1653外科手術に伴う感染症は,術創における局所感染症と,手術侵襲によって起こる全身感染症に分けられる。前者は,術創感染(surgicalsitein-fection;SSI)であり,一定の確率で起こり,かつ原因となる微生物の頻度は疫学的情報からある程度予測可能である。後者は,カテーテル関連血流感染や院内肺炎など偶発的な発症のため,発症時期や原因微生物の予測が難しい感染症である。それぞれの感染症の予防のためには,適切なプラクティスが定められているが,抗菌薬による予防の効果にエビデンスがあるのは前者のみである。これら手術関連の感染症は入院48時間以降に起こるため院内感染に分類され,薬剤耐性菌の関与が治療薬選択上の重要な判断基準となる。薬剤耐性菌は,入院後に感染する場合と入院前から保菌している場合がある。前者は医療者の手指や患者周囲環境,器具から感染する。後者は以前の入院歴などが耐性菌獲得の危険因子となり得るが,市中の日常生活で食物などを介して獲得すること総特集消化器・一般外科手術における感染対策・周術期管理はじめにⅠ.治療のための抗菌薬投与……………………………………………………………………*KazunoriTOMONO.大阪大学医学部附属病院感染制御部Keywords周術期感染予防,適正抗菌薬使用,ガイドライン もある。たとえば,器質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(extended-spectrumβ-lactamase;ESBL)産生腸内細菌科細菌などは,市中の健常人からも高頻度で分離され,また,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillinresistantStaphy-lococcus aureus;MRSA)には市中型と院内型があり,市中でも耐性菌獲得のリスクは存在する。これらの薬耐性菌が保菌状態であっても,通常は宿主の常在細菌叢が増殖を抑制する役割を担っているが,抗菌薬の投与によって薬剤に感受性の常在細菌叢がかく乱されると,薬剤耐性菌が増殖し,感染症の原因となることがある。そのため,抗菌薬の投与は,必要で,かつ適正であることが条件となる。抗菌薬適正使用の観点から,周術期の抗菌薬投与の目的の認識がまず重要である。周術期における抗菌薬の使用には,予防と治療の2つの目的があり,それぞれ抗菌薬の選択や投与期間が大きく異なる。感染症予防は感染制御の視点から行うもので,治療は感染症の立場から行う(表1)。治療のための抗菌薬の投与は外科に限らず,すべての診療領域で行われる。感染症が発症した場合には,原因となる微生物を同定し,適切な抗菌朝野 和典*Ⅰ.総論1)外科医に欠かせない感染制御 ─抗菌薬の適正使用を中心に
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