鼠径部ヘルニア診療ガイドライン

本邦初! 全年齢を対象とした鼠径部ヘルニア診療のガイドライン。

編 集 日本ヘルニア学会ガイドライン委員会
定 価 3,080円
(2,800円+税)
発行日 2015/05/22
ISBN 978-4-307-20342-5

B5判・120頁

在庫状況 なし

歴史が長く多様な手術法が存在する鼠径部ヘルニア。国内初となる診療ガイドラインでは鼠径ヘルニアだけでなく大腿ヘルニアも取り上げ、小児鼠径ヘルニアに対するCQも設定。すべての年齢を対象としていることに加え、特殊な患者への治療、術後合併症から日帰り手術、医療費に至るまで現場で役立つ情報を幅広く網羅している。若手、一般外科医にもわかりやすい表現で、最適な治療を判断するための指針を提示。全外科医必携の一冊。
■本ガイドラインについて
 本ガイドラインの目的、テ−マ
 本ガイドラインの対象患者
 本ガイドラインの利用者
 ガイドラインの使用上の注意点
 責 任
 本ガイドライン作成における資金
 利益相反
 ガイドライン作成方法
 ガイドライン評価方法
 使用した推奨グレ−ドとエビデンスレベル
 用語・略語の定義と概念
 今後のガイドラインの改訂について
 鼠径部ヘルニア診療ガイドライン クリニカルクエスチョンと推奨一覧

■各 論
 101100 成人-治療の適応-鼠径ヘルニア
 101200 成人-治療の適応-大腿ヘルニア
 102100 成人-治療前診断-診断方法
 102200 成人-治療前診断-鑑別診断
 103000 成人-分類
 104300 成人-危険因子と予防
 105100 成人-治療-手術の原則
 105200 成人-治療-各術式の比較
 105310 成人-治療-鼠径ヘルニアに対する治療-組織縫合法
 105321 成人-治療-鼠径ヘルニアに対する治療-メッシュ法-Lichtenstein法
 105322 成人-治療-鼠径ヘルニアに対する治療-メッシュ法-Plug法
 105323 成人-治療-鼠径ヘルニアに対する治療-メッシュ法-Bilayer法
 105324 成人-治療-鼠径ヘルニアに対する治療-メッシュ法-形状記憶リングメッシュを
用いた鼠径部切開前方到達法による腹膜前修復法(TIPP、Direct Kugel法など)
 105325 成人-治療-鼠径ヘルニアに対する治療-メッシュ法-Kugel法
 105326 成人-治療-鼠径ヘルニアに対する治療-メッシュ法-腹腔鏡下
 105400 成人-治療-大腿ヘルニアに対する治療
 106000 成人-メッシュの材質
 107000 成人-麻酔
 108000 成人-術後処置と指導
 109300 成人-合併症の予防と治療-慢性疼痛
 109400 成人-合併症の予防と治療-感染(SSI)
 109500 成人-合併症の予防と治療-その他
 110100 成人-特定な患者への治療-再発ヘルニア
 110200 成人-特定な患者への治療-非還納性・嵌頓・絞扼性ヘルニア
 110300 成人-特定な患者への治療-若年男性
 110400 成人-特定な患者への治療-女性(妊娠中を含む)
 110500 成人-特定な患者への治療-重篤な基礎疾患を有する患者
 110600 成人-特定な患者への治療-下腹部手術後の患者
 111000 成人-日帰り手術
 112000 成人-教育・トレ−ニング
 113000 成人-医療費
    コラム 成人鼠径ヘルニアに関する医療費(平成26年度診療報酬点数)
 202000 小児-診断
 203000 小児-分類
 205100 小児-治療-適応と手術時期
 205200 小児-治療-手術方法
 207000 小児-麻酔
 208000 小児-術後処置と指導
 209500 小児-併発症の予防と治療
 210100 小児-特定な患者への治療0
 211000 小児-日帰り手術
発刊にあたって
 
 ヘルニアの歴史は外科学の歴史とも言われ、初めての記録が確認されたのはおよそ紀元前1552年の"Egyptian Papyrus of Ebers"であると考えられている。
 近代におけるヘルニア修復術の走りは1889年にイタリアPadua大学のEdoardo Bassiniが提唱したBassini法である。一説によるとBassiniはMarcy(ボストン大学)が提唱したヘルニアサック高位結紮、内鼠径輪縫縮の重要性を取り入れたとされるが、1884年から1989年までに216人に手術を行い、創感染5.1%、再発2.3%と非常に優れた成績を達成した。しかしBassiniの原法は北米に伝わると鼠径管後壁の切開が省かれた"いわゆるBassini法、modified Bassini、 North American Bassini"に改悪され、25%にも及ぶ再発率が報告されるに至ったことは周知のことである。その後、Halsted法、Ferguson法、iliopubic tract法、McVay法、本邦ではなじみが少ないShouldice法(Bassini原法に最も近いとされる)など様々な組織縫合法が開発され、Shouldice法の再発率は1%以下とされた。
 しかし、ヘルニア修復術における最大の変革期は、1950年代のUsherによるポリプロピレンメッシュを用いた腹壁ヘルニア修復術に続く、1986年Lichtensteinが提唱したtension−free repairの概念、鼠径部切開による腹膜前修復法に基づく腹腔鏡下手術の導入などが行われたこの半世紀であると言っても過言ではない。
 その後の多様なメッシュや修復法が開発されたことにより、われわれに様々な治療オプションの選択が可能となったことは大きな喜びである。一方、鼠径部ヘルニア手術は若手外科医にとって最初の手術となることも多く、彼らにとっては"何が最良な術式なのか?"、"どれが最良なメッシュなのか?"といった混乱をもたらす懸念もある。しかしベテラン外科医においても、ややもすると新たなメッシュを開発した企業からの推奨が術式選択に大きな影響を与えていることは否定できない。
 鼠径ヘルニアを対象とし、医療関係者ばかりでなく患者の満足度も考慮し、治療法の選択を援助する目的で2002年頃には英国ヘルニア学会とオランダ外科学会(オランダ語のみ)からそれぞれのガイドラインが出されていた。これらのガイドラインを参考に(統合して)2009年にヨ−ロッパヘルニア学会から成人鼠径ヘルニア診療ガイドラインが発刊された。このガイドラインではEBMに準じ、疫学的事項から術式選択、合併症への対応など細かい記載がなされているが、人種、各術式の普及率、保険診療システムなどが全く異なるため、その内容を日本における診療指針としてそのまま外挿することはできない。
 このため、日本ヘルニア学会では翌2010年にガイドライン委員会を組織し、本邦における一般外科医を対象とした"鼠径部ヘルニア診療のガイドライン"の作成に着手した。
 本ガイドラインの特色としては、英文のみならず和文でもエビデンスレベルの高い論文を抽出しレビュ−を行い、且つ、日本の保険診療システムに合致し、一般外科医を対象としたわかりやすい表現を用いたことである。
 また、特筆すべきは鼠径ヘルニアだけでなく大腿ヘルニアを含めたこと、さらに小児鼠径ヘルニアを取り入れたことであり、すべての年齢を対象とした鼠径部ヘルニアのガイドライン作成は世界で初めての試みである。
 内容は治療適応、診断、ヘルニア分類、ヘルニア危険因子、各術式の解説と比較、メッシュの材質、麻酔法、術後処置と指導、術後合併症、特殊な患者への治療(再発ヘルニア、非還納性・嵌頓ヘルニア、若年男性患者、女性患者、重篤な基礎疾患を有する患者、下腹部手術後の患者)、日帰り手術、教育・トレ−ニング、医療費と多岐に及ぶ。
 残念ながらこのガイドラインは完璧なものではない。
 第一に、作成に医療情報サ−ビスMinds(マインズ)を利用していたが作成過程で医療情報サ−ビスMinds(マインズ)が使用できなくなった期間があったことも影響し、CQ抽出、文献検索の過程から完成までに期間がかかり過ぎてしまい、すでに新たなエビデンスの蓄積がなされている点である。第二は作成過程において英語名称の和訳や用語に統一した定義が必要であると判明したため、用語委員会を設け用語を定義した結果、内容に再検討を要する点ができてしまったことが挙げられる。すでに今後の早急な改正を目指している。
 医療の進歩は日進月歩であり、このガイドラインが日本の鼠径部ヘルニア診療の道標の"入り口"に過ぎないことは明白である。今後も改訂を重ね、常に若手外科医をはじめすべての一般外科医の助けとなることを祈願しやまない。
 最後にこのガイドラインの作成にかかわって頂いた日本ヘルニア学会会員の方々に深く感謝の意を表したい。

日本ヘルニア学会 理事長
 柵瀬 信太郎