大腸癌治療ガイドライン 医師用 2022年版

薬物療法、原発巣切除に関する新たな知見を加え解説・CQを改訂

編 集 大腸癌研究会
定 価 1,870円
(1,700円+税)
発行日 2022/01/25
ISBN 978-4-307-20437-8

B5判・160頁・カラー図数:37枚

在庫状況 あり

大腸癌研究会プロジェクト研究の成果等を取り入れて本邦における標準的な大腸癌治療を提示してきた本ガイドライン。2022年版では、新たに承認された薬剤、ゲノム診療(MSI-H、RAS、BRAF V600E遺伝子、NTRK融合遺伝子等)、また切除不能な遠隔転移症例に対する原発巣切除に関する知見を追加し、アルゴリズムを含めた解説・CQを大幅改訂。広がった選択肢を治療に活かすために必須の情報を提示する。
はじめに
2019年版 序
2016年版 序
2014年版 序
2010年版 序
2009年版 序
初版序
『大腸癌治療ガイドライン医師用2022年版』 主な改訂点

総論
1 .目的
2 .使用法
3 .対象
4 .作成法
5 .文献検索法
6 .改訂
7 .公開
8 .一般向けの解説
9 .資金
10.利益相反
11.文献
12.ガイドライン委員会

各論
1 .Stage 0〜StageIII大腸癌の治療方針
 1 )内視鏡治療
 2 )手術治療
 サイドメモ
 「奏効率」と「奏効割合」、「生存率」と「生存割合」に関して
2 .StageIV 大腸癌の治療方針
3 .再発大腸癌の治療方針
4 .血行性転移の治療方針
 1 )肝転移の治療方針
 2 )肺転移の治療方針
 3 )脳転移の治療方針
 4 )その他の血行性転移の治療方針
5 .薬物療法
 1 )補助化学療法
 2 )切除不能進行・再発大腸癌に対する薬物療法
6 .放射線療法
 1 )補助放射線療法
 2 )緩和的放射線療法
7 .緩和医療・ケア
8 .大腸癌手術後のサーベイランス
 1 )大腸癌根治度A切除後の再発に関するサーベイランス
 2 )大腸癌根治度B切除後および再発巣切除後のサーベイランス
 3 )異時性多重がんのサーベイランス

Clinical Questions
CQ 1:内視鏡的切除されたpT1大腸癌の追加治療の適応基準は何か?
CQ 2:最大径2cm以上の腫瘍性病変に対する内視鏡的切除としてESDは推奨されるか?
CQ 3:早期大腸癌の内視鏡的切除後にサーベイランスは推奨されるか?
CQ 4:大腸癌に対して腹腔鏡下手術は推奨されるか?
CQ 5:直腸癌に対して側方郭清は推奨されるか?
CQ 6:切除不能な遠隔転移を有する症例に原発巣切除は推奨されるか?
CQ 7:腹膜転移を認めた場合、原発巣と同時に切除することは推奨されるか?
CQ 8:肝転移と肺転移の双方を同時に有する症例の転移巣の切除は推奨されるか?
CQ 9:切除可能な肝転移に対する術前・術後補助化学療法は推奨されるか?
CQ 10:薬物療法が奏効して切除可能となった肝転移、肺転移に対する切除は推奨されるか?
CQ 11:薬物療法が奏効して画像上消失した肝転移巣の切除は推奨されるか?
CQ 12:大腸癌肝転移に対する腹腔鏡下手術は推奨されるか?
CQ 13:肝転移巣に対する熱凝固療法は推奨されるか?
CQ 14:直腸癌局所再発の切除は推奨されるか?
CQ 15:StageIII結腸癌に術後補助化学療法は推奨されるか?
CQ 16:StageIII大腸癌術後補助化学療法の治療期間は6カ月が推奨されるか?
CQ 17:70歳以上の高齢者に術後補助化学療法は推奨されるか?
CQ 18:StageII大腸癌に術後補助化学療法は推奨されるか?
CQ 19:肝転移以外の遠隔転移巣切除後の補助化学療法は推奨されるか?
CQ 20:切除不能大腸癌に対する一次・二次治療として分子標的治療薬の併用は推奨されるか?
CQ 21:切除不能大腸癌に対する後方治療は推奨されるか?
CQ 22:切除不能大腸癌に対する免疫チェックポイント阻害薬は推奨されるか?
CQ 23:BRAFV600E変異切除不能大腸癌に対するBRAF阻害薬は推奨されるか?
CQ 24:切除不能大腸癌に対する包括的がんゲノムプロファイリング検査は推奨されるか?
CQ 25:R0切除可能な直腸癌に対して術前治療は推奨されるか?
CQ 26:遠隔転移のない切除不能な局所進行再発直腸癌に対する化学放射線療法は推奨されるか?
CQ 27:閉塞性大腸癌にステント治療は推奨されるか?
CQ 28:大腸癌治癒切除後に多重がん(多発癌および重複がん)のサーベイランスは推奨されるか?

大腸癌治療ガイドライン2022年版(改訂部分)および2019年版に対する外部評価
資料
文献
索引
はじめに

 この度「大腸癌治療ガイドライン医師用2022年版」を刊行しました。2019年版では大腸癌の治療にかかわるすべての領域(内視鏡治療領域、外科治療領域、薬物療法領域)の改訂が行われましたが、今回はJCOGで行われた二つの第三相試験の結果を反映したこと、免役チェックポイント阻害薬、BRAF阻害薬を薬物療法に組み入れたこととCQを刷新したこと、資料を刷新したことが主な変更点です。
 大腸癌肝転移の治癒的切除後の補助化学療法としてmFOLFOX6の有用性を検証したJCOG0603は症例集積に約12年を要しましたが、欧米での大腸癌肝転移の術後補助療法ないしは周術期化学療法の臨床試験がことごとく症例集積不足で中止になるなか、結論が得られたことは誇らしいことと思います。すでに2019年版に掲載された肝切除後の補助化学療法としてUFT/LV療法の有用性を検証した試験とともに世界に誇れる臨床試験だと思います。一方、対象となる症例は少ないのですが、それまでの薬物治療が効きにくかったMSI-H大腸癌やBRAF遺伝子異常大腸癌に対して有効な薬剤が登場したことは患者さんにとっても医療者にとっても朗報です。
 さらに、資料の一部が刷新されました。大腸癌研究会の全国登録のデータを用いて2000年〜2007年に手術が行われた大腸癌の部位別・壁深達度別リンパ節転移頻度、Stage別治癒切除率、部位別5年生存率、同時性遠隔転移頻度、が大腸癌取扱い規約第9版に準拠して記載されています。2019年版では大腸癌取扱い規約第8版に沿って記載されていましたが、規約第9版では第8版と比べ、リンパ節転移、遠隔転移、進行度の分類に大きな変更があったことから、全国登録委員会に依頼して第9版に準拠したデータとして作成してもらいました。これを用いて、患者さんへの説明や英文論文作成の際の資料として役立てることができると思います。
 先日Brit Med J に、米国心臓学会(ACC)、米国心臓協会(AHA)、米国臨床腫瘍学会(ASCO)のガイドラインを分析し、「エビデンスの質と推奨の不一致がコンセンサスベースのガイドラインに多かった。エビデンスに基づく医療はエビデンスと推奨度が一致することを原則とする。信頼できるガイドライン作成のためには、エビデンスの質と推奨の度合いを適切に一致させることが重要」との論文が載りました(Yao L. et al. BMJ 2021;375:e066045)。私はこの意見には賛同できません。エビデンスはあくまでも治療法を選択する際の判断材料の一つであり(大きな要素ではありますが)、ガイドライン作成の際はエビデンスを中心にすえながら、医療環境、治療法の難易、利益と不利益のバランス、患者さんの状態、などを考慮しながら専門医たちが合意のうえ推奨度を決めることだと思います。臨床現場では、その推奨度とエビデンスを参考にしながら、患者さんの健康状態・考え・環境、医療費、交通の便などを考慮して、患者さんとその家族とともに治療法を決めるのが基本だと思います。

2021年12月15日

大腸癌研究会会長
杉原 健一