新しい医師の役割 医師だからこそできるもうひとつの社会貢献

医師ならではの起業が患者を救う。ごきげんな社会を実現しよう。

著 者 坪田 一男
定 価 3,740円
(3,400円+税)
発行日 2024/04/25
ISBN 978-4-307-35174-4

A5判・292頁

在庫状況 あり

医師には医療だけでなく、新たな道として起業を提案したい。専門知識を深めた「I型人間」から広く一般知識を身につけた「T型人間」となって起業しよう。本書はその手引きとして実際に起業した医師達を紹介するとともに、株式を上場した著者の起業体験も披露する。ダメだったら医師に専念すればいい。起業により多くの患者を救い、自身も経済的・精神的に潤い、医薬品・医療機器輸入超過も解消させ、ごきげんな社会を実現しよう。
はじめに

序章 医薬品・医療機器輸入超過問題の実態
 気づけば医師の周りは「海外製」だらけ
 医師は患者さんだけでなく日本の医療も救うべき
 輸入超過問題の解決策は医師が自ら起業すること

第1章 専門医として「I型」を極める
 専門医制度とは
 人材の型としての「I型」
 具体的な「I型」深化の方法
 I型の弊害
 「医療は福祉」という固定観念から抜け出せない

第2章 医薬品・医療機器輸入超過問題はなぜ起きたか
 製品化までを考えない日本の医師
 学校教育法に書かれた「社会の発展に寄与」の文字
 起業家を育てるアメリカ
 「坪田ラボ式SBIRプログラム」からスターを生み出す

第3章 なぜT型人間を目指すべきなのか
 本来の意味でのイノベーションとは何か
 T型を広げる「intra-personal diversity」
 T型を生かすために必要な「ごきげん」と心理的安全性
 T型でイノベーションを実現するネットワークをつくる
 具体的なT型の広げ方
 T型を広げることでインパクトファクターが上がる

第4章 時代は大きく動いている 慶應義塾大学医学部の取り組み
 慶應義塾大学の取り組み
 大学発ベンチャーの実態
 慶應義塾大学医学部発ベンチャー協議会とは何か
 拡大しつつあるベンチャー投資市場

第5章 行動した医師、それぞれの意志
 学生時代に起業したケース(1) 田邉 翼 さん
 学生時代に起業したケース(2) 中原 楊 さん
 レジデント時代(20代)に起業したケース 清水映輔 先生
 30代で起業したケース 堅田侑作 先生
 40代で起業したケース 羽藤 晋 先生
 50代で起業したケース 高橋政代 先生
 60代で起業したケース 福田恵一 先生
 IPOを実現したケース(1) 上野太郎 先生
 IPOを実現したケース(2) 石見 陽 先生
 エンジェル投資家として起業を支援したケース(1) 原 裕 先生
 エンジェル投資家として起業を支援したケース(2) ドクターX

第6章 私の体験もシェアしよう!
 学生時代
 レジデント時代
 30代
 40代
 50代
 被災地を救う「Mission Vision Van」を東北に
 次から次へと出る難題をクリアして被災者のお役に
 日ごろから構築したネットワークが生きる

第7章 坪田ラボの実験
 はじめての起業
 会社がうまくいかない五つの理由
 会社という「船」に誰を乗せるか
 起業するときの資金はどうやって調達するか
 会社の価値の算出方法
 坪田ラボのビジネスモデル
 レギュラトリーサイエンスとは何か
 株式上場までのプロセス

第8章 社会を良くして自分も伸びる
 マイケル・ポーターの「CSV経営」と医師の社会貢献
 共通するのは、社会に対する何らかの貢献
 自己実現するだけで約束された社会貢献

第9章 医療エコシステムの一翼を担う
 誇りとやりがいに満ちた「ストレスフル」な医療の世界
 これからの医療は劇的に変わる
 目指すは「医療・創薬イノベーション・エコシステム」
 医師の新たな役割は起業だけとは限らない

終章 人生マルチステージ時代、あなたは何をやるのか?
 夢の「リバースエイジング」
 医師は起業に適した能力と環境を持っている

おわりに

謝辞
 本書は、国家資格を持つ現役の医師、かつて医師だったOB・OG、医学生、医師を志す高校生、そしてその親御さんに向けて「新しい医師の役割」について書いた本です。もちろん、日本の医療を取り巻く領域に携わる人に対しても、私のメッセージが伝わることを願っています。
 これまでの医師には、「臨床」「研究」「教育」という三つの役割が課せられていました。むしろ、そう考えるのが常識だったという言い方のほうが正しいかもしれません。
 もちろん、これらの三つの役割は社会にとって必要不可欠で、それぞれの領域で粉骨砕身している現役の医師のみなさんには、最上級の敬意を抱いています。しかしながら、医療を取り巻く昨今の状況を見ると、三つの役割だけでなく「第四の役割」が必要になってきたと考えるようになりました。
 その最大の根拠は、危機感です。
 後述するように、日本国内で現在使用されている医薬品・医療機器などの大半が、すでに海外製になっています。臨床や研究でそれらを日夜扱われている医師のみなさんは、知らず知らずのうちにその状況を受け入れてしまっているのではないでしょうか。
 ところが、医薬品・医療機器の輸出入の金額推移を見ると、輸入超過額が2017年に4兆円を超えてから、その赤字幅が拡大し続けているという危機的な状況が眼前に広がっています(2023年には5兆3,000億円)。
 また、国内の医療業界に目を向けると、いずれ「医師が余る」時代がやって来ると懸念されています。
 厚生労働省が2016年(平成28年)3月に開催した「医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会(第4回)」の報告書によると、2024年に約30万人(中位推計)、2033年に33万人(上位推計)で均衡する医師の需給は、おおむね2040年には約18,000人の供給過多になると予測されています。せっかく医師の資格を手にしても、希望の場所、希望の領域で仕事ができなくなる時代が来るかもしれません。
 さらに、アメリカや中国を中心に、医療業界のさまざまな領域において、組織や企業がエコシステムを形成し、臨床、研究、教育を進化させています。それだけでなく、エコシステムが有機的に機能し、多くのイノベーションが起こっているのです。日本でも大学を中心にそのような動きがようやく始まっていますが、率直に言えば隔世の感は否めません。
 私たち日本の医師が身を粉にして奮闘しているのに、それが報われない時代がやってくるのではないか。
 そうだとしたら、医師自らが立ち上がり、その世界を変えるべく攻めていかなければならないのではないか。
 こうした危機感が、私を本書の執筆に向かわせました。
 加えて、もうひとつの執筆動機があります。
 かねてから私は、自らが生きるうえでの価値を「ごきげんに生きる」と定め、妥協せずに人生を送ってきました。ここで言う「ごきげん」を誤解される方が多いのですが、決してのんきに生きることではありません。これは、ギリシャ時代から連綿と続く、非常にクリアな考え方です。
 「個体の幸せと社会の幸せの両方を達成したとき、人は本当の意味で幸せになれる」
 これが私の想定する「ごきげん」です。自分だけの幸せを追求するのではなく、しかし社会に身を捧げる無私の精神でもなく、その両方を同時に達成することが、私自身の価値なのです。
 考えてみれば、ごく当たり前の発想ではないでしょうか。
 生命の主たる目的は、種の保存です。そのためには、まずは生存することが何よりも重要です。個体だけが幸せでも、社会が不幸では生存が脅かされます。逆に個体が不幸であれば、社会全体がいくら幸福でも、やはり生存は難しくなります。
 だとすると、38億年の生物の歴史のなか、あるいは20万年のホモサピエンスの歴史のなかでは、常に「ごきげん」でいることが生存可能性を上げてきたと考えられるのです。
 そう考えると、人は常に二つの軸で動くと考えられます。
 ひとつは「人の役に立ちたい」という発想です。「目の前で苦しんでいる患者さんを助けたい」。これは、みなさん医師が常に真剣に考えていることです。そのうえで、日本の医療にイノベーションが起こらず、海外製の医療に日本が凌駕されている現状を変え、医薬品・医療機器の輸入格差問題を解消することが、社会的に幸福になることではないでしょうか。
 もうひとつは、社会的価値だけでなく個人の幸せ、つまり「自分がやりたいことをやる」という個人的な欲望です。もう少し崇高な言葉で表現すれば「自己実現欲求」ということになるでしょう。
 一度きりの人生において、経済的にも精神的にも納得感と満足感を得られる、自分がチャレンジしたいことをやるべきではないか。それが、医師として課題と感じていることの解決につながれば、個人的な幸せにもつながるのではないでしょうか。
 この「個人的」「社会的」な幸福を同時に満たすのが、本書で私がお伝えしたい「医師の第四の役割」です。
 その主要な行動が「起業」であり、医師が起業することで、輸入に頼っている日本の医療を取り戻すことが可能となります。これによって、社会的な貢献を実現できるばかりか、起業することで経済的、社会的な自己実現ができることにつながります。
 私は、60歳で坪田ラボを起業し、これまで自分で納得できる、満足のいくチャレンジをしてきました。ぜひ、この思いと私が学んできたことをみなさんとシェアしたいのです。
 私はたまたま60歳で起業しましたが、もっと若い年齢で実現してもいいと思います。もちろん、私より遅くても遅すぎることはありません。自分自身のやりたいことをやり、自分自身の能力を生かすことが社会にとってのプラスにもなり、大きな貢献になる。それが医師という職業であり、能力なのです。
 本書が、医師のみなさんが社会的、個人的幸福を実現するために行動を始めるきっかけになれば、これ以上の喜びはありません。
 
2024年3月
株式会社坪田ラボ代表取締役社長
坪田 一男