かんかんかん TO 鑑別診断 キーワードから展開するカンタン診断術!

「感・勘・観」の3つのカンを発揮して、トップレベルの診断術を身につけよう!

著 者 山中 克郎 / 玉井 道裕
定 価 2,200円
(2,000円+税)
発行日 2018/08/20
ISBN 978-4-307-10191-2

A6変判・184頁・カラー図数:65枚

在庫状況 あり

多忙な臨床では診断のスピードが大切です。
そのために必要なのは、1分間で患者のこころをつかみ、3分間の傾聴から決め手となる重要な「キーワード」を見つけ出すこと。原因疾患のリストが長すぎる「キーワード」は役に立ちません。
たとえば、「倦怠感」はあてはまる疾患が多すぎて疾患を絞り込むことができません。

3分間は患者の話にじっと耳を傾けながら、診断のために必要な「キーワード」は何かを考えます。
次に、そのキーワードから可能性がある鑑別診断を展開し、問診や診察、検査でひとつひとつの疾患を吟味していきます。

一流の臨床医が行っているこの思考プロセスを再現し、凝縮したのが本書なのです。

■本書の使い方
Point1
・本書では症状から注目すべき重要な約100個の「キーワード」が示されています。
次にその「キーワード」から連想される、いくつかの頻度が高い鑑別疾患を挙げています。また診察で確認すべきポイントも書かれています。

Point2
・どのページから読み始めていただいても結構です。
臨床の場で患者の話から「キーワード」を見つけたときに、辞書的に本書を調べることも可能です。
鑑別診断が想起されていれば、必要な問診や検査はおのずと明らかになります。

Point3
・鑑別診断能力のさらなる向上を目指す意欲的な医師には、巻末に「最重要」「重要」「知っているとかっこいい」の分類を試みました。
この本には著者の日々の臨床経験から得た臨床の智慧が凝集されています。

さながら単語帳をみるように、ひと目で考えるべき疾患がわかる!
持ち運びにも便利なスマホサイズで、白衣のポケットにも楽々入れられます。
Chapter 1 頻出!必ず覚えるべきキーワード
001 ばち指
002 手の皮がむける
003 Palpable purpura
004 多形滲出性紅斑
005 手足の皮疹
006 全身の痛み
007 肩痛
008 筋肉がつる
009 右下腹部痛
column01 急性感染性下痢症の原因
010 殿部痛
011 首下がり症候群
012 Dupuytren拘縮
column02 ALS診察のポイント
013 手をついて転倒骨折
014 薬が原因の失神
015 多発性神経炎
column03 薬剤熱を起こしやすい薬
016 せん妄の原因
017 認知症の原因疾患
018 パーキンソン症状を起こす疾患
019 しゃっくり(吃逆)
column04 女性化乳房
020 心房細動の原因疾患
column05 急性心筋梗塞のリスク
021 Platypnea
022 下部消化管出血
023 夜間頻尿
024 性感染症
025 潜伏期10日以内の輸入感染症
026 好酸球増加
027 眼瞼下垂

Chapter 2 緊急!考えるよりも動くキーワード
028 意識障害+高熱+頻脈+高血圧
029 徐脈+ショック
030 排便中・排便後に急変
column06 急性発症の病気
031 脳梗塞もどき:stroke mimic
column07 球マヒvs仮性球マヒ
032 頻呼吸
033 咽頭痛(sore throat)を訴えるが、咽頭以外に大きな問題がある疾患
034 咽頭に所見がないのに、のどの痛みがひどい
column08 嚥下障害
035 紅皮症(erythroderma)
036 糖尿病性ケトアシードシスの誘因
037 高アンモニア血症
038 高カリウム血症
039 低リン血症
040 しぶり腹(うんちしたい症候群)
041 続発性骨粗鬆症
042 無痛性の突然の視力喪失
043 複視(diplopia)
044 話すことができない

Chapter 3 看破!外来で見逃せないキーワード
045 食欲があるのに体重減少
046 若い女性の浮腫
047 二峰性の発熱
048 発熱+リンパ節腫脹(伝染性単核球症によく似た病態)
049 咽頭痛後の関節炎
column09 リンパ節腫脹
050 全身性のリンパ節腫大
051 早朝頭痛
052 耳下腺腫脹
053 眼が腫れた
054 長引く咳
055 繰り返す口腔内潰瘍
056 嗄声
057 手のしびれ
column10 爪と疾患
058 かゆみ(pruritus)
059 原因不明の慢性腰痛
060 鼠径部痛
061 新しく出現した尿失禁
062 結節性紅斑の主な原因
063 腎不全患者の貧血
064 クレアチンキナーゼ(CK)上昇
column11 腎盂腎炎の原因
065 リウマチ性多発筋痛症を考えたときに思い浮かべたい疾患
066 痰のグラム染色で多数の白血球が存在するのに起炎菌がいないとき

Chapter 4 用心!入院患者のかかせないキーワード
067 入院中の発熱
068 入院後に新規発症したけいれんや意識障害
069 見逃されやすい不明熱の原因
070 けいれんの原因
column12 ICUにおける筋力低下
071 開腹歴のない患者の腸閉塞
072 溶血性貧血
073 鉄剤投与で反応が悪い鉄欠乏性貧血
074 ネフローゼ症候群
075 肝機能と腎機能がともに悪化する病態
076 SIADHと思ったら考えるべき病態
077 抗菌薬治療でよくならない肺炎
column13 市中肺炎の鑑別診断
078 間質性肺炎の原因
079 門脈炎の原因
080 腸間膜脂肪織炎
081 吸収不良症候群
082 レイノー現象
083 アルコールがらみの病気
column14 小血管の閉塞(手の血管病変)
084 海綿静脈洞に発生する疾患
085 尿崩症
086 無菌性髄膜炎

Chapter 5 上達!知っておくと差がつく熟練のキーワード
087 増悪・軽快をくり返す疾患
088 発熱+脾梗塞
089 CRPが陰性の不明熱
090 フォーカスがはっきりしない感染症
column15 よくわからない脳炎の治療法
091 神経痛として咽頭痛をきたす疾患
092 Small fiber neuropathy
column16 ミエロパチーを疑うとき
093 運動後のトラブル
094 味覚障害
095 移動性関節炎
096 顎のしびれ
097 ペラグラの症状
098 後索障害
099 アルカリフォスファターゼ(ALP)のみ上昇し、AST・ALT・T-Bilがほぼ正常の場合
100 リング状造影(ring enhancement)
101 胃壁の肥厚
column17 多発する内臓動脈瘤
102 過凝固になりやすい悪性腫瘍
103 日中の過剰な眠気
まえがき

 優秀な内科医は問診から80%の診断をつけるといわれます。医学教育に大きな貢献をしたカナダ人内科医William Osler(1849-1919)は次のように述べています。


[ If you listen carefully to the patient, they will tell you the diagnosis.
患者の言葉に耳を傾けなさい。そうすれば自ずと診断は見えてくる。]

 今世紀になって診断の助けとなる検査技術は大いに進歩しましたが、多くの臨床研究は詳細な病歴と身体診察だけで、85%の症例で診断は可能であることを示しています(MKSAP17 General InternalMedicine.2015:40)。 

○最初の1分間で心をつかむ
 重い症状をともなって来院する患者に対しては「大変でしたね」と心からの共感を持って接します。最初の1分間で患者の心をグッとつかむことが大切です。心が通わなければ重要な情報は聞きだせなくなります。笑顔、誠実、知性を持って対応することが大事です。

○3分間は傾聴する
 私は診断が上手になりたいと思い、何人かの優秀な内科医の診断プロセスを注意深く観察しました。そして彼らの多くが鑑別診断に必要な「キーワード」を問診や身体所見から見つけだし、鑑別診断を展開していくことに気がつきました。
 原因疾患のリストが長すぎる「キーワード」は役に立ちません。たとえば、「倦怠感」はあてはまる疾患が多すぎて疾患を絞り込むことができません。3分間は患者の話にじっと耳を傾けながら、診断のために重要な「キーワード」は何かを考えます。

○攻める問診
 問診は大切ですが、患者の話をそのまま聞いているだけでは診断は絶対にできません。最初の3分間の問診で症状や既往歴を聞きながら、どこが責任病巣でどのような疾患の可能性が高いのか、1〜2個の鑑別診断を頭に浮かべます。
 3分過ぎたら患者の話なんか聞いてはいけません。目くらましとなる情報が増えるからです。問診や検査による情報が増えるほど、診断により近づくと考えるのは間違いです。むしろ逆で、情報が増えるほど診断に迷います。
 多くの患者を診察する私たちには時間がありません。想起した鑑別診断の確証となる重要な情報をズバッと聞きこむ「攻める問診」が必要です。

 AI(人工知能)は急速に進歩しています。AIが普及すれば、うっかりミスによる投薬間違いは激減し、最新のガイドラインに基づいた標準的な治療がどこでも行われ、医療水準は大きく向上すると思われます。
 また、自動運転技術により僻地に住む高齢者は病院に通いやすくなります。医師も自動運転の車に乗って、車内で文献を調べ、カルテ記載をしながら効率的に訪問診療を行うことができます。遠隔で診断や治療を行うことが普通になり、医師が病院に出勤する必要がない時代もすぐそこに来ているのかもしれません。
 日本経済新聞(2018/1/13)の記事「AI時代の人間の働き方 直観養い誇りある決断を」(玄田有史)に小田原で親子3代80年以上にわたり寄宿生活塾を営む「はじめ塾」で大切にされてきた言葉「感、勘、観の3つのカン」が紹介されていました。五感を存分に発揮し、経験から勘どころを体得、その上で先を見通すための観を養う。すると子どもたちは、自然とのびのび育っていくというものです。

 これはAI時代に必要な医師の心得にも通じるところがあると感じました。五感を十分に研ぎ澄まして、経験から鑑別診断に必要なキーワード(勘どころ)を探し出し、キーワードから可能性がある診断を展開します(先を見通す=観)。
 AI時代にこんなやり方はあわないと嗤うなら嗤ってください。出会いの瞬間を大切にし、3分間の問診に潜む「キーワード」から直感的に鑑別診断を想起することは、どのような時代でも医師に診断の重要なヒントを与えてくれることを私は信じています。

初夏を迎えた蓼科にて
諏訪中央病院
山中 克郎