必修!腫瘍免疫学

がん免疫療法の最前線で活躍する研究者たちが集結! 必読の入門書

編 集 北野 滋久
定 価 4,950円
(4,500円+税)
発行日 2022/04/20
ISBN 978-4-307-10208-7

B5判・160頁・カラー図数:46枚

在庫状況 あり

がん治療に革命をもたらしたがん免疫療法は、今や第四のがん治療として急速に適応が拡大し、着実にエビデンスが積み重ねられている。がん治療に携わる者にとって、がん免疫療法の基礎知識と臨床応用を修得することは必須となりつつあり、今後の発展を担う次世代の腫瘍内科医育成は急務と言える。そこで、最前線で活躍する研究者たちが集結し、基礎知識から臨床応用まで分かりやすく解説。初学者必読の入門書となっている。
第1章 腫瘍免疫学の基礎知識
1.自然免疫と獲得免疫
2.がんに対する宿主免疫応答(Cancer Immunoediting)
3.T細胞
4.B細胞、形質細胞
5.NK細胞
6.NKT細胞
7.抗原提示細胞
8.免疫抑制細胞(総論)
9.制御性T細胞
10.腫瘍関連マクロファージ(TAM)と骨髄由来抑制細胞(MDSC)
11.がん関連線維芽細胞(CAFs)

第2章 がん免疫療法
1.がん免疫療法のしくみと種類
2.最新のがん免疫療法
 1)免疫チェックポイント阻害薬および共刺激分子に対するアゴニスト抗体薬
 2)がんワクチン療法(ネオ抗原も含めて)
 3)遺伝子改変T細胞療法(CAR-T細胞療法)
 4)遺伝子改変T細胞療法(TCR遺伝子治療)
 5)ウイルス療法
 6)iPS細胞を用いた免疫療法
3.免疫チェックポイント阻害薬に特徴的な臨床効果
4.免疫チェックポイント阻害薬特有の副作用(免疫関連有害事象)
5.がん免疫療法に対する耐性機序
6.複合がん免疫療法(併用療法)の戦略と今後の展望

索引
はじめに

 近年、免疫チェックポイント阻害薬の臨床開発の成功により、従来の三大がん治療[手術・薬物療法(抗がん剤)・放射線治療]に加えて、がん免疫療法は第四のがん治療として多くのがん腫において標準治療として用いられております。したがって、がん診療を担う医療従事者にとって、腫瘍免疫学の基本を理解し、がん免疫療法を習得することは必須となりました。
 しかしながら、基礎医学の「免疫学」がカバーする領域は幅広く、腫瘍免疫学についての記載は限定的にならざるを得ないこともあり、初学者にとってがんに対する免疫応答を正しく理解することは必ずしも容易ではありません。本書は、主にこれから本格的に腫瘍免疫学、がん免疫療法を学ぼうとする医学生、若手医師、大学院生、各種医療従事者を対象とした入門用の教科書です。本書の各章は、長年この領域を牽引されてきた我が国を代表する腫瘍免疫学の研究者に依頼し、本格的な内容を初学者でも理解がしやすいように記載いただきました。最近の知見のアップデートを目的とした既学者の方々にも、お役に立てる内容となっております。
 現在、実地臨床で用いられている標準治療は、偉大なる先人たちの手によって基礎研究から始まり、臨床試験が実施され、科学的に有効性が証明されたものです。大きく進歩したがん免疫療法でありますが、現時点で恩恵を受ける患者さんは一部に限られるため、さらなる進歩が求められます。新しい治療を生み出すためには、産官学が連携、すなわち、さまざまな領域の方々と共に長期間にわたってチームの一員として尽力する必要があります。
 本書を手に取っていただく方々の中から、一人でも多くの方が腫瘍免疫学に興味を持っていただき、ひいては、自らの手でがん免疫療法をはじめとするがん治療を「進化」させていく次世代の担い手を志していただくことを切に願います。
 最後になりますが、本書の企画から発行まで多大なるご尽力をいただいた金原出版の今村久美子様に厚く御礼申し上げます。

2022年春分の日に
北野 滋久
<推薦のことば>

 いつの日にか、「腫瘍免疫が臨床の場に」と考えていたのがまるで昨日のように感じられる。腫瘍免疫学の発展には、長い時間が必要であった。19世紀末のコーリー博士による非特異的免疫療法へのチャレンジ、1940年代から行われた純系動物を使っての腫瘍拒絶実験からの道のりは長い。腫瘍に対する宿主免疫の存在への懐疑性が続く中、膨大な研究者の努力が積み重ねられていった。免疫学、腫瘍学、分子生物学等々の周辺領域の発展とともに、腫瘍免疫の研究が進められた。
 繰り返された動物実験モデルによる腫瘍の拒絶反応が、ヒトでも起こり得ることが次第に明らかになっていった。とりわけ、近年のT細胞輸注療法や免疫チェックポイント阻害剤での臨床成績のインパクトは圧巻である。それまで稀に観察された臨床での腫瘍縮小と病気の改善が、T細胞の働きを中心にして確実に起こり得ることが示された。極めて歯切れの悪かった腫瘍に対する免疫療法が、一挙に新しいがん治療法の仲間入りを果たした。自己と非自己の識別能を持つ宿主の免疫力を、やっと味方にすることができた瞬間である。この新しい治療法の可能性は無限に広がるといっても過言ではない。
 一方で、免疫力の強化は、必ずしも我々の都合の良い働きだけをするわけでもない。免疫療法により思いがけない障害が起こり得ることも経験された。この新しいアプローチをより強い味方にするためには、これまで蓄積された膨大な知識、日に日に変わる基礎研究と臨床観察から得られたレッスンをいかに賢く用いるかにかかっている。
 本書は、新しい人達や専門外の人達にとっては少しとっつきにくい腫瘍免疫学の基礎と臨床を、極めて幅広く知り、また深くまで考えることを可能とする。分野の一流の筆者によって綴られた内容の広さと深みは、驚くほどである。とりわけ、これからこの分野を学び、多くの患者さんのために、がんと闘おうとする若い人達にとって、極めて頼もしい味方となる名著になることを疑わない。
 かつて、ともに腫瘍免疫研究を日夜進めた北野先生の、学識と情熱に改めて心から敬意を表する。

三重大学大学院医学系研究科
個別化がん免疫治療学
教授 珠玖 洋


<推薦のことば>

がん免疫療法の開花を支えてきた研究者達により生まれた腫瘍免疫学の入門書

 がん免疫療法ががん治療の第四の治療法として認知されたのは、2010年に免疫チェクポイント阻害剤としての抗PD-1 療法の治験結果が社会に公表されてからである。その後の10年余の間の飛躍的な進歩は驚嘆に値する。その特長として4点ほど指摘することができる。第一に治療群の中には長期生存例が見られた。即ち、がん免疫療法で治癒が期待される症例が出てきたことである。第二に従来の治療法では無効な進行がんの症例の中にも著効を認める症例もあり、がん治療の通念を打破したこと。第三にがん種を問わず有効症例が認められること。四点目として、がん免疫療法間での併用療法や従来の外科療法、放射線療法や薬物療法との複合免疫療法の有効性が約束されていることである。
 このようながん治療に画期的な臨床効果を可能にしたのは、腫瘍免疫の基礎研究の進歩に支えられたことは言を俟たない。しかし、急速にがん臨床に浸透してきているがん免疫療法では、適正な免疫チェックポイント阻害剤の選択や適応を科学的に決定できる患者層別マーカーの開発や、軽視できない免疫関連有害事象(irAE)に対する対応は解決すべき喫緊の課題である。
 さらに、がん特有のネオアンチゲンを正面からとらえたがん特異免疫療法の臨床応用とか、がん患者における多彩な免疫担当細胞の分子レベルでの相互間作用の研究や時間的・空間的解析を進めることにより、がん免疫療法の新たな展開が期待されている。
 臨床腫瘍医を目指す医師は無論のこと、内科・外科のみならず、あらゆる診療科において現代のがん臨床に携わる者にとって、がん免疫療法の正しい基盤知識と適正な臨床応用の実践は各自が修得せねばならない必須項目である。
 本書は、近年認知されたがん免疫学の基礎や臨床を海外や日本の研究所で自分たちの手で立ち上げてきたとの自負を持ち、腫瘍免疫を愛してやまない第一線の研究者達が北野滋久先生の下に参集し、一冊の腫瘍免疫学入門書としてまとめ上げられている。本書の図や行間には研究者達のこれまでの努力や情熱が溢れており、これから腫瘍免疫学を学ぶ人や臨床腫瘍医に分かりやすく書き下ろされているインパクトのある入門書である。本書を手にした医学生や医療関係者から、次世代のより成熟したがん免疫療法の担い手が一人でも多く輩出することを期待してやまない。

上田 龍三
名古屋大学 特任教授
名古屋市立大学 名誉教授
愛知医科大学 名誉教授