がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズ 3 遺族ケアガイドライン 2022年版

大切な人を失った遺族の診療とケアに関する、本邦初のガイドライン

編 集 日本サイコオンコロジー学会 / 日本がんサポーティブケア学会
定 価 2,420円
(2,200円+税)
発行日 2022/07/04
ISBN 978-4-307-10217-9

B5判・144頁・図数:11枚

在庫状況 あり

副題:がん等の身体疾患によって重要他者を失った遺族が経験する精神心理的苦痛の診療とケアに関するガイドライン

がんを含めた身体疾患によって、家族や恋人・パートナーなどの重要他者を亡くした遺族の診療とケアに関するガイドライン。死別に伴う悲嘆反応の多くは時間の経過とともに軽減するが、精神心理的苦痛の強い一部の遺族に対しては適切な介入や支援が必要となる。本書では、前半で悲嘆や家族・遺族ケアの基礎知識を総論として解説し、後半では治療的介入が必要な遺族の診断と治療法を解説するとともに、非薬物療法と薬物療法に関する2件の臨床疑問を設けて推奨を提示した。遺族ケアの幅広い知識を得られる、充実した一冊。


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遺族ケアガイドライン作成の経緯について

I章 はじめに
 1 ガイドライン作成の経緯と目的
  1.ガイドライン作成の経緯
  2.ガイドラインの目的
  3.ガイドラインに含まれる内容について
 2 ガイドラインの使用上の注意
  1.使用上の注意
  2.構成とインストラクション
 3 エビデンスの確実性と推奨の強さ
  1.エビデンスの確実性
  2.推奨の強さ
  3.推奨の強さとエビデンスの確実性の臨床的意味

II章 悲嘆と家族・遺族
 総論1 悲嘆の概念と理論
  1.喪失・悲嘆・愛着
  2.悲嘆反応
  3.悲嘆のプロセス
  4.悲嘆のプロセスのゴール
  5.二次的なストレス
  6.悲嘆を長引かせる要因
 総論2 通常の悲嘆とその支援
  1.通常の悲嘆の理解
  2.通常の悲嘆の推移
  3.遺族への支援時期
  4.遺族への具体的な支援
 総論3 遺族とのコミュニケーション
  1.死別を経験した遺族の語り
  2.遺族ケアで注意すべき点―役に立たない援助―
  3.おわりに
 総論4 ケアの対象としての患者の家族
  1.がん医療などにおける患者の家族の状況
  2.患者の家族がかかえている問題
  3.緩和ケアモデルにおける家族ケアの位置づけ
  4.家族への対応
  5.おわりに
 総論5 患者が生存中からの家族・遺族ケア
  1.基本的なコミュニケーション
  2.存命中の患者の家族へのアプローチ
  3.患者との死別を予期した時
  4.死別後に向けて

III章 精神心理的苦痛が強い遺族への治療
はじめに―精神心理的苦痛の強い遺族の診断、治療に関する現在の問題点―
 1 診断と評価
  1.診断基準化
  2.診断基準化の必要性と懸念
  3.有病率
  4.他の精神疾患との併存と相違
  5.評価とスクリーニング
  資料 Inventory of Complicated Grief(ICG)複雑性悲嘆質問票 日本語版
 2 メンタルヘルスの専門家に紹介すべきハイリスク群の特徴
 3 身体症状を呈する遺族
 4 医療機関を受診したくない、薬を飲みたがらない遺族への対応
 5 自死遺族支援
  臨床疑問1
 6 複雑性悲嘆の認知行動療法
  臨床疑問2
 7 一般的な薬物療法、特に向精神薬の使い方について

IV章 資料
 1 ガイドライン作成過程
  1.概要
  2.臨床疑問の設定
  3.システマティックレビュー
  4.妥当性の検証
  5.日本サイコオンコロジー学会、日本がんサポーティブケア学会の承認
 2 文献検索式
 3 今後の検討課題
  1.今回のガイドラインでは、対応しなかったこと
  2.推奨について、今後の検討や新たな研究が必要なこと
 4 用語集
Prolonged Grief Disorderの診断基準(DSM-5-TR)
Q&A
これからのとき(悲嘆の小冊子)
加藤雅志先生を偲んで
索引

臨床疑問
臨床疑問1 がん等の身体疾患によって重要他者を失った(病因死)18歳以上の成人遺族が経験する、臨床的関与が必要な精神心理的苦痛に対して、非薬物療法を行うことは推奨されるか?
臨床疑問2 がん等の身体疾患によって重要他者を失った(病因死)18歳以上の成人遺族が経験する精神心理的苦痛に対して、向精神薬を投与することは推奨されるか?
臨床疑問2a がん等の身体疾患によって重要他者を失った(病因死)18歳以上の成人遺族が経験するうつ病に対して、向精神薬を投与することは推奨されるか?
臨床疑問2b がん等の身体疾患によって重要他者を失った(病因死)18 歳以上の成人遺族が経験する複雑性悲嘆に対して、向精神薬を投与することは推奨されるか?

Column
コラム1 宗教的儀式とケア―死者と共に生きる―
コラム2 社会/コミュニティ全体で遺族を支える
コラム3 遺族ケアにつながる患者や家族へのケアとは
コラム4 遺族の経験する怒りーどのように評価しどのように対応すべきか―
コラム5 膵臓がん患者と家族の声
コラム6 公認心理師によるグリーフケアの実践
発刊にあたって

 わが国のがん医療をめぐる状況に関しましては、まず、2007年4月に「がん対策基本法」が施行され、この法律に基づき、同年6月に「がん対策推進基本計画」が策定され、それ以降、様々ながん対策が進められています。「がん対策推進基本計画」に関しましては、およそ5年に1回、見直しが行われ、現在は、2018年3月に策定された第3期の計画に基づいて、施策が進められています。
 この第3期の「がん対策推進基本計画」の中で、「取り組むべき施策」のひとつとして、「がん患者の家族、遺族等に対するグリーフケアの提供に必要な研修プログラムを策定し、緩和ケア研修会等の内容に追加する」ことが、策定されていることからも明らかなように、がん患者の遺族に対するケアの社会的ニーズが高まっています。
 このような状況の中、日本サイコオンコロジー学会の前代表理事の明智龍男先生が研究代表者の厚生労働科学研究費補助金(がん対策推進総合研究事業)において「がん患者の家族・遺族に対する効果的な精神心理的支援法の開発研究(課題番号19EA1013)が採択されたことにより、日本サイコオンコロジー学会ガイドライン策定委員会に遺族ケア小委員会が設置され、また、日本がんサポーティブケア学会の協力も得ながら、本ガイドラインが作成されたことは、大変時宜を得たものであると同時に、社会的にも大きな意義を持つものであると考えられます。
 臨床疑問は、2つだけではありますが、遺族ケアにおいて、エビデンスをまとめた意義は大きく、また、臨床上も大変参考になると思います。さらに、総論の部分では、遺族ケアに必要な様々な学問領域に関する知識がまとめられており、本ガイドラインの厚みを増していると思います。
 本ガイドラインの後半に、明智先生が「加藤雅志先生を偲んで」というタイトルでの寄稿をされていますように、本ガイドラインの作成においても、大変重要な役割を担われていた加藤雅志先生が、2021年6月11日に急逝されました。私自身も大変お世話になっていただけに、今でも実感が湧かない状況です。加藤先生の思いも詰まった本ガイドラインが、広く利用され、一人でも多くのご遺族のお役に立つことを心より祈念しております。

2022年5月
一般社団法人 日本サイコオンコロジー学会
代表理事 吉内 一浩


 日本がんサポーティブケア学会は、「がん医療における支持医療を教育、研究、診療を通して確立し、国民の福祉(Welfare)に寄与する」ことを基本的理念として、2015年に設立された学会です。本学会の特徴として、支持療法の17領域について部会が結成されており、各領域の臨床・研究・教育を推進するために各部会が独立して活発な活動を行っている点があります。サイコオンコロジー部会もその部会の一つで、内富庸介(国立がん研究センター)部会長を中心として、がん患者における精神心理的支援について、日本サイコオンコロジー学会と連携しながら取り組んでいます。
 本学会では、ミッションの一つとして「がん支持医療に関する標準治療の情報発信」を掲げており、ガイドラインの策定はその重要な方策の一つです。これまでサイコオンコロジー部会では、せん妄、コミュニケーション、精神心理的負担などのテーマに関するガイドラインの策定に取り組んできておりますが、この度、「遺族ケアガイドライン―がん等の身体疾患によって重要他者を失った遺族が経験する精神心理的苦痛の診療とケアに関するガイドライン―」を出版する運びとなりました。今回も、他のガイドラインと同様に、「Minds診療ガイドライン作成マニュアル」に基づいて、系統的レビューを実施して最新の知見を収集するとともに、透明性・妥当性を担保する方策を講じて策定されています。その過程において、多くの外部評価委員の方々、関連学会からご推薦頂いたデルファイ委員の方々に、多大なご協力を賜りました。改めて御礼申し上げます。
 多くの医療者にとって、患者さんの死は治療の終わりであっても、ご遺族にとっては苦しみの始まりでもあります。最愛の家族や大切な人を失うことは、多くの人にとって人生で最大の苦しみともいえます。そして、また時には患者さんがまだお元気な時から、患者家族への配慮も必要です。ところが、このようなご遺族の経験する心理状態や精神症状については、国際的にも研究方法や評価方法に議論があるところが大きいため、臨床試験も少なく、個別性が高い領域です。また海外と日本での文化的な差異も大きい領域でもあります。このため、まずは現状を整理するために、臨床疑問としては薬物療法、非薬物療法の2つに絞って取り上げ、総論やコラムに十分な紙面を割き、詳細な解説を行うことを意識して作成されています。
 また、本ガイドラインには、「がん等の身体疾患によって重要他者を失った遺族が経験する精神心理的苦痛の診療とケアに関するガイドライン」という副題がついています。がんのみならず、広く身体疾患によって重要他者を失ったご遺族に対しての知見が含まれており、成人遺族を対象に広く応用可能なガイドラインといえると考えます。
 しかしながら、ガイドラインは出版されただけでは患者さんやご家族に貢献することはできず、広く医療者の方に日常臨床で活用して頂き、推奨に基づく診療やケアが実践されることで初めてその本来の目的を達するものです。本ガイドラインをより良い遺族ケアの指針として、ぜひお役立て頂けましたら、それに勝る喜びはございません。またその過程においてお気づきの点などがございましたら、さらなる今後の改訂の参考とさせて頂きますので、ぜひ学会事務局までフィードバックして頂けましたら幸いです。

2022年5月
一般社団法人 日本がんサポーティブケア学会
理事長 佐伯 俊昭