がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引 2018年版 [苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン 2010年版 :改訂・改題]

緩和ケアに携わる医療者必携! 鎮静に関する指針を8年ぶりに改訂

編 集 日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会
定 価 2,376円
(2,200円+税)
発行日 2018/09/25
ISBN 978-4-307-10193-6

B5判・168頁・図数:4枚・カラー図数:4枚

在庫状況 あり

緩和医療の進歩にもかかわらず、一部のがん患者には治療抵抗性の耐えがたい苦痛がみられ、その対応の一つとして鎮静が行われる。
旧版『苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン2010年版』を8年ぶりに改訂した本書は、鎮静だけでなく治療抵抗性の苦痛に関する総合的な対応や考え方を提示する手引きとして作成された。
鎮静の新たな分類・定義・実践法のほか、治療抵抗性の苦痛として頻度の高い痛み・せん妄・呼吸困難への対応、倫理的検討などを幅広く解説した一冊。
I章 はじめに
 1 目的
 2 適応の注意
  1.対象
  2.効果の指標
  3.使用者
  4.個別性の尊重
  5.定期的な再検討の必要性
  6.責任
  7.利益相反

II章 定義
 1 用語の概念と定義
  1.治療抵抗性の苦痛・耐えがたい苦痛
  2.鎮静・鎮静薬
  3.鎮静の分類

III章 治療抵抗性の耐えがたい苦痛への対応に関するフローチャート

IV章 実践(1)治療抵抗性の苦痛に対する持続的な鎮静薬の投与を行う前に考えるべきこと
 1 はじめに
 2 苦痛に対する緩和ケア
 (1)痛みに対する緩和ケア
  1.概要
  2.原因の同定と治療
  3.治療目標の設定
  4.苦痛を悪化させている要因の改善とケア
  5.医学的治療
  6.未解決の課題
 (2)せん妄に対する緩和ケア
  1.概要
  2.原因の同定と治療
  3.治療目標の設定
  4.苦痛を悪化させている要因の改善とケア
  5.医学的治療
  6.未解決の課題
 (3)呼吸困難に対する緩和ケア
  1.概要
  2.原因の同定と治療
  3.治療目標の設定
  4.苦痛を悪化させている要因の改善とケア
  5.医学的治療
  6.未解決の課題
 3 苦痛に対する閾値をあげ人生に意味を見出すための精神的ケア
  1.トータルペインとsuffering(苦悩)の概念
  2.全般的な精神的ケア
  3.スピリチュアルな痛みのケア
  4.治療抵抗性の苦痛をもつ患者に関わる医療者の心構え
  5.未解決の課題
 4 間欠的鎮静

V章 実践(2)治療抵抗性の苦痛に対する持続的な鎮静薬の投与
 1 要件
 2 相応性の判断
  1.苦痛の強さの評価の仕方
  2.治療抵抗性の確実さの評価の仕方
  3.予測される生命予後の評価の仕方
  4.精神的苦痛の鎮静の対象としての相応性
  5.生命予後が比較的長いと見積もられる患者の痛みが緩和されない時の相応性
 3 意図の確認
 4 意思決定過程
  1.意思決定能力の評価の仕方
  2.意思決定能力がある患者の希望の確認の仕方
  3.患者に意思決定能力がない場合の意思決定の仕方
  4.説明内容
  5.患者と家族の意思が異なる時の考え方:患者が明確に鎮静を希望するが家族が希望しない場合
  6.あらかじめ患者・家族の意思を確認することについての考え方
  7.チーム医療
  8.診療記録への記載
 5 実際の投与方法と評価・ケア
  1.鎮静薬の投与方法
  2.鎮静開始直前の患者・家族への配慮
  3.鎮静中の継続的な評価
  4.鎮静中の患者・家族へのケア
  5.水分・栄養の補給などについての考え方

VI章 倫理的検討
  1.鎮静の益と害
  2.鎮静の倫理的妥当性
  3.まとめ

VII章 国際的なガイドラインの要約
  1.鎮静の定義
  2.鎮静の分類
  3.対象患者
  4.対象となる苦痛
  5.意思決定
  6.輸液と人工栄養・蘇生に関する決定
  7.薬物の投与方法
  8.評価
  9.オピオイド
  10.ミダゾラムの投与方法

VIII章 背景知識
  1.治療抵抗性の苦痛はどのような苦痛か?
  2.鎮静はどれくらいの頻度で行われているか?
  3.鎮静にはどのような薬剤がどれくらい用いられるか?
  4.鎮静の効果はどうか?
  5.鎮静の安全性はどうか?
  6.患者・家族は意思決定にどのように参加しているか?
  7.鎮静を受けた家族はどのような体験をしているか?
  8.鎮静は生命予後を短くするのか?
  9.在宅において治療抵抗性の苦痛は生じるか?
  10.資料

IX章 法的検討(資料)
  1.検討する内容の明確化
  2.罪刑法定主義の考え方と、検討する具体的な犯罪
  3.違法性阻却事由と実質的違法論
  4.実質的違法論からみた鎮静の違法性阻却の根拠の検討
  5.緊急状態における行為としての位置づけの可能性
  6.診療記録への記載
  7.鎮静をめぐる国際的な法的議論
  8.鎮静をめぐる日本の法的議論
  9.まとめ

X章 開発過程
 1 開発過程
  1.概要
  2.作成方法
 2 開発者と利益相反
 3 今後の検討点
  1.手引き全体の構成と対象について
  2.鎮静の妥当性の評価について
  3.患者や家族の意思について
  4.苦痛の評価について
  5.具体的な治療法・ケアについて
  6.鎮静の定義・概念について
  7.倫理的検討、法的検討について
  8.その他

索引
発刊にあたって

 この度、「がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き2018年版」が、関係者のご協力により発刊できたことに深く感謝いたします。また、前版の「苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン」の発刊が2010年でしたので、今回の改訂までに8年を要したことについてお詫び申し上げます。
 さて、この期間、終末期がん患者に対する苦痛緩和のための鎮静に関しては、そもそもの定義や安楽死との区別において混乱がみられました。また、医療者のみならず一般市民の方々においても、十分に統一されていない考え方や捉え方がなされてきたと考えています。
 このような状況を踏まえ、今回の手引きにおいては、苦痛緩和のための鎮静を「治療抵抗性の苦痛を緩和することを目的として、鎮静薬を投与すること」とシンプルに定義しました。また、持続的鎮静においては、これまでのように「浅い/深い」と分類するのではなく、主に苦痛の程度を指標として鎮静レベルを調整する「調節型鎮静(proportional sedation)」と、十分な意識レベルの低下を指標とする「持続的深い鎮静(continuous deep sedation)」を、持続的鎮静の分類に導入しました。このことにより、これまで鎮静における意識レベルの低下を「(手段としての)意図」として取り扱うのか、「(予見される)結果」として取り扱うのかで、混乱をきたしていた定義を整理することができたのではないかと考えています。
 また、今回の改訂では、タイトルを「ガイドライン」から「手引き」に変更しております。その理由は、第一に作成の基となる苦痛緩和のための鎮静に関するエビデンスの乏しさから、臨床疑問→系統的文献レビュー→推奨というような、通常の診療ガイドライン(Minds 診療ガイドライン作成の手引き2007および2014準拠)の体裁をとることが難しいと判断したこと、第二に現場でより役に立つものにしたいと考えると「手引き(practical guide)」として発刊することがより妥当であると考えたこと、であります。「ガイドライン」から「手引き」にタイトルが変更されることにより、記載されている内容の質が低下しているように感じられるかもしれません。しかしながら、私たちは「手引き」としたことで、現在も議論が続けられていて結論が出ていない事柄を併せて記載することができ、答えがないような臨床疑問に対して現場でいかに考えればよいのかについて、より詳しく記載できるようになり、よりその内容を充実させることができたと考えております。
 そして、苦痛緩和のための鎮静の実施にあたっては、鎮静の具体的な方法もさることながら、鎮静を必要とする苦痛が治療抵抗性の苦痛であることの判断が最も重要であると考え、その考え方の手順を充実させました。治療抵抗性の苦痛の判断は、その現場や施設、地域の状況に左右されると考えられますので、それぞれのチームにおける検討の基準として参考にしていただけたらと思います。
 日本緩和医療学会およびガイドライン統括委員会として皆様に伝えたいメッセージは以下のとおりです。
 1) 終末期がん患者には、さまざまな症状マネジメントを行っても治療抵抗性の苦痛が出現することがある。
 2) 他に手段がないときに鎮静薬を投与して苦痛緩和をはかろうとすることは、医学的、倫理的、法的に正しい行為である。
 3) 鎮静の施行にあたっては、患者の意思の尊重、ならびにチームでの意思決定が重要である。
 当然のことながら、この手引きを利用すれば、すべての医療行為が理想的に行えるわけではありません。手引きだけに縛られず、それぞれの現場において議論を重ね、患者にとっての最善を追求しようと努力し続ける態度こそが、皆様に示したい大きな柱であることもお伝えしたいと思います。
 この手引きが、人生の最終段階に寄り添う現場において、医療行為を規制するものではなく支援するものとなるように願いつつ、皆様に公開いたします。終末期における鎮静の課題は、医療者だけで議論するものではなく、患者、家族、そして市民の皆様方とも共通の課題として、考えていかなければならないものと認識しております。この手引きの発刊が、「人生の最終段階において治療抵抗性の苦痛をどう緩和するか」について自分のこととして考え、議論するきっかけとなるのであれば、日本緩和医療学会ならびにガイドライン統括委員会として最大の喜びであります。

2018年9月
特定非営利活動法人 日本緩和医療学会
理事長 木澤 義之