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1762ている。抗菌薬投与についても,炎症程度や治療方法により種類や投与方法をあらかじめ設定している(⇒Ⅳで後述)。膀胱留置カテーテルは可及的早期に抜去して早期離床を促し,経口摂取開始後輸液が終了できれば退院を許可しており,順調であれば術後3日間程度で十分退院可能である(図5)。適応としては膿瘍を形成し,①汎発性腹膜炎を認めない,②重篤な全身疾患の併存がない,③保存的治療に対する患者同意を得ている,などの条件を満たすものとし,これらに対しても膿瘍形成性虫垂炎専用クリニカルパスを導入している。複数回の入院を要するが術後入院期間は有意に短い。体外処理にて手術できる割合が増え,エネルギーデバイス使用の省略が可能で,手術材料費の面でも有用である(図6, 7)。2014年3月以降施行した当院での30症例では待機手術術後合併症は認めなかった(未発表)。摘出標本の病理組織所見はほぼ全例がカタル性ないし慢性虫垂炎と急性炎症は改善されており,待機的手術に期待する「炎症を鎮静化して手術を簡素化する」という基本目標は達成されていた。適応の厳密な基準は施設間でも差があり,これらを明確にしていくことは今後の課題である。急性虫垂炎に対する治療として近年,compli-cated appendicitis(壊疽,膿瘍形成,穿孔症例)に対し抗菌薬による初期保存的治療により炎症を鎮静化させ待機的に切除を行う待機的虫垂切除術(interval appendectomy;IA)の概念が普及しつつある。手術難度の高い急性期手術に比し,手術が簡素化されることにより回盲部切除などの拡大手術の回避,合併症や入院期間の低下といった有用性が多数報告されている7)。当院でも最近では年齢を問わず同様の症例で可能なかぎり保存的治療を選択している。急性虫垂炎の周術期管理として,抗菌薬使用は必須である。急性虫垂炎ではすでに感染が成立しており,使用する抗菌薬の至適投与期間は重要な臨床的課題である。単純性虫垂炎における2日以上の投与はSSI減少に寄与しないといわれ,当科のクリニカルパスではCMZを手術当日と翌日までの使用に設定している。膿瘍形成や穿孔を伴う複雑性虫垂炎では症例の炎症程度により差が生じ,メタアナリシスによる比較では術後4日以上の投与による予防効果を述べた報告がない8)。当科ではクリニカルパスにてFMOXを設定しておき,適宜,経過をみながら投与調整している。IAを目的とした膿瘍形成例に対する保存治療では起因菌として大腸菌のほかバクテロイデス属,クレブシエラ属,緑膿菌なども多く認め,グラム陰性桿菌に加え嫌気性菌にも抗菌作用を示す薬剤の選択が必要である。当科では術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドラインに則ってDRPMを使用している9)。保存的治療では一般的に48時間以内で効果が見られなければ,治療方針変更の考慮も必要である7)。入院2日目に採血を含む検査を行い(図8),改善のない場合には抗菌薬の変更とともに超音波ガイド下での膿瘍ドレナージなども積極的に施行している。当科での急性虫垂炎時の採取した腹水培養結果では,培養陽性例における分離菌はEscherichia coli,Streptococcus属,Pseudomonas aeruginosa,Bacillus属,Klebsiella pneumoniae,Bacteroides属,Anaerobic GPR,Enterococcus aviumなどであった(未発表)。問題となる多剤耐性菌は認めなかったものの,手術時炎症が高度でかつ発熱が遷延する症例において腹水培養感受性結果に基づいて抗菌薬を変更したところ,明らかに症状改善が得られた症例を4例経験した。Ⅲ.膿瘍形成性虫垂炎に対する待機手術Ⅳ.抗菌薬Ⅴ.腹水培養と耐性菌

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