918310第章 細菌感染症するため,鉄複合体含有の培地を用いる必要がある。M. haemophilumは原因菌としてまれであったが,通常の培地では培養されず検出できなかった可能性がある。近年の報告数増加は,病変部組織のPCRシークエンスなどの分子生物学的な手法により,検出,同定できるようになったことが一因と考えられる。免疫不全患者の皮膚非結核性抗酸菌症の場合は,M. haemophilumを念頭に置いた培養も並行して行うことで検出率が上がると考えられる。 また,結核菌・MAC核酸検出検査(コバスTaq-Man MAI)では,M. intracellulareがM. lepraeやM. haemophilumと交差することがわかっている10)。この手法でM. intracellulare陽性と判定された症例は,M. haemophilumが起因菌である可能性も考慮する必要があり,これまで,原因菌をM. intracellulareとした症例のなかに実際はM. haemophilumであった症例が含まれている可能性がある。c)M. avium complex M. aviumとM. intracellulareは,生化学的性質や臨床症状が類似していることから,合わせてMycobacterium avium complexとよぶ。人獣共通感染症の原因菌であり,土や水などの環境中に存在し,容易にエアロゾル化する。本邦の肺非結核性抗酸菌感染症の82.8%を占めるが,皮膚領域ではまれである5)。術後創,外傷,フットバスの使用,ワックス脱毛,24時間風呂が感染に関与したと考えられる報告がある5)11)。d) M. ulcerans,M. shinshuense ブルーリ潰瘍といわれるM. ulceransとその近縁のM. shinshuenseによる感染症である5)。感染初期は丘疹や紅斑から始まり,徐々に無痛性の皮下結節となり,その後,中心部が自壊し潰瘍化する。好発部位は,四肢や顔面,四肢などの露出部である。ブルーリの名称はウガンダのブルーリ地方に患者が多発したことに由来する。M. ulceransは,マイコラクトンという細胞障害性で炎症抑制効果のある毒素を産生し5),末梢神経やSchwann細胞の障害による皮膚潰瘍を形成するが,あまり疼痛は訴えない。重症例では関節拘縮などの後遺症を残す。 コートジボワールやガーナなどの西アフリカや中央アフリカに多く,年間約5000例以上の新規患者が報告されている。日本では1980~2020年に76例の報告があり,すべてM. shinshuenseが同定されている。アフリカ諸国では5~15歳と若年発症が多いが,日本では2~87歳(平均44歳)で50歳以上に多い5)6)。 感染経路としては,ダム,沼地,河川などの水環境が示唆されているが明らかではない。ブルーリ潰瘍はハンセン病と同様に,世界保健機関(WHO)が貧困による劣悪な衛生環境などにより蔓延し疾病対策が遅れている疾患として,顧みられない熱帯病(neglected tropical diseases;NTDs)と定義している疾患のひとつであり,感染経路の解明や簡易的な診断法の確立などの課題が残る。❷ 迅速発育菌a) M. chelonae,M. abscessus,M. fortuitum 土壌・水・塵埃など環境中のいたるところに存在する。外傷や術後の創部,タトゥー,メソセラピー(脂肪溶解注射),鍼治療,フットバスの使用などで感染し,瘻孔や膿瘍を形成する11)。海外ではM. abscessusによる注射後膿瘍の報告が多い5)。いずれも不適切な滅菌や消毒手技が原因と考えられる。免疫抑制状態では全身播種,菌血症を発症することがある。Ⅱ 病変組織の抗酸菌染色や培養の感度は高くなく,繰り返し検査を行うことが重要である。抗酸菌が起因菌として検出された場合,菌同定を待たずに治療を開始する。耐性化を予防するためにも原則として多剤併用療法を行う。テトラサイクリン系,ニューキノロン系,マクロライド系抗菌薬,アミノグリコシド系,抗結核薬から2~3剤を併用する。 分離同定後,薬剤感受性試験の結果を参考に治療薬を見直す。ただし,菌種によっては薬剤感受病態と対応した治療の基本方針・治療薬の意義
元のページ ../index.html#4