Fever 発熱について我々が語るべき幾つかの事柄

専門家が語る発熱診療の本質―難攻不落の発熱と闘うための指針!

著 者 大曲貴夫 / 狩野俊和 / 忽那賢志 / 國松淳和
佐田竜一
定 価 6,050円
(5,500円+税)
発行日 2015/05/10
ISBN 978-4-307-10170-7

A5判・608頁

在庫状況 あり

発熱は日々最も普遍的にみられる症状である。しかし発熱診療はときに困難で、ときに重大な判断を伴う。そのようなときでも「発熱診療の本質」を誤らなければ、目の前の発熱患者にすべきことは、かすかにほの見えてくるはずである。本書は各専門領域で発熱診療に奮闘する著者たちが、現場での文脈に沿って発熱原因の探求について語る叙述である。そしてすべての医師に捧げる、難攻不落の発熱に真正面から取り組むための指針である。

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I章 Feverその本質について
Editorial 発熱の病態生理がどう臨床に生きるのか
A 病態生理から発熱の正体を探る
 1 発熱とはなにか?
 2 発熱の生理
 3 体温の測定法
 4 発熱とバイタルサインの連動
B 発熱に関する臨床上の命題を考える
 1 疾患毎の熱型
 2 発熱の経過と予後
 3 発熱の治療
 4 不明熱とはなにか?

II章 発熱診療の臨床推論
Editorial “Listen”でも“Hear”でもなく“Take”である意味
A Taking a medical history
 1 発熱患者の問診
 2 発熱におけるReview of systems
B Taking examinations
 1 発熱患者の身体診察
 2 よくわからない発熱における検査の用い方

III章 発熱診療における各領域の視点─発熱診療の暗黙知について
Editorial「発熱診療の暗黙知」とは何か?
 1 感染症医が嗅ぎとる「感染症っぽい発熱」
 2 「これは腫瘍ではないか」と疑う発熱
 3 リウマチ医を本気で探すとき
 4 「うちの科じゃない熱」へのアプロ−チ

IV章 臨床状況に応じた発熱診療
Editorial臨床状況によって発熱診療はどう変わるのか
A 患者年齢別に発熱診療を考える
 1 生来健康な成人の発熱
 2 高齢者の発熱
 3 小児の発熱
B シチュエ−ションごとに発熱診療を考える
 1 入院患者・ICU患者の発熱〜術後を除く〜
 2 術後患者の発熱
 3 固形臓器移植後患者の発熱
 4 造血幹細胞移植後患者の発熱
 5 渡航後の発熱
 6 繰り返す発熱
C 基礎疾患を有する患者の発熱診療を考える
 1 悪性疾患患者の発熱
 2 リウマチ性疾患患者の発熱
 3 透析患者の発熱
 4 HIV/AIDS患者の発熱

V章 発熱・不明熱の鑑別─mimickerとconnection
Editorial「mimicker」にだまされてしまわないように
A 「発熱+α」の症候学
 1 発熱+リンパ節腫脹/脾腫
 2 発熱+結節/腫瘤形成
 3 発熱+皮疹
 4 発熱+口腔病変
 5 発熱+筋骨格症状
 6 発熱+腹部症状
 7 臓器特異的症状がない発熱
 8 発熱+血小板増多
 9 発熱+血小板減少
 10 発熱+白血球減少
 11 発熱+炎症反応陰性
 12 発熱+その他の血液検査値異常
 13 発熱+ショックバイタル
 14 発熱+意識障害
B 3大不明熱疾患を考える
 0 はじめに
 1 結 核
 2 リンパ腫
 3 血管炎
C 不明熱の「mimicker」を考える
 1 Vasculitis(血管炎)mimicker
 2 PMR(リウマチ性多発筋痛症)mimicker
 3 SLE(全身性エリテマト−デス)mimicker
 4 AOSD(成人スティル病)mimicker
 5 IgG4RD(IgG4関連疾患)mimicker
D 疾患どうしの組み合わせで鑑別を考える
 1 リウマチ性多発筋痛と亜急性感染性心内膜炎
 2 全身性エリテマト−デスと成人スティル病と菊池病と播種性結核とリンパ腫
 3 悪性リンパ腫とマラリアと回帰熱
 4 結節性多発動脈炎と結核
 5 血管免疫芽球性T細胞リンパ腫と好酸球性多発血管炎性肉芽腫症とIgG4関連疾患
 6 多発血管炎性肉芽腫症と節外性NK?/T細胞性リンパ腫、鼻型など
 7 多中心性キャッスルマン病とIgG4関連疾患と辺縁帯B細胞性リンパ腫
 8 家族性地中海熱と急性間欠性ポルフィリン症と遺伝性血管性浮腫
 9 再発性多発軟骨炎とCogan症候群と側頭動脈炎〜さらに、多発血管炎性肉芽腫症と原田病も加えて〜
 10 亜急性甲状腺炎と甲状腺原発リンパ腫と無痛性甲状腺炎
 11 ベ−チェット病と炎症性腸疾患関連関節症と反応性関節炎
 12 髄膜炎とCrowned dens症候群と深頸部感染症
 13 詐熱とミュンヒハウゼン症候群と心因性発熱

VI章 発熱診療のpsycho−socialな側面

発熱と不安

あとがきに代えて 診断名のない症例検討会
INDEX

発熱が病のひとつの表現として認知されるようになったのは、いつからだろうか。
 発熱は、疾病のひとつの表現として普遍である。そして現代でも医療者が発熱を病の典型的な表現のひとつとしてとらえ、その本体に迫ることで患者の健康の問題を解こうと努力している。
 発熱の原因は多くは遍在しているもので、診断にはさほど困難は生じない。しかし発熱診療はときに困難である。発熱にかかわる診療にはときに重大な判断を伴う。
 急を要する重大な疾患によることもあれば、ゆっくりと患者の身体を蝕んでいく疾患の表現の場合もある。発熱原因の探求には困難をきたす場合もある。発熱以外の症状・所見が不明瞭であるために診断が困難となる場合もあれば、しかし一方で発熱以外の臓器系統の症状所見が明確であるにもかかわらず、その質的診断にどうしても迫れないこともある。
 発熱にかかわる問題にいかに取り組めばよいのだろうか。発熱に真正面から取り組むときに、遭遇する頻度の高い疾患を中心にバランスよく診療を行うには医師としての総合的なアプローチは必須である。
 ここであえて「内科医」と書かずに「医師」と書いているのは、発熱診療の根本的な点は医師の必須の素養と信じてのことである。しかしそこで、遭遇頻度の低い、専門的な疾患を考慮すべき状況もある。その際には専門家の参画が必要である。しかし専門家は、専門領域に縛られがちという認知上の落とし穴を抱えている。つい、発熱の原因は自身の専門領域の疾患であるとの前提条件を無意識に定めてしまい、その範囲で思考を巡らせてしまうのである。
 現代の医療者は専門分化が進んでいるがゆえに、認知上の過ちを犯しやすくなっている。発熱の診療においてもこれは当然当てはまる。私たちは、発熱に伴うこうした認知上の穴を相互に埋めあうことが必要である。そこで、発熱に関わる各専門領域の医師が集まり、編んだのが本書である。
 本書はきわめて叙述的に書かれている。近年の医学書は、過度にマニュアル化されて体言止め箇条書きの文が無秩序に並んでいたり、いわゆる「エビデンス」なるものがやたらと引用され、その適用されるべき医療の場面の文脈を無視して無機的に並べられていたり、というものが目立つ。そこには、場の設定もないし、流れもない。現場でいかに思考し、行動していくか。本書はそのための指針たるべく努力したつもりである。

2015年4月
著者を代表して
大曲 貴夫