放射線健康リスク科学 基礎知識図解ノート

医療にかかわる放射線防護・災害医療・コニュニケーションがわかる!

監 修 榮 武二 / 櫻井 英幸
編 集 磯辺 智範
定 価 3,960円
(3,600円+税)
発行日 2023/04/05
ISBN 978-4-307-07120-8

B5判・184頁・カラー図数:220枚

在庫状況 あり

福島原発事故以降、小・中・高校でも「放射線教育」が実施されました。本書は医療における「放射線防護、災害医療、コニュニケーション」を図解でやさしく解説します。「放射線と放射能の基礎」「放射線防護」「放射線の医学利用」「災害医療」「疫学データ」「リスクコミュニケーション」がフルカラー・図解でやさしくわかります。医療従事者はもちろん、放射線教育にかかわる方、放射線を正しく理解したい方にもオススメです。
第1章 放射線と放射能の基礎
1. 放射線・放射能の違い
2. 放射線の種類
3. 半減期
4. 放射線の単位
5. 放射線の性質
6. 放射線による人体への影響
7. 内部被ばくと外部被ばく

第2章 放射線防護ミニマムエッセンス
1. 放射線防護の基本的な考え方(体系・原則)
2. 放射線防護の基礎
3. 医療における被ばく線量
4. 放射線防護に関する主な組織

第3章 放射線の医学利用
1. 画像診断
 a) 画像の成り立ち
 b) X線撮影(含造影検査)
 c) X線CT
 d) 核医学(含PET)
2. 放射線治療
 a) 知っておきたい放射線生物学
 b) 放射線治療の原則と特徴
 c) 放射線治療の適応と選択
 d) 放射線治療の術式(X線,粒子線,IMRT, 小線源, BNCT)

第4章 災害医療
1. 災害医療の基本
2. 災害サイクル
3. 災害医療のコンセプト(CSCA)
4. 一次救命処置
5. 放射線事故(災害)の分類・実例(事故の原因を含む)・危険度の尺度
6. 放射線事故(災害)の対応(事故の通報と基準、応急処置の4原則)
7. 緊急被ばく医療

第5章 疫学データの基礎
1. 疫学研究と実験研究
2. データを読み解くためのkey word解説
3. 知っておきたい疫学データ

第6章 リスクコミュニケーション
1. チーム医療
2. コミュニケーションの基本構造と技術
3. インフォームド・コンセント
4. クライシスコミュニケーション
5. リスクコミュニケーション
編集の序

 福島第一原子力発電所事故が発端となり、医療従事者の放射線・放射能に対する知識不足が浮き彫りとなった。この問題に対し、日本学術会議は「医学教育における必修化をはじめとする放射線の健康リスク科学教育の充実」という提言を発表した(2014年9月)。

 本提言は、放射線の健康リスクを取り扱う学問領域である「放射線防護(保健物理学)」「放射線生物学」「放射線疫学」等を総称して「放射線健康リスク科学」へ統一し、医師・看護師・保健師をはじめとした医学における卒前の放射線健康リスク科学教育の拡充を強く訴えた内容であった。これを受け、2015年1月に国立大学医学部長会議で放射線健康リスク科学教育の必修化ワーキンググループが設置され、多くの議論を重ね、2017年3月に医学教育モデル・コア・カリキュラム(平成28年度改訂版、平成30年度入学者から適用)が発表された。本カリキュラムの大きな特徴は、放射線健康リスク科学の基礎を習得するための「生体と放射線」「医療放射線と生体影響」に加え、「放射線リスクコミュニケーション」「放射線災害医療」という実践的な項目が新たに明記された点である。この流れは看護学教育にも波及し、2017年10月に看護学教育モデル・コア・カリキュラム(平成29年度版)が制定され、この中でも放射線教育の充実と放射線災害に対する対応が明記されている。

 放射線健康リスク科学とは、先にも示した、放射線防護(保健物理学)・放射線生物学・放射線疫学のみでなく、放射線健康管理学・医学物理学・放射線医学・放射線災害医療・リスクコミュニケーション等の分野を含む幅広い学問である。各教育機関では、放射線健康リスク科学の教育を実践すべく種々の工夫をしているところであるが、タイトな医学系教育カリキュラムの中で、どのように授業を構築し、学生に教えていくか苦慮しているのではないだろうか。

 本書は、このような悩みを解決すべく、必要最小限に絞ったコンパクトな内容で、わかりやすく、実用的で、自己学習にも役立つ書籍の提供を目指して企画された。専門性が高く広範囲で多岐にわたる放射線健康リスク科学を学習しようとすると、放射線科学から臨床まで多くの書籍を購入しなければならない。さらに、それらの書籍の多くは、それぞれの分野に特化した専門書(深く掘り下げたもの)である。放射線健康リスク科学の初学者は、各分野を専門的に学習する前に、まずは放射線健康リスク科学の全体像を把握する必要がある。すなわち、初学者にとって必要なことは、どれか一部に偏ることなく、すべての項目に関する知識を網羅的に身につけることである。もし、放射線健康リスク科学の全体像を網羅できる教科書があれば、効率よく学習できるはずである。

 本書は、従来の教科書の記載方法(図・表・画像が少なく、冗長な文章を羅列した、いわゆる“読む教科書”)とは一線を画し、「視覚的理解」をkey word にした。すなわち、図・表・画像を主体とし、冗長で難解な記述をできる限り排除しながらも、十分かつわかりやすい解説を付けるという記載方法を採用した。本書のタイトル通り、基礎知識を図・表・画像で理解し、ノート的に利用できる点が最大の特徴である。本書は、医学部や看護学部の学生諸氏を主な対象としているが、臨床経験の浅い有資格者にとっても使いやすく、必要にして十分な情報を盛り込み、放射線健康リスク科学全体を網羅できる教科書になったと自負している。

 最後に、本書の発刊にあたり、編集に協力していただいた順天堂大学保健医療学部 准教授 佐藤英介先生、筑波大学医学医療系放射線健康リスク科学 助教 森 祐太郎先生、監修の労を賜った筑波大学医学医療系放射線腫瘍学 教授 櫻井英幸先生、ならびに筑波大学陽子線医学利用研究センター長(医学医療系医学物理学 教授)榮 武二先生に感謝申し上げる。また、長期間にわたり編集にご尽力いただいた石黒大介氏をはじめ、金原出版編集部のスタッフの方々に深甚の謝意を表したい。

2023年4月

筑波大学医学医療系 放射線健康リスク科学 教授
放射線・アイソトープ地球システム研究センター 放射線影響医学部門長
磯辺 智範