がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き 2023年版 第3版

緩和医療に携わる医療者必携の手引きを、5年ぶりに改訂

編 集 日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会
定 価 2,860円
(2,600円+税)
発行日 2023/06/20
ISBN 978-4-307-10225-4

B5判・212頁・図数:29枚

在庫状況 あり

本手引きでは、がん患者の治療抵抗性の苦痛に対する、鎮静を含めた総合的な対応や考え方を提示している。今版では、(1)重要事項を要点としてまとめ、鎮静の実施を検討するうえでのフローチャートを作成、(2)難治性の痛み・せん妄・呼吸困難の治療アルゴリズムと、治療抵抗性と判断する目安を提示、(3)複数の法律家で検討した「法的検討」の章を本文に掲載、(4)鎮静の実証研究をレビューした図表の作成、などの改訂を行った。前版の2018年版で改訂された方針を踏襲し、さらに臨床現場で使いやすくなった一冊。
鎮静に関するよくある質問

I章 はじめに
1 目的
2 適応の注意
  1.対象
  2.効果の指標
  3.想定される利用対象者
  4.個別性の尊重
  5.定期的な再検討の必要性
  6.対象とする薬剤
  7.責任
  8.利益相反

II章 手引きの要点とフローチャート
1 手引きの要点
  1.用語の定義
  2.治療抵抗性の苦痛への対応の考え方
  3.持続的な鎮静薬の投与を行う要件と適用
  4.持続的鎮静の相応性
  5.鎮静薬を投与する意図
  6.患者・家族の意思
  7.医療チームの合意
  8.患者の意思確認の過程
  9.鎮静薬の選択
  10.鎮静薬の投与方法
  11.鎮静中の評価とケア
2 治療抵抗性の耐えがたい苦痛が疑われた場合の対応についての基本的な考え方のフローチャート

III章 定義
1 用語の概念と定義
  1.治療抵抗性の苦痛・耐えがたい苦痛
  2.鎮静・鎮静薬
  3.鎮静の分類
  4.その他の定義

IV章  実践(1)治療抵抗性の苦痛に対する持続的な鎮静薬の投与を行う前に考えるべきこと
1 はじめに
2 苦痛に対する緩和ケア
 1 トータルペインの概念
 2 痛みに対する緩和ケア
  1.概要
  2.原因の同定と治療
  3.治療目標の設定
  4.苦痛を悪化させている要因の改善を目的とした治療・ケア
  5.医学的治療
  6.治療抵抗性と判断する目安
  7.未解決の課題
 3 難治性せん妄に対する緩和ケア
  1.概要
  2.原因の同定と治療
  3.治療目標の設定
  4.苦痛を悪化させている要因の改善とケア
  5.医学的治療
  6.治療抵抗性と判断する目安
  7.未解決の課題
 4 呼吸困難に対する緩和ケア
  1.概要
  2.原因の同定と治療
  3.治療目標の設定
  4.苦痛を悪化させている要因の改善とケア
  5.医学的治療
  6.治療抵抗性と判断する目安
  7.未解決の課題
3 苦痛に対する閾値をあげ人生に意味を見出すための基盤となるケア
 1 精神的ケア
 2 スピリチュアルペインに対するケア
  1.スピリチュアルペインとは何か
  2.スピリチュアルペインのアセスメントとケア
  3.治療抵抗性の苦痛をもつ患者に関わる医療者のケア
  4.未解決の課題
4 間欠的鎮静

V章  実践(2)治療抵抗性の苦痛に対する持続的な鎮静薬の投与
1 要件
2 相応性の判断
  1.苦痛の強さの評価の仕方
  2.治療抵抗性の確実さの評価の仕方
  3.予測される生命予後の評価の仕方
  4.精神的苦痛・スピリチュアルペインの鎮静の対象としての相応性
  5.生命予後が比較的長いと見積もられる患者の痛みが緩和されない時の相応性
3 意図の確認
4 患者の意思確認の過程
  1.あらかじめ患者の意思を確認することについての考え方
  2.意思決定能力の評価の仕方
  3.意思決定能力がある患者の希望の確認の仕方
  4.患者に意思決定能力がない場合の対応の仕方
  5.説明内容
  6.患者と家族の意思が異なる時の考え方
5 チーム医療
  1.医療チームによる判断
  2.診療記録への記載
6 実際の投与方法と評価・ケア
  1.鎮静薬の投与方法
  2.鎮静開始直前の患者・家族への配慮
  3.鎮静中の継続的な評価
  4.鎮静中の患者・家族へのケア
  5.水分・栄養の補給などについての考え方

VI章 倫理的検討
  1.鎮静の益と害
  2.鎮静の倫理的妥当性
  3.まとめ

VII章 法的検討
1 総論
  1.法的な観点についての検討の経緯
  2.法的な観点から検討する意味と刑事(法)的な観点を中心とすること
  3.法的な観点からの検討の制約と、行政ガイドラインと倫理的な観点との関係
  4.緩和医療行為としての鎮静を対象とする
  5.鎮静が法的に許容されることについての複数の見解
  6.総論と各論の架け橋
2 各論
 1 耐えがたい苦痛について、肉体的苦痛のほか、不安・抑うつ、心理・実存的苦痛などの精神的苦痛を含むのか
 2 予想される生命予後の長さは鎮静の許容要件に影響するのか
 3 患者が意思表示できる時に、どのような説明内容・説明方法が求められるのか
 4 患者が意思表示できない時に、推定された患者の意思はどのような意味をもつのか

VIII章 背景知識
 CQ 1 鎮静はどのように定義されているか
 CQ 2 鎮静はどのくらいの頻度で行われているか
 CQ 3 鎮静は治療場所によって頻度が異なるか
 CQ 4 鎮静の対象となる苦痛は何か
 CQ 5 鎮静にはどのような薬剤がどのくらいの投与量で用いられるか
 CQ 6 鎮静の効果はどうか
 CQ 7 鎮静の安全性はどうか
 CQ 8 患者・家族は意思決定にどのように参加しているか
 CQ 9 鎮静は生命予後を短くするのか
 CQ 10 鎮静に関して家族はどのような体験をしているのか
 研究方法・文献
  1.CQ1〜9 の研究方法
  2.CQ10 の文献レビューの方法

IX章 開発過程
1 開発過程
  1.概要
  2.作成方法
2 開発者と利益相反
3 今後の検討点
  1.手引き全体の構成と対象について
  2.鎮静の妥当性の評価について
  3.患者や家族の意思について
  4.苦痛の評価について
  5.具体的な治療法・ケアについて
  6.鎮静の定義・概念について
  7.倫理的検討、法的検討について
  8.その他

資料
 資料1 Integrated Palliative care Outcome Scale(IPOS)スタッフ版
 資料2 Support Team Assessment Schedule 日本語版(STAS-J)症状版
 資料3 緩和ケア用Richmond Agitation-Sedation Scale(RASS)日本語版 
 資料4 ミダゾラムの調整と評価方法の具体例
 資料5 日本語版Critical-Care Pain Observation Tool(CPOT-J)
 資料6-1 終末期せん妄による不穏/興奮に対する内服不可能時の対応例
 資料6-2 終末期せん妄による不穏/興奮に対する内服不可能時の対応例
 資料6-3 終末期せん妄による不穏/興奮に対する内服不可能時の処方例
 資料7-1 終末期呼吸困難に対してオピオイド持続注射開始後、呼吸困難と意識のバランスを取りながら薬物療法を調整する方法
 資料7-2 オピオイド持続注射開始、調節の具体例

索引
発刊にあたって

 日本緩和医療学会では、その主たる活動のひとつである症状緩和ガイドライン作成の一環として、2004年から苦痛緩和のための鎮静に関するガイドラインの作成に取り組んでおり、今回の手引きは、2005年、2010年、2018年に続く4冊目(書籍としては第3版)となります。
 前回の2018年から、この冊子の名称は、「ガイドライン」ではなく、「がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き」に変わっています。それは、このガイドラインがMindsなどの標準的なガイドラインの作成方法に従って作成されたものではなく(鎮静の定義そのものが国際的に議論となっており、そうすること自体の意義が乏しいためあえて選択していない)、実際に臨床家が現場で治療抵抗性の苦痛に遭遇したときにどう対応したらよいかが、研究成果と専門家の臨床知に基づいて、具体的に、症状別にまとめられているため、「手引き」と名付けられていると理解しています。
 特に今回は、2つの大きな変更に気がつきました。1つ目は、冊子の前半で手引きの要点が35のコンサイスな項目にまとめられ、治療抵抗性の苦痛に対する基本的な考え方のフローチャートが示されたことです。この部分を読むだけでも「治療抵抗性の苦痛にどのように対応するか」のエッセンスを知ることができ、さらに深く学ぶモチベーションが湧いてくるのではないかと感じました。2つ目は、VII章に治療抵抗性の苦痛に対する鎮静に関する法的検討の項目が加えられたことです。法的な許容性の根拠と疑念をはじめとする事項に対する考え方が示されたことで、臨床家が自信を持って治療抵抗性の苦痛に対応し、適切に鎮静を実施するにあたり、大きな助けになるのではと感じました。
 この手引きの改訂は、今井堅吾鎮静ガイドライン改訂WPG員長、池永昌之、森田達也WPG副員長をはじめ多くの専門家、法学者、倫理学者、レビュワーの皆様方の多大な努力の結晶であり、関わったすべての皆様に深く感謝いたします。
 この手引きがわが国の緩和医療・ケアを支える医療従事者にとって、治療抵抗性の苦痛への対応をナビゲートする海図としての役割を果たし、患者のQOL向上の一助となることを切に願い、巻頭の言葉とさせていただきます。

2023年5月
特定非営利活動法人 日本緩和医療学会
理事長 木澤 義之