小児急性中耳炎診療ガイドライン 2018年版 第4版

実臨床により即したガイドラインにバージョンアップ!

編 集 日本耳科学会 / 日本小児耳鼻咽喉科学会 / 日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会
定 価 2,640円
(2,400円+税)
発行日 2018/05/30
ISBN 978-4-307-37122-3

B5判・112頁・図数:8枚・カラー図数:5枚

在庫状況 なし

5年ぶりの改訂では従来の構成を引き継ぎつつ、時代に沿った質を担保し、可能な限り実臨床に即したガイドラインを目指した。エビデンスの評価法やCQを大幅に見直した。推奨の決定には患者が受ける益と害のバランスを反映させた。抗菌薬の投与期間は実臨床に即して3〜5日間と幅を持たせた。また鼓膜切開を選択できる場面を増やす一方、実施できない環境にも配慮した。反復性中耳炎に関するCQも追加し充実させた。
第1章 作成の経緯と概要
1.要約
2.作成者
3.資金提供者・スポンサー
4.作成の背景および沿革
 1)抗菌薬治療の変遷
 2)本ガイドラインの沿革
5.作成目的ならびに目標
6.利用者
7.対象
8.急性中耳炎の定義
9.本邦における小児急性中耳炎難治化の細菌学的背景と現況
 1)小児急性中耳炎症例からの検出菌について
 2)肺炎球菌とインフルエンザ菌の薬剤感受性成績
10.エビデンスの収集
 1)使用したデータベース
 2)検索期間
 3)採択基準
 4)採択法
11.推奨および推奨度の決定基準
 1)エビデンスの質
 2)推奨の強さ
 3)エビデンスと推奨の表示法
12.エビデンス統合のための手法
13.リリース前のレビュー
14.更新の計画
15.推奨および理由説明
16.患者の希望
17.治療アルゴリズム
18.実施における検討事項

第2章 Clinical Questions(CQ)
1.診断・検査法
 CQ 1-1 急性中耳炎はどのような状態のときに診断されるか
 CQ 1-2 急性中耳炎の診断に問診は必要か
 CQ 1-3 急性中耳炎の診断にティンパノメトリーは有用か
 CQ 1-4 急性中耳炎の重症度はどのようにして判定されるか
 CQ 1-5 反復性中耳炎はどのような状態のときに診断されるか
2.予防
 CQ 2-1 肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)は小児急性中耳炎の予防に有効か
3.治療
 CQ 3-1 急性中耳炎に抗菌薬を使用する場合に何を使用するか
 CQ 3-2 急性中耳炎の鎮痛に抗菌薬は有効か
 CQ 3-3 抗菌薬の投与期間はどのくらいが適切か
 CQ 3-4 軽症の急性中耳炎の治療として抗菌薬非投与は妥当か
 CQ 3-5 鼓膜切開はどのような症例に適応となるか
 CQ 3-6 点耳薬は急性中耳炎に有効か
 CQ 3-7 抗ヒスタミン薬は急性中耳炎に有効か
 CQ 3-8 鼻処置は急性中耳炎に有効か
 CQ 3-9 反復性中耳炎に対して鼓膜換気チューブは有効か
 CQ 3-10 反復性中耳炎に対して漢方薬は有効か
 CQ 3-11 反復性中耳炎に対して免疫グロブリン製剤は有効か
4.小児急性中耳炎症例の治療アルゴリズム

第3章 参考資料
1.用語の定義と解説
 1)難治性中耳炎(難治性急性中耳炎)refractory acute otitis media
 2)遷延性中耳炎(遷延性急性中耳炎)persistent acute otitis media
 3)反復性中耳炎(反復性急性中耳炎)recurrent acute otitis media
 4)再燃 relapse
 5)再発 recurrence
2.薬剤感受性による肺炎球菌の分類
3.薬剤感受性によるインフルエンザ菌の分類
4.細菌学的検査
 1)意義
 2)検体採取
 3)検体をすぐ提出できない時はどうするか?
 4)グラム染色
 5)培養検査で何がいつごろわかるのか?
 6)薬剤感受性試験
 7)抗原検査
5.抗菌薬略語と一般名一覧
 1)本ガイドラインで推奨される抗菌薬
 2)本ガイドライン中に引用された抗菌薬

索引

巻末カラー
小児急性中耳炎症例の治療アルゴリズム(2018年版)
鼓膜所見
急性中耳炎診療スコアシート(2018年版)
 『小児急性中耳炎診療ガイドライン』は2006年に初版が発表され、2009年と2013年の改訂を経て、この2018年版は4代目ということになります。振り返ってみますと、耐性菌の増加に起因する小児急性中耳炎の難治化に敢然と立ち向かったのが初版でした。当時熱望した、新規抗菌薬や肺炎球菌ワクチンは現実のものとなり、ガイドラインに則った適切な治療の普及によって、往事に比べると疾患は制御しやすくなったとの声も聞かれるようになりました。
 一方で、難治化の時代を知らない世代も増え、抗菌薬の適正使用の重要性に対する認識のズレも感じるようになりました。折しも、薬剤耐性(AMR)対策アクションプランが2016年4月に公表され、抗菌薬の適正使用に対する社会的関心がこれまで以上に高くなっています。アクションプランの中で、抗菌薬は「適切な薬剤」を「必要な場合に限り」、「適切な量と期間」使用することが推奨されています。これは、まさに『小児急性中耳炎診療ガイドライン』が初版以来追求してきた基本構造にほかなりません。AMR対策はいわば将来の患者のための対策ですが、同時に目の前にいる患者も重視した診療を表現したのが本ガイドラインであり、その基本的な構造に大きな変更はありません。
 この度の改訂では、昨今のガイドライン作成方法の進歩に鑑み、作成過程の客観性と透明性を従来以上に高いレベルで実現できるエビデンスの評価方法を採用しました。多くの労力を要しましたが、これにより時代に即したガイドラインの質が担保されたと考えています。その過程で、いくつかのCQを見直し、新しいエビデンスを取り入れ、推奨の作成には、利用者である医師の声のみならず、患者が受ける益と害のバランスを大きく反映させました。実際に利用する上での最も大きな変更点は抗菌薬の投与期間です。従来版で推奨された3日後の経過観察の重要性は変わりませんが、実臨床に即して3〜5日間と幅を持たせました。また、従来版よりも鼓膜切開を選択できる場面を増やす一方、耳鼻咽喉科医以外など鼓膜切開を実施できない環境にも配慮しました。さらに、反復性中耳炎の診断と治療に関するCQを充実させるなど、可能な限り実臨床に即したガイドラインをめざしました。まだまだ、至らぬ点があることと思いますが、今後各方面からのご意見を頂き、次期改訂の参考にさせていただければと考えております。
 最後になりましたが、遅々として進まぬ作業を暖かく見守っていただいた日本耳科学会理事長の村上信五先生ならびに、本ガイドライン作成にご尽力いただきました作成委員会委員とシステマティック・レビュー・チーム、その他全ての関係者に心から感謝申し上げます。

2018年5月
小児急性中耳炎診療ガイドライン作成委員会委員長
林 達哉