外部放射線治療におけるQAシステムガイドライン 2016年版

放射線治療の「品質管理」を実現する仕組みや体制作りを解説

編 集 日本放射線腫瘍学会
定 価 3,300円
(3,000円+税)
発行日 2016/04/10
ISBN 978-4-307-07103-1

B5判・156頁・図数:10枚

在庫状況 あり

本書は、放射線治療におけるQuality Assurance(品質管理)を実現するシステム作りを解説。「総論、物理QA、臨床QA」の3部から構成され、総論では放射線治療全体を俯瞰し、物理QAでは放射治療機器の扱いに関するテクニカルな内容、臨床QAではチーム体制の構築やヒヤリ・ハットなどの人に関する内容、院内規程の作り方などを解説する。読者対象は放射線治療技師、医学物理士、放射線科医師、看護師など。
序文
ガイドライン改訂にあたり
はじめに

1.総論
 1.1 本ガイドラインの目的と方針
 1.2 QAとは
 1.3 QAの目的
 1.4 施設QAとQAレベルの均質化
  1.4.1 QA/QCとして必須の手段
  1.4.1.1 線量計校正と出力線量の第三者確認
  1.4.1.2 目的に応じたQA手段
 1.5 施設におけるQAプログラム
  1.5.1 施設における統合的QA
  1.5.2 病院におけるQA委員会とQAチーム
  1.5.3 QAプログラムの構築と文書化
  1.5.3.1 文書化(ドキュメンテーション)の目的
  1.5.3.2 組織における目標と基本方針
  1.5.3.3 部門全体としての活動の重要性
  1.5.3.4 QAプロジェクトチーム
  1.5.3.5 QAプロジェクトの準備と計画
 1.6 診療規模別放射線治療実施体制について
  1.6.1 施設規模ごとの実施体制
  1.6.2 施設規模とQA
  1.6.3 施設規模に応じたQA機器
 1.7 装置の導入・廃棄・更新について
 1.8 第三者監査
 1.9 放射線治療部門の運用
  1.9.1 病院内での放射線治療部門の位置づけ
  1.9.2 放射線治療部門長、その他の責任者の責務
  1.9.3 各職種の役割と責任
  1.9.4 チーム医療の必要性
  1.9.5 部門内カンファレンス
  1.9.6 クリティカルパス(クリニカルパス)
  1.9.7 腫瘍ボード(キャンサーボード)
 1.10 放射線治療におけるリスクマネジメント
  1.10.1 リスクマネジメントとは
  1.10.2 リスクマネジメントのプロセス
   1.10.2.1 目標の設定とコミュニケーションおよび協議
   1.10.2.2 リスクのアセスメント
   1.10.2.3 リスクへの対応
   1.10.2.4 モニタリングおよびレビュー
 1.11 医療過誤発生時(クライシスマネジメント)、災害時の対応
  1.11.1 過誤照射等の事故時の対応
  1.11.2 災害時の対応

2.物理・技術的QA
 2.1 物理・技術的QA総論
  2.1.1 物理技術QAガイドラインの目的
  2.1.2 放射線治療のプロセスとQA/QC
  2.1.3 許容レベルと介入レベル
 2.2 吸収線量の標準化
  2.2.1 線量統一の臨床的意義
  2.2.2 水吸収線量標準
  2.2.3 リファレンス線量計の校正
  2.2.4 モニタ線量計の校正
   2.2.4.1 基準出力(ベースライン)
   2.2.4.2 光子線と電子線の出力不変性試験
   2.2.4.3 粒子線の出力不変性試験
   2.2.4.4 モニタ線量計
 2.3 測定機器の品質管理
  2.3.1 品質管理に必要な測定機器
  2.3.2 電離箱線量計
  2.3.3 固体検出器
  2.3.4 フィルム
  2.3.5 多次元検出器
  2.3.6 EPID
  2.3.7 ファントム
  2.3.8 温度計・気圧計
  2.3.9 その他の機器
 2.4 治療装置の品質管理
  2.4.1 治療装置の受け入れ試験とコミッショニング
  2.4.2 ビームデータ測定
  2.4.3 一般的治療装置の品質管理
  2.4.4 高精度照射用専用装置の品質管理
 2.5 位置決め装置の品質管理
  2.5.1 患者の固定
  2.5.2 放射線治療計画用CT装置
  2.5.3 X線シミュレータ装置
  2.5.4 線形・非線形画像照合
 2.6 治療計画装置の品質管理
  2.6.1 治療計画装置の受入試験・コミッショニング
  2.6.2 線量計算アルゴリズム
 2.7 患者プランの線量検証
 2.8 治療計画情報の登録と検証
 2.9 位置照合の実施
  2.9.1 目的
  2.9.2 計画時のマージン設定
  2.9.3 幾何学的位置の不確かさ(系統的成分と偶発的成分)
  2.9.4 位置補正のプロトコール
  2.9.5 撮影線量について
 2.10 各治療技術の品質管理
  2.10.1 電子線治療
   2.10.1.1 線量計測(すべてのレベル)
   2.10.1.2 治療計画装置のコミッショニング(レベル2)
   2.10.1.3 線量処方と患者治療(レベル1と2)
   2.10.1.4 不均質補正(レベル2)
   2.10.1.5 特別な電子線治療(レベル3)
   2.10.1.6 既出ガイドライン
  2.10.2 全身照射
   2.10.2.1 TBIの物理・技術的コミッショニング
   2.10.2.2 定期QA/QC
   2.10.2.3 照射前/照射中の線量測定
  2.10.3 定位放射線照射
   2.10.3.1 概説
   2.10.3.2 治療計画から照射までにおける注意点
   2.10.3.3 精度管理項目とその実施例
   2.10.3.4 既出ガイドライン
  2.10.4 強度変調放射線治療
   2.10.4.1 IMRTの定義
   2.10.4.2 治療装置の品質管理
   2.10.4.3 治療計画装置の品質管理
   2.10.4.4 治療計画
   2.10.4.5 線量検証
   2.10.4.5 既出ガイドライン
  2.10.5 画像誘導放射線治療
   2.10.5.1 概説(IGRTの定義、位置付け、装置)
   2.10.5.2 QA/QCの基本的な考え方(手法、許容値、安全管理など)
   2.10.5.3 既出ガイドライン
  2.10.6 呼吸性移動対策
   2.10.6.1 治療計画時および照射時における注意点
   2.10.6.2 精度管理項目とその実施例
   2.10.6.3 呼吸性移動対策ガイドライン

3.臨床QA
 3.1 放射線治療の流れ
  3.1.1 治療決定のために必要な項目
   3.1.1.1 病歴
   3.1.1.2 現症
   3.1.1.3 局在診断(原発部位診断)
   3.1.1.4 病理診断(病理形態学的診断)
   3.1.1.5 病期(進展度診断)
   3.1.1.6 臨床検査
   3.1.1.7 画像情報
  3.1.2 治療方針・治療目標の定義
  3.1.3 インフォームド・コンセント
   3.1.3.1 インフォームド・コンセントにおける説明義務
   3.1.3.2 インフォームド・コンセントが成立するために必要な要件
 3.2 治療計画
  3.2.1 はじめに
  3.2.2 治療計画記録の重要性
  3.2.3 治療計画における体積
  3.2.4 線量処方
  3.2.5 治療計画
 3.3 治療効果と正常組織反応の評価(治療中、治療後)
  3.3.1 治療中の診察と経過観察
  3.3.2 治療効果の判定
   3.3.2.1 腫瘍サイズの測定法
   3.3.2.2 放射線治療効果判定基準
   3.3.2.3 固形がんの治療効果判定のための新ガイドライン(RECISTガイドライン)―改訂版 version 1.1(JCOG日本語訳)の概要
   3.3.2.4 その他の効果判定基準
   3.3.2.5 組織学的効果判定
   3.3.2.6 自覚的改善度の評価
  3.3.3 急性反応と晩期反応
  3.3.4 QOLの評価と記載法
   3.3.4.1 QOLとその評価
   3.3.4.2 QOLと患者ケア
 3.4 治療成績の記載
  3.4.1 はじめに
  3.4.2 生存期間の起点
  3.4.3 奏効率と消失率、奏効期間
  3.4.4 生存率と生存期間
  3.4.5 再発の評価
   3.4.5.1 再発および再燃の定義
   3.4.5.2 再発部位の定義
   3.4.5.3 再発率と再発をイベントとする生存期間
  3.4.6 生存時間解析
 3.5 記録とデータ保存
  3.5.1 診療録と照射録
   3.5.1.1 背景、統一された記録の必要性
   3.5.1.2 照射録の記載項目
  3.5.2 治療データの電子保存
   3.5.2.1 背景
   3.5.2.2 電子化移行時の検討事項
   3.5.2.3 統一ルール/相互運用と標準化
   3.5.2.4 照射録のペーパーレス化
  3.5.3 JASTRO放射線治療症例全国登録事業(JROD)
   3.5.3.1 背景、目的
   3.5.3.2 データベース概要
   3.5.3.3 データの集積
   3.5.3.4 データ解析と期待される成果
略語
用語集
付録
 わが国では高齢化社会の到来とともにがん患者数は増加の一途であり、国立がん研究センター・がん対策情報センターによれば、2015年のがん罹患数は98万人と予測されている。日本放射線腫瘍学会(JASTRO)構造調査からの推定では、このうち25〜30万人が放射線治療を受けている。放射線治療はその特徴と魅力が広く認知され、がん治療においてこれまでになく重要な役割を果たしている。一方で、放射線治療に伴う医療事故、医療過誤の報道は、国内外を問わずあとを絶たない。表に出てこないインシデントは多くの病院で経験があるものと思われる。特に近年の高精度放射線治療は、コンピュータ制御のブラックボックスとなった放射線治療計画装置を用い、ターゲットを絞り込み、リスク臓器への線量をできる限り軽減させる治療計画が行われるだけに、さまざまなレベルでのエラーが起こりえる危険性を内包している。
 JASTRO Quality Assurance(QA)委員会では、放射線治療を安全かつ効果的に行うための指針として『外部放射線治療におけるQAシステムガイドライン』を2000年に公表した。このガイドラインでは、物理的・技術的QAに加え臨床的QAを含む統合的QAシステムに関する指針が述べられ、その後のわが国の放射線治療の標準化と安全性の向上に大きな役割を果たしてきた。
 今回、JASTRO QA委員会では、急速に普及する高精度放射線治療に対応するため、上記ガイドラインの改訂版となる『外部放射線治療におけるQualityAssurance(QA)システムガイドライン2016年版』を発刊することとなった。
 本ガイドラインでは、2000年版の理念を引き継ぎ、統合的QAシステム構築の観点から、技術的、臨床的QAに加え、放射線治療部門全体のQAマネジメントのガイドラインとなっている。また、日常診療のみならず放射線治療の臨床試験を行う場合の指針にもなっている。臨床試験参加施設の放射線治療QAがその治療成績に影響することはよく知られており、本ガイドラインは信頼性の高い臨床試験のエビデンスの基盤にもなるものと期待される。
 最後に、忙しい診療、教育、研究の合間に本ガイドラインの執筆・編集に携わったJASTRO QA委員会の皆さまに深謝するとともに、本書が安全かつ効果的な放射線治療の普及の一助になることを祈念する。

平成28年4月1日
公益社団法人日本放射線腫瘍学会理事長
西村 恭昌


ガイドライン改訂にあたり
 今回、JASTRO Quality Assurance(QA)委員会の委員長を拝命し、ガイドライン作成作業の一端に関与し、ワーキンググループ構成員、執筆者の熱意と日本の放射線治療に対する熱い想いを改めて確認できたことは、大変幸運であり、また多くの教訓を授けられたと考えている。
 ガイドラインは包括的な視点であるが、それは個々の確認すべき事項を達成して初めて成り立つ。臨床に携わる諸氏は、個々のQAに関しては多くの時間を割き、精度の高い業務を実行していると思われるが、わが国の医療人の特性として、他者の評価や確認を受ける機会を多く取り入れている臨床現場は多いとは言い難い。今後その機会が増えることが望ましいが、本書のようなガイドラインを活用することもその1つと思われる。
 放射線治療の現場における最も重要なQAの観点は、小さなミスを見つけ出すよりも、大きな落とし穴を作らないことである。本ガイドラインは、臨床面、物理面など複数の専門的視点から討議を重ねたが、臨床における放射線治療の複雑さや高度化の速度は決して減じることはなく、今後も日進月歩の改良を求められるであろう。現時点の放射線治療に携わる試金石として、本書を座右の書とされることを願ってやまない。

平成28年4月1日
QA委員会委員長 佐々木 良平


今回のJASTRO-QAガイドラインの改訂は、2000年版以来10数年に及ぶ年月を経て、長年にわたっての悲願であった。作成にあたっては関係者各位の多大のご努力が実り、このほど日の目を見たことは、誠に喜ばしいことである。
前QA委員会としては、平成25〜26年度の2年度にわたり改訂作業に係わった。ワーキンググループ(WG)を組織し、執筆者を徴集した。物理QA部門では、わが国で実務中枢に携わり活躍している医学物理士・放射線治療品質管理士に、また臨床QA部門ではQAに造詣の深い放射線腫瘍医に執筆を依頼した。各担当者は業務多忙の中、鋭意執筆と編集に携わっていただいた。
 WG全体としての会合は平成26年2月から12月まで6回に及んだ。WG内の物理技術系、および臨床系メンバーでの小会合も何度か重ねて議論を続け、内容の精査に努めた。これら一連の作業には、前々QA委員長であり本WG長を務めた新保委員が中心になって進められた。そのご尽力による所が大きかった。
多忙ななか、時間を割いていただいた新保WG長を始め、WGの全メンバーに深く感謝を申し上げる。
放射線治療のQAは、日進月歩の発展がなされている分野で、日々内容も高度化・専門化されている。特に近年では、わが国で不足している医学物理士の関与が益々高まっており、本書が多数の医学物理士の執筆陣の下で上梓できたのは時代の流れに沿うものである。
 本書は、現段階における最新のQA実務を踏まえたものである。しかし、数年もすれば、さらに新しく高度な内容を踏まえた改訂が必要であろう。さらにアップデートなガイドラインとして改訂され続けることを期待したい。
最後に放射線治療におけるこのQAの分野でも、わが国におけるJASTROの貢献が今後もなされることを祈念して序文に変える。

平成27年10月13日
前QA委員会委員長 小泉 雅彦


はじめに
近年、放射線治療は、がん治療において重要な役割を担っている。高齢化に伴うがん患者の増加と、がん治療における放射線治療の適応が拡大したことから、対象患者が増加している。また、物理技術の進歩の結果、線量の集中性の向上が図られ、位置の正確性の担保と照射野、照射範囲の精密化が進んでいる。これらをふまえた高精度放射線治療が実施されており、治療を安全に実施するために、その品質保証(QA)・品質管理(QC)が重要である。各治療施設において、組織化された定期的な品質管理業務は、医療事故防止の観点を含んでおり、日々確実な治療を患者に提供する目的のため必須となっている。
 2005年前後に、わが国ではいくつかの過誤照射事故の報告があり、品質管理を巡る問題が大きく取り上げられた。その反省から放射線治療品質管理士制度が開始され、治療品質管理士はQA/QC部門において多大な貢献をしている。さらに最近は、高精度放射線治療の導入、治療計画、品質管理を担当する医学物理士が、大病院を中心に雇用され始めている。
 JASTROは2000年に『Quality Assurance(QA) システムガイドライン2000』を刊行している。本版はQA ガイドラインとしてその改訂版にあたる。前書はQAに関して深い見地を含み、その考え方は今でも通用する。この考え方を踏襲し、新しい照射技術に対応すべく本書を執筆した。執筆にあたり、新たにワーキンググループを設定し、記載方法について議論した。各照射方法個別の記載は、それぞれ対応するガイドラインに任せ、本書では品質管理の本流部分を記載すること、技術の進歩に伴う改訂は各技術のガイドラインに任せることとした。そのうえで、ガイドラインとは何か、品質管理のポリシーとは何かについて議論し、その本質を理解してもらうことで、治療全体の品質を向上させることを目指す記載とした。米国では、米国医学物理学会(AAPM)の報告があり、放射線治療QAのガイドラインとしての地位を占めてきた。1994年に、外部放射線治療を中心として「TG-40(Task Group; Comprehensive QA For radiation oncology)」として物理学的QAの基本がまとめられた。その後、外部放射線治療AAPMのTGも2009年に「TG-142(Quality assurance of medical accelerators)」として大幅な改訂を遂げ、本書ではその新しい規準を取り入れた。
 本書では、高精度放射線治療については、そのエッセンスのみを記載した。JASTROには、これら個別の治療に応じたガイドラインがあり、詳細はそれらを参照されたい。また、前書に引き続き、本書は外部放射線治療を中心にした放射線治療における品質管理のガイドラインとなっており、小線源治療については、JASTROの『密封小線源治療−診療・物理QAガイドライン−』を参照して欲しい。
本書は大きく、「総論、物理QA、臨床QA」の3部から構成される。総論では放射線治療全体を俯瞰し、品質管理の意味・考え方、対応方法についても記載した。しかし、議論が尽くされていない部分もあることから、今後、定期的な見直しを行うことで、技術・手法の進歩に追従して版を重ねるようにしたい。

平成28年3月1日
JASTRO QAシステムガイドライン改訂ワーキンググループ