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細菌感染症Ⅰ*Sayaka YAMAGUCHI,琉球大学,皮膚科学教室5非結核性抗酸菌症307915皮膚非結核性抗酸菌症,Mycobacterium marinum,Mycobacterium chelonae,Mycobacterium haemophilum,Mycobacterium abscessus山口さやか* 抗酸菌感染症は,結核,非結核性抗酸菌症,ハンセン病の3つに分類される(図1)。結核,非結核性抗酸菌症のいずれも好発臓器は肺であり,そのほか,リンパ節,関節や皮膚,さらに全身臓器に播種性の病変を生じる。一方,らい菌は,皮膚の真皮マクロファージと末梢神経を感染巣とする。 近年,世界的に非結核性抗酸菌症の患者数が増加傾向にあり,皮膚非結核性抗酸菌症は,1980年以降の30年間(米国2施設のデータ)で,約3倍に患者数が増加している1)。後天性免疫不全症候群(AIDS)をはじめ,ステロイドや免疫抑制薬,抗癌剤などの使用による易感染性患者での発症の増加が要因と考えられる。核性抗酸菌感染症は肺病変が最多で,次いで皮膚病変が多い。原則,非結核性抗酸菌はヒトからヒトへ感染することはないが,結核とハンセン病はヒト—ヒト感染が主な伝搬経路である。第章 細菌感染症1.非結核性抗酸菌症について 非結核性抗酸菌の多くは,主に土壌や川などの自然環境中に生息し,都市の処理水,下水システム,プール,温水浴槽,家畜,野生動物,牛乳や食品からも検出される。非結核性抗酸菌は,疎水性の細胞壁をもち,殺菌剤や抗菌薬,重金属に対して耐性があり,プラスチック,シリコン,ゴム,ガラス,金属などでバイオフィルムを形成することができる2)。そのため,洗浄や消毒が不十分なフットバスやシャワー,医療機器を介して感染する。 抗酸菌の感染経路は,皮膚や粘膜がほとんどであり,肺もしくは皮膚へ感染する。実際に,非結2.非結核性抗酸菌の種類・分類 1980年には約40種類の抗酸菌が知られていたが,分子遺伝学的・生化学的分類法により,現在では亜種を含め約200種類が同定されている2)。そのうちヒトへ病原性を示す主な非結核性抗酸菌は16種類ほどである(図1)。非結核性抗酸菌の同定は,培養陽性検体についてDNA-DNA hybridization法にて行っていたが,近年は菌種固有の蛋白質の質量ピークパターンから同定するMALDI-TOFMS法が主流となっており,DNA-DNA hybridization法では近縁で区別できなかった種についても同定が可能となった。現在,MALDI-TOFMS法により189菌種の抗酸菌が同定可能である。 2018年,ゲノム解析により抗酸菌の分類について,Mycobacterium属からMycolicibacterium属やMycobacteroides属への再分類が提案され,正式な機関ではこれら新しい属名が使用されているが,臨床分野からは属名の変更は混乱を招くという見方がある3)。本稿では混乱を避けるために,従来通りMycobacterium属として記載する。 非結核性抗酸菌は,遅発育菌と迅速発育菌に分けられる。発育至適温度(通常37℃,菌種によっては30℃または42℃)で1週間以内に発育する病態

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