肺癌診療ガイドライン−悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む−2022年版 第7版

急速進歩に沿う!肺癌診療のガイドライン最新版

編 集 日本肺癌学会
定 価 5,280円
(4,800円+税)
発行日 2022/12/05
ISBN 978-4-307-20456-9

B5判・584頁

在庫状況 あり

今回注目される変更点は、臨床病期IA1-2期の肺野末梢非小細胞肺癌に対する縮小手術と肺葉切除の選択に関する変更、術後病理病期IIB-IIIA期の完全切除非小細胞肺癌に対する術後補助療法への免疫チェックポイント阻害薬の導入などである。肺癌・悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍の診断と治療を取り巻くあらゆる進歩を丁寧にレビューし作り上げた最新ガイドラインを、ぜひお手元に。
●本ガイドラインについて
●2021年版(Web版)からの主な変更点一覧

第1部 肺癌診療ガイドライン2022年版
■肺癌の分類

I.肺癌の診断
 総論.肺癌の診断
1.検出方法
2.質的画像診断
3.確定診断
4.病理・細胞診断
 総論.肺癌の病理・細胞診断
5.病期診断
6.分子診断

II.非小細胞肺癌(NSCLC)
■樹形図
1.外科治療
 総論.肺癌に対する外科治療
 1-1.手術適応
  1-1-1.手術適応(術前呼吸機能・循環機能評価)
  1-1-2.手術適応(臨床病期I-II期)
  1-1-3.手術適応(臨床病期III期)
 1-2.リンパ節郭清
 1-3.T3臓器合併切除(肺尖部胸壁浸潤癌以外)
 1-4.気管支・肺動脈形成
 1-5.同一肺葉内結節
 1-6.他肺葉内結節
 1-7.異時性多発癌
 1-8.臨床病期I期非小細胞肺癌に対する胸腔鏡補助下肺葉切除、ロボット支援下肺葉切除
 1-9.外科切除後の経過観察、術後患者の禁煙
 1-10.低悪性度腫瘍
2.光線力学的治療法
3.放射線治療基本的事項
4.周術期
 総論.周術期における治療方針
 4-1.術前治療
 4-2.術後補助化学療法
  ■樹形図
 4-3.術後放射線療法
 ◆レジメン:非小細胞肺癌の術後補助化学療法
5.I-II期非小細胞肺癌の放射線療法
 総論.I-II期非小細胞肺癌における放射線治療
6.III期非小細胞肺癌・肺尖部胸壁浸潤癌
 総論.III期非小細胞肺癌・肺尖部胸壁浸潤癌における治療方針
 6-1.III期非小細胞肺癌
  6-1-1.化学放射線療法
  6-1-2.放射線単独療法
 6-2.肺尖部胸壁浸潤癌
 ◆レジメン:III期非小細胞肺癌の同時併用
7.IV期非小細胞肺癌
 総論.IV期非小細胞肺癌における薬物療法の意義
 7-1.ドライバー遺伝子変異/転座陽性
  ■樹形図
  7-1-1.EGFR遺伝子変異陽性
   ■樹形図
   □EGFR遺伝子変異陽性の一次治療:エクソン19欠失またはL858R変異陽性
   □EGFR遺伝子変異陽性の一次治療:エクソン18-21変異(エクソン19欠失・L858R変異を除く)
   □EGFR遺伝子変異陽性の二次治療以降
  7-1-2.ALK融合遺伝子陽性
   ■樹形図
   □ALK融合遺伝子陽性の一次治療
   □ALK融合遺伝子陽性の二次治療以降
  7-1-3.ROS1融合遺伝子陽性
   ■樹形図
  7-1-4.BRAF遺伝子V600E変異陽性
   ■樹形図
  7-1-5.MET遺伝子変異陽性
   ■樹形図
  7-1-6.RET融合遺伝子陽性
   ■樹形図
  7-1-7.NTRK融合遺伝子陽性
   ■樹形図
  7-1-8.KRAS遺伝子G12C変異陽性
   ■樹形図
 7-2.ドライバー遺伝子変異/転座陰性
  7-2-1.ドライバー遺伝子変異/転座陰性、PD-L1 TPS 50%以上の一次治療
   ■樹形図
  7-2-2.ドライバー遺伝子変異/転座陰性、PD-L1 TPS 1〜49%の一次治療
   ■樹形図
  7-2-3.ドライバー遺伝子変異/転座陰性、PD-L1 TPS 1%未満の一次治療
   ■樹形図
  7-2-4.ドライバー遺伝子変異/転座陰性、PS 2の一次治療
 7-3.PS不良例に対する一次治療
 7-4.二次治療以降
 7-5.Background Question/Evidence
  7-5-1.一次治療レジメン
  7-5-2.二次治療以降レジメン
 ◆レジメン:IV期非小細胞肺癌

III.小細胞肺癌(SCLC)
総論.小細胞肺癌の治療方針
1.限局型小細胞肺癌(LD-SCLC)
 ■樹形図
 ◆レジメン:限局型小細胞肺癌
2.進展型小細胞肺癌(ED-SCLC)
 ■樹形図
 ◆レジメン:進展型小細胞肺癌
3.予防的全脳照射(PCI)
 ◆レジメン:予防的全脳照射(PCI)
4.再発小細胞肺癌
 ■樹形図
 ◆レジメン:再発小細胞肺癌

IV.転移など各病態に対する治療
総論.転移など各病態に対する治療方針
 ■樹形図
1.骨転移
 ■樹形図
 ◆レジメン:転移性骨腫瘍に対する治療
2.脳転移
 ■樹形図
 ◆レジメン:転移性脳腫瘍に対する治療
3.胸部病変に対する緩和的放射線治療
 ◆レジメン:胸部病変に対する治療
4.癌性胸膜炎
5.癌性心膜炎
6.Oligometastatic disease(オリゴ転移)

V.緩和ケア
総論.肺癌の緩和ケアについて
1.緩和ケア


第2部 悪性胸膜中皮腫診療ガイドライン2022年版
総論.悪性胸膜中皮腫診療ガイドライン2020年版を利用するにあたり
■悪性胸膜中皮腫の分類
■樹形図

I.診断
1.画像診断
2.確定診断
3.病理診断
4.病期診断

II.治療
1.外科治療
2.放射線治療
3.内科治療
4.緩和治療


第3部 胸腺腫瘍診療ガイドライン2022年版
総論.胸腺上皮性腫瘍
■胸腺上皮性腫瘍の病期分類
■樹形図

I.診断
1.臨床症状と血液検査
2.存在診断と画像的鑑別診断
3.確定診断
4.病期診断

II.治療
1.外科治療
 1-1.外科治療 I-II期
 1-2.外科治療 III期
 1-3.外科治療 IV期
 1-4.外科治療 リンパ節郭清
2.放射線治療
 □胸腺上皮性腫瘍に対する放射線治療の基本事項
3.薬物療法
 3-1.胸腺腫に対する薬物療法
 3-2.胸腺癌に対する薬物療法
 ◆レジメン:胸腺腫・胸腺癌に対する薬物療法
4.治療後の経過観察
5.再発腫瘍の治療
6.偶発的に発見された小さな前縦隔病変への対応

III.病理診断
1.病理診断
 □病理診断

●付.シスプラチン投与におけるショートハイドレーション法の手引き
●索引

2022年版 序

 肺癌診療ガイドライン−悪性胸膜中皮腫・胸膜腫瘍含む−2022年版の発刊にあたりご挨拶申し上げます。

 2003年に初版「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン」が出版され、今年は19年目となります。当初は肺癌のみをスコープに入れていましたが、2016年版から悪性胸膜中皮腫診療ガイドライン、胸腺腫瘍診療ガイドラインを加えました。改めて申し上げるまでもなく、肺癌、悪性胸膜中皮腫、胸腺腫瘍の分野における医学の進歩はめまぐるしく1年の間にも複数回にわたって標準治療の知見が刷新され新たな治療法が保険承認されることも稀ではありません。本診療ガイドラインはこうした急速な進歩を反映すべく、2014年以降は毎年改訂版を作成し、WEB公開を毎年、書籍発行は隔年で行っています。

 診断・治療の進歩のスピードが速いことは大変好ましいことですが、新たな診断・治療法が患者・家族の幸福につながり、広く社会にも受け入れられることが大前提であることは言うまでもありません。当初の作成委員は全員医師でしたが、2017年から医師以外の医療スタッフを加え、さらに肺癌診療ガイドラインでは2017年から、悪性胸膜中皮腫診療ガイドラインでは2018年から、「患者さんのための肺がんガイドブック−悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍を含む」では2019年の初版から患者委員の参加をお願いしています。その目的は、医学のめまぐるしい変遷のなかで、ともすると医師からの視点に偏りかねないガイドライン作成過程に広範な医療者、および患者・市民の視点を加えていただくことであります。一方、患者・市民委員の役割を最大限活用するための方法は未確立と言わざるを得ません。診療ガイドライン作成委員会の枠組みを大きく超えた広い議論が求められます。来年2023年版は本診療ガイドライン初版から記念すべき20年目の節目となります。是非ともこの点で成果を上げたいと考えます。

 2022年版で特に注目される変更点として、臨床病期?A1-2期の肺野末梢非小細胞癌に対する縮小手術と肺葉切除の選択に関する変更、術後病理病期?B-?A期の完全切除非小細胞肺癌に対する術後補助療法への免疫チェックポイント阻害薬の導入などがあげられますが、今後も細部にわたる活発な議論が予測されます。EGFR遺伝子変異陽性例の完全切除症例に対するキナーゼ阻害薬による術後療法についても大きな議論が予測されます。周術期治療については2023年版以降に議論されると思われる術前免疫チェックポイント阻害薬も含め、優先的に評価すべきアウトカムを巡る議論が一層活発になると予測されます。その他、非小細胞肺癌の分子診断の追加、悪液質に対する新規薬剤の推奨の追加も重要です。かねてより本診療ガイドラインでは保険承認のないものにも推奨があることにご批判・ご賛同の両意見をいただいてきましたが、2022年版では胸膜中皮腫に対する血管新生阻害薬に関する推奨の変更が注目されるかもしれません。

 外部評価および肺癌学会会員からは本診療ガイドラインに対する多くのご意見をいただいています。その中には、同一の病態に対して異なる治療選択肢が並列に推奨されておりどの治療がベストか指定されていないという批判が含まれます。しかし多くの研究成果により選択肢が増えることは多様な価値観に対応できることの保証となる可能性もあり、慎重に対応する方針です。コストベネフィットに関する議論については今後検討を始める必要があると考えます。推奨度分類の「推奨度決定不能」に対しては本診療ガイドラインにGRADEシステムを導入して以来一貫してご批判いただいています。これについては「本ガイドラインについて」において少し詳しい説明を加えましたので是非ともご参照下さい。診療ガイドラインには明瞭さが求められますが、臨床医学の不確実性の認識も重要と考えます。

 なお、本診療ガイドラインに準じた「患者さんのための肺がんガイドブック−悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍を含む−2022年改訂版」を日本肺癌学会のホームページにて公開いたしました。患者・家族の皆様に適切な医療情報を提供できるのはもちろん、患者の立場を反映する工夫もしましたので、医療提供者の皆様には是非とも患者と一緒にご利用下さるようお願い致します。

 最後になりますが、本診療ガイドライン作成にご尽力いただいた各委員会、小委員会の皆様に深甚なる感謝の意を表します。作成過程において委員の1人が急逝されました。直前までパブリックコメントに対する回答書作成などの対応を行って下さっていたことを考えるとあまりにも突然の悲報に言葉を失うほかありません。ご冥福をお祈りするとともに、彼が必ずや持っていたはずの遺志を尊重するためにもますます本診療ガイドラインを発展させることをここに誓います。

2022年10月

特定非営利活動法人日本肺癌学会 理事長 弦間 昭彦
ガイドライン検討委員会     委員長 滝口 裕一