救急医療・集中医療新型インフルエンザ2009ほぼすべての医療機関で対応発症して間もなく受診し,その場で抗原検査で診断早期診断がついたら,その場で抗インフルエンザウイルス薬が処方された表1 新型インフルエンザ2009とCOVID-19への対応の違いCOVID-191603プライマリ・ケア医や救急外来の対応一部の医療機関しか対応していない受診が遅れ,かつ検査キット不足から診断は遅れがち抗ウイルス薬の有効性が期待できる早期の診断例が少なく,また小児に使えるのはレムデシビル点滴静注のみ早期診断早期治療22 パンデミックにおける小児医療数は多く,致死率は高かった.米国やカナダでの致死率はそれぞれ日本の25倍,8倍もあったのだ.つまりこのパンデミックの時,わが国には“factor X”があったと考えられるが,それは何だったのだろうか.その当時インフルエンザを疑う症状が出現したら,プライマリ・ケア医または救急外来をいつでもただちに受診しそこで抗原検査を受け,インフルエンザの診断が確定したらすぐに抗インフルエンザ薬が処方されていた国は,世界中で日本だけだった.この医療アクセスの良さと早期診断に続く早期治療が,インフルエンザの予後を改善させていたと推測される. 今回のCOVID-19のパンデミックでは,どこが違うのだろうか.インフルエンザのパンデミックの時とは異なり,コロナ疑似症患者に対応しているプライマリ・ケア医療機関は多くないため,受診先をみつけるのに苦労している.抗原検査やPCR検査も充足していなかったため,確定診断もなかなか下せない.重症化リスクのある人に発症して間もない軽症のうちに投与すれば重症化予防が期待できる抗ウイルス薬は,不十分な普及に加えて確定診断の遅れのために適正使用につながっていない(注:12歳未満の小児においてはレムデシビル点滴静注のみが用いられる)(表1). プライマリ・ケア医療機関でCOVID-19に対応するところが少ない分,負担がかかってきたのは公的二次・三次医療機関である.他の病棟を閉鎖してコロナ病棟として運用し,他の疾患に対する予定入院や予定手術を延期する形で対応せざるを得ないため,本来の業務(高次医療)を担うことができなくなった.それはwithコロナ時代の超過死亡の上昇にも寄与することになる. 日本国内では第6波までは諸外国とくらべると人口あたりの感染者数はかなり低く抑えられていた.それにもかかわらず,医療が逼迫し「医療崩壊」といわざるを得ない状況に陥った地域も少なくなかった.そしてそのために助かるはずの命が失われる事態に陥ることになった.一方,米国やフランスでは日本の10倍以上の感染率となっCOVID-19に対する医療提供体制の比較(日本vs. 欧米)Ⅴ
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