現在の治療方針でよいのか不安です。 別の病院に相談できないでしょうか?経過観察といわれましたが大丈夫でしょうか?肺がんになるとどのような症状が現れるのですか?―「患者さんと家族のための肺がんガイドブック―胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2025年版」より

2025年11月14日 | おすすめ, 肺がん

日本肺癌学会は日本の肺がん診療において,中心となって活動している学術団体です。その日本肺癌学会が編集した患者さん向けの書籍「患者さんと家族のための肺がんガイドブック―胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む―2025年版」から,内容の一部をご紹介します。

 現在の治療方針で不安な場合は,担当医以外の医師から意見を聞く「セカンドオピニオン」という手段があります。肺がん診療を専門に行っている施設,肺がん治療の専門医にセカンドオピニオンを求めるのがよいでしょう。お近くのがん診療連携拠点病院を中心に検討してください。

 セカンドオピニオンを希望する際には,担当医にその旨をお伝えください。今までの病状や検査結果,治療の経緯などが記載された紹介状や画像などの資料を準備してもらえます。この費用は健康保険で認められています。セカンドオピニオンでは相談のみで実際の診療は行いません。相談時間は60 分程度で,費用は受ける病院によって異なります。病院のウェブサイトで確認するとよいでしょう。

 セカンドオピニオンを受ける場合は,現在の担当医から病状および勧められる治療法について説明を受け,理解しておくことが必要です。病状が緊急を要するのか,セカンドオピニオンを受ける時間的な余裕があるのかを把握しましょう。大切なことはセカンドオピニオンを受ける目的を明確にしておくことです。たとえば,①診断が正しいかどうかを確認したい,②現在の病院での治療方針が適切かどうかを確認したい,③現在の病院で説明された治療法以外に選択肢はないか聞きたい,④今後の病状の見通し(予後)について知りたい,などが考えられます。治療に対する希望(なるべく手術は受けたくない,など)を含めて聞きたいことをメモして持参するとよいでしょう。肺がん治療においても一般的かつ最新の治療がまとめられているガイドラインが作成されていますが,個々の患者さんの病状や希望などは十分には配慮されていません。セカンドオピニオンでは,肺がん以外の基礎疾患(持病)やそのほかの状況,治療の希望を含めてご相談ください。

 注意点は,担当医や受診中の病院の悪口を言わないことです。担当医や現在診療を受けている病院に対する苦情や要望は,その病院の相談窓口を通じて病院管理者などへ伝えましょう。セカンドオピニオンでは,自分自身の今後をどうすべきかに意識を集中するようにしましょう。

 担当医にセカンドオピニオンの希望を伝えるのは気が引けると感じる方も多くいらっしゃいます。セカンドオピニオンは制度として定着していますし,担当医にとっても専門医やほかの医師の意見を聞くことは参考にもなります。資料の準備,紹介状の作成費用は保険診療として認められています。ただし,資料の準備には時間がかかりますので,いつ頃準備ができるかを尋ねてください。その場でもらうような要求は避けましょう。

 また,セカンドオピニオンはほかの医師の意見を聞くことであり,転院(病院を変えること)とは異なりますので,ご留意ください。転院の場合は,転院のための病院・医師間の連携と合意が必要となります。

 指摘された陰影のサイズが小さく,良性病変との区別が難しい,あるいは組織診断が難しい場合には経過観察の方針となります。その後サイズの変化があれば組織診断の検査を予定します。定期的に検査を受けるようにしましょう。

 近年,高性能のCT(コンピュータ断層撮影)装置が普及したことで,肺の中に直径数ミリ程度の小さな結節(いわゆる“影”)や,淡くて薄い「すりガラス状の陰影(影)」が見つかる機会が増えています。これらは多くの場合無症状で,通常のX線検査では発見が難しく,CT 検査で偶然見つかることが少なくありません。

 このような影の中には肺がんの可能性があるものも含まれますが,良性であることも多く,画像だけでは確定的な判断がつかないことがあります。

 肺がんが疑われる場合には,組織を採取して調べる「組織診断」が検討されます。たとえば,気管支鏡検査(口から細いカメラを入れて組織を採取する検査),CTガイド下生検(CT 画像を見ながら針を刺して採取する検査),胸腔鏡手術(全身麻酔で胸に小さな穴を開け肺の一部を切除する方法)などがあります。ただし,病変が1 cm 未満と非常に小さい場合は,これらの検査で十分な組織を採取することが難しいことがあります。また,検査に伴う体への負担も考慮して,すぐに組織診断を行わないことがあります。

 そのため,病変が小さく悪性の可能性が低いと判断される場合には,定期的なCT 検査で経過を観察する方針がとられることがあります。

 経過観察を続ける中で,病変が大きくなったり,性状が変化したりした場合(例:すりガラス状の影に充実部分が出てくるなど)には,肺がんの可能性が高まり,速やかに組織診断に移ることができます。一方で,経過中に病変が縮小・消失すれば,良性と判断され,観察を終了できることもあります。

 まれに,観察期間中に肺以外の部位に新たな病変が現れることもあります。したがって,担当医が「観察終了」と判断するまでは,がんの可能性を完全に否定できません。定期的に検査を受け続けることがとても大切です。

 肺がんのより良い治療を目指し,世界中で研究が続けられています。成果は速やかに共有・評価され,患者さんに届けられる仕組みが確立しています。日本では世界に遅れず最新の治療が標準治療として導入され,国民皆保険(こくみんかいほけん)のもとで実施可能です。まだ標準治療でない将来有望な方法は,治験などの研究枠組みを通じて患者さんに提供され,評価されます。確実な治療を望む場合は標準治療を,将来有望な治療の評価に協力したい場合は治験などの研究の枠組みを選択することも可能です。

 標準治療という言葉には,ともすると「古い治療」「並みの治療」といった印象があります。しかし,実際は,「最も信頼できる治療」「できるだけ多くの患者さんに受けてもらいたい治療」が標準治療にあたります。そのため,わが国においては関係するさまざまな専門家の努力で,世界で行われている肺がんに対する標準治療のほとんどを,国民皆保険の範囲内で受けられる体制が整えられています。標準治療は現時点で医学的に最も優れていると検証された治療法なのです。

 治験,先進医療などの言葉には,「新しい治療」「画期的な治療」といった印象があります。もちろん,治験,先進医療,そのほか臨床試験で行われている治療法のなかには,画期的な成果を示すものもありますが,実は失敗のほうが多いことが一般的に知られています。この「画期的な成果」を示すことに成功した治療法が認められて,「標準治療」と呼ばれるようになります。つまり,表に示したように治験,先進医療,そのほかの臨床試験は,「標準治療」の候補である治療法を,患者さんたちの協力のもとで,詳細に検討している段階です。

 がんに対する治療法としては,標準治療,治験,先進医療,そのほかの臨床試験以外にも,さまざまな治療法が,さまざまな医療機関,団体で自由診療(公的保険の対象ではない医療行為)として行われています。むしろ標準治療,治験,先進医療,そのほか臨床試験の情報よりも,このような治療法の宣伝のほうが各種出版物,インターネットなどでは頻繁に見つかる状況にあり,近年はネットパトロールの対象になっています。また,ほとんどの場合,患者さんから高額な費用を受けとって実施されています。残念ながら,このような治療法のほとんどは,患者さんの期待に見合った効果が得られないことが知られており,気になった場合も,担当医と必ず相談し,後悔することのないように気をつけましょう。

患者さんと家族のための肺がんガイドブック―胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む―2025年版,金原出版,p75,2025 より

 「医療機関ネットパトロール」は,「医療広告ガイドライン」違反になるような表
示がないか監視しています。不適切な表示を見つけたら通報してください。

・厚生労働省委託事業「医療機関ネットパトロール」

https://iryoukoukoku-patrol.mhlw.go.jp

 肺がんの症状には,咳(せき),痰(たん),血痰(けったん),胸の痛み,息苦しさや発熱などがあります。これらの症状は風邪や気管支炎などの病気と似ているため,「ただの風邪かな」と思ってしまうことも少なくありません。しかし,症状が長く続く場合や,いつもの風邪症状と違う場合は,肺がんの可能性も考えられます。肺がんができた場所や大きさによっては症状が出ないことがありますし,肺とは関係ない症状が出ることもあります。症状から肺がんに違いないというものはありませんが,以下は肺がんでよくみられる症状ですので,気になる症状がある場合は,早めに病院で相談しましょう。

 肺がんの症状は,肺に直接現れるもの,体全体に現れるもの,神経や臓器への影響によるもの,転移によるものなどがあります。呼吸器の症状がなくても,転移による症状がきっかけで肺がんが見つかることも少なくありません。

 肺がんでよくみられる呼吸器症状は,咳と痰です。風邪でもないのに2 週間以上長引く咳,あるいは血痰がある場合はすみやかに病院受診することをお勧めします。発熱が5 日以上続く場合も同様です。肺がんが気管支をふさぐことで閉塞性肺炎(へいそくせいはいえん)を起こしていることがまれにあります。肺炎の治療をしていたら肺がんが潜んでいることがあります。動いたときの息苦しさや動悸(どうき)は,肺がんが大きくなって肺や心臓の機能に影響を及ぼすようになっている場合,肺や心臓の周囲に水がたまったため〔それぞれ胸水,心囊水(しんのうすい)といいます〕肺や心臓が圧迫されている場合などが考えられます。胸の痛みは,胸水や心囊水がたまっている,あるいはがんが肋骨や神経にひろがったときにみられる症状です。

 体全体に現れる症状には,体がだるい(倦怠感,けんたいかん),食欲がなくなる,何もしていないのに体重が減る,微熱が続くなどがあり,がんが進行すると体の中でさまざまな変化が起こるため,これらの症状が現れることがあります。

 神経や臓器への影響による症状は,進行した肺がんが周りの神経や臓器に影響を与えると現れることがあります。肺がんでみられやすい症状として,声がかすれる(がんが声帯を動かす神経に影響を与える),顔や首や腕のむくみ(肺がんが血液の流れを圧迫することで起こる),肩や背中の痛み(がんが骨や神経に広がると起こる)があります。

 転移による症状は,肺がんがほかの臓器に転移すると,それぞれの場所に応じた症状が現れます。頭痛,ふらつき,麻痺は,脳に転移して,ある程度の大きさになると現れる症状です。背中,腰などの痛みや脚のしびれなどは,骨に転移するなどして,周辺の神経にひろがったときに現れる症状です。

 注意して欲しいことは,症状のみで肺がんを診断することはできません。症状をもとにいろいろな検査を行うことで肺がんを確定することになります。詳しくはQ16 を参照してください。ここにあげた症状は肺がん以外の病気でも起こることがあるため,必ずしも肺がんとは限りませんが,症状が長引く場合は病院で相談しましょう。

 縦隔(じゅうかく,左右の肺に挟まれたスペース)には,免疫の成熟に重要な胸腺という臓器があります。胸腺腫,胸腺がんは胸腺から発生するまれな腫瘍で,いずれも悪性です。検診での胸部X 線や,筋力低下などの症状をきっかけに診断されることがあります。胸腺腫,胸腺がんの治療は,手術,放射線治療,抗がん剤,分子標的治療薬のいずれか,またはこれらを組み合わせて行います。

 右と左の肺の間で食道や心臓などが収まっているスペースのことを縦隔と呼び,縦隔に発生する腫瘍を「縦隔腫瘍(じゅうかくしゅよう)」と呼びます。図のように縦隔の前方には胸骨があり,その裏側の部分を前縦隔(ぜんじゅうかく)と呼びます。前縦隔には免疫に重要な働きをする「胸腺(きょうせん)」という臓器があります。胸腺は20 歳代以降加齢とともに小さくなっていきます。この胸腺を構成する胸腺上皮から発生する腫瘍を「胸腺上皮性腫瘍(ひょうせんじょうひせいしゅよう)」と呼びます。

 胸腺上皮性腫瘍は,その病理組織の特徴から胸腺腫(きょうせんしゅ),胸腺がん,胸腺神経内分泌腫瘍(きょうせしんけいないぶんぴつしゅよう)の3 つに分類されます。

 「胸腺腫」の細胞は分裂し増加します。腫瘍が増大すれば周囲にひろがり〔浸潤(しんじゅん),胸膜(きょうまく)・心膜(しんまく)に散らばる〔播種(はしゅ)する〕など,ときにがんのようなふるまいをすることから,悪性腫瘍(低悪性度腫瘍)であると認識しておく必要があります。

 「胸腺がん」は,細胞に異型が認められる悪性腫瘍であり,組織型としては扁平上皮(へんぺいじょうひがん)が多いです。進行して周囲の臓器へ浸潤することや,リンパ節などの他臓器へ転移することがあります。

 胸腺腫・胸腺がんは30 歳以上に発生することが多く,男女差を認めません。胸腺腫の罹患率(りかんりつ,かかる人の割合)は人口10 万人当たり0.44~0.68 人とまれな腫瘍で,胸腺がんは胸腺腫よりさらに罹患率が低く「希少がん(きしょうがん)」に相当します。胸腺腫・胸腺がんは前縦隔に存在する腫瘍なので,正面のX 線写真では見つかりにくく,大きな腫瘍になって初めて見つかることが多く,そのきっかけはあお向けで寝た場合の息苦しさや,検診での胸の異常な影などです。胸腺腫には,まぶたが開きにくくなったり手や足の力が入らなくなる重症筋無力症(じゅうしょうきんむりょくしょう,16~24%)や貧血の一種である赤芽球癆(せきがきゅうろう,1.5~2.4%)という自己免疫疾患を合併することが知られており,これらの病気がきっかけで見つかることがあります。

患者さんと家族のための肺がんガイドブック―胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む―2025年版,金原出版,p198,2025 より

 普段から患者さんのことをよく知るかかりつけの医師やスタッフはがん患者さんにとって心強い味方となります。肺がん診療を行う医療機関とかかりつけの医療機関とであらかじめ連携してもらい,対応を相談しておきましょう。

 肺がん診療と直接関係がないと考えられる症状で近くの医療機関にかかることは問題ありません。ただし,「風邪」と思っても,肺がん診療に関係した症状の場合があるかもしれません。そのため近くの医療機関にかかった場合には,現在の病名,病状や受けている治療について伝えましょう。これまでの病状や治療内容の説明が記載された用紙や治療計画書などが手元にあれば,それらも見せるとよいでしょう。肺がん診療を行う医療機関とかかりつけの医療機関とで情報をあらかじめやりとりし,連携が取れていることが理想的です。そのうえで肺がんでかかっている病院へ連絡したほうがよいかを含めてご相談ください。

 その後,肺がんでかかっている病院を受診するときには,近くの医療機関にかかった経過やその医療機関での診断や治療について担当医に報告してください。お薬手帳やマイナ保険証を持つようにし,処方されたお薬の内容がわかるようにしましょう。

 統合医療(とうごういりょう),補完代替療法(ほかんだいたいりょうほう)にはさまざまなものがあります。治療効果が確認されているものもありますが,なかには効果が疑わしいものもあります。十分に検討し,始める際には担当医などともよく相談しましょう。

 通常の医療に加えて,患者さんのこころとからだを総合的に考えて補完代替療法や伝統医学などを組み合わせて行う医療のことを「統合医療」といいます。ハーブ,ビタミン,ミネラル,プロバイオティックス(発酵食品など),漢方などの天然産物,瞑めい想そう,ヨガ,気功,太極拳,鍼灸(しんきゅう),マッサージ,運動療法などさまざまなものが含まれます。このうち漢方は抗がん剤〔こうがんざい,細胞傷害性抗がん薬(さいぼうしょうがいせいこうがんやく)〕の副作用対策として有効なものがあり,保険診療の範囲内で併用できます。またヨガによる身体機能の改善や,アロマオイルによる不安や吐き気の改善などが報告されています。

 統合医療や補完代替療法についての情報はインターネットでも入手することができます。信頼できる情報をもとに,どのような目的でどのような効果を期待して使うのかなど,冷静によく考えてみる必要があります。がんの進行を遅らせたり,生存期間を延長したりするなど,治療として確立している補完代替療法はありません。そのうえで,費用やこころとからだへの負担を含めて検討するようにしましょう。

 とくに注意すべきことは,保険診療外で行われるものは,詐欺的なものがあることです。内容をよく確認して,まずは疑ってかかるようにしましょう。「腫瘍が消えた」などとうたっていたり,高額なものにはとくに注意しましょう(Q9 参照)。

 なかには,がん治療の効果を弱めてしまうものや副作用を強くしてしまうものがあります。興味や関心があるときは,必ず担当医や看護師に相談しましょう。

・厚生労働省 eJIM(イージム:「統合医療」情報発信サイト)

https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/index.html

・国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所「健康食品」の安全性・有効性情報

https://hfnet.nibiohn.go.jp


患者さんと家族のための肺がんガイドブック―胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む― 2025年版

肺がん治療の正しい知識と最新情報に加え,生活や仕事に関する不安に対して,専門家がQ&A形式で丁寧に解説します。Q&Aの掲載順や章構成を見直して,より読みやすい流れにしました。適切な治療を受け,肺がん治療と上手に付き合うための知識が得られます。肺がんのほか,胸膜中皮腫・胸腺腫瘍についても詳しく記載しています。前版から巻頭に掲載している肺がん治療のロードマップ,巻末の薬剤一覧・情報窓口一覧もぜひご活用ください。