領域横断的がん取扱い規約

22の癌取扱い規約を抜粋。統一の枠組み・順序で記載項目を掲載

編 集 日本癌治療学会 / 日本病理学会
定 価 9,350円
(8,500円+税)
発行日 2019/10/03
ISBN 978-4-307-00486-2

B5判・400頁

在庫状況 あり

22の癌取扱い規約より抜粋。癌の状態の記載に最低限必要な項目を網羅した。全章を通して[1]臨床情報、[2]原発巣、[3]組織型、[4]病期分類、[5]断端・遺残腫瘍分類、[6]組織学的記載事項の枠組みで記載項目の掲載順を揃え、診療科をまたいだ記載に有用。UICC/TNM分類との比較のための注も充実。各章には記載事項のチェックリストを掲載した。「小児腫瘍」については本書にて新たに収録した。
序論 領域横断的がん取扱い規約の基本的考え方
I 目的
II 対象
III 対象とする腫瘍全体に適用する記載項目
IV 各大項目が取り上げる記載内容

第1章 口腔癌
(口腔癌取扱い規約 2019年3月 第2版 準拠)

第2章 頭頸部癌
(頭頸部癌取扱い規約 2018年1月 第6版 準拠)

第3章 食道癌
(臨床・病理 食道癌取扱い規約 2015年10月 第11版 準拠)

第4章 胃癌
(胃癌取扱い規約 2017年10月 第15版 準拠)

第5章 大腸癌
(大腸癌取扱い規約 2018年7月 第9版 準拠)

第6章 原発性肝癌
(臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約 2019年3月 第6版補訂版 準拠)

第7章 胆道癌
(臨床・病理 胆道癌取扱い規約 2013年11月 第6版 準拠)

第8章 膵癌
(膵癌取扱い規約 2016年7月 第7版 準拠)

第9章 肺癌
(臨床・病理 肺癌取扱い規約 2017年1月 第8版 準拠)

第10章 乳癌
(臨床・病理 乳癌取扱い規約 2018年5月 第18版 準拠)

第11章 甲状腺癌
(甲状腺癌取扱い規約 2015年11月 第7版 準拠)

第12章 悪性骨腫瘍
(整形外科・病理 悪性骨腫瘍取扱い規約 2015年11月 第4版 準拠)

第13章 悪性軟部腫瘍
(整形外科・病理 悪性軟部腫瘍取扱い規約 2002年7月 第3版 準拠)

第14章 子宮頸癌
(子宮頸癌取扱い規約 病理編 2017年7月第4版 準拠)

第15章 子宮体癌
(子宮体癌取扱い規約 病理編 2017年7月第4版 準拠)

第16章 卵巣腫瘍・卵管癌・腹膜癌
(卵巣腫瘍・卵管癌・腹膜癌取扱い規約 臨床編 2015年8月 第1版、卵巣腫瘍・卵管癌・腹膜癌取扱い規約 病理編 2016年7月 第1版 準拠)

第17章 腎癌
(泌尿器科・病理・放射線科 腎癌取扱い規約 2011年4月 第4版 準拠)

第18章 副腎腫瘍
(副腎腫瘍取扱い規約 2015年3月 第3版 準拠)

第19章 腎盂・尿管・膀胱癌
(泌尿器科・病理・放射線科 腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約 2011年4月 第1版 準拠)

第20章 前立腺癌
(泌尿器科・病理・放射線科 前立腺癌取扱い規約 2010年12月 第4版 準拠)

第21章 精巣腫瘍
(泌尿器科・病理 精巣腫瘍取扱い規約 2005年3月 第3版 準拠)

第22章 小児腫瘍
(未発刊、本書にて新たに作成)

略語表

※各章で示される腫瘍の記載内容・表記法は、原則、2018年7月までに出版されている規約の記載内容に準拠する形で編集した。(本書p.2「序論」より)
<領域横断的がん取扱い規約発刊にあたって>

 これまで我が国においては、様々な臓器特異的がん専門学会がきめの細かい取扱い規約を策定し、これに沿ってがんの診断・治療が発展してきました。一方、我が国の各種がん取扱い規約と国際対がん連合(Union for International Cancer Control:UICC)が策定したTNM 分類との相違点も散見され、治療成績の国際比較などの科学的分析において障壁となってきたのも事実です。また、表現や記載法が臓器によって異なるため、様々ながん種の診断に携わる病理医や放射線診断医の皆様に混乱や煩雑さをもたらすことも少なくありませんでした。こうした背景から、UICC 分類に立脚した米国のAmerican Joint Committee on Cancer(AJCC)のCancer Staging Manualのような一貫性のある刊行物を作れないかというご提案を日本病理学会の落合淳志先生はじめ諸先生からいただいておりました。私が2015年に日本癌治療学会理事長を拝命致しました際に、この領域横断的がん取扱い規約の策定を取り組むべき課題の一つに定め、それまでのワーキンググループから領域横断的癌取扱い規約検討委員会を組織し、檜山英三先生に委員長としてリーダーシップを発揮していただきました。檜山委員長のもと、多くの学会のがん取扱い規約委員長の先生方に献身的かつ精力的なご尽力をいただき、今般領域横断的がん取扱い規約第1 版発行の運びとなりました。これにより、臓器横断的な規約の標準化への第一歩を踏み出すことができました。今後、正確な国際比較研究が促進され、我が国の優れたがん医療を世界に向けて発信する機会が増えるものと期待しています。
 日本癌治療学会は我が国最大の領域横断的がん関連学術団体であり、臓器特異的専門学会では対応しきれない領域を超えた活動を展開してまいりました。今般の領域横断的がん取扱い規約発刊は日本癌治療学会にとりまして、その象徴的事業の一つとなっています。私が理事長を務めました4 年間の締めくくりに、この規約が発刊できたことは大変感慨深く、関係各位に深甚なる感謝の意を表したいと存じます。この第1 版の発刊は大きな第一歩として非常に意義深く、今後版を重ねるごとにさらなる発展を遂げ、各臓器のがんの診断・治療の進歩に貢献することを期待しております。

 令和元年7月31日
日本癌治療学会
理事長 北川 雄光



<序文>

 「癌取扱い規約」は、それぞれの学会が治療法の選択や治療効果を評価するために、癌の状態や治療結果を記録する際の約束事をまとめた本です。また、同じ臓器の癌でも多種多様であり、その種類が治療法の選択にも影響するので、どんな性質の癌なのかを組織や細胞の形などから分類します。「癌取扱い規約」に従うことで、どの医療施設においても共通の尺度での診断や治療を可能としてきました。しかし、規約内の用語や分類、さらに記載順序、記載内容などは各学会がその取り扱う臓器や腫瘍の特性に従って定められていることから、必ずしも同じではなく、さらに、日本特有の分類なども取り入れられていて、臓器間の比較や国際間での評価などに対応できない事例が一部で生じております。さらに、がん登録推進法が制定され、これに伴い臓器別がん登録を推し進める中で、規約に基づいて正確に登録を推し進めるためには、様々ながん登録を取り扱う方々に利便性のある領域横断的ながん登録規約集の必要性が指摘されるに至り、領域横断的にがんを取り扱う学会である日本癌治療学会が日本病理学会とともにワーキンググループを立ち上げました。その後2015年からは日本癌治療学会の委員会として、17学会からの推薦をいただいた委員をメンバーとする委員会を立ち上げて検討を行ってきました。
 今回発刊するこの領域横断的がん取扱い規約の初版は、各種取扱い規約の病期、病理分類において、各規約の記載順序や用語の統一を図ること、さらに、各規約の病期分類をUICC-TNM分類に翻訳可能な形にすることにより、病期、病理分類に関してより正確かつ有用なデータ収集を可能とし、さらに、国際学会や国際誌で通用しうる成果の創出に寄与できることをめざして作成させていただきました。現時点で診断法による分類、治療法、治療後の評価などはまだそれぞれの臓器の取扱い規約に委ねられているとともに、領域リンパ節の分類など未解決な点も多く残されており、今後、これらをどのように取り扱い解決していくかが課題となっています。さらに、UICC-TNM分類の改訂や各臓器別の取扱い規約の改訂と歩調を合わせることも重要であり、今後はさらに改訂、改版を行うことも必要と考えておりますので、多くの方々のご批評をいただければと思っています。
 最後になりましたが、今回この領域横断的がん取扱い規約の出版に至ったことは、一重に本規約作成にご理解とともに甚大なるご協力をいただきました諸学会、各学会の取扱い規約委員会の方々、および日本病理学会の方々のご努力の賜物です。関連各位に心から御礼申し上げますとともに、引き続きのご協力をお願い申し上げます。

 令和元年7月31日
日本癌治療学会 領域横断的癌取扱い規約検討委員会
委員長 檜山 英三



<はじめに −領域横断的がん取扱い規約の出版までの経過について−>

 がんの新しい診断・治療法の進歩により、適切な診断・治療が行なわれると治癒の可能性が出てきているが、現在でもわが国で年間100万人が罹患し、その3分の1の方が亡くなっている。患者の癌の状態を記載して、適切に層別化し、その患者にあった適切な治療を行なうためには、癌の状態を標準化された方法で記載することが極めて重要であることは明らかである。また、我が国の優れた医療を世界に発信するためには、海外で用いられている分類との翻訳性が保たれていることが必要になる。
 領域横断的がん取扱い規約は、日本癌治療学会、日本病理学会、日本医学放射線学会、日本放射線腫瘍学会と日本癌治療学会関連学会に参加する15の学会が関与する22の癌取扱い規約の記載法の統一と、国際的に広く利用されているUICC-TNM 分類との翻訳性を可能にすることを目的に作成された。
 癌取扱い規約は、治療をする癌患者の状態を把握し、患者の状態や治療結果を統一された記載法により記載することで、がん患者の状態、治療法、そして治療状態を比較し、適切な患者の治療への層別化を行なうとともに、それらのデータを収集し、これからの予防や治療法を確立するための情報とするものである。
 初版の出版にあたり、これまでの我が国の癌取扱い規約の歴史とその問題点そして領域横断的がん取扱い規約の作成に至る経緯を説明する。
 我が国の癌取扱い規約は昭和37年(1962年)に胃癌研究会(現在の日本胃癌学会)が全国の胃癌の取り扱いの標準化することで、それまで各施設でばらばらに行なわれてきた胃癌症例の記載法の統一を行なうとともに、胃癌の登録事業の推進を目的として、外科、内科、病理医によって共同で作成されたことに始まる。UICC-TNM ステージングは1968年にUICC-TNM 分類第1版が作成されたことより、我が国の胃癌取扱い規約の出版は、UICCがTNMステージングを出版する5年前であり、我が国の医療界が世界に先立って規約を作ることを行なったことになる。その後、我が国では、胃癌取扱い規約に引き続き、各種臨床臓器学会がそれぞれの診療の専門性に併せて現在まで27種類の臓器癌取扱い規約が出版されてきた。
 27種類の分類を専門臨床学会が独自に規約を作成することにより、1)作成された規約間の内容の整合性が十分でない。2)作成された規約を用いる記載開始時期の設定が行なわれないために、各施設の病理医がどの版の規約を用いて報告書を記載しているのか不明である。3)各学会の専門家が主導して作成されているため、実際に報告書を作成し記載を行なう非会員の病理医・医師に適切な情報が届いていない。4)我が国の学会規約のステージが日本語で記載されているため、UICC-TNM やAJCC分類など国外のステージや病変の
記載法と異なり学術論文作成において受け入れられない。等、多くの問題点が指摘されるようになった。また、2013年に成立した「がん登録等の推進に関する法律」に基づき、2016年に開始された、「全国がん登録事業」においても、それぞれの学会毎に個別に変更される各学会規約は基本採用されず、UICC-TNM 分類に基づいた全国的ながん登録が行なわれることとなった。UICC-TNM ステージングと規約のステージングが異なることは、実臨床における患者への説明や、国際的な医療レベルを比較するためにも多少の混乱を生じている。このような我が国の癌取扱い規約と世界の多くの国々が利用しているUICC-TNM 分類との記載法の違い、ステージングの違いは、しいては日本の医療成績の適切な国際比較ができないこと、また国際臨床試験などの同じステージの患者登録ができないこと、そして我が国の臨床情報の世界への発信ができないことなど様々な問題が引き起こされている。
 この問題に関して、日本病理学会の癌取扱い規約委員長である落合の提案の下に最初に日本癌治療学会総会において2011年に前原喜彦理事長の下に学術集会で「癌取扱い規約の問題提起」がシンポジウムとして開かれ、2016年には日本学術会議においても提言としてその問題が取り上げられた。その後、我が国の規約の統一を目指して、2014年西山正彦理事長の下に、日本癌治療学会関連学会委員会(大園誠一郎委員長)において、規約の統一の問題が討議され、関連学会委員会の下に大園誠一郎先生を委員長とした第1回領域横断
的癌取扱い規約検討ワーキング(WG)が発足された。2016年には檜山英三先生を委員長として新たに領域横断的癌取扱い規約検討委員会が立ち上げられ活動を開始した。この委員会では、日本病理学会、日本医学放射線医学会、日本放射線腫瘍学会と15の臨床学会が参加しており、実質上我が国で出版している多くの癌取扱い規約の作成委員が参加したことにより、22の領域を扱う新しい領域横断的がん取扱い規約を作成することとなった。
 領域横断的がん取扱い規約を作成するにあたり、以下の点を厳守することとした。
 1)規約の内容は各学会の規約内容を記載する。2)記載順、記載法の違いをUICC-TNM 分類と比較できるようにする。3)領域横断的がん取扱い規約として推奨する記載法を提示することとし、癌の状態の記載のために必要最低限とされる記載項目を網羅することとした。
 したがって、本がん取扱い規約では、記載順、UICC-TNM 規約との相違を明確にすることを目的とし、記載内容の詳細は各学会の規約を参照することとした。改訂時期の統一を目指すために、領域横断的がん取扱い規約の編集はUICC-TNM 分類の改訂を目処に変更することとした。さらには、各臨床学会が規約を変更・改訂するにあたり、記載方法、記載順序、規約変更に関しては領域横断的がん取扱い規約を参考にすることとした。
 本規約の内容は、最初に規約の基本的な考え方を序論として記載し、各癌取扱い規約の標準化に必要な記載順を明確に記しているので、この規約を利用する方は最初に是非参照していただきたい。
 このたび、領域横断的がん取扱い規約第1版を出版できることにより、全国の医療機関で治療されるがん患者の情報を標準化された内容で記載、登録されることになった。この標準化およびUICC-TNM 分類への翻訳を可能にすることは、我が国で開発される創薬や医療技術を国内だけでなく国際的にも標準化された内容で発表するために重要と考えられる。また、今後、我が国の癌取扱い規約が抱えている、リンパ節番号の統一、報告書の統一など今後領域横断的がん取扱い規約が果たす役割は大きいと考えており、本規約がこれから我が国の癌登録事業の中心的役割を果たしていくものと期待する。
 最後に、本規約の出版にあたり関係していただいた先生方に感謝を述べたい。最初に、日本病理学会の癌取扱い規約委員会の渡邊麗子先生と領域横断的がん取扱い規約ワーキンググループの内田克典先生、内山智子先生、海崎泰治先生、福留寿生先生、そして吉澤忠司先生が全体の構成、内容の確認など行なってくれた。彼らの働きが無ければこの本は出版できなかったと考える。また、何度も校正を行なっていただいた、各学会の癌取扱い規約委員の先生方、日本癌治療学会の大園誠一郎先生、檜山英三先生、山本康彦事務部長、秋元信吾事務副部長へ感謝します。また、本規約を作るにおいて、国立がん研究センター研究開発費(29-A-5)による支援を一部で得たことを記載します。領域横断的がん取扱い規約第1版が、これからの我が国の癌取扱い規約の基本となり、我が国の先端的医療の情報が世界に発信できることを祈念する。

 令和元年7月31日
国立がん研究センター
落合 淳志