 2 高ナトリウム血症の病態
 3 低ナトリウム血症と高ナトリウム血症の症状
2.是正輸液中に遭遇する低ナトリウム血症
 STEP 0 血液検査で血清ナトリウム値を測定/ナトリウム濃度を評価
 STEP 1 症候性か、無症候性かを判断
 STEP 2 ナトリウム量の評価。ナトリウム量が適切かどうかを確認
 STEP 3 急性の経過か、慢性の経過かを判断
 STEP 4 SIADH の治療
 STEP 5 水制限
 6 軽度低ナトリウム血症(130-135 mEq/L)の場合
 7 低ナトリウム血症をみたら尿検査を提出する
 8 治療開始後の血清ナトリウム値変動時の対処法
 症例でレビューしよう!
3.是正輸液中に遭遇する高ナトリウム血症
 STEP 0 血液検査で血清ナトリウム値を測定/ナトリウム濃度を評価
 STEP 1 ナトリウム量の評価。ナトリウム量が適切かどうかを確認
 STEP 2 どこから自由水が出ているかを確認
 STEP 3 急性の経過か、慢性の経過かを判断
 STEP 4 自由水(5%ブドウ糖)の投与
 5 STEP+α:自由水喪失を止める
 6 治療開始後の血清ナトリウム値の変動時の対処法
 症例でレビューしよう!
4.維持輸液中に遭遇する低ナトリウム血症
 1 維持輸液中に遭遇する低ナトリウム血症の診療の流れ
 2 維持輸液中の医原性低ナトリウム血症に遭遇したとき
 症例でレビューしよう!
5.維持輸液中に遭遇する高ナトリウム血症
 1 維持輸液中に遭遇する高ナトリウム血症の治療の流れ
 2 維持輸液中の高ナトリウム血症に遭遇したとき
 症例でレビューしよう!

Chapter 4 小児輸液療法の応用
1.輸液のための生理学〜体液コンパートメントのルール〜
 1 体液コンパートメントとは
 2 縦の動きと横の動きのルール
 3 体液コンパートメントの考え方を輸液療法に活かす
2.輸液療法における尿検査
 1 なぜ「尿」を確認するのか?
 2 尿検査で考えるべき3つのSTEP
 3 尿検査の評価を活かした臨床での対応法
 4 尿検査の結果を解釈するときのピットフォール〜尿以外の体液喪失〜
3.輸液療法のQ&A 〜困ったなと思ったら〜
はじめに

 みなさん、輸液療法は好きですか?

 私は小児の輸液療法が大好きです。私も世の中の小児科医と同じく毎日子どもたちにさまざまな輸液を処方しています。ただ世の小児科医と少し違うのは、軽症脱水に是正輸液を処方するときも、高ナトリウム血症に対して少し複雑な輸液を処方するときも、輸液を処方するときはどんなときでも気持ちが高揚し、少しワクワクした気持ちになります。

 輸液療法の魅力は「Simple」です。子どもの状態に合わせて「輸液製剤」、「投与速度」、「投与量」の3つを決定すれば、子どもを元気にすることができるのが輸液療法です。電解質異常を伴う重度脱水の子どもが来院したときに、さっと適切な「輸液製剤」、「投与速度」、「投与量」を決定して、適切に輸液療法を行う流れはカッコいいですよね。
 ただ輸液療法は誰もが簡単にできる治療法ではなく、誤った処方を行えば子どもの状態が予期せぬ方向に悪くなる怖い側面も持ち合わせています。この側面が輸液に対する苦手意識を多くの医療者に植え付けているのかもしれません。

 もちろん、私も今まで輸液でたくさんの失敗を積み重ねてきました。体重が3kgくらいの小さい子がショックの状態で救急外来に現れたときは「えっ、何を輸液すればよいの?」とわからなくなり、新生児科研修で学んだ初期輸液である5%ブドウ糖を開始してしまいました。低ナトリウム血症が原因でけいれんしている子どもに病棟で遭遇したときは、3%NaClの存在も知らず低ナトリウム血症の補正もできませんでした。
 そして、そのとき私の疑問にすぐ答えてくれる小児の輸液療法の本はありませんでした。これを読めば小児の輸液療法ができる!! そんな本があればよいなと……。

 2019年6月、そんな私のところに笠井先生から執筆の依頼が来ました。私と先生の出会いは2011年日本小児感染症学会の第1回教育セミナーBasic Courseでした。講師の1人が先生であり、セミナーの中で「小児抗菌薬マニュアル」というご自身の本を紹介して「この本は絶対に買わないでください、嘘が書いてあります!」と話していたことを覚えています。自分の本は買わないでくださいと宣伝していた笠井先生とセミナー受講生の1人である私がまさか一緒に「小児感染症」でなく、「小児輸液療法」の本を書くことになるとは、人生とは何があるか本当にわかりません。
 笠井先生、編集者の中立さんに支えながら約2年半の月日を経て本書が完成しました。小児の輸液療法に特化した初の本です!!

 この本は誰でもわかりやすく輸液療法を行えるように、たくさんのフローチャートを盛り込みました。本文を読み、フローチャートに従えば、誤った輸液の処方を行うことなく輸液療法を「Simple」に行うことができます。みなさん、この本を使用して安心して小児の輸液療法を行ってください。

 小児の輸液療法はこの瞬間も日本のどこかで行われている最も基本的な治療のひとつです。本書を通じて学んだ人たちにより、1人でも多くの子どもたちに適切な輸液療法が行われることを願っています。

2022年3月
国立成育医療研究センター 手術・集中治療部 集中治療科
著者 加藤 宏樹
輸液は愉快で(楽しい)有益な治療

 発熱・嘔吐でグッタリしている子どもが救急外来に来ました。是正輸液として急速投与で30分経過。本人はパッチリ元気になり、本人もハッピー、連れてきた親御さんも超笑顔。これが小児救急の醍醐味です。小児医療では輸液はとても有益です。
 輸液はなぜ愉快か? 抗菌薬同様に、ほぼ若手医師に委ねられるから。そして上の先生はあんまり理解していないから、ディスカッションで優位に立てるからです。ときどき仕事しない偉そうな上司を論理的にやり込めて「どや顔」したいでしょ(笑)
 真面目には、心拍数200回/分の発熱・脱水の子どもに是正輸液の量と内容が合っていると、本当にすぐに心拍数が下がります。すなわち治療反応性が早くて、効いたな(有益)をすぐに実感できます。

 私は1998年に大学を卒業して、初期研修を野戦病院で終え、2000年に晴れて小児科医になりました。そのとき最初に覚えたのが、某小児科当直医マニュアルにある輸液量の調整でした。1日体重10kgまで100mL/km、20kgまでは「1000mL+(20−体重kg)×50mL」など。そして小児用点滴ルートでの滴下数です。60滴で1mLなので、1秒1滴で1分1mL、だから1時間で60mL、それを8時間で500mL、1本分。最初は1号液ではじめて、おしっこが出れば3号液と教わりました。
 そう、小児科に入って抗菌薬より先に勉強したのは、輸液でした。小児科研修中はその方法でほとんど困らず、浸透圧やナトリウムを気にしたのは糖尿病ケトアシドーシスの子を受け持ったときくらいで、あとは自動的にやるようになっていました。
 しかし、その後小児集中治療の世界に入って、輸液の考え方が180度変わりました。当直明けの朝のカンファでは、電解質をめざとくチェックされ、低ナトリウムでもあろうものなら、コッテリしかられました。
 その後、長く集中治療室で働くことになり、ナトリウムの重要性やその補正の難しさを知り、基本に忠実に、というか上司や同僚に言われるままに輸液治療を実践してきました。しかし、深掘りや体系的な勉強をすることをサボり続けていました。その後、後進を育てる立場になって「あれ? 俺は輸液のこと教えられないぞ」と気づきました。同時に身体診察もできないことに気づき、HAPPYというワークショップ(現 一般社団法人こどもみかた)を友人たちと立ち上げ、本を出版しました。
 自分が教えられないことはたくさんあります。そんなときはその領域のことが好きな仲間と一緒に勉強して、本を出版する。この流れでギリギリ小児科医として先輩ヅラをやってきたわけです。
 そういったわけで、本書は私の友人の中で随一の「輸液好き」加藤先生が『小児輸液のトリセツ』を書きました。いろんな方と共著や編集のお手伝いをしていますが、「好きこそものの上手なれ」です。好きだからその分野のすべてを網羅し、体系的に記述できるのです。
 輸液は急性脱水症が多い小児医療にとって重要な治療です。小さな子どもは、「喉が渇いている」や「浮腫んでいるような気がする」と正確に言葉にできず、水分摂取という生物として最も基本的で重要な生きるための行為を他者に依存しています。だからこそ小児科医は、子どもの代弁的治療行為者として輸液について強く「こだわる」べきです。ですので、しっかり勉強してください。私もときどきするドキドキの当直で入院があると、この本をソッと読みます。

 本書は、まだ正式に輸液の基本を学んだことのない、昔の私のような小児科医のための輸液のトリセツです。小児の輸液に詳しくない人は「通読してください」。私もしました。
 そして輸液管理のエキスパートは、「知ってる知ってる」という感じで飛ばし読みができますが、その中でも小児科ならではのTIPSや教え方のエッセンスがあります。そして何より加藤先生の輸液愛に共感できるでしょう。
 愉快で有益な輸液療法を学びたい方は、どうぞ最初からじっくり腰を据えて読み進めてください。

兵庫県立こども病院 感染症内科 部長
監修 笠井 正志