産婦人科内視鏡手術ガイドライン 2019年版 第3版

安全・効果的な内視鏡手術のための診療ガイドライン改訂版!

編 集 日本産科婦人科内視鏡学会
定 価 3,300円
(3,000円+税)
発行日 2019/07/05
ISBN 978-4-307-30140-4

B5判・212頁

在庫状況 あり

2013年版より6年、新たに保険収載された腹腔鏡手術、ロボット支援手術のエビデンスも評価、解説した。悪性腫瘍に対する腹腔鏡手術についても最新のエビデンスに基づき大幅に改訂されており、産婦人科内視鏡手術に関わる医療者必読の一冊である。改訂においてはGRADEシステムが導入されており、内視鏡手術を行う産婦人科医が何を考えているかが手に取るようにわかる、より実践に即したガイドラインとなった。
・ガイドライン作成方法
・略語一覧

腹腔鏡手術編
■腹腔鏡手術 総論
BQ1:開腹手術と比較して、腹腔鏡手術およびロボット支援手術における麻酔管理の留意点は?
BQ2:開腹手術と比較して、腹腔鏡手術およびロボット支援手術における体位の留意点は?
BQ3:高齢者に対して、腹腔鏡手術は他の術式と比較して低侵襲で安全か?
BQ4:高度肥満症例(BMI35以上)に対して、腹腔鏡手術は開腹手術と比較して低侵襲で安全か?
BQ5:妊娠症例に対して、腹腔鏡手術のメリットと留意点は?
BQ6:悪性腫瘍に対する腹腔鏡手術(ロボット支援手術を含む)において、子宮マニピュレーターの使用は妥当か?
BQ7:悪性腫瘍に対する腹腔鏡手術(ロボット支援手術を含む)は、開腹手術と比較して合併症に違いがあるか?

■良性疾患序論

■第1章 良性卵巣腫瘍
CQ1:良性卵巣腫瘍に対して、腹腔鏡手術は推奨されるか?

■第2章 不妊症
CQ2:原因不明不妊症に対して、腹腔鏡手術は推奨されるか?
CQ3:卵管性不妊症に対して、腹腔鏡下卵管形成術は推奨されるか?
CQ4:卵管留水症に対して、腹腔鏡下卵管摘出術は推奨されるか?
CQ5:多嚢胞性卵巣症候群に対して、腹腔鏡下卵巣開孔術は推奨されるか?

■第3章 子宮内膜症
CQ6:卵巣チョコレート?胞に対して、腹腔鏡手術は推奨されるか?
CQ7:子宮内膜症性腹膜病変に対して、腹腔鏡下に病変の焼灼を行うことは推奨されるか?
CQ8:ダグラス窩深部子宮内膜症に対して、腹腔鏡手術は推奨されるか?
CQ9:腸管・尿路子宮内膜症に対して、腹腔鏡手術は推奨されるか?

■第4章 異所性妊娠
CQ10:卵管妊娠に対して、腹腔鏡手術は推奨されるか?
CQ11:卵管妊娠に対して、腹腔鏡下卵管保存手術は、開腹手術やMTX療法と比較して推奨されるか?
CQ12:間質部妊娠に対して、腹腔鏡下子宮温存手術は推奨されるか?
コラム:帝王切開瘢痕部妊娠に対する内視鏡手術の適応は?

■第5章 子宮筋腫 (1)単純子宮全摘出術
CQ13:子宮筋腫に対して、腹腔鏡下単純子宮全摘出術は推奨されるか?

■第6章 子宮筋腫 (2)ロボット支援下単純子宮全摘出術
CQ14:子宮筋腫に対して、ロボット支援下単純子宮全摘出術は推奨されるか?
コラム:良性疾患手術時の追加卵管切除(OBS)による非遺伝性卵巣がん発症予防について

■第7章 子宮筋腫 (3)筋腫核出術
CQ15:子宮筋腫に対して、腹腔鏡下子宮筋腫核出術は推奨されるか?
コラム:GnRH アゴニストの使用は?
コラム:子宮および筋腫に対するモルセレータの使用は?
コラム:子宮腺筋症に対する腹腔鏡手術は有効か?

■第8章 骨盤臓器脱(腹腔鏡下仙骨腟固定術)
CQ16:骨盤臓器脱に対して、腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC)は推奨できるか?

■第9章 先天性腟欠損症
CQ17:先天性腟欠損症に対して、造腟術での腹腔鏡手術は推奨されるか?

■悪性疾患序論

■第10章 子宮頸がん
CQ18:CIN3に対して、腹腔鏡下単純子宮全摘出術は推奨されるか?
CQ19:IA1期に対して、腹腔鏡下単純子宮全摘出術は推奨されるか?
CQ20:IA2、IB1、IIA1期に対して、腹腔鏡下広汎子宮全摘出術は推奨されるか?
CQ21:IB2、IIA2、IIB期に対して、腹腔鏡手術は推奨されるか?

■第11章 子宮体がん
CQ22:子宮内膜異型増殖症に対して、腹腔鏡下単純子宮全摘出術は推奨されるか?
CQ23:再発低リスクと推定されるI期子宮体がんに対して、腹腔鏡手術は推奨されるか?
CQ24:再発中・高リスクと推定されるI・II期子宮体がんに対して、腹腔鏡手術は推奨されるか?
CQ25:明らかな子宮外進展が考えられる子宮体がんに対して、腹腔鏡手術は推奨されるか?

■第12章 卵巣がん
CQ26:卵巣境界悪性腫瘍が疑われる症例に対して、腹腔鏡手術は推奨されるか?
CQ27:早期卵巣がんに対して、腹腔鏡手術は推奨されるか?
CQ28:進行卵巣がんに対して、腹腔鏡手術は推奨されるか?

■第13章 ロボット支援手術
CQ29:子宮頸がんに対して、ロボット支援手術は推奨されるか?
CQ30:子宮体がんに対して、ロボット支援手術は推奨されるか?
CQ31:ロボット支援手術は卵巣がんに対して推奨されるか?

子宮鏡手術編
■子宮鏡手術編 総論
BQ8:子宮腔内病変の検索方法は?
BQ9:子宮鏡手術の合併症は?
BQ10:合併症の予防法は?
BQ11:術中の灌流液モニタリングは必要か?
BQ12:術後の子宮内癒着予防に対して、セカンドルック子宮鏡は有用か?

■子宮鏡手術序論

■第1章 子宮粘膜下筋腫
CQ32:子宮粘膜下筋腫に対して、子宮鏡手術は推奨されるか?

■第2章 子宮内膜ポリープ
CQ33:子宮内膜ポリープに対して、子宮鏡手術は推奨されるか?

■第3章 中隔子宮
CQ34:中隔子宮に対して、子宮鏡手術は推奨されるか?

■第4章 子宮腔癒着症
CQ35:有症候性子宮腔癒着症に対して、子宮鏡手術は推奨されるか?

■索引
・2019年版の発刊にあたって

 『産婦人科内視鏡手術ガイドライン(2019年版)』がいよいよ上梓されることとなりました。日本産科婦人科内視鏡学会のガイドラインは、2006年に発刊された日本産科婦人科内視鏡学会ガイドラインに端を発しています。その7年後に発刊された『産婦人科内視鏡手術ガイドライン(2013年版)』は、「Minds診療ガイドライン作成の手引き2007」に準拠して作成されたもので、当時の世界標準のガイドライン形式を備えた優れたものでした。その後、5年後の改訂版発刊を目指して編集作業が行われてきましたが、諸般の事情により若干遅れて2019年版として生まれ変わりました。
 2019年版の最大の変更点と特徴は、作成の過程がGRADEシステムに基づいているということです。現在世界の標準的なガイドラインはGRADEシステムに基づいて作成されていますが、産婦人科領域で本格的にこのシステムを導入したのは本学会のこのガイドラインが初めてであると思われます。GRADE の特徴は、アウトカムを主体として研究横断的にエビデンスの質を評価し、さらにその“エビデンスの質の評価”とは分離して“推奨度の判定”を行うことです。そして、最終的な推奨度は、エビデンスの質に加えて益と不利益、患者の価値観や希望、資源の利用状況などを勘案して決定されるのです。全く新しい概念を導入するにあたり、Mindsで診療ガイドラインの作成マニュアルの編集にも深く関わった吉田雅博先生(国際医療福祉大学消化器外科学教室教授)のご指導を仰ぎました。それでも、最初は初めてのことばかりで、櫻木委員長はじめ委員の先生方はさぞ苦労されたことと思います。しかし、その甲斐あって実践に即しており、同じような手術をしようと考える産婦人科医が今何を考えているのかが手に取るようにわかるようになっています。
 今回編集作業が遅れたもう一つの理由は、編集作業が大詰めに入った段階で飛び込んできたLACC trialの存在です。米国を中心に行われた子宮頸癌に対するRCTで、低侵襲手術群の無病生存率・全生存率が開腹手術群よりも劣っていたことが示されたのです。このため、大幅な変更こそありませんでしたが、子宮頸癌に対する広汎子宮全摘出術の記述は見直しを余儀なくされました。
 産婦人科内視鏡手術ガイドライン(2019年版)は、以上のような難関を乗り越えて上梓にこぎ着けましたが、できあがったものは大変すばらしいものになりました。櫻木委員長はじめガイドライン委員会の先生方には、心からの労いと謝意を表したいと思います。また、Mindsの吉田先生にもこの場を借りて深甚なる感謝を申し上げます。
 本ガイドラインが、安全性、根治性、低侵襲性、さらには経済性にも優れた質の高い内視鏡手術を提供するよりどころとなり、真に国民の健康増進に寄与するものとなるよう祈念してやみません。

日本産科婦人科内視鏡学会理事長
竹下 俊行


・2019年版序文

 産婦人科領域の手術治療法のなかで、内視鏡手術(腹腔鏡手術、子宮鏡手術、卵管鏡手術)は欠かすことのできない手技になっています。腹腔鏡手術は開腹手術と比較して低侵襲、入院期間短縮、早期社会復帰・家庭復帰といった患者さんの負担軽減の面での利点を有しています。特に婦人科良性疾患に対しては、腹腔鏡手術がまず選択肢として考慮される時代になっています。しかしスコープを用いた視野と鉗子操作の可動域に一定の制限があり、腹腔鏡手術手技の修得には系統立てた教育プログラムと熟練した指導者の存在が必要になります。患者さんにとって負担の少ない手術法が望ましいのは当然ですが、安全かつ効果的に行うために留意すべき事項があるはずです。
 臨床現場で手術治療法を選択するにあたって、多くの場合腹腔鏡手術と開腹手術を比較しながら臨床的判断を下すことになります。本ガイドライン2013年版が発刊されてから5年を過ぎ、この間に子宮体がんや子宮頸がんの手術治療に腹腔鏡手術/ロボット支援手術の導入が始まり、子宮筋腫にもロボット支援手術が適用されることになりました。この度内容を一新して2019年版として発刊する運びとなりました。科学的エビデンス、臨床的修練、説明と同意が揃ってはじめて、安全な、納得が得られる手術治療が行われます。ガイドライン2019年版はGRADEシステムに準拠して作成しました。GRADEシステムはエビデンスに加えて患者の価値観・好み、益・害のバランス、医療資源なども考慮しており、手術治療の現実に即したガイドライン作成に有用です。2019年版においてもその目的は2013年版を踏襲しています。すなわち、腹腔鏡手術について十分な指導を受けた医師が手術を行うことを前提として、腹腔鏡手術が開腹手術に劣ることなく安全に、効果的に行えることについての評価を行いました。内視鏡手術のメリット、デメリットのエビデンスを示し、医師と患者による治療法選択を支援することを目的としています。疾病に対しての手術治療そのものの適用の適否を示すものではありません。特に婦人科がんは進行期や腫瘍の悪性度等の要素を勘案して治療方針が決定されます。本ガイドラインと対に位置づけられる各種婦人科がん治療ガイドラインは手術治療、化学療法、放射線治療、緩和治療など様々な治療法のなかから最も適切な方法を選択するための指針となることを目的としており、両者を手元に置いて診療に役立てていただければと思います。
 本ガイドラインが、より良質な医療を患者さんに提供すること、現場におけるチーム医療に役立つこと、および治療を受ける患者さんとその家族がその治療成績・合併症などを理解することに役立つことを期待します。このことにより、治療を提供する者と治療を受ける者との相互信頼が増進され、わが国の産婦人科内視鏡手術がさらに発展することを念願します。
最後に本ガイドライン作成にあたり多忙な日常診療や教育・研究業務のなかから貴重な時間を割いて献身的に作業に従事していただいた作成委員会の副委員長、小委員長、作成委員、評価委員の皆様に深謝申し上げます。

日本産科婦人科内視鏡学会ガイドライン作成委員会委員長
櫻木 範明