596 名大の特殊事情を考慮した 手術の継承Dindo grade Ⅲ以上の合併症率が72%に認められた4)。そのほぼすべてにドレーン交換を行った切であり,刺入部に屈曲がなければ,胆汁瘻・膵瘻を合併しても,早期発見が可能であり,ドレーン交換を迅速・正確に行える。最近の当科の報告では,肝門部領域胆管癌手術におけるClavien- ことを術中から意識する必要がある。左側肝切除と比較し,右側肝切除では,右側腹部より挿入する下大静脈前(尾状葉切除部)のドレーン(図1-①)が不安定になり逸脱しやすい。そのため,留置する際は後腹膜を経由することによりドレーンがずれないようにしている。この操作を怠たると,下大静脈前のドレーンが大きく移動し,ドレナージ不良になるばかりでなく,門脈にひっかかり門脈閉塞を引き起こしてしまうことさえある。急性門脈閉塞は,重篤な肝不全に至るため,このドレーン留置には細心の注意を払っている。術後のX線写真においてドレーンの位置に懸念を感じる場合は,躊躇なく再開腹し,位置を再確認する。手術 2025年4月臨時増刊号Ⅱ-4-2名古屋大学における肝門部領域胆管癌手術の継承図2. 閉 腹閉腹の際には,剣状突起除去部の間隙(矢印)を筋膜・腹膜縫合時に閉鎖する。この作法は,間隙より膵瘻が縦郭に至り,縦郭膿瘍になった苦い経験から新たに加わった。教訓的症例となったため,当科では執刀医の名を冠して「○○(苗字)の間隙」と呼んでいる。閉腹の際には,剣状突起除去部の間隙(図2)を筋膜・腹膜縫合時に閉鎖するように努めている。この作法は,間隙より膵瘻が縦郭に至り,縦郭膿瘍になった苦い経験から新たに加わった。右側肝切除においては,閉腹後に肝臓が右側に倒れてしまい,門脈が屈曲することがあるので,肝円索を正中創に固定している。手術件数に恵まれ,手術死亡率が他施設より低いという点において,当科の肝門部領域胆管癌手術の環境は特殊である。そのため,組織内で手術手技を洗練させながら,手術を次世代へ継承することができる。術者をごく少数名に限定すれば,継承はスムーズに進むかもしれないが,その術者が何らかの理由で執刀しなくなれば,技術は途絶える可能性がある。一方,肝門部領域胆管癌手術●具体例③:合併症を予防する閉腹操作 6
元のページ ../index.html#7