日本におけるリンパ浮腫のほとんどは乳がんや子宮・卵巣がんなどの治療後に四肢に発症する続発性リンパ浮腫です。日本リンパ浮腫学会はリンパ浮腫に関する研究,教育および臨床力向上を目指して活動している学術団体です。その日本リンパ浮腫学会が編集した患者さん向けの書籍「患者さんのためのリンパ浮腫ガイドライン 2025年版」から,内容の一部をご紹介します。
セルフケアのためのリンパ浮腫指導を受けることは有用ですか?
セルフケアは,十分な指導を受けて行う場合には,リンパ浮腫の発症予防や発症後の増悪予防となり得ます。一方,上肢リンパ浮腫に対する研究に比べ,下肢リンパ浮腫に対する研究は少なく,有効な指導内容や効果については,現時点で明らかにされていません。今後,更なる研究が望まれます。
平成20 年度の診療報酬改定でリンパ浮腫指導が保険で行えるようになりました1)。指導の具体的な内容として,①リンパ浮腫の病因と病態,②リンパ浮腫の治療方法の概要,③セルフケアの重要性と局所へのリンパ液の停滞を予防および改善するための具体的実施方法,④生活上の具体的注意事項,⑤感染症の発症等増悪時の対処方法が挙げられます。また,平成28 年度からリンパ浮腫複合的治療が保険適用となり,算定要件としては「弾性着衣または弾性包帯による圧迫,圧迫下の運動,用手的リンパドレナージ,患肢のスキンケア,体重管理等のセルフケア指導等を適切に組み合わせ行うこと」「一連の治療において患肢のスキンケア,体重管理等のセルフケア指導は必ず行うこと」と明記されています2)。医療制度上,セルフケアのためのリンパ浮腫指導を行うことは,既にリンパ浮腫診療の一部として組み込まれているといえます。
セルフケアの具体的な内容は,スキンケアとして患肢の傷や針刺し,巻き爪,虫刺され,ペットの引っかき,やけどに注意することとその対処,皮膚感染したときの抗菌薬の使用,サウナやスチームバス,熱い風呂などに対する注意喚起,旅行時の注意事項,運動の推奨,体重管理が挙げられます。
上肢リンパ浮腫に対するセルフケアの効果を検証した研究では,上肢機能,疼痛,だるさなどの自覚症状や生活の質(quality_of_life:QOL)の改善が報告されています。上肢のリンパ浮腫と比べて,下肢のリンパ浮腫に関する研究は少ない現状ですが,下肢についてもセルフケアの有用性は同様に報告されています。リンパ浮腫に対するセルフケアの効果については,肯定的な報告が集積されている現状ですが,今後は患者さんに応じたセルフケアの内容,実施する頻度や時間など,具体的な指導法が確立されていくことが望まれます。
参考文献
1)厚生労働省.診療報酬の算定方法の制定等に伴う実施上の留意事項について.B001-7 リンパ浮腫指導管理料.https://www.mhlw.go.jp/topics/2008/03/dl/tp0305-1d.pdf
2)厚生労働省.平成28 年度診療報酬改定.質の高いリハビリテーションの評価等⑧.https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000115977.pdf
Q&A
リンパ浮腫の治療
リンパ浮腫の標準治療を教えてください。
リンパ浮腫の標準的な治療は,複合的治療になります。複合的治療とは,①スキンケア(Q1参照)②用手的リンパドレナージ(Q14参照)③弾性着衣または弾性包帯による圧迫(圧迫療法)(Q12, 13参照)④圧迫下での運動(Q16参照)⑤体重管理などのセルフケアを組み合わせた治療(Q8参照)になります。
体幹部やわき下の後ろ,腕の付け根に浮腫がある場合のセルフケアがあれば,教えていた
だきたいです。
体幹部の浮腫を認める場合は,衣類などの圧迫によりリンパ液の流れが滞っている可能性があります。上肢であれば,絞めつける力が強いブラジャーを避けることも大切です。また,指輪や時計による締め付けもリンパ液の流れを阻害することがあるため,気をつけましょう。下肢の場合は,鼠径部(そけいぶ)に食い込むようなショーツは避けるようにしましょう。
がんが進行していて両足浮腫が顕著です。リンパ浮腫を改善する方法はありますか?
がんが進行した時期では,リンパ浮腫の治療を行うことで症状を悪化させる可能性があります。そのため,主治医と相談しながら慎重に治療を進める必要があります。全身状態にもよりますが,体に負担が少ない弱圧の圧迫素材(チューブ包帯等)で圧迫すると症状が楽になることもあるかもしれません。いずれにしても主治医にご相談ください。
コロナ禍で,手にグローブを装着している場合の消毒について教えてください。
リンパ浮腫のセルフケアの基本はスキンケアであり,清潔・保湿・保護になります。そのため,手指消毒を行ってもかまいませんが,グローブは頻回に洗濯を行いきれいな状態を保つように心がけましょう。
また,弾性着衣が汚れてもよいように,外出時に替えの弾性着衣を持っておくと安心かもしれません。
下肢リンパ浮腫です。寝るときに脚をどのようにするのがいいでしょうか。
リンパ液は体液なので,重力の影響を受けます。休息を取る際や就寝時には,リンパ液が心臓に戻りやすいように脚を挙上(きょじょう)しましょう。就寝時の高さは,心臓より少し高い10cm~15cmを目安にしてください。
毎日すべき事,してはいけない事はありますか?自宅でできるリンパ浮腫予防のためのセルフケアについて知りたいです。
リンパ浮腫が発症していない場合は,スキンケアや適度な運動,日常生活での注意点を中心としたセルフケアを行い,リンパ浮腫予防・早期発見に努めましょう。
リンパ浮腫を発症している場合は,リンパ浮腫を増悪させないこと,あるいは軽減させることを目指し,セルフケアを習慣化させましょう。また,スキンケア・圧迫療法・圧迫下での運動・日常生活での注意を日々の生活の中に取り入れましょう。
「 無理をしない」ための自分のための基準(ルール)作りとそれを大事にする方法が知りたいです。今以上に悪化させないような暮らし方を教えてください。
リンパ浮腫は長期化すると完治が難しいため,発症させないことが一番です。乳がんや子宮がん等の手術後では,個人差があるものの,リンパの流れが滞りやすい状態にあるため,リンパ浮腫発症の可能性があります。リンパ浮腫について正しく理解し,予防のためのセルフケアを行うことで,リンパ浮腫発症のきっかけを作らない生活を心がけましょう。
リンパ浮腫を発症してしまった場合には正しく対処し,浮腫の軽減と維持に努めましょう。増悪を防ぐためにもセルフケアは欠かせません。日常生活の中にセルフケアをうまく取り入れ継続させて,浮腫増悪のリスク軽減に配慮しましょう。ただし神経質になる必要はなく,日常の中でできることから少しずつ行うことが大切です。
スキンケア
スキンケアはなぜ必要なのでしょうか?リンパ浮腫とスキンケアがどのように関係していて,どのように大切なのか知りたいです。
リンパ浮腫の患肢は,正常な皮膚に比べて感染症にかかりやすく,また,感染症にかかると炎症も悪化しやすい状態にあります(〈合併症〉のQ&Aを参照)。そのため,スキンケアとして皮膚を清潔に保ち,保湿を心がけ,外傷から保護することが大切です。
スキンケアは毎日しないといけないのでしょうか?
スキンケアはリンパ浮腫治療において重要であり,継続していくことが大切です。ご自身の生活のタイミングで毎日,行うように心がけましょう。
市販品でスキンケアをしてもいいですか?
保湿剤は,皮膚への過度な刺激をさけるために,添加物やアルコール成分が入っていないものを選びます。保湿剤のタイプには,ローションやクリーム,軟膏などがあります。ローションは広範囲に広げやすく,保湿クリームや軟膏は保湿効果が高いなど,それぞれ特徴があります。乾燥の状態に合わせて,適時,スキンケアを行うようにしましょう。
病院でスキンケアのお薬は頂けるのでしょうか?
市販されている保湿剤でも問題ありませんが,かゆみなどの症状があるときは,医療機関を受診し,処方してもらうことも可能です。
合併症
合併症が起こったときは,どのように対応したらいいですか?
リンパ浮腫の代表的な合併症には,蜂窩織炎(ほうかしきえん)があります。リンパ浮腫になると,リンパ液がうっ滞し,免疫を担う白血球が上手く働かない状態となります。そのため,細菌やウイルスが体内に侵入しても十分に処理できず,感染しやすくなり,合併症を発症してしまう場合があります。多くは抗生物質(抗生剤)での治療が必要になるので,医療機関を受診しましょう。
リンパ浮腫の腕に夏場,あせものような赤い膨らみが出ます。痒みを伴うときに患部を保冷剤で冷やすのは,間違いでしょうか?
皮膚に炎症(熱感)を伴う場合に,患部を冷やすことは問題ありません。ただし,長時間の冷却は,凍傷の危険を伴いますので注意しましょう。患肢にあせもやかぶれ等の症状が出た際には,医師やセラピストに相談しましょう。
真っ赤になって熱が出てきた場合や,蜂窩織炎などの合併症が起こった場合,何科にかかればいいですか? 真っ赤になって熱が出てきた場合や,蜂窩織炎などの合併症が起こった場合,何科にかかればいいですか? 「蜂窩織炎になったら,救急にかかってください」と指導がありました。蜂窩織炎がどのような症状になったらかかればいいですか? 病院へ行くまでの応急処置はありますか? コロナ禍で以前のようにドレナージを定期的に受けられずに過ごしています。蜂窩織炎や日々の生活のなかで見過ごしてはいけない兆候,悪化を確認するサインなどありましたら,是非教えていただきたいです。
蜂窩織炎の症状を認めた場合は,皮膚科の受診をお勧めします。蜂窩織炎になると,発疹(赤み)・腫脹〔腫(はれ)〕が感染部位周囲に急速に広がります。自覚症状としては,局所の熱感,圧痛,自発痛があります。また,倦怠感や高熱を認める場合もあります。症状が悪化した場合は,敗血症を発症する場合もあるので,早い段階で医療機関を受診する必要があります。蜂窩織炎の治療には,抗生物質(抗生剤)の投与,炎症のある部分を冷やす,安静が必要です。
日常生活で,蜂窩織炎にならないための注意点はありますか?蜂窩織炎になったときに,やっていいこと,だめなことを教えてください。蜂窩織炎を繰り返しているのですが,予防方法はありますか?
蜂窩織炎などの感染症は,リンパ浮腫を悪化させる要因であり,感染を予防することが大切となります。蜂窩織炎の予防には,スキンケアと生活習慣の見直し(Q1参照)が重要です。
象皮症について教えてください。
象皮症は,皮膚の線維化が進み,皮膚が硬くなった状態となります。その影響で皮膚が変形したり,イボなどができることもあります。皮膚は厚くなりますが,乾燥しており,もろい状態です。蜂窩織炎を繰り返すことによって悪化していきます。
手術前・手術後の時期
手術の前に実施される複合的治療について教えてください。
手術前にリンパ浮腫の予防指導は行いますが,複合的治療は実施しません。
手術前に患者が事前に準備しておくことはありますか? 術後どのくらいで通常生活に戻れますか?
家事や仕事の復帰には特に制限はありませんが,術後の回復は手術の種類,術後の経過などによって変わってきます。ご自身の体調に合わせて,医師や職場の方と相談しながら少しずつ元の生活に戻していくとよいでしょう。また,術前にリンパ浮腫の発症予防について,理解を深めておくと安心かと思います。
術後のセルフケアの仕方が分かりません。どこで教えてもらえますか?
手術を行った施設では,リンパ浮腫発症予防のための指導がリンパ浮腫指導管理料として入院中に1回,外来で1回算定できることになっています。術後のセルフケアの指導についても含まれているので,手術を行った病院でリンパ浮腫予防指導について聞いていただくと良いかと思います。
術後の生活上の注意点などを教えてください。術後の注意点はどんなことがありますか?
リンパ浮腫が発症していない場合は,スキンケアや適度な運動,日常生活での注意点を中心としたセルフケアを行い,リンパ浮腫予防・早期発見に努めましょう。
続発性リンパ浮腫に対して,用手的リンパドレナージ(MLD)は標準治療として勧められますか?
続発性リンパ浮腫に対して,シンプルリンパドレナージ(SLD)は標準治療として勧められますか?
リンパ浮腫患者さんに対する用手的リンパドレナージ(MLD)の効果を示す十分なデータは,上肢・下肢ともに少なく,症例の選択は慎重に行わなければなりません。
リンパ浮腫患者さんに対するシンプルリンパドレナージ(SLD)の効果を示す十分なデータは,上肢・下肢ともエビデンス(科学的根拠)に乏しく,現時点では勧められません。
リンパドレナージには用手的リンパドレナージ(manual_lymphatic_drainage:MLD)とシンプルリンパドレナージ(simple_lymphatic_drainage:SLD)があります。MLD は障害のあるリンパ経路の活動を増やし,リンパ管を迂回することによって停滞しているリンパ流を改善することができます。さらにSLD はより簡便で,患者さんおよびご家族が自宅で行える方法です。MLD が一定の教育を受けた医療者が行うのに対し,SLD は患者さんやご家族が行うもので,セルフリンパドレナージと呼ばれることもあります。
上肢リンパ浮腫(治療)
上肢リンパ浮腫治療においては,MLD 単独ではなく,圧迫療法やエクササイズ,スキンケアを併用した治療が行われます。そのため,報告されている論文においてもMLD 単独ではなく,圧迫療法との併用の効果検証が示されています。また,MLD に関しては,リンパ浮腫の重症度や治療回数,期間などにより効果の違いがあり,施行する対象を選択して適切な頻度や期間を検討することにより,効果を発揮できる可能性があると考えられます。SLD については,十分なデータがないため,単独の効果はいまだ不明であり,現時点では勧められません。
下肢リンパ浮腫(治療)
下肢リンパ浮腫治療においても,MLD 単独ではなく,圧迫療法やエクササイズ,スキンケアと併用した治療が行われます。そのため,上肢同様に報告されている論文においてもMLD 単独ではなく,圧迫療法との併用の効果検証が示されています。また,上肢リンパ浮腫と比べ下肢リンパ浮腫に対するMLD の治療効果を示す十分なデータは少なく,上肢の報告を考慮すると,患者さんの意向を十分に検討し,かつ効果がはっきりと評価される場合に限り施行が推奨されます。SLD についても,上肢同様にSLD 単独の施行は報告例も少なく,現時点では勧められません。
Q&A
リンパドレナージなどのリンパ浮腫の治療(複合的治療)は保険適用でしょうか?
2016年からリンパ浮腫の複合的治療は,施設基準を満たしている施設で医師の指示のもと行った場合,保険適用になりました。現在,重症の患者さんには40分以上で200点,それ以外の患者さんには20分以上で100点の診療報酬がついています。また,施設に問い合わせて保険で治療を行っているか確認してみると良いかと思います。
シンプルリンパドレナージ(セルフリンパドレナージ)は毎日したほうがよいのでしょうか? エビデンスがないので,やらないほうがよいでしょうか?
シンプルリンパドレナージ(SLD)は,発症後にリンパ浮腫を軽減させる効果について,現時点ではほとんど研究されていない状況です。また,シンプルリンパドレナージのやり方には,定められた方法はありません。むしろ自分の体を触ることで,自覚症状では気づかなかったむくみや体の変化に早期に気づくことが大切と思います。
有害事象がない場合,シンプルリンパドレナージ(SLD)を行うことを止めることはありませんが,状態の改善を望む場合は,エビデンスが高い治療が優先されるべきであり,継続的に日々のセルフケアを行うことが重要となります。
セルフケアは自分にとってとても効果があるのですが,シンプルリンパドレナージ(セルフリンパドレナージ)はなぜガイドラインでは推奨されていないのでしょうか?
セルフケアには保湿などを含めたスキンケアや感染や怪我などの予防,体重管理や運動などが含まれますがシンプルリンパドレナージ(SLD)は含まれません。専門家ではなく,患者さん自身が行うシンプルリンパドレナージ(SLD)は,行う人によって手技や実施時間がまちまちになるなど,一定の条件設定が難しく,客観的な効果を示しにくいため,シンプルリンパドレナージ(SLD)の治療効果については,十分に検証されていないのが現状です。
一般のマッサージ店などでリンパマッサージを受けてもよいのでしょうか? リンパ浮腫の治療として行うものと違いはあるのでしょうか?
リンパドレナージには,がん術後に生じるリンパ浮腫の軽減を目的とした医療行為(治療)としてのリンパドレナージ(用手的リンパドレナージ)や痩身や美顔を目的とした美容的なリンパドレナージがあります。医療的リンパドレナージは,医学的知識に基づき,患者さんの病態や解剖生理を考えながら,手術創やリンパ節郭清(リンパせつかくせい)などの影響を受けていない部位に迂回し,リンパ液を流します。しかし,マッサージ店やエステサロンなどで行われる美容的なリンパドレナージは,リンパ浮腫の予防や治療の効果はなく,かえってリンパ浮腫を発症・悪化させる可能性があります。
シンプルリンパドレナージ(セルフリンパドレナージ)の指導はどこで受けられますか?
リンパ浮腫複合的治療を行っている施設によってはシンプルリンパドレナージの指導を行う場合がありますが,シンプルリンパドレナージの有効性は証明されていないので,指導を受けることを推奨するわけではありません。
むくみがなかなか改善しません。セルフリンパドレナージは効果がありますか?
シンプルリンパドレナージは,予防はもちろん,発症後に浮腫を軽減させる効果についても現時点ではほとんど検証されていない状況であり,治療効果については証明されていません。
効果的な方法としては,肥満や外傷などの日常生活上の注意点に気をつけることで,発症や重症化を防ぐことができます。症状の改善を目指す場合は,高いエビデンスが証明されている圧迫療法が重要となります。
ドレナージの速度はどのくらいで行い,1 日何回以上また,何回まで行ってよいのでしょうか? あまりやりすぎてもだめなのでしょうか?
用手的リンパドレナージの手技は,非常にゆっくりした柔らかいタッチで,皮膚をストレッチさせながら皮膚にかかる圧を変化させリンパ液を還流させていきます。その際に生じる圧は,充血させない程度の軽い圧を用います。リンパドレナージの回数には,決まった数値や正解はなく,セラピストがあなたのリンパ浮腫の状態に合わせて行います。
腫瘍が体にある場合,ドレナージでがん細胞が広がることはありますか?
現在,国際リンパ学会の見解として,長年の研究によりリンパドレナージはがんの転移を促すことはないとされています。ただし,皮膚にがんを認める際は注意が必要です。医師の診察を受けてから行ってください。必要と思うこと,苦手なことなどについて伝えてください。伝えることで,解決に向けたきっかけが見つかることがあります。
鼠径部・陰部のアプローチ方法が知りたいです。
下肢のリンパ浮腫では,わきの下のリンパ節〔腋窩リンパ節(えきかリンパせつ)〕に向かってリンパ液を誘導します。鼠径部(そけいぶ)や陰部についても同様に同側の腋窩リンパ節に向かってリンパ液を誘導していきます。治療としてのリンパドレナージでは以上のような流れを意識して施術しますが,シンプルリンパドレナージとしては,その有効性が証明されていないので,推奨しません。
鼠径部や陰部のアプローチについては,リンパ浮腫用の下腹部加圧ガードル,下腹部用パット,陰部サポーターなどを着用した圧迫療法が有効です。
くるぶしから先の(特に足指とくるぶし)のリンパドレナージが知りたいです。上腕内側のリンパの流し方を知りたいです。
下肢のリンパ浮腫では,セラピストはわきの下のリンパ節(腋窩リンパ節)に向かってリンパ液を誘導します。大腿→下腿→足首の順で下から上に向かって誘導していきます。
上肢のリンパ浮腫では,反対側のわきの下のリンパ節(腋窩リンパ節)と同側の鼠径部のリンパ節(鼠径リンパ節)に向かって,上腕→前腕→手背・手指の順で下から上に向かって誘導していきます。文字のみの解説ですと,いろいろな解釈をなさる方がいらっしゃいます。実際に,セラピストによるリンパドレナージを体験なさるか,専門職による動画解説などをご覧になるといいでしょう。
治療としての用手的リンパドレナージでは以上のような流れを意識して施術しますが,シンプルリンパドレナージとしては,その有効性が証明されていないので,推奨しません。
左腕をセルフリンパドレナージする際,右手を使いますが,ホルモン治療からくる関節痛やこわばりがあり,スムーズに出来ないときがあります。何か良い方法はありませんか?腹部から足にかけての浮腫が大きすぎて自分でマッサージができません。対処方法を教えてください。
セルフリンパドレナージの治療効果については,現在,証明されていないのが現状です。無理に行う必要はないかと思います。セルフリンパドレナージ以外にも,肥満や外傷などの日常生活上の注意点に気をつけることで,発症予防や重症化を防ぐことができます。
マッサージの際に使用するクリームやオイルなど,お勧めのものを教えてください。
マッサージと医療行為としてのリンパドレナージは異なります。基本的にリンパドレナージはクリームやオイル等を使用しません。セルフケアの一環として行うスキンケアは,皮膚への過度な刺激を避けるために,添加物やアルコール成分が入っていないものを選びます。
皮膚の脂肪が線維化して硬化した状態を治すことはできますか?硬くなった皮膚のほぐし方を見せてほしいです。
専門的に手技を学んだセラピストによる,皮膚の線維化を改善させるためのほぐし手技があります。専門のセラピストの施術を受けて,自分に合った線維化のほぐし手技を体感してください。
リンパ浮腫の部分をマッサージすることによって,痛みや違和感など緩和していきまか?太さは変わらないまでも,痛みがある場合のマッサージの加減について教えてください。
マッサージとリンパドレナージは異なる手技です。リンパドレナージを施行した場合の疼痛緩和の仕組みは,いまだに不明な点も多いですが,副交感神経が優位な状態をもたらし,筋緊張が低下する可能性,またリンパドレナージがいわゆるゲートコントロール理論(触刺激が痛みを感じにくくさせる)によって,痛みの軽減につながる可能性はあるかと思います。
浮腫の状態がひどいとき施術を受けた方が良いのですか? それとも受けない方がいいですか?
リンパ浮腫は重症化するほど,状態の改善に至るまでに要する治療の時間が増えます。できるだけ早期のうちに受診することをお勧めします。また,蜂窩織炎(ほうかしきえん)の発症により,症状が重症化している場合は,リンパドレナージが中止されることもあるため,早期に医療機関を受診し適切な治療を受ける必要があります。
患者さんのためのリンパ浮腫ガイドライン 2025年版
医師,その他医療従事者にとっての指針である「リンパ浮腫診療ガイドライン」とタイアップした,リンパ浮腫診療のやさしい解説書。科学的根拠に基づき,リンパ浮腫とはどのような病気なのか,その予防や治療について詳しく解説しています。また,患者会から寄せられた患者さんの疑問にもお答えしました。リンパ浮腫の患者さんはもちろん,発症リスクのある乳がんや婦人科がんなどの患者さん,ご家族の皆さんにオススメの一冊です。
