1759急性虫垂炎は,腹部救急領域で手術を要する代表的な疾患の1つである。虫垂切除術後の最も多い合併症は,報告により頻度はさまざまであるが,術後手術部位感染(surgical site infection;SSI)である。SSIを合併した場合,入院期間は延長し医療費上昇にもつながり,その対策と予防は本症の治療上非常に重要である1)。本稿では,急性虫垂炎術後SSI予防の観点から当科における①術式の変遷と現在の術式および術中の留意点,②クリニカルパス,③膿瘍形成性虫垂炎に対する保存的治療後切除(待機的虫垂切除),④抗菌薬の選択,⑤腹水培養と耐性菌,⑥コロナウイルス対策につき検討した。SSIとしては手術操作を直接加えた皮膚や腹壁に生じる切開部SSIと切除虫垂の存在した隣接部腹腔内に形成される臓器/体腔SSIがある。急性虫垂炎に対する虫垂切除術は汚染手術でありSSIのリスクは高い。本稿では前者を創感染,後者を腹腔内膿瘍と呼称する。総特集消化器・一般外科手術における感染対策・周術期管理はじめにⅠ.手術について……………………………………………………………………*Takatomo YAMAYOSHI, et al.北九州市立八幡病院外科Keywords虫垂炎,SSI,抗菌薬山吉 隆友* 岡本 好司* 木戸川秀生*野口 純也* 新山 新* 伊藤 重彦*腹腔鏡手術の普及に伴い,当院でも1999年に3ポートによる腹腔鏡下虫垂切除術を導入し,諸家の報告同様2, 3),それまでの開腹術に比しSSIの減少を認めた。2010年11月より臍部縦切開によりSILSポートあるいはE・Zアクセスを使用し同部より3ポートにて体腔内で虫垂間膜と根部を処理し摘出する方法を経たのち,2011年8月からは臍部単孔式による体腔外虫垂切除術を導入して適応を徐々に拡大し,現在第一選択としほぼ全例に適応している。手術法の概要は臍部切開し,マルチポートチャネルであるラッププロテクターを創縁に装着,筋鉤を用いて右斜め尾側方向に腹壁全層を持ち上げ,操作スペースを確保する。頭低位,左側低位として筋鉤の先を効かせるとさらに良好な視野が得られる。回盲部を必要最小限,剥離・授動し,結腸紐を追って虫垂を同定して体腔外へ牽引するが,授動せずとも容易に体外へ牽引できる場合も多い(図1, 2)。体外で直視下に間膜処理を行ったのち,虫垂根部を2-0 vicryl糸にて二重結紮して埋没することなく切離し,断端は電気メスにて焼灼する。創部は吸収糸で筋膜縫合,4-0モノフィラメント糸で真皮埋没縫合し閉創している(図3)。当院では小児女子の症例も多いが,術後に創がほとんどわからなくなるため,Ⅱ.各論8)急性虫垂炎手術における感染対策・周術期管理
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