「放射線治療」は外科療法や薬物療法と並ぶがん治療3本柱の一つで,がん治療に欠かせないものです。日本放射線腫瘍学会は日本における放射線治療のさらなる発展を目指して活動している学術団体です。その日本放射線腫瘍学会が編集した患者さん向けの書籍「患者さんと家族のための放射線治療Q&A 2025年版」から,内容の一部をご紹介します。
放射線治療についてのセカンドオピニオンはできますか。
担当医に自分の病状には放射線治療が使えるのか,あるいは,どのような方法で行うのかについて説明を求め,納得する回答が得られなかった場合には,資料をもらって同じ病院やほかの医療機関の放射線腫瘍(放射線治療)科にセカンドオピニオン(担当医以外の第三者的な立場の医師に意見を求めること)を受けることができます。
放射線治療は手術と同じ「がんの部分だけを治療」する方法です。病気の種類や病状によっては,手術と同様の効果,あるいは優れた効果が期待できることもあります。外科医が手術を勧めた際には,放射線治療では治療できないのかたずねてみてください。あるいは,放射線腫瘍医が勧めた放射線治療の方法に疑問がある場合も同様です。
放射線治療はどのような病気によく使われていますか。
日本放射線腫瘍学会が行っている2021年版の全国調査結果(図2)のように,全身のがんに対して放射線治療が行われています。放射線治療を行う目的は,がんを治すための「根治目的」,苦痛症状を緩和するための「緩和目的」,治すことは難しい場合でも病変の進行を遅らせることを目指した「姑息目的」があります。がんの種類や広がりに合わせた放射線治療を行うため,ほとんどすべての種類のがん,すべてのステージのがんが治療対象になりえます。放射線治療を選ぶ理由は,手術と同等の成績や手術よりも治せる可能性が高い場合(前立腺がんや子宮頸がんの一部など),手術にやや劣る成績でも機能を残したいという場合(頭頸部がんの一部など),手術ができない場合(高齢や,合併症など)などがあります。

放射線治療をするかどうかはどのように決めるのですか。
最初から「頸(くび)にしこりができたから,ここに放射線を当ててほしい」と言って最初から放射線腫瘍(放射線治療)科を受診する患者さんはまずいないと思います。放射線腫瘍科は患者さんみずからが最初に受診する診療科ではなく,基本的にはほかの診療科で病気の診断がなされ,その治療法の選択肢の1つとして紹介され,受診することがほとんどです。
がんの種類を特定する
がん治療が始まるまでの大まかな流れとして,以下の検査がまず行われます。
① 病理学的な検査による診断
細胞を採取して,悪性腫瘍かどうか,また悪性であればどのような組織型の腫瘍か診断します。がん細胞の遺伝子について検査が追加されることもあります。病気の性質やできた腫瘍の部位によっては,この診断ができない場合もあります。
② 画像診断や内視鏡検査などによって病気の広がり(進行度)を見る診断
画像診断にはエックス線検査,エコー検査,CT検査,MRI検査,PET検査などが含まれます。
「がん」と確定するためには①は必要不可欠です。原則として放射線治療は「がん」と確定しなければ実施しません。これは手術や薬物療法など,ほかのがん治療においても同じです。しかし,細胞の採取が非常に困難な場合で,なおかつ,ほかの検査で「がん」であることがほぼ確定的である場合には治療に踏み切る場合があります。
これらの検査は,通常は最初に受診した診療科の担当医師によって行われます。たとえば,肺のがんが疑われたとすると呼吸器内科や呼吸器外科,子宮のがんが疑われたとすれば婦人科が担当します。その結果,がんの種類と病期(ステージ)が決まります。
適した治療法を選択する
それぞれのがんの種類と病期によって,最適(または標準的)とされる治療法が異なります。最適な治療法はガイドライン(科学的根拠に基づき,系統的な手法により作成された推奨を含む文書です。患者さんと医療者を支援する目的で作成されており,治療方針決定の際に,判断材料の1つとして利用することができます)やエビデンス(医学的根拠)を前提に,患者さん本人の年齢や体力などさまざまな要素をふまえて提案されます。それは1種類の治療法であることも,複数の選択肢があることもあります。その選択肢の提示・説明は,通常は担当の主治医によって行われます。
患者さんと家族のための放射線治療Q&A 2025年版
近年の放射線治療は,少ない治療回数で高い効果と副作用の大幅な低減だけではなく,症状緩和や再発・転移者の予後改善まで効果があります。手術や抗がん剤とともにがん治療の柱になった一方,目に見えない放射線ならではの不安や疑問を抱く方もいますので,エビデンスにもとづきつつ「患者視点(Q&A 形式)」で解説しました。粒子線や陽子線など最先端の治療法を知りたい方,セカンドオピニオンを求める方にもオススメです。
