「小児がん(血液腫瘍・固形腫瘍)診療ガイドライン 2026年版」―血液腫瘍と固形腫瘍の2つのガイドラインを統合し,10年ぶりに改訂した診療ガイドライン

2026年03月05日 | おすすめ, 希少がん・小児がん

「小児がん」は子どもがかかるがんの総称です。患者数が少なく「希少がん」に分類されますが,がんの種類がとても多いという特徴があります。今回は,一般社団法人日本小児血液・がん学会が編集した「小児がん(血液腫瘍・固形腫瘍)診療ガイドライン 2026年版」をご紹介します。

 現代の医療における基本的な考え方として「(科学的)根拠に基づく医療(evidence-based medicine: EBM)」というものがあります。EBMは,医療現場における医師の経験や患者さんの価値観,その時点で入手可能な科学的知見(医学・医療に関する研究成果)を総合的に検討して診療方針を決定することです。EBMは医療の安全性向上や関係者間の連携の強化,医療ミスの減少,資源の効率的活用,そして最新医療への迅速な対応を可能にします。

 EBMを実現するために,医療従事者は最新のエビデンスを知っておく必要がありますが,この際に診療ガイドラインは重要な役割を果たします。診療ガイドラインは専門家が最新のエビデンスをまとめて,その時点で最良と考えられる検査や治療法などを提示するものであり,患者さんと医療従事者の意思決定を支援します。なお,診療ガイドラインは実際の意思決定時に強制力を持つものではなく,個々の患者の身体状態やおかれた環境なども総合的に検討された結果,ガイドラインの内容とは異なる診療が行われることもあります。

 診療ガイドラインは専門家が最新のエビデンスをまとめて,その時点で最良と考えられる検査や治療法などを提示するもので,患者と医療従事者の意思決定に重要な役割を果たします。なかでも重要なのがCQ(clinical question,日本語で臨床疑問ともいわれます)といわれるもので,選択肢が複数あって判断が求められる場合に,それを「~において,~を用いることが,~と比較して,推奨されるか?」のように質問の形にしたものです。

 診療ガイドラインを作成する際には,患者さんにとって望ましい効果と望ましくない効果のバランスや,エビデンスの確実性,患者さんの価値観や希望,費用対効果など,様々な観点から検討を行い,CQへの回答として推奨文(すいしょうぶん)が作成されます。臨床現場においては,医療従事者は診療ガイドラインのCQと推奨文を参考にして,患者さんと一緒に診療方針を決定します。

 前に記したCQ以外にも,ガイドラインへの記載が必要だと判断される背景知識や教科書的疑問がある場合,BQ(background question)として記載されます。

 これまで,小児がんの診療ガイドラインは「小児白血病・リンパ腫診療ガイドライン」と「小児がん診療ガイドライン」の2つに分けられて作成されていましたが,本ガイドラインでは,その2つが統合されました。

 小児がんには大きく分けて「血液腫瘍」と「固形腫瘍」の2種類がありますが,本ガイドラインでは,第1章 総論で両方に共通する「がんゲノム検査」「腫瘍生検・中枢ルート」「支持療法」の項目をまとめています。その後,第2章 各論で様々な腫瘍に関するCQとBQが解説されています。

  • BQ1 小児がんの治療方針の決定に遺伝子検査は有用か?

 (本項目にはCQとBQはありません)

  • CQ1 小児がん治療において深部細菌感染症の高リスク群に対する抗菌薬の予防的投与は推奨されるか?
  • CQ2 高度催吐性化学療法を受ける小児患者の予防的な制吐療法として5-HT3阻害薬±デキサメタゾンにNK1受容体拮抗薬を追加することは推奨されるか?
  • CQ3 急性リンパ性白血病の寛解導入療法におけるL-アスパラギナーゼ投与時の凝固障害による血栓症の一次予防として,アンチトロンビン製剤,低分子ヘパリン,新鮮凍結血漿の投与は推奨されるか?
  • BQ1 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する対応は?
  • CQ1 小児ALLに対して頭蓋照射の回避は推奨されるか?
  • CQ2 免疫反応によるアスパラギナーゼの効果不十分例に対して代替製剤への変更は推奨されるか?
  • CQ3 寛解導入療法においてプレドニゾロンとデキサメタゾンのどちらが推奨されるか?
  • CQ4 乳児ALLに対して第一寛解期での同種造血細胞移植は推奨されるか?
  • CQ5 Ph+ALLに対するTKI併用化学療法において移植の回避は推奨されるか?
  • CQ6 Ph+ALLに対するTKI併用化学療法においてダサチニブはイマチニブよりも推奨されるか?
  • CQ7 再発ALLに対して免疫機序を利用した薬剤治療は推奨されるか?
  • BQ1 初発,再発ALLの層別化治療のリスク分類に有用な検査は?
  • BQ2 ALL治療開始時にNUDT15多型解析は必要か?
  • BQ3 初発ALLに対して有効な化学療法の基本骨格は?
  • BQ4 再発ALLに対して有効な化学療法の基本骨格は?
  • BQ5 DS-ALLに対して有効な化学療法の基本骨格は?
  • BQ6 Ph+ALLに対して有効な化学療法の基本骨格は(Ph-likeを含む)?
  • BQ7 乳児ALLに対して有効な化学療法の基本骨格は?
  • CQ1 初発小児AMLに対するFCM-MRDを用いたリスク層別化は治療成績向上に寄与するか?
  • CQ2 初発小児AMLに対するシタラビン+アントラサイクリン系薬剤にゲムツズマブオゾガマイシンを加えることで予後改善が得られるか?
  • CQ3 小児AMLに対する同種造血細胞移植において強度減弱前処置は推奨されるか?
  • CQ4 新規診断小児APLに対する最適な治療法はATRA+アントラサイクリン系骨格治療,ATRA+ATO骨格治療のどちらか?
  • CQ5 どのようなTAM症例に少量シタラビン療法(LDAC)が推奨されるか?
  • BQ1 ダウン症候群関連骨髄性白血病では治療強度軽減化学療法を行うべきか?
  • BQ2 再発・難治AMLに対して有効な化学療法は?
  • CQ1 小児慢性期CML患者に対して第一選択薬として第二世代TKIはイマチニブに優先して勧められるか?
  • CQ2 小児第一慢性期CML患者に対して同種造血細胞移植は選択されるか?
  • CQ3 小児第一慢性期CMLで一定期間のDMRが得られた場合,TKI治療の中止は推奨されるか?
  • CQ1 JMMLにおいて造血細胞移植前治療を行うことは推奨されるか?
  • BQ1 JMMLと小児MDSにおいて遺伝的素因の検索は必要か?
  • BQ2 芽球増加を伴わないMDSでは全例で造血細胞移植が必要か?
  • BQ3 芽球増加を伴うMDSにおいて造血細胞移植前の化学療法は有用か?
  • CQ1 ホジキンリンパ腫の放射線治療は省略可能か?
  • CQ2 リンパ芽球性リンパ腫ではデキサメタゾンによる寛解導入療法は治療成績を改善するか?
  • CQ3 小児の未治療バーキットリンパ腫,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対してリツキシマブ併用化学療法は推奨されるか?
  • CQ4 縦隔原発大細胞型B細胞リンパ腫には成人型治療が推奨されるか?
  • CQ5 再発・難治性未分化大細胞リンパ腫には同種移植を行うことが推奨されるか?
  • BQ1 リンパ腫の病期判定を目的とした骨髄検体の採取は複数箇所から行うべきか?
  • BQ2 縦隔腫瘤のoncologicemergencyにはステロイド投与と放射線照射のどちらを選択すべきか?
  • BQ3 結節性リンパ球優勢型ホジキンリンパ腫に古典的ホジキンリンパ腫と同様の治療介入が必要か?
  • BQ4 再発または難治性T細胞性リンパ芽球性リンパ腫に対してネララビンまたはネララビン含有化学療法は有効か?
  • BQ5 小児の濾胞性リンパ腫は治療介入が必要か?
  • CQ1 治療方針やフォローアップの方法を決定するためにMAPK経路遺伝子変異を検索すべきか?
  • CQ2 単一臓器単一病変型LCH(骨病変)に対して化学療法(分子標的治療含む)による治療が推奨されるか?
  • CQ3 治療抵抗性LCHに対して同種造血細胞移植が推奨されるか?
  • BQ1 多臓器型LCH(MS-LCH)に対して有効な化学療法は?
  • BQ2 多発骨型LCH(MFB-LCH)に対して有効な化学療法は?
  • BQ3 再発難治性LCHに対してクラドリビンは有効か?
  • CQ1 乳児低リスク神経芽腫に対する無治療経過観察は推奨されるか?
  • CQ2 高リスク神経芽腫において骨髄微小残存病変評価は予後の予測に有用か?
  • CQ3 高リスク神経芽腫の外科手術において全摘出を目指した外科手術は推奨されるか?
  • CQ4 高リスク神経芽腫における地固め療法として免疫療法は推奨されるか?
  • CQ5 再発神経芽腫に対する免疫療法は推奨されるか?
  • CQ6 MIBGシンチ陰性神経芽腫に対してFDG-PET検査,WB-MRIを用いた全身検索は推奨されるか?
  • BQ1 低・中間リスク神経芽腫の治療方針は?
  • BQ2 高リスク神経芽腫の治療方針は?
  • BQ3 局所性神経芽腫の生検と一期的切除についての指標は?
  • BQ4 腹部神経芽腫における腎合併切除の意義は?
  • BQ5 局所性神経芽腫の摘出術における内視鏡手術の意義は?
  • CQ1 シスプラチン単剤療法は肝芽腫標準リスク群に対する標準治療か?
  • CQ2 治療抵抗性・化学療法抵抗性・再発の肝芽腫の肺転移巣に対する外科的切除は推奨されるか?
  • CQ3 SIOPEL-4レジメンは肝芽腫高リスク群に対する標準治療か?
  • CQ4 肝芽腫治療で引き起こされる聴力障害予防にチオ硫酸ナトリウムは推奨されるか?
  • BQ1 腫瘍生検は必要か,またその方法は?
  • BQ2 初診時(化学療法前)一期的切除の適応は?
  • BQ3 肝芽腫・小児肝細胞癌に対する腫瘍の切除断端の意義は?
  • BQ4 肝芽腫・小児肝細胞癌に対する肝移植の適応は?
  • BQ5 小児肝細胞癌に対する化学療法の適応は?
  • BQ6 静注化学療法と比較した動注化学療法の意義は(塞栓術を含めて)?
  • BQ7 肝芽腫の原発巣・転移巣に対する放射線治療は有効か?
  • BQ8 再発・治療抵抗性肝腫瘍に対する治療方針は?
  • BQ9 小児肝がんに対する化学療法の聴力障害以外の合併症は?
  • BQ10 肝芽腫・小児肝細胞癌に対するICG蛍光ナビゲーション下手術の役割は?
  • CQ1 肺転移巣を持つWilms腫瘍症例において化学療法にて消失した肺転移巣に対して放射線治療を行わないことが推奨されるか?
  • CQ2 小児腎腫瘍に対して針生検(coreneedlebiopsy)は推奨されるか?
  • BQ1 腎ラブドイド腫瘍にはどのような治療が推奨されるか?
  • BQ2 腎明細胞肉腫にはどのような治療が推奨されるか?
  • BQ3 Wilms腫瘍における治療の層別化の有効な予後予測分子マーカーは?
  • CQ1 診断時にindeterminatepulmonarynoduleを有し,他には遠隔転移を認めない症例を限局例として治療することは推奨されるか?
  • CQ2 低リスクA群横紋筋肉腫に対して短期間,低用量のVAC療法は推奨されるか?
  • CQ3 5cm以下かつ10歳未満のGroupI胎児型横紋筋肉腫症例に対してVA療法は推奨されるか?
  • CQ4 中間リスク群横紋筋肉腫に対してビンクリスチン,アクチノマイシンD,アルキル化剤にビノレルビンを加えた化学療法は推奨されるか?
  • CQ5 根治術時にリンパ節郭清・サンプリングは推奨されるか?
  • CQ6 遠隔転移のある症例に対する集学的治療において,遠隔転移巣に対する積極的な局所療法(外科療法や根治的な放射線療法)を行うことは推奨されるか?
  • BQ1 横紋筋肉腫において治療開始前の病期診断におけるFDG-PET/CTの意義は?
  • BQ2 横紋筋肉腫の治療後の腫瘍生存(viability)の評価におけるFDG-PET/CTの意義は?
  • BQ3 低リスクB群,中間リスク群横紋筋肉腫に対する標準的化学療法は?
  • BQ4 高リスク群横紋筋肉腫に対する標準的化学療法は?
  • BQ5 再発横紋筋肉腫に対する標準的化学療法は?
  • BQ6 傍精巣腫瘍の場合の病期を決定するための同側後腹膜リンパ節郭清(SIRPLND)は再発を減少させるか?
  • BQ7 頭頸部,眼窩,傍髄膜原発腫瘍に対する放射線治療を化学療法と同時に開始する適応は?
  • CQ1 低リスク群胚細胞腫瘍(未熟奇形腫含む)に対して術後化学療法の省略は勧められるか?
  • CQ2 残存性腺原発低リスク胚細胞腫瘍で性腺温存は勧められるか?
  • CQ3 高リスク胚細胞腫瘍に対して推奨される化学療法レジメンはなにか? 大量化学療法ならびにacceleratedBEP療法は通常BEP療法の成績を凌駕するか?
  • BQ1 胚細胞腫瘍診療に腫瘍マーカーは有用か?
  • BQ2 Growingteratomasyndromeを疑う所見・徴候と推奨される治療は何か?
  • CQ1 片側性の網膜芽細胞腫に対して眼球温存治療は推奨されるか?
  • CQ2 網膜芽細胞腫の眼球摘出後の後療法は必要か?
  • CQ3 網膜芽細胞腫の眼外病変に対する化学療法は有用か?
  • BQ1 眼球温存のための陽子線治療は許容されるか?
  • BQ2 二次がんのサーベイランスはどのようにすべきか?
  • BQ3 遺伝学的検査を行うべきか?
  • CQ1 R0,R1切除された低悪性度あるいはR0切除された5cm以下の高悪性度の小児非横紋筋肉腫軟部肉腫に対して術後補助療法は推奨されるか?

「診療ガイドライン」は患者と医療従事者の意思決定を支援する目的で作成されたものですが,主な想定読者は医療従事者です。

内容の理解に専門的な知識を要する箇所もありますので,ご注意ください。

小児がん(血液腫瘍・固形腫瘍)診療ガイドライン 2026年版

今回,「小児白血病・リンパ腫診療ガイドライン」と「小児がん診療ガイドライン」を統合し,「小児がん(血液腫瘍・固形腫瘍)診療ガイドライン」として改訂作業を行った。1章は両腫瘍に共通する腫瘍生検・ルート確保・支持療法についてまとめた。2章では両腫瘍の疾患ごとに最新のエビデンスに基づく標準治療を提示し,CQに加えてBQを設定して,治療方針の意思決定のための情報提供ツールとして充実を図った。個々の患者にとって最適な医療を実施するためにご活用いただきたい。