680癌の手術の大原則は,癌にいきなり攻め込むのではなく,周りから包囲して最期に本丸を攻め落とすことである。開腹直腸癌手術では,上腹部の操作を先行しているが,低位吻合を予定する場合は,脾彎曲授動を最初に行っておく。また,大網フラップを使用したい場合はこの時点で作製しておくと,使用する最終局面で色を見れば血流の良し悪しが一目で容易に判断できる。左側結腸授動は内視鏡外科手術において主流である内側授動で行ってもよいが,外側授動で行うほうが圧倒的に簡単である。後腹膜は頭側外側ほど分厚く丈夫で,内側尾側に行けば行くほど薄くて認識しづらくなり,尿管を包み込んで途切れてしまうからである(図5)。内視鏡外科手術では,外側から内側への操作がやり辛いため,それを克服するために内側授動が開発されたわけであるが,内側から,とくに内側尾側からのS状結腸間膜授動が難しいのは周知の事実である。外側授動において,助手の展開力の著しい低下は気掛かりである。外側授動の際にS状結腸間膜を両手で内側腹側に牽引するわけであるが,この授動操作で行いたいのは,腸間膜を後腹膜から剝離することである。腸管を一生懸命引っ張っても,目的とする腸間膜にはあまり緊張はかからず,むしろ関係のない場所に力が加わり,組織が裂けて出血をきたす。ある程度授動が進んだあとは,助手はS状結腸を手の中に包み込むように入れ,5本の指を巧みに使い,間膜を摘まんで,面で腸間膜に緊張をかけ続けることが重要である。術者は左手で鑷子を持ち,下腹神経前筋を牽引しながら,S状結腸から上部直腸にかけての左側から背側に向かい,直腸間膜の丸みを意識しながら授動を進める(図6)。十分に左側から授動を行えば,右側の腹膜を切開すれば,すぐに左側からの授動層に交通する(図7)。この際は,外側から授動した左側結腸は骨盤から引き抜いておく手術 2025年4月臨時増刊号Ⅱ-6-4開腹直腸癌手術のコツとpitfall図5. 左側結腸授動のポイント後腹膜は頭側外側ほど分厚く,内側尾側に行けば薄くなり,尿管を包み込んで途絶してしまう。膵臓膵臓大動脈大動脈外側授動:開腹手術内側授動:内視鏡外科手術内側授動:内視鏡外科手術腎臓腎臓尿管尿管下腸間膜静脈下腸間膜静脈下腸間膜動脈下腸間膜動脈 B 腹部操作 C 左側結腸から 上部直腸にかけての授動操作
元のページ ../index.html#9