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周術期感染予防感染症治療1654┃表1┃周術期の感染症予防と治療の概念原因微生物手術部位常在細菌基本開創から閉創まで術創部手術部位常在細菌が主原因微生物を検査して標的治療感染症が軽快するまで遠隔臓器感染臓器親和性微生物原因微生物を検査して標的治療感染症が軽快するまでエンピリック選択抗菌薬投与期間薬を選択し,ドレナージとともに十分な量を適切な期間投与することが原則となる。発熱や炎症反応の上昇など感染症の発症を疑った場合,原因となる微生物の検査を先行して行う。感染臓器(病巣)を特定もしくは推定し,適切な検体を採取する。肺炎であれば喀痰,尿路感染症では尿などの検体を採取し,あわせて敗血症(セプシス)の病態を疑う場合には,複数セットの血液培養も行う。ちなみに敗血症の定義には必ずしも菌血症であることは必要ではなく,菌血症を伴わなくとも,感染症に伴う臓器機能不全がみられれば敗血症と定義される。検体を採取したあと,感染臓器への組織移行性,患者の腎機能,肝機能,アレルギー歴を総合し,かつ感染臓器による原因微生物の疫学的分離状況や想定される微生物の薬剤感受性をもとに抗菌薬の種類,投与量,投与回数を決定する。SSIの場合には,適切なドレナージの併用が必須である。その後2〜3日間,発熱の状況や,患者の状態,血液検査結果を観察し,微生物学的検査結果と合わせて,投与している抗菌薬を変更するか,続行するか,あるいは投与量や投与回数を変更するか判断する。この場合,可能であれば病院のICT(infectioncontrolteam)もしくは適正抗菌薬使用支援チーム(antimicrobialstewardshipteam;AST)に相談することが望ましい。臓器感染症に応じて投与期間を設定し,症状,所見の改善が得られれば,投与を終了する。周術期の感染予防のための抗菌薬投与の目的は,SSI発症率を低下させることであり,原則として遠隔部位感染は対象としていない。周術期には,肺炎や尿路感染症が手術臓器とは関係のない遠隔臓器に合併症とし起こり得る。このような手術臓器とは関係のない遠隔臓器の感染症は,偶発的に起こるものであり,予防するためにターゲットを絞って抗菌薬を投与するほどに頻度は高くなく,効果は乏しく,逆に薬剤耐性菌の増加を惹起する。これに比較してSSIは頻度も高く,かつターゲットとする微生物も絞り込みが可能であり,効率的な予防が可能であるために投与が推奨されており,実際にSSIの発生率を抑えるエビデンスもある。周術期における抗菌薬投与は,かつて日本では手術終了後から開始し,術後1週間程度の投与が一般に行われていた。しかし,エビデンスに基づくSSI予防の概念が日本に紹介され,わが国でも従来の方法ではなく,短期間の術中投与が普及した。周術期感染予防に関しては日本化学療法学会と外科感染症学会が現時点でのエビデンスに基づき,わが国の実情に合わせた優れたガイドライン1)を作成しているので,ぜひ座右に置いて活用されたい。本稿ではガイドラインに沿って,中心となる考え方と,各種部位の手術における抗菌薬の選択と,投与量,投与法を引用して示し,解説を行う。十分な皮膚消毒のあとに皮膚切開を行ったとしても,切開部位の汗腺や毛根部分には常在細菌が存在し,加えて,たとえば腹部の手術では,隣接する臓器やリンパ節に正常な粘膜面を通過してbacterialtranslocationを起こした細菌が常在すⅡ.予防としての抗菌薬投与Ⅲ.周術期抗菌薬投与のタイミング

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