死後画像読影ガイドライン 2020年版 第2版

死因究明のための「死後画像診断」に必須のガイドライン!

編 集 日本医学放射線学会 / 北海道大学大学院医学研究院死因究明教育研究センター
定 価 4,950円
(4,500円+税)
発行日 2020/03/20
ISBN 978-4-307-07114-7

B5判・176頁

在庫状況 あり

死因究明等推進基本法では死因究明において死後画像を活用する有用性が記された。
本ガイドラインは、法医学・画像診断の各専門家が執筆し、より精度の高い死因究明のために解剖所見と画像所見との橋渡しを担うものである。
改訂にあたり、病院内死亡例への活用や個人識別に配慮し、関係するCQを新たに策定した。
法医学用語はコラムなどでわかりやすく解説しており、死因究明に係る人材の教育・資質向上に繋がる書籍である。
はじめに 死後画像と生体画像の違いについて
CQ 1 死後CT・MRI で死後変化としての形態や吸収・信号変化の所見は何か?
CQ 2 死後CT・MRI で血液就下・血液凝固として認められる所見は何か?
CQ 3 死後CT で死後変化として認められる液体貯留は何か?
CQ 4 死後CT で腐敗・自家融解はどのような所見で推定できるか?
CQ 5 体内液体の検出・定量・性状評価に死後画像を用いることは有用か?
CQ 6 死後画像で生前胸水と死後胸膜腔液体貯留の識別は可能か?
CQ 7 体内ガスの検出・定量に死後画像を用いることは可能か?
CQ 8 検案時に死後画像を用いることは有用か?
CQ 9 解剖時に死後画像を用いることは有用か?
CQ 10 死後画像は院外心肺停止例の死因判定に有用か?
CQ 11 死後CT・MRI は死因推定に有用か?
CQ 12 死後血管造影CT(PMCTA)は死因推定に有用か?
CQ 13 遠隔画像診断は死後画像読影に有用か?
CQ 14 死後CT における画像処理(3D 再構成・MPR)は死因判定に有用か?
CQ 15 心肺蘇生術による肋骨骨折の判定に死後画像を用いることは有用か?
CQ 16 心肺蘇生術による臓器損傷の判定に死後画像を用いることは有用か?
CQ 17 心肺蘇生術による輸液は死後画像に影響するのか?
CQ 18 死後画像で年齢推定に有用な所見は何か?
CQ 19 死後画像で性別判定・推定に有用な所見は何か?
CQ 20 死後画像で個人識別のために生前資料との照合に有用な所見は何か?
CQ 21 死後画像で内因死の判定に有用な所見は何か?
CQ 22 死後画像で悪性腫瘍の読影(存在/ 死因)は可能か?
CQ 23 死後頭部CT で頭蓋内に認められる高吸収域はすべて頭蓋内出血としてよいか?
CQ 24 死後CT で死因となるくも膜下出血を指摘可能か?
CQ 25 死後CT で死因となる脳出血の読影は可能か?
CQ 26 死後画像で心血管内に認められる血液就下・凝血塊は血栓症と鑑別できるか?
CQ 27 非造影死後CT で死因となる急性冠症候群の読影は可能か?
CQ 28 死後画像で急性冠症候群を検出する画像診断モダリティとその判定に有用な所見は何か?
CQ 29 死後CT で死因となる血性心タンポナーデの読影は可能か?
CQ 30 死後画像で大動脈瘤破裂・大動脈解離の読影は可能か?
CQ 31 死後画像で肺炎の判定に有用な所見は何か?
CQ 32 死後CT で外因死を示唆する有用な所見は何か?
CQ 33 死後CT で外因死をすべて除外することができるか?
CQ 34 死後画像で鈍的外傷の評価に有用な所見は何か?
CQ 35 死後画像で穿通性外傷(銃創以外)の評価に有用な所見は何か?
CQ 36 死後画像で穿通性外傷(銃創)の評価に有用な所見は何か?
CQ 37 死後画像は頸椎損傷/ 頸髄損傷の判定に有用か?
CQ 38 窒息による死亡の判定に死後画像を用いることは有用か?
CQ 39 死後画像で溺水の判定に有用な所見は何か?
CQ 40 死後画像で飢餓・低栄養の判定に有用な所見は何か?
CQ 41 死後CT で急性薬毒物中毒の判定に有用な所見は何か?
CQ 42 死後CT で一酸化炭素中毒の判定に有用な所見は何か?
CQ 43 死後画像で焼死(火災に関連した死亡)の判定に有用な所見は何か?
CQ 44 死後画像で低体温症の判定に有用な所見は何か?
CQ 45 死後CT で熱中症の判定に有用な所見は何か?
CQ 46 死後CT は減圧障害の判定に有用か?
CQ 47 小児の死後画像は解剖に匹敵する解剖学的情報が得られるか?
●索引
 死体に対して放射線を利用した診断技術の確立はそう新しいことではない。1890年代半ばのレントゲンによるエックス線発見の10年後に、ウサギの体内に残された銃弾の証明と死因判断に用いられたが、これがエックス線の最初の法医学への応用として知られている。その翌年には、診断に使用された体内銃弾の写真が法廷において殺人未遂事件の証拠として採用されたという。その後、数多くの経験と研究が積み重ねられ、“forensic radiology”として独立した学問が発展していったのは周知の通りである。さて、わが国において、この学問分野にCTが“入り込んだ”のは、およそ2000年代半ば頃ではなかっただろうか。作家で医師の海堂尊氏が、その処女作で放射線画像が事件の謎解きの鍵になるミステリー小説を世に出し、大いに話題となった頃である。あれからほぼ15年経ち、大学のAiセンターや附属病院、法医学教室から市中の警察医クリニックに至るまで、多くの医療機関で死後CT撮影が行われている。しかし、当然のことながら、死後CTの撮影と読影には、死体特有の変化をどう解釈するか、そもそも読影ポイントをどう絞り込むかという難点がある。この解答は実務のなかでしか得ることができず、しかもその結果(解剖所見)がわからなければ、スキルの向上にもつながらない。そこで次善の策としてガイドラインが必要なわけである。
 本書は5年前に日本医学放射線学会・厚生労働科学研究班により編集された「死後読影ガイドライン」の改訂版である。この間の経験の蓄積が、初版で33であったCQ(clinical question)が、改訂版では47に増えた結果に現れている。臨床の先生にはなじみの薄い法医学用語に関しては、できるだけわかりやすい解説をつけ、法医学の知識がなくても十分、理解できるよう配慮した。前回同様、改定時に議論されたのが、それぞれの項目の“推奨グレード”である。結果的に初版同様C1(有用である)やC2(慎重な評価が必要である)が大半となっている。私個人としては、低体温診断など、いくつかはB(非常に有用である)でもよいと考えるが、引用文献の多さでおわかりのように、それだけ厳密、かつ慎重な判断の上での評価結果であるということをご理解いただきたい。
 実際に何例か死後画像診断を経験すれば、それが解剖に100%代わる万能薬ではないことは理解できるだろう。一方で、画像を用いることで、解剖だけでは不十分な、あるいは到達することができない結論をくだせたことも、私自身、数多く経験している。遺憾ながら、捜査関係者のなかには死後画像さえ撮影できれば、そこに外傷がなければ、死因がわからずともそれでよし、という考えをもつお方が少なからずおられるようである。しかし、それはわが国が推進している死因究明の精神から外れるものであり、forensic radiologyが目指すべきものでもない。死後画像診断と剖検診断とが補完し合い、精度の高い死因診断につなげることが求められているのである。そしてこのガイドラインが両者の橋渡しの役目を担うものと期待する。

東北大学大学院 医学系研究科 法医学分野
舟山 眞人