憧鉄雑感 皮膚科医による痛快!鉄道エッセイ

皮膚科×鉄道!?雑誌連載中の人気エッセイ待望の単行本化!

著 者 安部 正敏
定 価 2,750円
(2,500円+税)
発行日 2020/09/25
ISBN 978-4-307-00489-3

A5判・296頁・カラー図数:138枚

在庫状況 あり

皮膚科×鉄道!?いまだかつてないコラボレーションによる、笑いあり涙ありの痛快エッセイ! 雑誌「皮膚科の臨床」の人気連載、待望の単行本化! 8年間にわたる第100回までの連載記事に、書き下ろし7本を加えて収録した。鉄道をこよなく愛する皮膚科医が、時には愛ある苦言を呈し、時には鉄道員になりきって鉄道の魅力を熱く語る。ユーモアたっぷりに綴られる皮膚科医の日常もお楽しみいただきたい。
第1章 知って得する? 鉄道豆知識part1
「投稿規定」と「新知見」
眼に見えぬ患者サービス
ニセ皮膚科医? と経営哲学
医療における水の力
色の力
STAP細胞がもたらしたもの
論文の書き方
ミズイボの取り方
ストーマスキンケア
プレフィルドシリンジ考

第2章 乗車中の出来事
虫刺症とその誤診
絶対的予約術
子どもの興味
学術大会成功の秘密は?
皮膚科医と化粧
待ち時間対策今昔
記憶力
開業志向

第3章 診察室での出来事
皮膚科医の逃場
一職種を極める瞬間
診療の息抜きは珠玉のミステリーで
メラノーマ患者
真菌検査
臨床写真
アルコールランプ
差し入れする患者
静寂なる診察室
外来診療体制とコスト
帯状疱疹を正しく診断するために
奇病! 痴漢皮膚炎!
皮膚科救急の意義

第4章 華麗なる乗車・発券テクニック
診療情報検索
代診哀話
守るべき「伝統」。受け入れる「変化」。
診療に穴をあけぬためのストラテジー
座るは右側、座らせるは左側
診察時間の長さとその質
一筆書き可能な皮疹は何を語る?
不公平感

第5章 ああ素晴らしき新幹線
意外な特別企画
診断における違和感
気付かぬほどの差異とサービス
診療時間
引継ぎの苦悩
診療対価
異常気象下完璧移動術
故障せる最新医療機器

第6章 安全運行を支えるシステム
専門医制度
救急当直の眠れぬ一夜
職業人としての皮膚科医の眼
ヒューマンエラーとプロのスキル
不審者対策
皮膚科医の責務
警告表示
誤診哀話
新専門医制度

第7章 いつもより多めに書いております
街中での皮膚科医の特殊なミッション
痒みと皮疹と食物と
医師の接遇
医療における平等感
医療現場のコミュニケーション
乾癬患者サポートの楽しみと苦しみ
思い込みの危険

第8章 鉄道員のマインドを持つ皮膚科医
「皮膚科医」と答えるリスク
臨床医の軌道修正
専門用語
研究成果
利き手と皮膚科診療
皮膚疾患自動診断の前夜に
バイオシミラー
外来診療皮膚科学論文精読術
クレーム患者
鑑別疾患
帯状疱疹
理想的外用療法指導術

第9章 知って得する? 鉄道豆知識part2
アルバイトの是非
汎発性神経皮膚炎
保険診療哀話
略治終了
同性患者
老人性色素斑
触診の重要性
外来管理加算
地方出張の楽しみ

第10章 鉄道と自然災害
節電下の医療現場で働くということ
震災復興
被災地支援
北の大地での皮膚科診療
被災大国で診療するということ
生物学的製剤治療のリスク
ケロイドをもつ教師
未知なる感染症との闘い
未知なる感染症の扱い
未知なる感染症の対策

第11章 鉄道以外の乗り物
皮脂欠乏症の奇妙な合併症(1)
皮脂欠乏症の奇妙な合併症(2)
皮膚科診療サービスの根底に流れるもの
医師国家試験の恐怖
日本皮膚科学会サマースクールによせて
嗚呼! 有難きかなリピーター!

憧鉄雑感 第100回 まだ見ぬ医師達への長き時間
憧鉄雑感 最終回?? 憧匠雑感
「臨床皮膚科」掲載コラム

憧景雑感(1) 降車ボタン――この世に生を受けて
憧景雑感(2) 運転席の風景――私立住吉幼稚園
憧景雑感(3) バスより電車――長崎市立西浦上小学校
憧景雑感(4) 憧れの運転士――青雲学園そして島根大学教育学部附属中学校
憧景雑感(5) レール――島根県立松江南高校
憧景雑感(6) 周遊券――群馬大学医学部
憧景雑感(7) 非接触型カード考――拙著最終草稿を呵する風景

つばさ写真館〜旬感〜 春
つばさ写真館〜旬感〜 夏part1
つばさ写真館〜旬感〜 夏part2
つばさ写真館〜旬感〜 秋
つばさ写真館〜旬感〜 冬
はじめに

 感無量である。“皮膚科の臨床”誌に継続連載した“憧鉄雑感”が、連載100回を記念して単行本になったのである! 筆者が心血を注ぐ? 日本臨床皮膚科医会では、全国津々浦々の先生方と交流を持つことが出来ることが魅力だ。お世辞だとは判っていても“職員が憧鉄雑感を好きで、いつも読んでいます。本になりませんか?”などと言われると飛び上がらんばかりに嬉しいものである。筆者も恐る恐るこの進言を金原出版に伝えたが、無論暖簾に腕押しであった。さすがに単行本化は無理か…と諦めてかけたところ、瓢箪から駒が出た。他社が単行本化に食指を動かしたのである。すると君子豹変し、金原出版は中原に鹿を逐い、あれよあれよと自社出版が決まった。
 しかし、金原出版はそもそも医学系出版社である。異彩を放つ斯様な書籍は、販路などの問題も相まって、コストが嵩む。筆者は980円の価値も怪しいと思っていたが、石臼を箸に刺す相談であり2500円となるという。これでも相当頑張って頂いた様であるが、当然偽エッセイストの駄文が斯様な高額で売れるとは到底思えぬ。そこで一計を案じ、タイトルは勿論、著者名をペンネームに変えようと画策した。誤購入を促す浅ましき作戦である。
 まず“矢楽園”、“渡辺純一”著としようとした。本物も医師であり、この点丁度良い。尤も、純愛小説など逆立ちしても書けぬので“矢楽園”という屋号の焼肉屋の細腕繁盛記である。ところが、あろうことか編集担当が“紀行エッセィとかけ離れる”との猛反対である。ならば“つばさはつばさ”、“浅田次朗”著としようとした。エッセィでありこの点好都合、剰え本家はJAL機内誌で連載中であり。売り上げは抜群であろう。ただ、やはり“航空エッセィではない!”と猛反発を受けた。
 そこで、読者を欺くのはいったん中止し、編集部の助言を踏まえささやかながら単行本では書き下ろしを加えることとした。担当編集者Iさんは筆者の自伝を要望したが、そもそも自伝なんぞ大学教授の苦労談や不治の病を克服した医師など感動的でなければならず、筆者のそれなんぞ購入動機に繋がるとは到底思えぬ。その旨反論すると“面白いエピソードを!”などと、筆者を喜劇役者と勘違する有様である。しかし、筆者にとって単行本化は犬一代に狸一匹、泣く子と編集者には勝てぬので、筆者のそれぞれの学生時代と本書作成の今における無益な余聞を“憧景雑感”と題し挿入した。併せて、“憧鉄雑感”誕生のきっかけとなった医学書院「臨床皮膚科」増刊号に寄稿した筆者のエッセィを巻末に再掲した。
 “憧鉄雑感”は無期限の連載を要望されている。しかし、人生は胡蝶の夢。実は飛行機事故による突然の最終回を想定し、長らく編集部に預けていた原稿がある。筆者は鉄道至上主義であり、鉄道が最も安全な公共交通と認識しているが、不思議なことに近年飛行機も墜落する気配がなく、このままではこの稿は文字通り金原出版のゴミ箱行きが確実である。そこで、まぼろしの最終回の私小説を“おまけ”として収録した。全体としてフィクションを含む統一感に欠ける体裁となったが、所詮有益な事項は一切排した駄文集である。よろしければどうぞご笑読頂きたい。
 ただ、単行本化に際し筆者の拙文だけではいかにも頼りない。憧鉄雑感では必ず筆者撮影のスナップ写真を挿入するが、あまりの素人感にさすがに羞恥の念を覚えた。そこで、連載50回記念には、新幹線“つばさ”号を題材とした芸術作品を数々発表され、多くの受賞歴をお持ちのつばさ皮膚科院長橋本秀樹先生に特にお願いし、御作品を掲載させて頂き大変好評であった。今回、再掲のお願いとともに、筆者の我儘から先生の御作品を“つばさ写真館〜旬感〜”として特別掲載させて頂いた。先生の御厚志に心より感謝申し上げるとともに、つばさ号の四季その旬感を存分に御鑑賞頂きたい。
 また、推薦文は、勿体ないことであるが筆者の師である宮地良樹先生に頂くことが出来た。先生はお忙しいにも関わらずこの出来の悪い弟子の不躾な願いにも御快諾頂き、早速身に余るお言葉を頂いた。原稿を拝読し筆者は先生の才筆を独り占めしたい衝動に駆られたが、当然金原出版が許す筈もなく、特に担当Iさんは心底感動し(筆者の稿には一度も感動したことがない様であるが…)、巻頭掲載を大いに喜んだ。本書籍を稀覯本に昇華させて頂いた宮地良樹先生には改めて深謝申し上げる次第である。
 それでは読者の皆様、世にも珍しい“鉄道と皮膚”の世界に早速出発進行!

医療法人社団 廣仁会 札幌皮膚科クリニック
安部 正敏
推薦文

 私がはじめて安部正敏先生にお会いしたのは、1992年秋、40歳で着任した群馬大学の臨床講堂であった。当時の皮膚科学教室は教室員が12名足らずで、新任教授の私の最初のミッションは入局者を増やすことであった。私は卒業間近の6年生に標的を定め、全9回の臨床講義を一人で担当した(この伝統は京大を退職するまで22年間続けた)。その階段教室の一角に陣取っていたのが弁舌爽やかな当時24歳の安部正敏青年で、彼は私の講義の終わりに満場の拍手を誘い、数名の学友とともに皮膚科入局を決めてくれた(その年6名の入局者があり教室員は一挙に1.5倍となった)。聞けば彼は松江南高校から推薦入学で群大医学部に進学したという。当時の教授会では「推薦入試は都会の進学校からではなく地方高校の一番を取る」というのが暗黙の不文律で、生徒会長を経験した彼が小論文と面接だけの推薦入試で合格しないはずはなかった。群馬テレビアナウンス部からオファーがあるほどの能弁とリーダーシップのある彼のおかげで皮膚科学教室はずいぶん明るく風通しが良くなった。形成外科医である彼の御尊父は趣味の落語で真打ちになられたほどなので、無口で口下手な私がそもそも勝てる相手ではなかったが、彼が述懐するところによると(出典は拙著「若い医師たちに紡ぐことば」)、彼は私の講演をビデオに撮り、プレゼン方法や話し方を勉強したそうで恐れ入るばかりである。
 そんな彼が、今回趣味を活かして「憧鉄雑感」を刊行された。彼が鉄道に詳しいとは仄聞していたがここまで徹底しているとは正直驚愕した。さらにその連載が8年以上も続いたのはまさに驚異である。この連載が光るのは単に鉄道マン並の知識を惜しげもなく披瀝するだけではなく必ず皮膚科との接点や教訓をメッセージの中に込めていることである。皮膚科医としての博識がなければできない敬服すべき芸当で、自嘲めいた「皮膚に詳しい鉄道員」の域をはるかに超えている。どうやら彼は、私が若い頃「臨床皮膚科」誌に2年間連載した「研究ノート」に並々ならぬライバル意識を燃やしているようであるが、その長さといい内容の深さといいすでに彼は私を凌駕している。「君は医局長に向いているね」と若い頃私が彼に言ったようであるが、いまは「君はエッセイストに向いているね」という称号を授与したい。むしろ、自由闊達に皮膚科医人生を謳歌している彼の生きざまに、自分がなしえなかった見果てぬ皮膚科医の夢を彼に託したいほどである。本書は邂逅から28年目の彼からの何よりの贈り物となった。それほどまでに彼は「藍より出でて藍よりも青い」(まるで「緑信号」のような)我が分身皮膚科医に昇華しようとしている。

京都大学名誉教授 宮地 良樹