1797鼠径部ヘルニアは外科領域のなかで,いわゆる日帰り手術を含めた短期滞在型医療が最も普及している領域の1つである。したがって,感染対策・周術期管理も入院中のことのみならず,入院前・手術中・退院後までを含めて考える必要がある。本稿の記載にはこのような特徴があることをあらかじめお断りしておく。1.周術期の抗菌薬投与2018年版のInternationalGuidelinesforGroinHerniaManagement(以下,GL-2018とする)のrecommendationでは,groinherniaの周術期予防的抗菌薬投与は,①感染のハイリスク患者に鼠径部切開法で手術を行う場合は勧める,②感染のローリスク患者に鼠径部切開法で手術を行う場合は勧めない,③感染のリスクに関わらず腹腔鏡法で手術を行う場合は勧めないとしている1)。ただし,ここでいう「勧めない」の根拠は「抗菌薬総特集消化器・一般外科手術における感染対策・周術期管理はじめにⅠ.感染対策 ……………………………………………………………………*TsuyoshiINABA.東都文京病院外科Keywords鼠径部ヘルニア,感染対策,周術期管理 使用の有無で術後急性期感染に有意差はなかった」であり,抗菌薬投与を行わないことを勧めるといっているわけではない。GL-2018の本文では,エビデンスとなる文献の対象症例や医療の背景にばらつきが多く,感染症にとくに着目した文献が乏しいことも追記している。腹腔鏡手術の適応対象などは,各国の社会保障制度などの影響も強く受けており,GL-2018の基準をそのままわが国に当てはめるのは疑問がある。国内のガイドラインをみると,日本ヘルニア学会のガイドラインでは周術期の抗菌薬投与について,両側手術や長時間手術といったリスクの高い症例以外では,抗菌薬非使用を検討すべきとされている2)。しかし,その根拠はアレルギー予防,コスト削減,薬剤耐性予防であり,術後感染症そのものとはいささか話が変わっている。外科感染症学会ガイドラインでは,「抗菌薬非使用の非劣性が証明されていない」ことから,腹腔鏡手術でも第1世代セフェム系抗菌薬(CEZ)またはペニシリン系抗菌薬(SBT/ABPCなど)を単回使用することが望ましいとしている3)。メッシュ使用の多い成人鼠径部ヘルニア手術では,手術部位感染(surgicalsiteinfection;SSI)の発生がメッシュ除去再手術などの侵襲の大きな追加治療に直結する可能性も低くないので,単に術後急性期感染発生率に有意差があるか否かのみ稲葉 毅*Ⅱ.各論12) 鼠径部ヘルニア手術における 感染対策・周術期管理
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