「膵・消化管神経内分泌腫瘍(NEN)診療ガイドライン 2026年 【第3版】」―6年半ぶりに大改訂された希少がんの診療ガイドライン

2026年06月03日 | おすすめ, 希少がん・小児がん

神経内分泌腫瘍(NEN)はホルモンなどを分泌する細胞から発生する腫瘍で,様々な臓器で発生します。日本人では特に直腸や膵臓に発生する頻度が多く,これらは膵・消化管神経内分泌腫瘍(GEP-NEN)と呼ばれます。今回は,この膵・消化管神経内分泌腫瘍の診療指針である「膵・消化管神経内分泌腫瘍(NEN)診療ガイドライン 2026年 【第3版】」をご紹介します。

 現代の医療における基本的な考え方として「(科学的)根拠に基づく医療(evidence-based medicine: EBM)」というものがあります。EBMは,医療現場における医師の経験や患者さんの価値観,その時点で入手可能な科学的知見(医学・医療に関する研究成果)を総合的に検討して診療方針を決定することです。EBMは医療の安全性向上や関係者間の連携の強化,医療ミスの減少,資源の効率的活用,そして最新医療への迅速な対応を可能にします。

 EBMを実現するために,医療従事者は最新のエビデンスを知っておく必要がありますが,この際に診療ガイドラインは重要な役割を果たします。診療ガイドラインは専門家が最新のエビデンスをまとめて,その時点で最良と考えられる検査や治療法などを提示するものであり,患者さんと医療従事者の意思決定を支援します。なお,診療ガイドラインは実際の意思決定時に強制力を持つものではなく,個々の患者の身体状態やおかれた環境なども総合的に検討された結果,ガイドラインの内容とは異なる診療が行われることもあります。

 診療ガイドラインは専門家が最新のエビデンスをまとめて,その時点で最良と考えられる検査や治療法などを提示するもので,患者と医療従事者の意思決定に重要な役割を果たします。なかでも重要なのがCQ(clinical question,日本語で臨床疑問ともいわれます)といわれるもので,選択肢が複数あって判断が求められる場合に,それを「~において,~を用いることが,~と比較して,推奨されるか?」のように質問の形にしたものです。

 診療ガイドラインを作成する際には,患者さんにとって望ましい効果と望ましくない効果のバランスや,エビデンスの確実性,患者さんの価値観や希望,費用対効果など,様々な観点から検討を行い,CQへの回答として推奨文(すいしょうぶん)が作成されます。臨床現場においては,医療従事者は診療ガイドラインのCQと推奨文を参考にして,患者さんと一緒に診療方針を決定します。

 前に記したCQ以外にも,ガイドラインへの記載が必要だと判断される基本的な知識や広く実臨床に浸透している教科書的疑問がある場合,BQ(background question)として記載されます。

 前に記したCQを作成する際に,エビデンスに基づいた推奨提示に至らなかった臨床疑問はFQ(future research question)として記載されます。

 CQ・BQ・FQとそれに対する推奨文(BQやFQではコメント)は,患者さんと医療従事者の意思決定を支援するものです。以下で膵・消化管神経内分泌腫瘍(NEN)診療ガイドライン 2026年 【第3版】におけるCQをご紹介します(第1章~第3章はガイドラインの概要を記した章でCQ・BQ・FQはありません)。

  • 総論-総説1 NENとは?
  • 総論-総説2 膵・消化管NENの臨床的分類とステージング
  • 総論-総説3 膵・消化管NENの疫学
  • 総論-総説4 NENのリスク因子は?
  • 総論-BQ1 NEN患者の診療において、多診療科によるチーム医療(MDT)の実践および診療ネットワークの構築が推奨されるか?
  • 総論-CQ1 NEN患者の集約化を行うことは、治療のアウトカム改善のために推奨されるか?
  • 総論-CQ2 NEN治療後の患者に対して、定期的フォローアップを行うことは推奨されるか?
  • 病理-総説1 膵・消化管NETのグレード分類およびpTNM分類
  • 病理-総説2 NET、NEC、MiNENの組織形態
  • 病理-BQ1 推奨される神経内分泌マーカーやホルモンマーカーは何か?
  • 病理-BQ2 Ki-67指数と核分裂指数の推奨される測定法は何か?
  • 病理-BQ3 NET G3とNECの鑑別点ポイントは何か?
  • 病理-BQ4 生検検体で病理組織診断書に記載することが推奨される項目は何か?
  • 病理-BQ5 内視鏡的切除検体で病理組織診断書に記載することが推奨される項目は何か?
  • 病理-BQ6 外科的切除検体で病理組織診断書に記載することが推奨される項目は何か?
  • 病理-BQ7 病理組織学的にNETと混同しやすい鑑別疾患は何か?
  • 病理-BQ8 病理組織学的なNECの鑑別疾患は何か?
  • 病理-BQ9 胃NETの病理診断において留意すべき、背景病変を含めた病理学的特徴は何か?
  • 病理-BQ10 遺伝性NETにおいて留意すべき病理学的所見は何か?
  • 病理-BQ11 NENの転移巣において原発部位の推定に有用な免疫染色マーカーは何か?
  • BQ1 インスリノーマを疑う臨床症状は何か?
  • BQ2 インスリノーマ疑い患者において、絶食試験を行うことは有用か?
  • BQ3 ガストリノーマを疑う臨床症状は何か?
  • BQ4 ガストリノーマの診断に、胃酸分泌抑制薬を中止せずに行う血中ガストリン値測定は有用か?
  • BQ5 グルカゴノーマを疑う臨床症状は何か?
  • BQ6 カルチノイド症候群を疑う臨床症状は何か?
  • BQ7 カルチノイド症候群を疑う場合に、尿中5-HIAAは蓄尿での検査が必須か?
  • BQ8 稀な機能性NENを疑う臨床症状は何か。また、診断に必要な検査は何か?
  • BQ9 機能性NENの局在診断として有用な画像診断は何か?
  • BQ10 NENの肝転移の検索に造影MRIは有用か?
  • BQ11 NENの転移巣検索の際、CT/MRIにFDG-PETの追加は有用か?
  • BQ12 NENの転移巣検索の際、CT/MRIにSRSの追加は有用か?
  • BQ13 SRSの検査前のSSAの休薬期間はどの程度必要か?
  • CQ1 NENの転移巣検索にSSTR-PETを行うことは推奨されるか?
  • BQ14 膵NENを疑う際にEUSおよび上部消化管内視鏡検査は有用か?
  • CQ2 膵NENを疑う患者にEUS-TAを行うことは推奨されるか?
  • BQ15 すべての胃NETはRindi分類で分類可能か?
  • BQ16 十二指腸乳頭部NETの治療前診断に必要な検査は何か?
  • BQ17 十二指腸ガストリノーマを認めた際には、多発病変を検索する必要があるか?
  • BQ18 消化管NENの内視鏡・EUS所見は何か?
  • CQ3 同時性肝転移を伴う膵・消化管NENにおいて、グレード分類のために、原発巣に加えて転移巣の生検を行うことは推奨されるか?
  • CQ4 異時性肝転移を伴うNENにおいて、肝転移巣の再生検を行うことは推奨されるか?
  • BQ1 局所にとどまる機能性膵NETに対して、切除は推奨されるか?
  • BQ2 局所にとどまる機能性膵NETに対して、機能温存手術(縮小手術)や低侵襲手術は推奨されるか?
  • CQ1 20mm以下の局所にとどまる非機能性膵NETに対して、経過観察を行うことは推奨されるか?
  • CQ2 膵局所にとどまる非機能性NETもしくはインスリノーマに対して内視鏡的局所療法(エタノール注入療法、ラジオ波焼灼療法)を行うことは推奨されるか?
  • BQ3 20mmを超える局所にとどまる非機能性膵NENに対して切除は推奨されるか?
  • CQ3 局所にとどまる非機能性膵NETに対して、リンパ節郭清の省略は推奨されるか?
  • CQ4 局所にとどまる非機能性膵NETに対して、機能温存手術(縮小手術)を行うことは推奨されるか?
  • BQ4 局所にとどまる膵NENの根治的切除術後の適切なサーベイランスは何か?
  • BQ5 切除不能膵・消化管NETの肝転移巣に対してどのような局所療法が行われるか?
  • CQ5 遠隔転移を伴う膵NETに対して根治的切除を行うことは推奨されるか?
  • CQ6 膵NETの切除不能遠隔転移に対して減量切除を行うことは推奨されるか
  • CQ7 局所にとどまる膵NECに対して切除を行うことは推奨されるか?
  • CQ1 局所にとどまる食道NECに対して化学放射線療法を行うことは推奨されるか?
  • CQ2 切除不能な局所進行の食道NECに対して、化学放射線療法を行うことは推奨されるか?
  • CQ1 10mm以下のRindi分類I/II型胃NETに対して、経過観察を行うことは推奨されるか?
  • CQ2 10mmを超えるRindi分類I/II型胃NETに対して、内視鏡的切除/局所切除を行うことは推奨されるか?
  • CQ3 10mm以下のRindi分類III型胃NETに対して、内視鏡的切除/局所切除を行うことは推奨されるか?
  • BQ1 内視鏡的に切除された胃NETに対して追加切除を考慮する因子は何か?
  • CQ4 局所にとどまる胃NECに対して切除を行うことは推奨されるか?
  • CQ1 局所にとどまる10mm以下の十二指腸NETに対して、内視鏡的切除を行うことは推奨されるか?
  • CQ2 局所にとどまる10mmを超える十二指腸NETに対して、局所切除を行うことは推奨されるか?
  • BQ1 内視鏡的に切除された十二指腸NETに対して追加切除を考慮する因子は何か?
  • CQ3 局所にとどまる外科的切除可能な十二指腸NETに対して、リンパ節郭清を省略することは推奨されるか?
  • FQ1 遠隔転移を伴う十二指腸NETに対して根治的切除を行うことは推奨されるか?
  • FQ2 局所にとどまる十二指腸NECに対して外科的切除を行うことは推奨されるか?
  • BQ1 局所にとどまる小腸NETに対して推奨される手術術式は何か?
  • CQ1 遠隔転移を有する小腸NETに対して根治的切除を行うことは推奨されるか?
  • CQ2 局所にとどまる虫垂NETに対して予防的リンパ節郭清を行うことは推奨されるか?
  • CQ1 10mm以下の結腸・直腸NETに対して内視鏡的切除を行うことは推奨されるか?
  • BQ1 内視鏡的に切除された結腸・直腸NETに対して追加手術を考慮する因子は何か?
  • FQ1 遠隔転移を有する結腸・直腸NETに対して根治的切除を行うことは推奨されるか?
  • CQ2 局所にとどまる結腸・直腸NECに対して根治的切除を行うことは推奨されるか?
  • BQ1 機能性NETの症状緩和目的に推奨される薬物療法は何か?
  • BQ2 機能性NETに対するカルチノイドクリーゼ予防として、薬物療法を行うことは推奨されるか?
  • BQ3 切除不能膵NETに対して、どのような薬物療法が選択可能か?
  • BQ4 切除不能消化管NETに対して、どのような薬物療法が選択可能か?
  • CQ1 切除不能のNETに対して、PRRTは推奨されるか?
  • CQ2 局所にとどまる膵・消化管NETに対して、周術期治療を行うことは推奨されるか?
  • CQ3 膵・消化管NECに対して、イリノテカン+シスプラチン療法、エトポシド+シスプラチン療法、エトポシド+カルボプラチン療法のいずれを行うことが推奨されるか?
  • CQ4 プラチナ併用化学療法後の膵・消化管NECに対し、二次化学療法を行うことは推奨されるか?
  • CQ5 切除可能な膵・消化管NECに対して、周術期治療を行うことは推奨されるか?
  • BQ1 どのような膵・消化管NEN患者でMEN1やVHL病の合併を疑うか?
  • BQ2 膵・消化管NEN患者においてどのようなMEN1のスクリーニング法(遺伝学的検査を含む)が推奨されるか?
  • BQ3 MEN1関連非機能性膵・消化管NENに関して、どのような場合に経過観察が推奨されるか?
  • BQ4 膵・消化管NENを有するMEN1患者ではどのようなサーベイランスが推奨されるか?
  • CQ1 MEN1関連膵NENに対する切除術式として、機能温存手術を行うことは推奨されるか?
  • BQ5 膵・消化管NEN患者においてどのようなVHL病のスクリーニング法(遺伝学的検査を含む)が推奨されるか?
  • BQ6 VHL病関連非機能性膵NENに関して、どのような場合に経過観察が推奨されるか?
  • BQ7 膵・消化管NENを有するVHL病患者ではどのようなサーベイランスが考慮されるか?

「診療ガイドライン」は患者と医療従事者の意思決定を支援する目的で作成されたものですが,主な想定読者は医療従事者です。

内容の理解に専門的な知識を要する箇所もありますので,ご注意ください。

膵・消化管神経内分泌腫瘍(NEN)診療ガイドライン 2026年 【第3版】

6年半振りの改訂となる第3版では,従来の治療別(外科・内科・集学的治療)だった項目立てを一新し,膵臓,食道,胃,十二指腸,小腸・虫垂,結腸・直腸,全身療法,遺伝性といった「原発巣別」を軸に整理しなおし,大改訂を行った。また,2021年に保険承認された内照射療法のPRRTを新たな治療法として追加した。希少疾患でありエビデンスは限られるものの,その中でも実臨床で何らかの道標となることを目指したガイドラインとなっている。