救急医療・集中医療160122 パンデミックにおける小児医療 新興感染症には,どのような宿主が感染しても重症化するものと,ある特定の宿主が重症化のハイリスクとなる場合がある.前者の例としてはエボラウイルス病やエイズがあるが,COVID-19は後者であり高齢者や基礎疾患があると重症化リスクが高いが,健康な小児はあまり心配いらない. また感染様式を明らかにすることは予防対策を打ち立てるためには必須であり,さらに流行のドライバーが誰であるのかも把握すべきである.既存の多くの感染症は感受性者集団である小児を中心に流行するが,新興感染症では誰もが感受性者であるため,その図式があてはまらない.COVID-19も当初のうちは小児の感染は非常に少なかった. 新興感染症の病態や疫学像を少しでも早く明らかにするためには,迅速かつ徹底した疫学・臨床調査が必要であり,症例レジストリーはその手段として有用である.しかし,詳細な項目を入力することになると多忙な医療現場への負担が大きくなるし,入力された情報の伝達が紙ベースやファックスだったりすると二度手間になり,リアルタイムに反映されない.レジストリーが一本化されず,行政や学会でばらばらに動いてしまっては,さらに医療現場に負担がかかり実態をとらえることから遠ざかる.全症例を対象とした必要最小限を入力するレジストリー,重症例に限ってさらに詳細を入力するレジストリーがすぐに発動できるよう平時から準備(雛形の作成と倫理的手順の簡略化など)しておくべきである.新興感染症の病態と疫学像をとらえる ―レジストリーの事前準備と迅速な発動日常の医療・福祉活動の停滞―非日常的事態でどう継続するか 行動制限による縛りや感染への恐れから受診控えが起こってしまうことから,さまざまな医療・福祉の提供が滞り,それによる健康被害が危惧される.ワクチンの接種率が世界中の至る所で低下してしまい,ワクチンによって予防できる病気(vaccine preventable disease:VPD)の発生につながった.例えば2020年,世界で1億2,000万名の小児が麻疹ワクチンの接種が受けられず,多くの国で麻疹の犠牲者が出た.パキスタンもこうした国の1つで,2021年,麻疹ワクチン接種率の低下に伴って麻疹のアウトブレイクが起こり,8,000名を超す患者が確認され47名が死亡した.米国ではワクチン接種率が著しく低下したため,米国疾病予防管理センター(Centers for Dis-ease Control and Prevention:CDC)や米国小児科学会が懸命に啓発活動を行って接種率回復に努めた.日本国内においてもパンデミックが起こった当初は,一部のワクチンに対して接種率の低下が認められ心配されたが,幸いその後回復してVPDのアⅤ
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