2025年4月齋浦 明夫「手術」編集委員順天堂大学肝胆膵外科教授 今回の臨時増刊号のテーマは「手術教育の進化」と「手術手技の継承」です。 これまで外科教育の主流は徒弟制度的なものでしたが,近年ではエビデンスを基にした客観的かつ科学的な手術教育が広く普及してきました。さらに専門誌や書籍だけでなく,YouTubeや各種動画配信サイトなどのオンラインコンテンツの登場により,外科教育の情報量は飛躍的に増加しています。 一方で,外科手術の専門分化,高難度化,医療安全への意識の高まりによって,若手外科医が各術式に実際に触れる機会は減少傾向にあると考えられます。また,人口減少時代を迎えた日本では,外科医の数自体も減少しており,持続可能な外科医療のあり方についての議論が重要な課題となっています。このため,外科医の待遇改善を含めた働き方改革が求められる時代になっています。 本臨時増刊号では,国内外の優れた指導者や積極的に手術教育に取り組んでいる施設から,そのコンセプトや具体的な工夫について実践例を交えてご紹介いただきました。Ⅰ章では,手術哲学や最新の教育手法について,また,Ⅱ章においては,各臓器別に開腹・腹腔鏡・ロボット支援手術のそれぞれにおける手術教育のポイントを網羅的にご解説いただきました。とくに,最近主流となっているロボット支援手術は,今後の大きな発展が予想され,手術教育にも新たな可能性をもたらすものと期待されています。 外科医が減少する時代において,安全かつ効率的な手術教育を実践し,次世代への技術継承を行うためのヒントが詰まった1冊となっています。「教うるは学ぶの半ば」という言葉のように,教えることによって指導者自身も改めて手術の本質に気づくことができます。若手外科医の皆さんには単に技術の習得だけでなく,その背景にある手術哲学にも関心を向けていただきたいと思います。これからの外科医療を担う若い世代の活躍と成長を,大いに期待します。
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