成人・小児進行固形がんにおける臓器横断的ゲノム診療のガイドライン

臓器横断的「Tumor-agnostic」な診療のための指針が登場!

編 集 日本癌治療学会 / 日本臨床腫瘍学会
協 力 日本小児血液・がん学会
定 価 2,420円
(2,200円+税)
発行日 2019/10/28
ISBN 978-4-307-10198-1

B5判・92頁・カラー図数:16枚

在庫状況 あり

近年、腫瘍の様々な生物学的特性が明らかにされるにしたがい、疾患の臓器特性を超えた臓器横断的「Tumor-agnostic」な薬剤の開発承認がなされてきている。本ガイドラインでは、dMMR固形がんに対する抗PD-1/PD-L1抗体薬、NTRK融合遺伝子陽性固形がんに対するTRK阻害薬の使用を中心に、臨床現場での円滑な検査、治療を行う指針を策定。遺伝子の変異を指標にしたゲノム診療のガイドラインとなる。
0. 要約

?. 本ガイドラインについて
  1.1 背景と目的
  1.2 臓器横断的治療、Tumor-agnostic therapy
  1.3 推奨度の決定
  1.4 資金と利益相反

II. dMMR
  2.1 がんとミスマッチ修復機能
  2.2 dMMR固形がんのがん種別頻度
  2.3 dMMR固形がんの臨床像
   2.3.1 dMMR消化管がんの臨床像
   2.3.2 dMMR肝胆膵がんの臨床像
   2.3.3 dMMR婦人科がんの臨床像
   2.3.4 dMMR泌尿器がんの臨床像
  2.4 dMMR判定検査法
   2.4.1 MSI検査
   2.4.2 MMRタンパク質免疫染色検査
   2.4.3 NGS検査
  2.5 dMMR固形がんに対する抗PD-1/PD-L1抗体薬

 3 リンチ症候群
  注釈 dMMR判定検査でdMMRと判断された患者に対するBRAF遺伝子検査の有用性
  注釈 Constitutional Mismatch Repair Deficiency:CMMRD

 4 クリニカルクエスチョン(CQ)
  CQ1 dMMR判定検査が推奨される患者
   CQ1-1 標準的な薬物療法を実施中、または標準的な治療が困難な固形がん患者に対して、抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判断するためにdMMR判定検査は勧められるか?
   CQ1-2 MMR 機能に関わらず抗PD-1/PD-L1抗体薬が既に実地臨床で使用可能な切除不能固形がん患者に対し、抗PD-1/PD-L1抗体薬の適応を判断するためにdMMR判定検査は勧められるか?
   CQ1-3 局所治療で根治可能な固形がん患者に対し、抗PD-1/PD-L1抗体薬の適応を判断するためにdMMR判定検査は勧められるか?
   CQ1-4 抗PD-1/PD-L1抗体薬が既に使用された切除不能な固形がん患者に対し、再度抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判断するためにdMMR判定検査は勧められるか?
   CQ1-5 既にリンチ症候群と診断されている患者に発生した腫瘍の際、抗PD-1/PD-L1抗体薬の適応を判断するためにdMMR判定検査は勧められるか?

  CQ2 dMMR判定検査法
   CQ2-1 抗PD-1/PD-L1抗体薬の適応を判定するためのdMMR判定検査として、MSI検査は勧められるか?
   CQ2-2 抗PD-1/PD-L1抗体薬の適応を判定するためのdMMR判定検査として、IHC検査は勧められるか?
   CQ2-3 抗PD-1/PD-L1抗体薬の適応を判定するためのdMMR判定検査として、NGS検査は勧められるか?
   注釈 TMB/PD-L1とMMRの関係
   CQ2-4 免疫チェックポイント阻害薬は、免疫関連有害事象への十分な対応が可能な体制のもと投与するべきか?

 5 参考資料
  5.1 ミスマッチ修復機能欠損を有する固形がん患者に対する免疫チェックポイント阻害薬の国内外の承認状況
  5.2 各ガイドラインでの推奨
   5.2.1 NCCNガイドライン
   5.2.2 ESMOガイドライン
   5.2.3 国内ガイドラインでの記載
  5.3 別添図表 38

III. NTRK(neurotrophic receptor tyrosine kinase)
  6.1 NTRKとは
  6.2 NTRK遺伝子異常
   6.2.1 遺伝子バリアント、遺伝子増幅
   6.2.2 融合遺伝子
  6.3 NTRK融合遺伝子のがん種別頻度
  6.4 NTRK検査法
  6.5 TRK阻害薬

 7 クリニカルクエスチョン(CQ)
  CQ3 NTRK融合遺伝子検査の対象
   CQ3-1 局所進行または転移性固形がん患者 転移・再発固形がん患者に対してNTRK融合遺伝子検査は勧められるか?
   CQ3-2 早期固形がん患者に対してNTRK融合遺伝子検査は勧められるか?
   CQ3-3 NTRK融合遺伝子の検査はいつ行うべきか?

  CQ4 NTRK融合遺伝子の検査法
   CQ4-1 TRK阻害薬の適応を判断するために、NGS検査は勧められるか?
   CQ4-2 NTRK融合遺伝子を検出するために、FISH、PCRは勧められるか?
   CQ4-3 NTRK融合遺伝子を検出するために、IHCは勧められるか?
   CQ4-4 TRK阻害薬の適応を判断するために、NanoStringは勧められるか?

  CQ5 NTRK融合遺伝子に対する治療
   CQ5-1 NTRK融合遺伝子を有する切除不能・転移・再発固形がんに対してTRK 阻害薬は勧められるか?
   CQ5-2 TRK阻害薬はいつ使用すべきか?

 8 参考資料
  8.1 各ガイドラインでの推奨

IV. その他
  9.1 診療体制
  9.2 NGS検査に適した検体
  9.3 検査回数、タイミング
  9.4 リキッドバイオプシー
  9.5 エキスパートパネル
  9.6 遺伝カウンセリング

 10 Tumor―agnosticな薬剤開発
  
 11 成人・小児進行固形がんにおける臓器横断的ゲノム診療の費用対効果
  MSI-H固形がんに対する免疫チェックポイント阻害薬
  NTRK融合遺伝子陽性の固形がんに対するTRK阻害薬

参考文献
<発刊にあたり>

 進行がんの診断薬および治療薬の開発は、これまで臓器別、小児・成人別、造血器腫瘍・固形腫瘍別のカテゴリー毎に実施され、医学的なエビデンスが構築されてきました。このため、診療ガイドラインはこれらのカテゴリー毎にその関連学会により作成・改訂され、日常診療の指針として広く活用されてきました。しかし、がん薬物療法に関しては20世紀後半の発がん機構に関する分子生物学の急速な進歩を基盤に、21世紀初頭から加速したがん分子標的治療薬の臨床開発の成果とがんゲノム解析技術の進歩により、臓器横断的な治療薬が複数登場するようになりました。このような背景から、国内の診療ガイドラインはこれらのカテゴリーを超えて複数の学会が合同で作成する時代を迎えています。
 公益社団法人日本臨床腫瘍学会は、がん薬物療法を中心とする内科的がん治療の研究開発促進とがん薬物療法専門医の養成を含むがん医療従事者の教育を事業の中心に据える国内唯一の学術団体で、これまで関連学会の協力を得てがん薬物療法に関連する種々のがん診療ガイドラインの作成に取り組んで参りました。この度改訂される「成人・小児進行固形がんにおける臓器横断的ゲノム診療のガイドライン(第2版)」は、臓器別、小児・成人別のカテゴリーを超え一般社団法人日本癌治療学会と公益社団法人日本臨床腫瘍学会が編纂し一般社団法人日本小児血液・がん学会が協力して作成したわが国で初めての診療ガイドラインです。がん遺伝子パネル検査が保険収載され正にがんゲノム医療元年となった令和元年(2019年)に、この診療ガイドラインが改訂されることは時宜にかなうものです。
 今回の初版では、DNA ミスマッチ修復機構の異常の検査法と免疫チェックポイント阻害薬適応、NTRK(neurotrophic receptor tyrosine kinase)遺伝子の異常の検査法とTRK阻害薬の適応の2点に焦点を当て、医学的エビデンスに加え、国内の薬事承認および保険収載状況や海外の診療ガイドラインとの比較により読者がこれらの新しい診断・治療を正しく理解できるように配慮されています。また、クリニカルクエスチョンに対する推奨は、最新の重要な学会発表を含めた文献のシステマチックレビューにより、作成委員の投票
結果を開示して決定されています。医学的エビデンスとして頂点となる大規模比較試験によるエビデンスが乏しい希少疾患分画に対して優先薬事承認が行われるがんゲノム医療時代にマッチしており、読者が推奨内容をより深く理解できるように配慮されています。この診療ガイドラインががん治療に係わる多くの医療従事者に速やかに周知され、対象となるがん患者に質の高い治療が速やかに提供されることを切に望みます。
 最後に、吉野孝之委員長をはじめ『成人・小児進行固形がんにおける臓器横断的ゲノム診療のガイドライン』第2版ワーキンググループの皆様には、多大なるご尽力に心から感謝いたします。

公益社団法人 日本臨床腫瘍学会 理事長
石岡 千加史


<発刊にあたり>

 がんゲノム医療がいよいよ本邦でも保険診療も含めて本格的に開始され、これまで発生臓器ごとに策定されてきたがん診療ガイドラインもより一層、臓器の枠組みを超えて横断的に作成する必要性が増してきています。
 日本癌治療学会は領域、職種横断的ながん医療関連学術団体として、各種専門領域学会では取り組みにくい臓器横断的課題に積極的に着手して参りました。今回の取り組みも本学会の重要課題である臓器横断的な診療ガイドラインの策定の一環として日本癌治療学会ガイドライン作成・改訂委員会小寺泰弘委員長が中心となって関連各学会の皆様とともに推進して参りました。
 今回の「成人・小児進行固形がんにおける臓器横断的ゲノム診療のガイドライン(第2版)」は、初版となる「臨床的提言」をもとに、さらに蓄積された論文、エビデンスを対象として、しっかりとしたシステマチックレビューを行うことにより、「ガイドライン」と称するに至りました。吉野孝之委員長をはじめ膨大な情報を丹念に評価、解析を行ってくださった委員の皆様のご尽力に心から感謝の意を表します。
 2015年米国オバマ大統領が提唱して以来、概念として普及してきたプレシジョン・メディシン(精密医療)においては、これまで各種の臨床試験によって確立された標準的な治療を、対象となる患者群に画一的に施行する状況から、遺伝子、環境、ライフスタイルに関する個々人の違いを考慮して、最適な疾病の予防や治療法を確立することを目指しています。「がんゲノム医療」は、まだまだ直接の恩恵を受ける患者数は限られているものの、欧米を中心に臨床実装が進んでいる分野であり、遺伝子の変異を指標に、臓器の枠を超えて治療法を策定していく時代が本格化しつつあります。
 がんゲノム医療において、次世代シーケンサーを用いて複数の遺伝子を同時に調べる遺伝子パネル検査の導入が始まったことで、二次的所見として遺伝性腫瘍症候群の保因者が一定の割合で判明しております。その中の重要な疾患の一つに、リンチ症候群が挙げられます。リンチ症候群は、これまで、一般的にはMMR(ミスマッチリペア)関連遺伝子である、MLH1、MSH2、MSH6、PMS2の蛋白発現消失を免疫染色で判定することで診断が行われてきており、主に遺伝性に発症する大腸がん患者に対して検査が行われてきました。今後、遺伝子検査の実施数が増えていく中で、子宮内膜がんなど、他のがん腫においてもリンチ症候群の患者が同定されるようになり、診療科の枠組みを超えた横断的な診断基準の策定が必要になってきております。本委員会においては、初版同様それぞれの領域の専門家が集まり、より実践的な診断基準の策定に取り組みました。本ガイドラインが、本邦でも一層の普及が期待されるがんゲノム医療において、最適な治療薬の選定と、患者さんに理解しやすい適切な遺伝カウンセリングを行う上で重要な役割を果たすものと期待しています。今後、この領域においてさらなるエビデンスが蓄積されることが予想され、日本癌治療学会としても各関連諸学会の皆様とともに、この活動を継続して参りたいと存じます。

一般社団法人 日本癌治療学会 理事長
北川 雄光


<発刊によせて>

 日本小児血液・がん学会は、我が国の小児血液疾患と小児がんの医療の向上に寄与することを目的に活動している学術団体で、 1)学術集会総会、研修会等の開催、 2)学会誌の発行、当該領域の3)調査研究事業、 4)専門医ならびに指導医らの認定基準の策定および資格認定、 5)国内外の関連諸団体との連携事業等を行っています。
 この度、わが国で画期的な「進行固形がんにおける臓器横断的ゲノム診療のガイドライン」の発刊にあたり、そのタイトルと内容に「成人」だけでなく「小児」も加えていただいたこと、また作成にあたっては当学会も協力させていただくご配慮をいただいたこと、吉野孝之委員長をはじめ関係者の方々に改めて感謝申し上げます。
 小児がんは、わが国では年間約2,000人余りの発生に過ぎない稀少疾患です。しかし、その種類は発生臓器に限定されることなく、多種あり、形態病理学的には互いの鑑別診断が困難な未分化小円形細胞腫瘍の多いことから、遺伝子診断が従来から発達し、がん種の診断のみならず、同一がん種内のリスク群別の層別化治療研究にも早くから活用されてきました。近年の次世代シークエンサーによる遺伝子パネル検査のガイダンスでも「小児がん・希少がんでは診断補助や予後予測・治療方針の決定、さらに治療薬選択を目的に実施
すること」とされています。発生臓器や部位による分類でなく、腫瘍細胞の特性をゲノムの観点から評価し、腫瘍細胞ごとの性質に応じた診断や層別化治療が行われるというがんゲノム医療のコンセプトは、今後、ほぼすべての小児がんにも適応されていくことになるでしょう。
 小児がんは、化学療法や外科手術、放射線治療らの集学的治療の進歩で全体の治癒率はすでに70〜80%に達しており、治療終了後の長期の人生を見据えて、単に「生存期間の延長」ではなく、「治癒」と数十年の長期の影響も含めた「副作用・合併症の軽減」、また長い将来に渡る「社会生活上のQOL の向上と確保」が求められています。また、今後これまで以上に発見されるであろう遺伝性腫瘍への遺伝カウンセリングらの対応も求められています。成人のゲノム医療提供体制とその基盤を共有しつつ、患者や疾患の特性など小児がん特有の課題を考慮し、小児がんの診療の実際にあったゲノム医療提供体制を構築することが望まれています。本ガイドラインが、そのような新時代の活動と考察の口火となることを期待しております。

一般社団法人 日本小児血液・がん学会 理事長
細井 創


<序文>

 2015年オバマ大統領(当時)は、一般教書演説においてPrecision Medicine Initiative を発表した。これは“Average patient”向けにデザインされていた従来のがんの治療法からの脱却を図り、遺伝子、環境、ライフスタイルに関する個人ごとの違いを組み入れた最善のがん予防法・治療法を確立するものである。新たながん治療法開発のほか、研究インフラ整備のための官民連携、医療に関する規制の見直しやデータベースの構築、大規模な研究コホートの創設などを目指すというものである。現在、治療に対する反応性を正確かつ再現性よく判別することのできる客観的指標、バイオマーカーの研究が集中的に行われ、成果が生み出されている。バイオマーカーの目指すところは、薬理作用、治療効果予測、予後予測、モニタリングなど多彩であるが、その最終的な目標は、患者が最善の治療を受け、可能な限り不必要な治療や毒性を回避し、かつ医療経済的にも効果が期待できるところにある。
 2018年12月、本邦において進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性を有する固形がんに対し、抗PD-1 抗体薬ペムブロリズマブが薬事承認された。2017年5月の米国FDA(Food and Drug Administration)承認に次ぐ世界2番目の承認である。本邦においても臓器横断的ゲノム診療が幕開けした。さらに、TRK 阻害剤であるエヌトレクチニブは、NTRK 融合遺伝子陽性の成人・小児進行固形がんに対し、2018年3月に先駆け審査指定制度の対象品目として指定され、2019年6月に世界に先駆けてNTRK 融合遺伝子陽性の成人・小児進行固形がんに対して薬事承認された。そのため、『ミスマッチ修復機能欠損固形がんに対する診断および免疫チェックポイント阻害薬を用いた診療に関する暫定的臨床提言』第1版(2019年3月公開)を、7か月間と短期間であるが、『成人・小児進行固形がんにおける臓器横断的ゲノム診療のガイドライン』第2版(2019年10月公開)に進化させる必要性が生じた。今回から論文のシステマチックレビューによる定性的評価を加えた。前回同様にEvidence およびExpert Opinion を最優先し、本邦における薬事承認・保険適用状況は一部考慮しないこととしたため、この点に留意されたい。今後もBRCAness、homologous recombination deficiency(HRD)、KRAS、ROS1 など臓器横断的ゲノム診療の波は次々と押し寄せてくるものと予想される。
 頻度は(極めて)低いが、確実に効く薬がある患者をどのように同定し最適な時期に最適な治療を届けるか、これを実践することが腫瘍医の使命と言えよう。本ガイドラインは、臨床現場において珠玉の逸品となるものと信じている。
 最後に、このような機会を与えてくださった日本臨床腫瘍学会、日本癌治療学会、卓越した専門性を発揮いただいたすべての委員、副委員長の小寺泰弘先生に感謝したい。日本小児血液・がん学会の協力にも御礼申し上げる。

成人・小児進行固形がんにおける臓器横断的ゲノム診療のガイドライン 委員長
国立がん研究センター東病院 消化管内科 吉野 孝之