がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス 2016年版

知りたい・伝えたい ― がん補完代替療法のエビデンスをここに集約

編 集 日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン委員会
定 価 2,640円
(2,400円+税)
発行日 2016/06/20
ISBN 978-4-307-10180-6

B5判・176頁・図数:10枚

在庫状況 あり

近年、がん医療の現場では以前にも増して補完代替療法が用いられており、患者の45%が何らかの療法を利用しているといわれている。しかしこの分野はエビデンスとなる報告が少なく、また多くは保険適用外である。本書では、健康食品、マッサージ、アロマテラピー・マッサージ、運動療法、ホメオパシー、アニマルセラピー、リラクセーション、音楽療法、鍼灸治療、ヨガ等について、現時点で報告されているエビデンスを収集し、現場の医療従事者の助けとなるよう解説した。
I章 序論
 1.はじめに
 2.「クリニカル・エビデンス」作成経過
  1)背景
  2)対象者/利用者
  3)作成者と利益相反
  4)作成手順

II章 総論
 1.補完代替医療の概要
  1)補完代替医療とは?
  2)補完代替療法の利用実態
  3)医療者の認識

III章 各論:クリニカル・エビデンス
 1.健康食品
 2.マッサージ
 3.アロマテラピー・マッサージ
 4.運動療法
 5.ホメオパシー
 6.アニマルセラピー
 7.リラクセーション
 8.音楽療法
 9.鍼灸治療
 10.ヨ ガ

 ※臨床疑問は、各施術・療法で共通※
  [臨床疑問1]がんに伴う身体症状を軽減するか?
  [臨床疑問2]がんに伴う精神症状を軽減するか?
  [臨床疑問3]全般的なQOLを改善するか?
  [臨床疑問4]何らかの望ましくない有害事象を引き起こすか?
  [臨床疑問5]検査・治療等に伴う有害事象を軽減するか?
  [臨床疑問6]予後を改善するか?

IV章 各論:治療のトピックス
 1.栄養療法、経腸栄養剤
  1)担がん患者の代謝変動
  2)わが国で用いられているがん患者に対する栄養剤
  3)がん悪液質に対する栄養サポートと今後の課題
 2.免疫療法
  1)わが国で実施されている免疫療法
 3.漢方薬
  1)漢方薬とは?
  2)漢方薬を用いた臨床試験
  3)漢方薬の注意点
 4.高濃度ビタミンC点滴療法
  1)ビタミンCに関する一般的事項
  2)ビタミンCとがん
  3)高濃度ビタミンC点滴療法

V章 参考資料
 1.相互作用について
  1)薬物動態学的相互作用
  2)薬力学(薬理学)的相互作用
  3)その他の要因
  4)参考となる情報
 2.患者・医療者間のコミュニケーションを考える
  1)補完代替療法利用の現状と行動科学的考察
  2)補完代替療法と多元的医療システムの概念
  3)コミュニケーションの実際
 3.補完代替療法に関する公的機関による情報資料
  1)補完代替医療全般に関する情報
  2)健康被害等に関する情報
  3)消費者トラブルに関する情報

付録 エビデンス掲載ページ(主ながん種)
発刊にあたって

 7年前の2009年2月に日本緩和医療学会から、「がん補完代替医療ガイドライン第1版」(Web版)が発行されました。このガイドラインは、「厚生労働省がん研究助成金:我が国におけるがんの代替療法に関する研究班」と「がんの代替療法の科学的検証と臨床応用に関する研究班」による「緩和医療ガイドライン作成委員会補完代替医療ガイドライン作業部会」によりまず作成され、その後2008年に日本緩和医療学会理事会で承認されたものでした。

 以来、何度か改訂への動きはありましたが、補完代替療法の分野は一般的な科学研究の対象にはなりにくく、科学的エビデンスとして効果が示されることがほとんどありませんでした。このため、日本緩和医療学会の将来構想委員会、緩和医療ガイドライン委員会と理事会で何年にも亘って検討された結果、米国医学研究所で定義されているようなガイドライン、すなわち「診療ガイドラインとは、患者ケアの最適化を目的とする推奨を含む文書であり、エビデンスの系統的レビューと複数の治療選択肢の益と害の評価によって作成される」を踏襲できるようなガイドラインの作成は困難と判断されました。

 具体的には、「がんの補完代替療法」分野では、(1)無作為化比較試験の報告が少なすぎる、(2)ほとんどの補完代替療法は本邦では健康保険の適用にはなっていない、(3)補完代替療法を受けるか否かの判断が患者と家族の判断に委ねられ、医学的見地からというより好みや価値観で判断されることが多い、などの理由から、上記の定義を満たすことは不可能であり、画一的な推奨度を示さなければならない診療ガイドラインとして作成することは困難という結論に至ったということです。

 しかし、日本緩和医療学会としては、がん医療の現場で以前にも増して補完代替療法が施行されている事実もあり、この分野に対して何らかの見解を表明することが必要であるとの判断がなされました。

 このため、「がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス2016年版」として上梓された本書は、推奨度を示す通常のガイドラインではなく、さまざまな補完代替療法に関する科学的エビデンスを取りまとめた“クリニカル・エビデンス;診療で生じる臨床疑問からトピックスを抽出し、系統的に情報を収集・吟味して、その有用性や安全性等に関するデータをコンパクトに提示するエビデンス集”として、作成されました。対象者は、医師・看護師・薬剤師などの医療者としています。

 本書の作成には、ガイドライン作成とはまた異なる多くのご苦労があったことと思います。この場を借りて「補完代替療法ガイドライン改訂Working Practitioner Group(WPG)」の皆様に対し感謝の意を表すとともに、この「がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス2016年版」が緩和ケアの臨床現場で、がん患者さんとご家族のつらさの軽減に少しでも役立つことを祈念して、序文とさせていただきます。

2016年5月
特定非営利活動法人 日本緩和医療学会
理事長 細川 豊史