がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズ 1 がん患者におけるせん妄ガイドライン 2019年版

がん診療の現場で役立つ、がん患者のせん妄に関する指針が刊行!

編 集 日本サイコオンコロジー学会 / 日本がんサポーティブケア学会
定 価 2,160円
(2,000円+税)
発行日 2019/02/25
ISBN 978-4-307-10196-7

B5判・120頁・図数:2枚・カラー図数:6枚

在庫状況 あり

せん妄はがん医療の現場においても高頻度で認められる病態であり、患者・家族をはじめとして多方面に大きな影響をもたらす。超高齢社会を迎えた日本では今後ますます、せん妄の予防や対策が重要になると予想される。本書ではがん患者におけるせん妄の基礎知識を総論として概説するとともに、評価方法や薬物療法・非薬物療法などに関する9つの臨床疑問を設けて、現場に即した指針を提示した。がん診療の現場において必携の一冊。
I章 はじめに
 1 ガイドライン作成の経緯と目的
  1.ガイドライン作成の経緯
  2.ガイドラインの目的
 2 ガイドラインの使用上の注意
  1.使用上の注意
  2.構成とインストラクション
 3 エビデンスレベルと推奨の強さ
  1.エビデンスレベル
  2.推奨の強さ
  3.推奨の強さとエビデンスレベルの臨床的意味

II章 総論
 1 がん医療におけるせん妄
  1.せん妄とは何か
  2.がん患者におけるせん妄の頻度
  3.せん妄によるさまざまな影響
  4.がん患者におけるせん妄の特徴
 2 せん妄の評価と診断・分類
  1.せん妄の診断基準
  2.せん妄の分類
  3.鑑別診断
  4.せん妄の原因
  5.せん妄の評価方法
 3 せん妄の病態生理
  1.はじめに
  2.神経伝達物質の変化
  3.アセチルコリン
  4.ドパミン
  5.グルタミン酸
  6.ノルアドレナリン
  7.γ-アミノ酪酸(gamma aminobutyric acid:GABA)
  8.セロトニン
  9.メラトニン
  10.神経炎症
  11.グルココルチコイド
 4 せん妄の治療・ケア
  1.薬物療法
  2.非薬物療法

III章 臨床疑問
 臨床疑問1.がん患者のせん妄には、どのような評価方法があるか?
 臨床疑問2.がん患者のせん妄には、どのような原因(身体的原因・薬剤原因)があるか?
 臨床疑問3.せん妄を有するがん患者に対して、せん妄症状の軽減を目的として抗精神病薬を投与することは推奨されるか?
 臨床疑問4.せん妄を有するがん患者に対して、せん妄症状の軽減を目的としてヒドロキシジンを単独で投与することは推奨されるか?
 臨床疑問5.せん妄を有するがん患者に対して、せん妄症状の軽減を目的としてベンゾジアゼピン系薬を単独で投与することは推奨されるか?
 臨床疑問6.せん妄を有するオピオイド投与中のがん患者に対して、せん妄症状の軽減を目的としてオピオイドを変更すること(スイッチング)は推奨されるか?
 臨床疑問7.せん妄を有するがん患者に対して、せん妄症状の軽減を目的として推奨される非薬物療法にはどのようなものがあるか?
 臨床疑問8.がん患者の終末期のせん妄に対して、せん妄症状の軽減を目的として推奨されるアプローチにはどのようなものがあるか?
 臨床疑問9.せん妄を有するがん患者に対して、家族が望むケアにはどのようなものがあるか?

IV章 資料
 1 ガイドライン作成過程
  1.概要
  2.臨床疑問の設定
  3.システマティックレビュー
  4.妥当性の検証
  5.日本サイコオンコロジー学会、日本がんサポーティブケア学会の承認
 2 文献検索式
 3 今後の検討課題
  1.今回のガイドラインでは、対応しなかったこと
  2.推奨について、今後の検討や新たな研究が必要なこと
 4 用語集

主要な抗精神病薬一覧
患者・家族へのせん妄説明パンフレット
患者・家族へのせん妄説明パンフレット(終末期)
Delirium Rating Scale Revised-98
索引
「発刊にあたって」


 わが国においては、2007年にがん対策基本法が施行され、本法に基づき、「がん対策推進基本計画」が策定され、以降、長期的な視点で、総合的ながん対策が進んできています。現在は2018年3月に決定されました第3期がん対策推進基本計画のもと諸種の施策がとられています。そのなかで、高齢者のがんやライフステージに応じたがん対策も重要な課題として盛り込まれています。
 普段の診療現場を振り返ってみますと、超高齢社会を迎え、せん妄の患者さんを診察する機会が大変増えています。以前はせん妄はあまり臨床的な関心も寄せられず、単なる一過性の複雑で多様な病態と考えられていましたが、現在では、せん妄、なかでも高齢者のせん妄は、その後の認知症リスクを増すばかりか、施設への入所を余儀なくされたり、死亡率も高めるなど深刻な負の影響をもたらすことが示されています。
 これらの状況に伴い、他学会の先生方からも、日本サイコオンコロジー学会として、せん妄をもっと取り上げてほしいというご要望を非常に多くいただくようになりました。
 ちょうど、日本サイコオンコロジー学会としてもガイドライン作成に取り組もうという時期も重なり、まずその第一弾として、日本がんサポーティブケア学会と協力して、がん患者のせん妄治療に関するガイドラインを作成することになりました。内外を含めますと、せん妄に関してはたくさんの指針やガイドラインがあります。一方、がんという疾患の軌跡の特殊性も念頭においたガイドラインはあまり多くありません。本ガイドラインでは、日本サイコオンコロジー学会の会員が中心となり、がん患者のせん妄に関する先行知見を可能な限り実証的なエビデンスに基づき、そして臨床に即した形でまとめました。加えて、がん患者のせん妄に関しては、治療に関する良質なエビデンスが不十分であるのみならず、その背景知識の流布も不十分であることから、重要な知識的な事項についてのエキスパート・コンセンサスも含めながら、少しでもわが国のがん医療の現状に即した形で先生方の診療に役立つよう腐心しながら作成しました。
 最近、ガイドラインに関しての批判をよく耳にしますが、そのなかには誤解も多く含まれているように感じます。そもそもガイドラインは、「診療上の重要度の高い医療行為について、エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価、益と害のバランスなどを考量して、患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」〔小島原典子ら編、Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017(公益財団法人日本医療機能評価機構)〕であり、「そうしなければならない」、あるいは、「そうあるべき」といった絶対的な遵守事項を示したものではありません。あくまで先生方の豊富な臨床経験や最新のエビデンス、患者さんやご家族との良好なコミュニケーションのもと、最良の意思決定を行うための補完資料です。本ガイドラインが、みなさまの診療の一つの指針となり、ひいては患者さん、ご家族の生活の質の維持、向上にお役に立つことができれば幸いに存じます。

2019年1月
一般社団法人 日本サイコオンコロジー学会 
代表理事 明智 龍男



 日本がんサポーティブケア学会は2015年に発足した若い学会ですが、17部会と5つのワーキンググループを設け、それぞれが活発に活動しています。そのなかで内富部会長率いるサイコオンコロジー部会は、日本サイコオンコロジー学会に協力する形で「がん患者におけるせん妄ガイドライン2019年版」を策定するに至りました。同部会からは、内富部会長、奥山副部会長はじめ8名の部会員が統括委員会あるいはせん妄小委員会のメンバーとしてガイドライン作成に関わり、この難事業を完遂いたしました。
 がんは高齢者に多い慢性に経過する疾患であり、併存症も多く入退院を繰り返すことが稀ではありません。「せん妄」は高齢の入院患者で発症することが多く、とくにがん患者においては、抗がん治療による目に見える、苦痛を伴う副作用が、強弱は別としてほぼ100%の患者に出現し、大きなストレスのかかる状況が惹起されます。また、がん自身あるいは治療の副作用に伴う痛みや不安・不眠に対するオピオイドや精神安定薬の使用はせん妄の大きな要因の一つとなっています。一方で、サイコオンコロジーの領域は、研究方法や評価法に議論のあるところもあって、臨床試験が組みにくく、エビデンスの創出が難しい領域でもあります。
 そういったなかで、本ガイドライン作成の経緯が「IV章 資料」に20ページにわたって詳細に記載されていますが、「Minds診療ガイドライン作成マニュアル」に則って作成されており、他のガイドライン、とくに支持・緩和医療領域のガイドライン作成の範となるものと考えます。なかでも、がん治療や身体的副作用に関するガイドライン策定ではまず実施されることのないデルファイ法を使い、関連学会から推薦された委員らが参加して推奨文、推奨レベル、エビデンスレベル、解説文の適切性についての評価を行ったことは、がん治療のガイドラインにも取り入れられる可能性があり、大変参考になる作成プロセスと考えます。また、今後の課題として、ガイドラインとしての限界と研究の方向性が記されていて、今後の本領域における研究、エビデンスの創出が期待されます。
 本ガイドライン作成には策定委員会のメンバーによる多大な努力とエネルギーが費やされており、統括委員をはじめ、執筆者、協力者に敬意を表するものです。また、ガイドラインは医療者に周知し、日常診療のなかで応用され、その評価を得てはじめて真価が分かります。人は個体差が大きく、ガイドラインをすべての患者に応用することは困難です。したがって、ぜひ日常診療のなかで本ガイドラインを使用していただき、その評価を策定委員会にフィードバックしてください。結果として、次の改訂作業にそれらが反映され、さらに良いガイドラインとなり、ひいては患者・家族のマネジメントの向上につながるものと考えます。

2019年1月
一般社団法人 日本がんサポーティブケア学会
理事長 田村 和夫